『朝日新聞 血風録』
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- 2023/10/02(Mon) -
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稲垣武 『朝日新聞 血風録』(文春文庫)、読了。
ブックオフで本作を見つけて、タイトルから、 「俺は天下の朝日新聞でこんな凄い取材をやってのけたぜ!」的な本なのか 「俺はアノ朝日新聞の中で俺の信念を貫いたぜ!」的な本なのか どちらかな?と裏面を見たら、「本当の言論の自由を守るために孤立無援で闘った」とあり、 「お、後者か!」と買ってきました。 第一部は「中国報道への弾圧」とのタイトルで、 著者が『週刊朝日』のデスクを勤めていた時に、野坂昭如氏と安岡章太郎氏の対談を担当し 世界各国の文学比較において、安岡氏の「中国人はユダヤ人よりすごいからね」との発言を そのまま掲載したことによる社内の騒動の話から始まります。 ちょっと毒は感じる発言ではあるものの「中国人は食えない」という程度の発言が、 なぜそこまで朝日新聞社内で問題視されたのかというところから、当時の朝日新聞と 文化大革命中の中国共産党との関係、北京から日本人記者が全員排除された中で 唯一朝日新聞記者が現地に残れていたという事実、そして朝日新聞社内の社長ら経営陣の中国観など。 はー、ある意味、今よりも中国べったりな感じを隠していなかったようです。 一応「中立公正」を謳う全国紙としては、強気の姿勢だなと思いつつ、 今まで「どこで朝日新聞はおかしくなっちゃったんだろう?」とぼんやり思っていたのですが、 「昔からずっとおかしかった」というのが、どうやら正解のようです(苦笑) 中国との関係以外に、ソ連との距離感、戦時中の大本営翼賛の原因追及をしようとした著者の 論文を骨抜きに編集改竄しようとした話とか、重たい話が続きます。 いずれも、著者自身が体験したことが中心となっており、「なぜそんな事態が起きるのか」という 朝日新聞社の歴史や思想、体制などの構造の問題をしっかり掘り返して解説されるので、 非常に重みのある内容が続き、読み応えがありました。 一方で、最後まで疑問だったのは、朝日新聞社は何を目指しているのかな?ということ。 例えば、個々の有力記者あがりの役員が「俺もナベツネみたいに政界で力を持ちたい!」との 個人的権力欲から来ている行動なのか、それとも「共産主義こそ素晴らしい未来だ!」なのか、 もしくは、その中間の中途半端な「後のことは知らんけど、とにかく現政権を転覆させるぞ!」なのか。 本作を読んでいると、個人の権力欲というよりは、組織として動いているように思えますが、 しかし、あまり大局観は無いように思え、今、足元で起きていることとかを見ると、 「打倒、自民党政権!」一点で、ただただ政府批判してるだけなのかな?と思えてしまいます。 著者が本作内で、朝日新聞の論説主幹が語った「論説委員になる秘訣」を紹介していて、 ①まず世の大勢、社内の体勢に逆らわないこと、 ②聴衆ならびにその出身階層には絶対に批判を加えないこと、 と暴露しています。 結局、日本という国はこうあるべき、とか、未来ある子供たちのために大人はこうすべき、というような 視野の広い提言ではなく、ただただ大衆の不満を拡声器のように大声で政府にぶつける仕事を していけばよいんだという考え方のようです。 まぁ、朝日新聞読者がどんどん減っている現在、読者層はかなり特有の思想傾向の人に偏りつつ あると思うので、ますますこの性格が強まっていくのは仕方ないのでしょうね。 本作は、出版された当時も話題になったようですが、 ネットメディアの発達した現在に発表されていたら、保守界隈を中心に大盛り上がりだったでしょうね。 著者は、2010年にお亡くなりになっているようで残念です。 ![]()
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