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『豆の上で眠る』
- 2019/11/20(Wed) -
湊かなえ 『豆の上で眠る』(新潮文庫)、読了。

「変なタイトルだなぁ・・・」と思って買ってきましたが、
そのタイトルの由来は作中で語られており、
童話の『えんどう豆の上にねむったお姫さま』がモチーフになっています。

「布団の上から下にある豆を感じることなんてできるのか?」という
お姫様の能力に対する疑問もさることながら、
「そもそも布団の下の豆を感じられたら何で本物のお姫様だと言えるのか?」という
根本的な疑問を覚える作品ですが、その童話の世界におけるモヤモヤとしたものを
現実世界に持ち込んだらこうなりましたという小説作品になってるように感じました。
この構造は、うまいなと感じました。

仲良し姉妹が小学校低学年の夏休み、遊んでいた神社から、それぞれバラバラに家に帰ったら
妹だけが家に到着し、姉は戻っていなかった。
誘拐だ、神隠しだと大騒動になりますが、手掛かりが何もないまま迎えた失踪から丸2年目の日に
記憶喪失の少女が保護され、姉として家に戻ってきますが、妹は姉を姉として見ることができず
疑惑の目で見続けることになります。

この上段のあらすじは、裏表紙でも書かれていることなので、
妹から見た姉への疑いの眼差しが、小説の中心を占めるのかと思っていたら、
ボリューム的には、姉が失踪した期間における妹、母、祖母を中心とした
姉探しの話の方が多くて、特に情緒不安定になりがちな母と、冷静な祖母、
そんな2人を幼いのに客観的に眺めて「違和感を覚えてもなるべく母の言うとおりにやろう」と
母親の犯人探しに協力する妹。

この3人の心の動きが良く描けていて、興味深く読みました。
娘が突如居なくなるという事件は、現実世界でこの秋にも起きており未だ解決していませんが、
その母親の心情たるやいかがなものなのか。
娘がいないという喪失感、自分に非があったのではないかと責める心、
なぜ妹は姉と一緒に行動しなかったのかと妹を叱責したくなる心、
近隣の人から憐みの目と好機の目で見られる不快感、
様々な感情が心の中に沸き立ってくる様子がしっかり描かれており、
その母親が犯人探しに躍起になる精神バランスの崩れた状態に陥っていくのは
仕方がないことだと思えました。

一方で、この父親の存在感のなさといったら。
姉が家に帰ってこないという当日の夜遅い時間でさえ、のんきな発言をしており
唯一、この家族の中で共感できない人でした。

肝心の姉が戻って来てからのやりとりは、
それまでの、犯人探しをしていた母親の執念や妄想じみた推理のすさまじさに比べると
あっけないくらい簡単に姉を姉として受け入れており、
姉だと本心で認識しているのか、疑問を持っているけど姉だと思い込もうとしているのか
その心の在り様が良くわかりませんでした。

妹は、何かにつけて姉にかまをかけて、本物の姉なのか確認しようとしますが、
どれも中途半端な結末になってしまい、どっちつかずです。
まぁ、これは子供がやることですから仕方ないのですが、
話に進展がないので、読んでいて結構モヤモヤしました。

で、最終盤で一気に姉の口から真相が語られるのですが、
うーん、この真相では腑に落ちない感がすごく残るなぁというのが私の感想です。

ネタバレするので詳しくは書けませんが、
その環境に置かれることを、姉が素直に受け入れたということが信じがたいです。
妹目線で語られる失踪前の姉の描写からしても、あまりそのようなキャラクターには見えませんでした。
そして、その環境には、姉だけでなく、他の人間も巻きこまれていますが、
その人もまた、その環境を受け入れているのが、輪をかけて疑問でした。

ちょっと話を作り込みすぎてしまったのではないかなと感じる展開でした。
まぁ、だからといって、「2年間変質者の男の自宅に首輪をされて監禁されてました」というような
現実世界で起きた事件のような真相を書かれても「そんなリアリティのない展開なんて!」と
思ってしまったかもしれませんが。

人間がつくる社会って、1人の人間が失踪して、何食わぬ顔で2年後に戻ってきても
「はいそうですか、それは良かったですね」と平然とは受け入れられないような
コミュニティメンバーのアイデンティティに対する厳格さと排他性を持っているように思います。
その点が、なんだかうやむやなままで終わってしまっています。
失踪期間中の家族の心の動きが丁寧に描かれていただけに、終盤の失速が残念でした。





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