東直子 『千年ごはん』(中公文庫)、読了。
歌人である著者の食にまつわるエッセイ。
食のエッセイというと、あちこち食べ歩くグルメエッセイと
自分でこしらえる料理エッセイとに大きく分かれますが、本作は後者の部。
著者の日常を切り取った風景の中に食べ物や料理が登場し、
そして、そんな食に関する短歌が一首。
エッセイだけだと、分量が短いこともあって、さらさらっと読んで終わりになってしまいそうですが、
最後に短歌がくっついてくることで、その余韻に浸れます。
そして、その余韻の中で広がる景色を楽しみ、「どんな味がしたのかな」と想像が膨らみます。
食にまつわるエッセイでありながら、短歌の世界観の奥深さが味わえる構造になってます。
「歌人」って聞くと、自分の生活の中に短歌がないためか、
ものすごく特殊な人種を想像してしまうのですが、
本作の中で、著者には、夫が居て、子供がいて、彼らの食事を作り、
自分の食事を楽しむ、そんな普通の日常が描かれており、
あぁ、歌人という立場の人も、普通の人間なんだなと、
ありきたりな感想を持ってしまいました。
でも、普通の日常を過ごしながら、短歌としてバチっと情景を切り取って見せる力量を見るにつけ、
どんなに繊細な感覚で日々を生きているのだろうかと、不思議な気持ちにもなりました。
興味深いエッセイでした。
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