『牧師館の殺人』
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- 2022/12/15(Thu) -
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アガサ・クリスティ 『牧師館の殺人』(ハヤカワミステリ文庫)、読了。
超久々のクリスティ作品。 「ミス・マープル・シリーズ」の長編第一弾ということでしたが、 そのシリーズの存在自体を知りませんでした。 セント・メアリ・ミードという小さな村で、嫌われ者の治安判事が、牧師館の書斎で 銃殺された姿で見つかる。すぐに警察に自首した男がいたが・・・・・。 牧師自身は事件前に電話で呼び出しを受けて牧師館に不在、 牧師館の庭に出入りした人は何人か発覚するが、いずれもどこか怪しげな行動、 誰と誰が不仲という噂話も飛び交って、大混乱となっていきます。 とにかく、イギリスの小さな村における人間関係、 特に仕事を持たずメイドを使いながら一人で暮らす老女たちの行動様式が これでもかというぐらいネチネチと描き込まれており(苦笑)、 いや~、「田舎暮らしってこんな感じだよねー」と、今まさに田舎に住んでいる私は共感ばかり。 とにかく日がな一日、自分の家の窓や庭から周囲を観察し、 いつ、誰が、何をした、ということを主観的に記憶し続けます。 そして、思い込みを混ぜながら、噂話として周囲に吹聴して回り、 小さなコミュニティの中で自分のポジションを得ようとします。 そんな自分本位なマダムたちの中で、唯一ミス・マープルは、 正確な記憶と記録、そして鋭い洞察力で、決して身勝手な憶測はしません。 慎重に自分の推理を自分の心の中で進めていきます。 噂話は大好きだし、日がな一日近所を監視しているのは他のマダムと一緒ですが(苦笑)。 それと、牧師や医者、刑事をはじめとする男性陣の、女性や若者への偏見だったり、 メイドや執事という雇われ人の雇い主に対する歪んだ感情とか、 とにかく人間と人間がどのような感情の中で日々の暮らしを送っているのかという ある種、共同体に共通するテーマが描かれているので興味深く読みました。 もちろん、国や民族、経済力、時代などで、その表面に出てくる個々の事象は違ってくると思いますが、 感情が浮き上がってくる構造だったり、感情が噴出する原因だったりというものは、 本質的に全世界で共通しているんだろうなと実感できる作品です。 でも、それを、主人公の牧師のシニカルな心の声で茶化しながら料理しているので どよ~んとした嫌な気持ちに陥ることなく、面白がりながら読めてしまうのは 著者の力量かなと思います。 事件の真相は、正直、ふーん、そんなもんか・・・・・という感じでした。 ![]()
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