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『デフ・ヴォイス』
- 2024/03/30(Sat) -
丸山正樹 『デフ・ヴォイス』(文春文庫)、読了。

著者名も作品名も全く知らなかったのですが、
ブックオフで推されていたので試しに買ってみました。

タイトル通り、聴力障害をテーマにした作品です。
主人公は、家族全員が聾者の家に生まれた健聴者。
必然的に手話での意思疎通ができるようになり、また健聴者との音声会話も当然できるという
話語と手話のバイリンガルです。

以前は警察署で事務員として勤めていたものの、不祥事の告発をしたために居られなくなり退職。
生活の糧を得るために、地元行政の手話通訳士の仕事に登録すると
様々な仕事を依頼されるようになり・・・・・・。

私自身は、以前勤めていた会社に障害者雇用で働いている人が何人かいて、
その中に聾者の方がいました。総務部で働かれていて、備品のメンテナンスや郵便物管理など
こまごまとした仕事を丁寧にされている印象でした。
複雑なやりとりが必要な場合はメールで連絡することで意思疎通でき、
普段は、お互い笑顔で向き合い、手を振ったり、おじぎしたりすれば仕事は問題なくできました。
人柄も穏やかな人だったので、こういうやりとりでスムーズに話が済み、
かえって手話を学んで複雑な意思疎通をしてみようとか、そういう気持ちにはなりませんでした。

で、本作を読んで見て、具体的に話が動き出す前の、聾者とはどういう存在なのかということを
解説している冒頭の部分で、新たに知ることが多かったです。
そもそも手話は、私たちが目にするNHKの手話ニュースなどは日本語対応手話という
日本語の文章をそのまま手話に置き換えたものだそうで、もとは健聴者として日本語能力を取得し
その後、聾者になった人には使いやすいものだそう。
一方で、日本手話という、昔から聾者の中で使われている、日本語の言語体系とは直結しない
もっと身体的感覚的本質から生まれている手話があり、これは先天的に聾である人が
使っていることが多いとのこと。

そういう手話の仕組みを知り、先天的な聾者は、そもそも日本語の学習が目で文章を読む術しか
ないため、乳幼児が日本語をまず耳から習得していくプロセスを踏めないところで
全く異なる言語習得体験になるんだなと、今更ながら理解しました。

さらに、かつては刑法40条で「いん唖者、行為ハ之ヲ罰セス又ハ其刑ヲ軽減ス」とされていたことも
本作で初めて知りました。聾者の責任能力や判断能力を一律に低くみなすのは差別だとして
今では削除され、聾者も同様に刑を受けることになったようですが、
実際の量刑判断では、どのように考慮されているんでしょうかね?
本作に出てきた裁判での被告人のように、知能は問題ないけれども、それまでに受けることができた
教育が不十分で、抽象的な概念が理解できないような場合は、裁判中に行き当たった個別具体的な
意思疎通の問題だけでなく、日常生活、ひいてはその人の人生において、
健常者であれば一般常識として捉えられている事象も、実は聾者とは共有できていないことが
あるかもしれない・・・・・ということは考慮されているのかな?と思ってしまいました。

世の中の教育システムが、基本的には、視覚聴覚触覚などが健常な人を前提に組み立てられているため
知的能力には全く問題が無くても、健常者と同じ教育を同じ方式で受けるだけでは
インプットできること量や質に差が生じてしまうというのは、難し問題だなと。
現在は、障害者と健常者が同じ学校、同じ教室で学ぶことを推奨する流れもありますが、
実際には、どういう体制を取るのがベストなんだろうか・・・・と考えてしまいました。
障害者の方にも障害の内容やレベルは人それぞれでしょうし、健常者とされる人の中でも
覚えるのに時間がかかる人もいれば、集中力が続かない人もいたりして、もちろん千差万別です。

一つの教室に30人とか40人とか入れて、全員一斉に同じ教育を受けさせることには、
どこかに限界があるのかもしれませんね。
コロナ禍のおかげでオンライン授業やタブレット授業などのインフラ整備が進んだことですし、
これからは、学校でも、各生徒の「個」に応じたカスタマイズされた教育というものが
進んでいくのかもしれませんね。

主人公が、聾者の両親のもとに生まれた健聴者=コーダとして描かれ、
子供の時から聾者である両親と周辺にいる健聴者の間の通訳を行ってきたことで、
両親も、周辺の人も、無意識のうちにコーダである子供に通訳を強要し続けるという
コーダ独自の悩みも見えてきて、だからといって通訳係を拒否できないという
家族ならではの縛りは、重苦しいものだなぁ・・・・と感じてしまいました。

ということで、聾者、特にその教育における問題認識が深まる読書となり、
いろいろ勉強させてもらえました。

一応、2つの殺人事件が20年近く離れて起き、その犯人探しというサスペンス小説ではありますが、
そちらの方は、ちょっと人間関係が狭すぎないか?と思うところがありましたが、
しかし、聾者コミュニティというものの繋がりの深さを思えば、この人間関係の濃さは
そんなに驚くことでもないのでしょうかね。




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