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『5年3組リョウタ組』
- 2021/10/16(Sat) -
石田衣良 『5年3組リョウタ組』(角川文庫)、読了。

まだ25歳の新人教師。
はじめて高学年の5年生を受け持ったリョウタ先生が
自分の担任クラスの生徒たちと一緒に成長していく1年間の物語。

地方の県庁所在地の「第一小学校」という老舗公立小学校が舞台。
こういう学校って、親子3代卒業生・・・・みたいな面倒なしがらみがあるので先生も大変ですよね・・・・・
私の卒業した高校もそんな感じで地元でしか通用しないエリート臭が鬱陶しいです。

なので、設定をシビアに活かすなら、がんじがらめの教員生活という描き方もできたと思うのですが、
本作は、かなりアットホームな感じで物語が進んでいきます。
子供たちがギスギスしてないんですよねー。
この学校の卒業生の7割が中学受験をするという設定なのに、塾通いの描写も控えめだし、
スクールカースト的な今風の教室内の様子もなく、健やかな子供たちです。

最初は、そののんきな描写に物足りなさを感じてしまいました。
こんな都合よく解決することはないだろー的な。

ただ、地方都市でエリート意識ガチガチに凝り固また父親による家庭での強権的な教育姿勢に悩む子供に対し
最後、この新人担任は「父親は簡単には変われない。それが分かっている子供の自分が優しくしてあげよう」と
子供に対して優しく説きます。
これって、結構踏み込んだ発言だなーと思いました。
お前の父親はもうダメだからお前が強くなれという判断はすごくシビアです。

この結末を見て、リョウタ先生への私の見る目が変わりました。
結末にたどり着くまでのリョウタ先生は頼りないし、逃げ腰だし、投げやりなところが感じられるのに、
最後、腹をくくるとリアリストとしての判断をして、それを子供や周囲にも求めることができるんですよねー。
この強さって何なんだろうと思いながら読み進めました。

同じ5年生を担当する同僚教師たちも、
結果最優先の学年主任、やる気のない中年女性教師という面倒な人もいますが、
同世代の優秀な教師と年上の美人教師とのトリオで問題解決にあたるチームワークの良さもあり、
最初は、彼らの行動にはなにか裏があるのかな?と疑ってしまいましたが
ちゃんと子供たちのことを考えている優しい教師でした。
私がいかに歪んだ学校観を持っているのか意識されて、恥ずかしい(苦笑)。

取り扱っている課題は、モーレツ教育パパに抑圧された子供、
上司からのいじめに遭って不登校になった教師、自宅に放火した兄弟、
クラス間の成績競争にのめりこみ成績下位のクラスメイトを責め立てる子供たち、
どれも扱いようによっては深刻な学校での問題だと思いますが、
リョウタ先生の奮闘で作品内ではうまく話が解決していきます。

それに対して、こんな都合よくはいかないよーと反感を覚える自分と、
小説の中でぐらいは理想の展開で安心したいな思う自分が居て、
どっちを選べるところまではいかなかったのですが、
リョウタ先生の人柄が子供たちに信頼されているというところは、真実だろうなと思いました。
こういう自分に素直でまっすぐな先生は、今の世の中で貴重な存在だと思います。




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