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『無私の日本人』
- 2023/08/26(Sat) -
磯田道史 『無私の日本人』(文春文庫)、読了。

穀田屋十三郎、中根東里、大田垣蓮月の3名の生涯を描いた中編集です。
いずれの人物も全く知らなかったのですが、それぞれ、
地方都市の商人、儒学者、歌人・陶芸家だそうです。

個人的に印象に残ったのは冒頭の穀田屋十三郎の話。
仙台伊達藩の中の宿場町・吉岡宿で商売を行っている穀田屋十三郎。
しかし江戸中期になり、藩の財政が傾き、領民には重税が課され、庶民は疲弊するばかり。
吉岡宿も、このままでは近い将来に生活が成り立たなくなり、病気や飢えで亡くなったり、
少しでも稼げる仕事を求めて町を離れたり、将来を悲観して子供を作らなくなったり、
あれやこれやで町の人口が減っていき消滅してしまうことを懸念した十三郎は、
吉岡宿でより手広く商売をしている菅原屋篤平治に相談します。

篤平治も、かねてから懸念していたようで、十三郎が本気だと感じ取ると、秘策を開陳します。
それはなんと、吉岡宿の豪商たちが資金を集め、伊達藩に貸し付け、
その金利を毎年得ることで、町民に配布して生活の足しにしようというもの。
目標金額は1000両。

十三郎と篤平治は、商人仲間を引き込んで、9人の商家が金を出し、1000両を作り出します。
ここ、十三郎と篤平治の熱意があってこそだとは思いますが、
しかし、熱意があって必死の説得をしても相手にその気がなければ仲間にはなれないと思います。
結局、この吉岡宿全体の教育レベルが高かったのかなと思いました。

著者は、どちらかというと、江戸時代に庶民にも普及していた儒学の考え方や
メンツを重視する国民性に理由を求めており、そういう面もあるかとは思いましたが、
私はそれ以上に、この地域の教育レベルの高さかなと思いました。根拠はないけど。

そもそも庶民が藩に金を貸して金利を取るなどという発想自体が異様なことですし、
それを思いつくだけでもすごいのですが、実現するには当然藩と契約をする必要があり、
経理担当の武士たちを通して、藩のお偉いさんの了承をとりつけなくてはならないという
今の時代の営業系サラリーマンなら皆が苦労している壁が立ちはだかります。
ここも、篤平治の計画により、焦らず時間をかけて、見事なタイミングで、誰かの機嫌を
損ねないような段取りの踏み方で交渉を進めていきます。

時には中間管理職の保身に困らされたり、あまりの困難さに腰が引けてしまった仲間が居たり
あるあるな感じの展開を乗り越えながら、藩の了解を得るところまで至ります。
1000両の金を貸し付けた後、藩が金利の支払いをゴネて遅延したりと、これまたあるあるですが、
藩も財政難だったんだろうなと思います。行政官僚は、どんな手を使っても経費削減を実現する
ということが最も強く要請されることだったりしますしね。

彼ら9人の商人や、それを支えた吉岡宿の町民たちの力で、町の経済は安定し、
その後も人口を減らすことなく栄えたというのは、素晴らしい成果ですよね。
地方で過疎が進んで「補助金で助けてくれー」なんて安易な嘆きをしている市町村長は
見習ってほしいものです。

この穀田屋十三郎の話に比べると、後の2人は、その勉強する姿勢だとか、私利私欲に走らない
清貧を良しとする姿勢とかは、素晴らしいと思いますが、しかし、その才能をどれだけ世の中のために
役立てたのかという点について、どうしても見劣りしてしまうような気がしました。
地域の人には慕われていたようなので、人となりを知っている人には多大な影響を与えたんだろうなと
思いますが、その影響の範囲円が能力に比して小さいんじゃないかなと思ってしまいました。

本作では、荻生徂徠は儒学者としてよりも政治活動に熱心な悪役のように描かれていますが、
江戸時代の思想形成に大きな影響力を与えた人だと思うので、
新井白石とセットで解説されている本を読んでみたいなと思います。




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