道尾秀介 『笑うハーレキン』(中公文庫)、読了。
主人公は、腕の良い家具職人。
かつては多くの従業員を抱える家具メーカーを経営していたのに、
今は小型トラックで家具の修理から寝泊まりまでするホームレス家具職人。
子供の死亡事故、奥さんと離婚、事業の失敗、倒産、自己資産で補填、全財産を失う・・・・・
転落のきかっけは良くある展開ですが、その結果、ホームレスとなっても
家具職人として生計を立てているのは根性あるなと興味を持ちました。
一方で、子供を亡くした時から自分に付きまとっている「疫病神」という名の幻覚症状。
主人公が一人になると表れ、なんだかんだと話しかけてきては、主人公の心を乱します。
つい先日、長野の猟銃立てこもり事件があったばかりなので、幻覚症状の描写はドキッとしますね。
この主人公みたいにある程度共存できる心の余裕があれば暴走してしまうことも
抑えられるのかもしれませんが、人生経験がないと難しそうですね。
物語は、この家具職人の元に弟子入り志願してきた謎の女の子と、
同じ空き地に住むホームレス仲間との交流が軸なのですが、
後ろ暗い過去のあるホームレスたちはお互いに詮索しないという暗黙の了解があるので
謎の女の子が押しかけてきても受け入れてあげます。
私としては、この女の子の行動は謎過ぎるし、強引すぎるだろー、と思っちゃいましたが、
でも、ホームレスという立場にいると、人間関係が希薄になっちゃうので
新しい人を受け入れて、何か穴を埋めようとしちゃうのかなぁ・・・・・と思っちゃいました。
家具職人としてのお仕事小説の部分は興味深く、
またホームレスたちとの交流も、お互いに配慮をしあってる人間的な感情を見ることができて
優しい人たちの様子にほっこりしました。
中盤で人が亡くなる事件が起き、その後、終盤には主人公たちが別の事件に巻き込まれますが、
うーん、事件そのものの描き方がなんとなく中途半端な印象で、
事件後、「え、このまま元の場所でホームレス生活続けてて大丈夫なの?」と
疑問を持ってしまいました。
登場人物たちは魅力的でしたが、小説としてのまとまりに関しては、
ちょっと物足りない印象でした。


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