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『空の中』
- 2020/09/07(Mon) -
有川浩 『空の中』(角川文庫)、読了。

『空飛ぶ広報室』のイメージとごっちゃになっていて、
「自衛隊のお仕事小説もの」で「事故系」という認識で読み始めたら、
思わぬド直球SF展開で驚きました。
でも、その驚き以上に、設定・展開構成・キャラクターの作りこみが巧妙で
一気に世界観に引き寄せられていきました。

国産ジェットの試験機が高高度で爆発分解、
その後、自衛隊の演習機も同じ空域で爆発分解。
原因不明で何の手掛かりもなく時間だけが過ぎていく中で、
その双方の事故の関係者が向かった同空域で、爆発分解の「原因」と接触。
その「3度目の接触」を機に、未知の生物との交流が始まり・・・・・。

いやぁ、この「事故原因」の存在が、予想の斜め上を行く設定で、
「よく、こんなプロット考え付いたなぁ」と驚嘆しました。
まぁ、私はあまりSF作品に馴染みがないので、SF好きの人からすると
こういう設定はありふれているのかもしれませんが。

その巨大なSF設定に向き合うのが航空自衛隊と、国産ジェット開発が至上命題の特殊法人という
この現実感バリバリの組織に属する人間であり、個人のキャラクターと組織の性質との対比も
これまた上手く物語の展開に絡んでいきます。

有川浩の描く自衛隊員は、国防と真摯に向き合い、かつ人間味あふれるユーモアを持ち合わせた人が多い
非常に魅力的な人々ですが、本作でも、主役から脇役まで素晴らしい組織だなと感じました。
お堅い宝田氏も、組織の上に立つ者としての責任感の裏返しだと思いますし。

高校生コンビの瞬と佳恵のコンビも、強力な信頼関係の上に成り立っていて素敵だなと思います。
まぁ、謎の生物に直面したあとの2人の判断は、「なんで、そんなに怖いもの知らずなんだ!?」と
そこだけは腑に落ちず。
最初は、瞬が、謎の生物に思考を操られているとか、そういう設定なのかなと疑っていたぐらい。
家で飼う、とか、手懐ける、とか、そういう展開は
いくら田舎育ちで自然と近距離で生活しているとはいえ、リアリティがないように思いました。

それを差し引いても、反政府組織「セーブ・ザ・セーフ」の組織の理屈や
首謀者の煽動テクニックなど、現実が先鋭化したらこうなるだろうなと納得できる展開で、
この著者は、キャラクターにはラノベ的な人物造詣をあてがっても、
反対に組織の論理はしっかりと描き切る稀有な存在だなあと思います。

その特徴を思うと、やっぱり、有川自衛隊作品は面白さの厚みが他とは違うと思われ、
これからも着目すべき作品群ですね。





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