森絵都 『つきのふね』(角川文庫)、読了。
大親友だった同級生と口を利かなくなって数十日経つ中学生のさくら。
クラスの女子たちの輪の中にも入れなくなり、
通うようになったのは20代の男性のアパート。
彼は、宇宙船を作って人類を救出するという使命のもとで毎日宇宙船の設計図を描き続ける・・・・。
中学校の女の子たちの人間関係は、一度バランスが崩れると大変ですよね。
特に、仲が良かった子たちの間が崩れると、反対に振り切ってしまいますよね。
しがないスーパーでの万引き事件を起こした彼女たちは、
1人が捕まり、1人が逃げたことで、その信頼関係が崩れます。
こんな極限状態での判断って、冷静にできない分、本心がそのまま出ちゃいますよね。
裏切りの内容は、決して悪意からのものではなく、むしろ信頼(依存かな?)から出てきたものなので
読んでいて嫌な気持ちになりませんでした。
逆に、もっと素直になって謝ればいいのに・・・・と思ってしまいます。
そこが難しいのが青春ですね。
仕事の人間関係なら、ビジネスライクに謝ることって結構できちゃいますからね。
で、行き詰ったさくらが逃げ込んだ先の部屋は、
24歳のいい年の男が引き籠って宇宙船の設計図(自称)を描いているだけの空間で、
たまに美味しいミルクコーヒーを淹れてくれるにしても、基本的に時間が止まったような場です。
そんなところに逃げ込んでホッととしてしまっているさくらの心情を思うと居たたまれなくなります。
一方で、この宇宙船男は、もちろん精神的にアンバランスな状態にあるわけで、
当初、熱心に絵を描いていただけだったのに、さくらの同級生の男の子まで出入りするようになると
彼が熱心に宇宙船の話を聞き出すものだから、絵の中での妄想で収まることができず
次第に自分を傷つけるような心の不安定さをみせることになります。
不安定な人との会話って、小説世界には良く出てきますが、
基本的に私は苦手です。生理的に恐怖を感じてしまうので。
どういう思考回路で次の行動に移るか予測できないという恐怖です。
もし、本作が、男とさくらの2人だけの会話で進んでいったら、私も参ってしまってたでしょうが、
本作は、勝田君という男子が介在することで、私も受け入れることができました。
この勝田君という男子が、根は優しい男の子なのですが、
思考が小学生レベルで、しかも天然くんなので、アンバランスな2人の間で
思わぬ反応の仕方をしたり、変な解決策を思いついたりと、とにかくズレてます。
そのズレっぷりが、却って、中和剤になってよかったのかなと思います。
中学生の少女たちが万引きをしてしまうというのは
この年代の女の子には起こりうることなのかな?(よくわからんけど)と思えましたが、
その万引きにヤクザ者が絡んできて組織的に盗品換金を行ったり、
薬物に手を出したりって、そうそうあることなのでしょうか?
東京って、そんな場所?
ちょっと中学生の社会を極端に描き過ぎてるんじゃないかなと思ってしまいました。
そこまで劇的な設定にしなくても、十分にさくらの苦悩は伝わってきます。
それとも、田舎のおばちゃんの中学生時代と、今の東京の中学生は
全く環境が違っているのかな。
だったら悲しいな。
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