『仏果を得ず』
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- 2020/12/21(Mon) -
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三浦しをん 『仏果を得ず』(双葉文庫)、読了。
文楽の世界を舞台にした作品。 いわゆるお仕事小説なのかな。 私自身、文楽は2年前に初めて「初心者のための文楽」みたいな舞台を見ただけで、 それが唯一の体験ですし、普段の生活では全く意識にのぼることがない世界です。 「あぁ、そういえば、橋下知事と揉めてたなぁ・・・・」程度の関心でした。 文楽と人形浄瑠璃の違いも分かっていないぐらいで・・・・・人形浄瑠璃の一派が文楽座なんですね。 その文楽の世界に、研修生上がりという立場で入り、語りを担当する若手の太夫が主人公。 冒頭、その主人公と師匠であり人間国宝である銀太夫との楽屋の様子から始まりますが、 最初に感じたのは、「ずいぶん弟子が師匠に対して軽い口を叩くんだな」というもの(苦笑)。 私に多少の馴染みがある落語の世界は、もっと厳しい上下関係にあるような印象を持ってました。 吉本興業の上下関係も、楽屋では結構歴然としたものがあるような気もしてました。 だんだん読み進めていくと、これは文楽全体の風土というよりは、銀太夫の個性なのかなとも思いましたが。 そんな自由な雰囲気の銀太夫のもとで、太夫としての成長に必死になる主人公。 コンビを組む三味線に指名された兎一郎は無口な変人として周囲に認識されているカタブツ。 凸凹コンビに発破をかけたりフォローしたりする先輩芸人たち。 小学校での文楽指導で一生懸命学ぼうとする女の子、それを見守る先生、そして母親。 お仕事小説目線で見ていたので、最後の小学校まわりのエピソードはちょっと異質な印象を持ちましたが まぁ、最後の大団円に持ち込むには必要な要素だったのかな。 各章には、それぞれテーマとなる文楽の演目が充てられていますが、 著者による丁寧な解説がついていたので、素人でも楽しめました。 むしろ、演目の世界観、登場人物たちの心情を理解することについて、太夫や三味線という人たちが こんなにも頭を悩ませながら取り組んでいるのだと初めて知りました。 もっと、業界内の通り相場的な解釈が一本あるものだと思っていたので、 演者個人個人が各自の解釈で演じるものなんだということに驚きました。 そういう、文楽の演目解説という意味では非常に手厚い内容でしたが、 お仕事小説という点では、太夫と三味線の仕事が中心に語られ、人形遣いはたまに登場する程度、 裏方スタッフについてはほとんど描写がないので、片手落ちな印象でした。 著者は、お仕事小説ではなく、文楽紹介として作品をとらえているのかもしれませんね。 兎一郎のキャラクターが特に興味深く、 そこに一生懸命ついていこうともがく主人公の姿も健気です。 先輩たちもなんだかんだ優しく、良い職場ですね。 ![]()
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