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『銀河不動産の超越』
- 2022/02/06(Sun) -
森博嗣 『銀河不動産の超越』(文藝春秋)、読了。

ブックオフの50円ワゴンで見つけました。
「不思議なタイトル~」と思いつつ、あんまり森博嗣作品っぽくないタイトルかも・・・・
と思って、試しに買ってみました。

就職活動に失敗し、大学の就職担当者から「最後の最後どうしようもないときのために」と
紹介された「銀河不動産」に就職することに。
社長1名、事務員1名、そこに3人目のスタッフとして加わります。

少しずつ不動産屋の業務に慣れてきたときにやってきた超大金持ちの間宮夫人。
特に何がしたいという見通しがあるわけではないままに不動産の紹介を求め、
社長の指示で主人公が現地訪問に同行。
森の中の広々とした一軒家に案内すると、即断即決で契約。
さらには、主人公に、ここに住んでみないかと持ち掛ける・・・・・・。

変な展開で物語が動き始めました。
次々と銀河不動産には変なお客がやってきて、
何に使いたいのか目的をよく説明しないままに不動産の紹介を要求し、
主人公が困惑しながらいくつか物件を紹介すると、
なぜか最後、いつもみんな森の中の一軒家に立ち寄ってしまうという展開に。

ふわふわとファンタジーの中を生きているような人ばかりが登場するのですが、
そんな周囲の人に驚きながらも腹を立てるわけでもなく、距離を置くわけでもなく、
あるがままに受け入れて、嫌な顔をしない主人公。
なんたる懐の深さ、そして腹の座り方よ。

働き始めた時の描写も、寝坊や忘れ物が多いという欠点を描写されながら、
意外と接客だったり物件案内だったりはスマートだし、
社長の営業トークを横で聞きながら要所をすぐに感じ取って
自分の仕事に取り入れようとする学習能力の高さとか、
こんな新人が居たら育てるの楽しいだろうなぁ・・・・・と思わせる人物で興味深いです。

中盤から、押しかけ女房まで登場してくるのですが、
冷静に考えると、この女性の思考回路ってかなりヤバいのですが、
なぜか主人公と並んでいると、そこまで変な人に見えないんですよねー。
これも主人公の包容力のせいなのか。

で、結局、森の中の一軒家には7人がシェアハウスするような状態になっていき、
「この物語をどうやって閉じるんだろうか?」と思いながら最終章に到達。

すると、はじめて間宮氏が登場し、その豪邸の奥の部屋にあったのは
10軒以上ものドールハウス、そしてその中の1軒は・・・・・という展開で
私的には一気にホラーになりました。
Amazonのレビューを読むと、ほっこりファンタジーとして捉えている人や
そのドールハウスを前に間宮氏が語る人生哲学に共感している人が多いようでしたが、
その穏やかで前向きな人生哲学を読んでもなお、
ドールハウスが奥底に持つ狂気みたいなものが私には怖かったです。

その恐ろしさも含めて、複雑な感情が混じった面白い作品でした。
恐ろしさや狂気みたいなものの存在を無視せずに感じ取りながらも
全てをあるがままに受け入れ、少しでも幸福が感じられるように無理せず努力する、
そういう包容力、許容力を持てれば、人生はもっと前向きになり、社会はもっと温かくなりそうです。

あと、主人公の引き気味のユーモアセンス、好きだわ。
こういう喜怒哀楽をひっくるめられるユーモアというものも、幸せな人生に不可欠なものなんでしょうね。




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