『千羽鶴』
|
- 2023/04/16(Sun) -
|
川端康成 『千羽鶴』(新潮文庫)、読了。
近所のおばちゃんからもらった本。 Amazonで現在販売されているものには、「千羽鶴」と、その続編の「浜千鳥」が 併録されているようですが、私の手元にある本は昭和53年第52刷の古い本なため 「千羽鶴」のみです。 著者は、いわゆる純文学作家とされていると思いますが、 どうも純文学というジャンルは敷居が高くてなかなか手が伸びません。 (そもそも「純文学」の定義もよく分かっていないのですが・・・・・・) 本作も、ずーっと積読でした。 裏表紙のあらすじには、「今は亡き情人の面影をとどめるその息子」「人間の愛欲の世界」 という言葉が並んでいて、そういう濃厚な人間関係と愛欲の世界というテーマも どうにも苦手なので、手が伸びませんでした。 薄いから読めるかなぁ?と、ようやく読む気になって手に取ったら、 昔、実家に出入りしていた茶道の先生で、父親と関係があった女性から 茶会への招待状が来て、嫌々ながらも出かけていくところから始まります。 茶道の先生は、主人公に女性を引き合わせようと画策し、この茶会に生徒の娘さんを呼んでいます。 しかし、その茶会に、父親の最後の愛人とその娘もやってきて、愛憎渦巻く世界に。 しかも、この愛人の旦那と父親はお茶の世界で友人であり、 旦那が亡くなったときに、妻が遺品の茶器類を父親に譲り渡したことを機に 愛人関係になっていき、父親も亡くなった今、茶器はこの先生の元へ、という過去があるため、 茶器一つで、グロい人間関係が表現されています。 しかも、関係者全員、本音を隠してうわべは平静さを装って接しているので とても不気味です。 主人公の目でそれぞれの関係者たちの挙動が描写されていきますが、 「なぜ茶道の先生は主人公にお見合いのような場を設けようとしたのか」 「愛人親子は何の目的でこの茶会に来たのか」 「愛人の娘は、愛人関係という過去をどう評価しているのか、主人公をどう思っているのか」 などなど、謎がどんどん出てきて尽きません。 私は、この作品を、サスペンスとして読んでました。 主人公と各登場人物たちの腹の探り合いのような会話劇。 どれが本音でどれが嘘でどれがごまかしなのか。 推測しながら読んでいくのが面白かったです。 そして、主人公が茶器の一つ一つに対して想像を広げて、 「なぜ、この茶器を彼女は僕にくれようとしたのか」 「この茶器は、父が愛人の元に通っていた時にどんな使われ方をしたんだろうか」 答えが見つかりそうな問いから、想像するしかない問いまで、 いろんなことに思いを巡らせている様子が、丁寧に描かれており、 あー、茶道を嗜むような裕福というか生活に余裕がある人は、 一つ一つのことにここまで思いを巡らせるものなのか・・・・・・と感心してしまいました。 反対に、時間に追われている忙しない自分の人生は貧相だと悲しくなりました。 川端康成、やっぱり一時代を築いた作家で、 名声だけでなく、ちゃんと多くの人に読まれる本を書いていた作家さんというのは 凄い作品を生み出しますね。 少ないながら読んだ川端作品は、きちんと読めてないことが多かったですが、 もう一度、読み返してみようかな。 ![]() |
コメント |
コメントの投稿 |
トラックバック |
トラックバックURL
→http://seagullgroup.blog18.fc2.com/tb.php/6986-9c1d53a2 |
| メイン |
|