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『アンダーグラウンド』
- 2007/08/26(Sun) -
村上春樹 『アンダーグラウンド』(講談社文庫)、読了。

地下鉄サリン事件の被害者の方達へのインタビュー。

事件の異様さとそれに遭遇された方達の思いを改めて知ることができました。
しかし、阪神大震災は、毎年追悼の催しが大きく報じられますが、
地下鉄サリン事件は、その被害規模の大きさに相違して
すでに過去の事件として風化が進んでしまっているように思われます。

米国での同時多発テロをみると、今だに現在の出来事であるかのように語られ、
アメリカ国民の心中には、怒りや恐怖や、少なくとも関心が存在していると思います。

しかし、サリン事件は、我々日本人の中で今でも問題意識を持っている人は
ほとんど居ないのではないでしょうか。私もその一人です。
刑が確定したとはいえ教祖はまだ存在し、名前を変えたとはいえ教団もまだ存在し、
そして他方には後遺症をもって苦しむ方達が存在し、
日本という国の危機管理体制は当時からどれだけ進歩したのかよく分かりません。
あの事件は、今の日本にとって、一体何だったのでしょうか。

当時私は地方に住む高校生でした。
実家が飲食店を経営しているおかげで、
スポーツ紙も含めた新聞を数紙、週刊誌も男性向け女性向け数誌を
毎号読むことができました。
連日の報道を熱心に見ていたのですが、それはあくまで「他人事」として興味本位に、
悪く言えば面白がって見ていました。
「こんな大事件を起こす人が実際に居るんだ」という興味です。
報道も、こういう興味本位で楽しんでいる観客層に向かってのものが
ほとんどだったように思います。

結局、何が起きて、誰が苦しんだのか、実感の伴わない出来事として
自分の中で過去の出来事に整理されてしまったように思います。

では、自分がもしその場に居合わせたらどうなっていたか。
この作品を読んで、常に気にかかっていたのはこの点です。
そして、「たぶん自分はその光景に目を向けつつも会社に行こうとするんだろうな」と感じました。
自分自身が重症の被害者となるか、目の前で人が倒れるかしない限り、
他人事としてとらえて、「まずは会社にいかなくちゃ」となるだろうと。

このインタビューにあるように、自分自身に症状が出ていても
「とにかく会社に行かなくては」と、フラフラになりながらも会社に向かい、
症状を悪化させた方たちが何人もいらっしゃいました。
症状が、事件ではなく自分自身の体調と結びつけて考えた方もいらっしゃいますが、
地下鉄での異様な光景と結びつけていた方もいらっしゃいます。
それでも会社に向かうのです。
生物としての危険に対する本能よりも、仕事に対する責任感の方が
優先されているのです。

他人の苦しみが気にならず(意図的に無視しているのではなく無関心)、
自分の苦しみにも目をつぶってまでも会社に向かうという姿勢を、
私はきっと持っています。

朝のホームで床に転がっているスーツ姿の人が居れば
「朝帰りの酔っ払いだろう」と思いこみ、むしろ嫌悪感を持って避けます。
「駅員さんが何とかしてくれるだろう」と。
果たして、地下鉄サリン事件のように、そういう人たちに3人4人と遭遇した時に
いつもと違う違和感を感じ取って、自分は行動を起こすことができるだろうか。

「現場に居合わせた者同士で助け合ったおかげで
事件の大きさの割には死者が少なかった」という事実を知り、
「助け合うことは、人間として当然すべきことだ」と頭では理解できましたが、
では何か起こったときに自分が本当に行動できるのか、
自分自身への疑念の思いは今でも拭えません。


アンダーグラウンド (講談社文庫)
アンダーグラウンド (講談社文庫)村上 春樹

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