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『横道世之介』
- 2021/04/03(Sat) -
吉田修一 『横道世之介』(文春文庫)、読了。

吉田作品は、ドロドロしたものからカラッとしたものまで振り幅が大きいので
いつも新しい作品を読むときに楽しみなのですが、
本作は、あんまり私には合わなかったです。

男子大学生が主人公ということで、爽やかでちょっとおバカな青春小説かと思っていたのですが
爽やかというよりも、少し無関心さが気になってしまい、作品に入っていけませんでした。

入学式の日に最初に友だちになった男友達と、教室で最初に会話を交わした女友達と
3人で一緒に過ごすようになり、サークルも3人で同じところに入り、サークル新入生はその3人のみ。
私の中では、これって相当親しい間柄になっていく設定だと思うんですよね。

なのに、主人公は、この2人との関係がいつの間にか距離ができるようになり、
たまたま食堂で言葉を交わした男の家に入り浸るようになり、毎日のように寝泊まりするように。

そして、さらに、季節が変わりクーラーが要らなくなったら、この男の家にも寄り付かなくなり
自分の部屋で過ごすようになります。

あらー、ずいぶん、あっさりした人間関係なんだなぁ・・・・・と思ってしまいました。
関係が希薄というか。
まぁ、私自身が、サークルよりももっと体育会系に近い文化の組織に居たので、
同期や先輩・後輩と活動時間も遊びの時間も一緒に居たことが多く、
普通の大学生よりも閉鎖的な人間関係の中に浸かっていたという可能性もありますが・・・。
主人公のような、どんどん人間関係の軸が変わっていく方が普通なのかも。

でも、私は、濃厚な人間関係の中でやりとりされる青春のバカバカしさみたいなものが好きなので
単に好みが合わなかったというところかなとも思います。

というわけで、大学生時代の描写には、あんまり共感を覚えられませんでした。

しかし、そんな大学生時代の描写の合間、合間に、
彼らが年を重ねて30代、40代になったときの様子も描かれています。
ここに、吉田作品の厚みというか、人生というものに対する厳しく重たい視線が置かれていて、
あぁ、青春はキラキラしてても、現実世界はこんな感じで曲がっていくんだろうなぁ・・・・・と納得。
キラキラの物語でまとめるのではなく、その後も冷たく描いてしまうのが吉田作品の厚みかなと。

で、主人公やその周囲の人のその後が描かれるんですが、
主人公のその後は思わぬ展開に繋がっていき、「え、そういう作品だったの?」と、
そこに私はついていけなかったので、読後感がイマイチだったのかなと思います。
Amazonでは非常に評価が高い作品ですが、このその後の展開が全てではないでしょうけれど、
この展開を受け入れられると、大学生時代のバカさ加減も別の意味を持って見えてきて
多面的で面白い作品だったという感想になるのかな。

私は、この、その後の展開が、現実社会のとある事件と繋がっている点で、
小説世界の中で世界観を完結させるのではなく、現実社会で多くの日本人が感じ入ることがあった事件に
投下させる手法が、ちょっと小説作品としては、逃げのように感じてしまい、受け入れにくかったです。
唐突感も覚えましたし。

最後、読み終わってから裏表紙を見たら、「本屋大賞第3位」とのことで、
あぁ、やっぱり私は本屋大賞と相性が悪い・・・・・という結論になりました(苦笑)。




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