東直子 『水銀灯が消えるまで』(集英社文庫)、読了。
著者の小説デビュー作とのことで、
潰れそうな古い遊園地「コキリコ・ピクニックランド」を舞台に、
そこに、なぜだか引き寄せられてしまった人たちが主人公の連作短編集です。
冒頭の「長崎くんの指」の主人公の女は、銀行勤めの時に金庫から何も考えずに
300万円を盗んでしまい、逃亡している状態で遊園地にやってきます。
一応、過労で精神状態がおかしくなっていたという説明はありますが、
そういう状態で変なことをしてしまう人もいれば、しない人もいて、
しない人の方が大勢だと思います。
私はそういうときの、「しちゃう人」の存在が怖いです。
何をしでかすかわからない怖さというものあるのですが、
自分も追い込まれたら何か「しちゃう」んじゃないかという怖さです。
本作には、夜の間に服から下着まで全部脱いだ状態で行方不明になってしまう人とか、
他人の家の前で行き倒れかつ記憶喪失になりその家に住み着いちゃう人とか、
そういう身元の分からない人をウキウキとして家に居候させちゃう人とか、
そういう変な人がたくさん登場してきます。
遊園地という場所柄から、ファンタジー的に捉えることもできるし、
寂れた遊園地という場所だらから、ホラー的にも捉えることができるのに、
私はなんだかリアルな存在として、「こんな人が近くに居たら怖い」「自分がそうなってしまったら怖い」
という風に捉えてしまいました。
ぞっとする短編集です。
最後、この遊園地が閉園した後のことが描かれていて、
このおかしな空間が消えるのかとほっとしてたら、案の定、
草むらに立つとぴょんぴょん飛び跳ねるのが楽しくなってしまって
そのまま遊園地の敷地内に入って滑り台を楽しんでしまう男になってしまって
あーあ、魔力は消えてないのか・・・・・という恐ろしさ。
さらには、著者あとがきに書かれた、実家の庭の奥の部屋に住んでいた女の話。
どこまでが本当のことで、どこからが脚色なのかわからない怖さ。
そして、解説で穂村弘さんが紹介していた著者の本業である短歌の美しさ。
こんなに美しい情景を読む人が、こんな不気味な話を書くなんて・・・・・というところから
短歌までが不気味な世界のように捉えられてしまう感覚に陥りました。


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