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『ジーン・ワルツ』
- 2021/06/09(Wed) -
海堂尊 『ジーン・ワルツ』(新潮文庫)、読了。

東大医学部がモデルと思われる帝華大学医学部の助教である産婦人科医が主人公。
大学での仕事の傍ら、民間のマリアクリニックへ週1回ヘルプで勤務しています。
そのクリニックは、諸般の事情で間もなく閉鎖が決まっており、
最後の患者である妊婦5人を観ています。

その5人は、10代の望まない妊娠あり、5年間もの不妊治療の末に子供を授かった妊婦あり、
55歳の超高齢妊婦あり、誰もが重たい背景を抱えていたり、何やら怪しい曰く付きな感じの人ばかり。
この5人の出産までの定期健診の様子を軸にしながら
医学部で受け持つ「発生学」の講義の様子や、医局でのボス教授や上司の准教授とのやり取りが描かれ、
相変わらず濃密な海堂ワールドが展開されています。

前半は、学生向けの講義のシーンや、望まない妊娠をした妊婦への説教のシーンが続くので、
やや理屈っぽいというか、著者の思想が主人公を通して全面に展開されているように感じました。
エンタメ感がやや薄いので、小説を楽しもうと思っていると、結構しんどいです。

ただ、この前半の理屈の積み重ねが、後半に物語が動き出したときに重要な意味を持ってくるので
頭の中で整理しながら読んでいく必要があります。

5人の妊婦のうち、最高齢の妊婦の帝王切開手術を予定していた日に、
いろんなことが重なって、他の妊婦のうち3人もの妊婦が産気づくという
まぁちょっと盛りすぎな展開のようにも思えましたが、医師2人と助産師1人で
4人の妊婦の出産に対応するという、素人が考えてもムリゲーな展開にハラハラドキドキ。

その中で、主人公が企んだことも明るみに出て、
閉院間近な産院で、思い切ったことやるなか・・・・という感じで捉えていたら、
最後の最後、なんとも壮大なスケールの計画が発動され、
そのスキーム全体を、この主人公の若い女性一人で考え抜き、そして実際に構築し
動かすところまで漕ぎ着けたという、その構想力と計画力と行動力に脱帽。

医療関係者の方が読んで、この最後の展開に、どれだけのリアリティを感じるのかは分かりませんが、
とにかく構想力が素晴らしいなという一点だけでも、私的には、この読書の満足度が
ぐっと上がりました。

こういう社会に対してモノ申すだけじゃない、自らの行動で主張を具現化していく人物は
清々しさに応援したくなります。

著者の熱い思いが、この主人公に乗り移ったのかなという感覚も。
続編もあるようなので、楽しみです。




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