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『鼻』
- 2021/09/27(Mon) -
曽根圭介 『鼻』(角川ホラー文庫)、読了。

ホラー作品だと、苦手なジャンルかもなぁ・・・・と懸念しつつ読み始めましたが、
最初に思ったのは、「え?これ、ホラー作品なの?」というもの。

最近、ジャンルの壁がなくなってしまっているというか、
言ったもの勝ちのような気がして、読む前に変な色がついてしまうのは嫌だなと感じます。
その原因の大きい部分を、いわゆる賞レースが担っていると思います。
ちょっと本流から外れる作品であえて応募して目立とうとする応募者の思惑と、
ちょっとジャンルの幅を広げてでも面白い作品に受賞させて話題を作ろうとする運営側の思惑が
交錯した結果ではないかと。文学賞乱立の弊害ですね。

さて、本題の中身ですが、一番面白かったのは冒頭の「暴落」です。
人間1人1人に株価が設定されており、仕事で業績を上げると株価が上がり、失敗すると下がる、
それだけでなく、他人に良いことをすると上がり、罪を犯すと下がる、
筋の良い人と結婚すると上がり、兄妹が不祥事を起こすと下がる。
新たな管理社会の姿を、作り込んだ設定で描いていて、興味深く読みました。

ただ、秀逸な設定に比べて、ストーリー展開がありきたりというか、
スプラッター劇となっていってしまったのが残念でした。
中編ではなく、短編にまとめたら、もっとキレのある作品なりそうな気がしました。

二本目の「受難」は、ある日気付いたらビルとビルの外壁の間に手錠で繋がれていて
どこにも動けなくなってしまった男の物語。
OLらしき女と高校生らしき男、中年男との接触がありますが、
誰も彼のことを助けてくれず、警察への通報もしてくれないという状況。
その不条理な展開の原因が終盤で明らかになっていきますが、
途中の痛々しい描写が私にはしんどくて、あんまり話が入ってきませんでした。

最後の表題作は、正直、作品を読んでいる間に面白さを感じることができませんでした。
イマイチ細かいところまで理解ができないまま読み終わってしまい、モヤモヤが残っていたのですが、
解説まで読んで、「あぁ、そういう構成なのね」と納得できました。
私の読み方が雑だったのかな・・・・と反省したのですが、Amazonのレビューを読んでみたら、
解説とセットで理解する作品だというような趣旨のことを書いている人がいて、
世間的にもそういう評価なのか・・・・それで賞をあげてしまって良いのだろうか?と疑問が沸々。

なんだか、文学賞に対する批判的な気持ちが湧いてしまった読書となりました。

作品的には、着眼点とか設定力は面白いと思うので、
オチまでもっていくストーリー展開の描き方をもうちょっと盛り上がるようにお願いしたいなと感じました。




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