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『しゃぼん玉』
- 2019/09/18(Wed) -
乃南アサ 『しゃぼん玉』(新潮文庫)、読了。

乃南作品は、意図しているわけじゃないけど、
なんとなく間隔があいてしまいがちになります。
で、久々に読んで、「やっぱり面白いわ」と再確認することが多く、
作品の毛色の違いの幅広さもあって、「また読もう」と積読が増えていくことに。

本作は、タイトルの単調さと表紙絵も女の子が街路を歩く後ろ姿で、
あんまり刺さってくるものがなく、長らく積読になっていた本でした。

物語は、非行少年からかっぱらいの常習犯に転落しつつある若者が主人公で始まります。
とにかく今を生きるだけの金が手に入ればよい、
かっぱらいをして、財布に二万円入ってたら満足、数千円だと「ちぇっ」となる。
それだけの日々を送っています。

そんな中で、ただ脅すためだけに持っていたナイフが
ほんのはずみでかっぱらいターゲットの女性の脇腹に刺さってしまいます。
「殺してしまった!」と思った少年は、バイクを捨て、ヒッチハイクをしながら逃走。
乗せてもらったトラック運転手とけんかをして置き去りにされたのは宮崎県の山の中。

人も車も全く通らない早朝の山道で、偶然出会った老婆の家に行き、
成り行きで一泊することに。
すると、その家に遊びに来た近所の人が、孫が返ってきたと勘違いして
村のコミュニティの日々に巻き込まれていきます。

前半の殺伐とした雰囲気から一転して、中盤以降は山の中でののどかな暮らしが描かれ、
その、のほほんとしつつも、人間同士の信頼関係で維持されている生活の堅固さに
興味をそそられました。

じじばばだけでコミュニティを作っているから、
少年のような若者がやってきたら、そりゃ喜ばれるでしょうし、
ここの家の孫だという出自が分かってれば、初対面でも警戒心はないでしょう。
そんな人々の様子に、毒抜きされていくかのような非行少年。

まぁ、うまくコミュニティに溶け込みすぎだという、リアリティ面への指摘はあるでしょうけれど、
私は、そこはもうファンタジーだと思って読んでました。
ド田舎ファンタジー、悪く言えば都会の人の田舎幻想。

どちらかというと、後半における私の興味は、
この少年が、なんで犯罪で生計を立てるような道に進んでしまったのか、
そして、なぜ、そこから抜け出せなかったのかということでした。
特に後者の部分。

田舎に来て穏やかな暮らしの中に入ってからも、
「前の晩はやる気に満ちていたのに翌朝になると何もかもが面倒くさい」というような描写があり、
私が要約するとつまらぬ表現にまとまってしまいますが、その心理的な変化が
腑に落ちる形で描かれていました。

私自身は、細かく計画を立てて、その通りに実行して、なんなら計画以上に詰め込んで実行して
成果を得ていくというプロセスが好きなので、自分がやりたいとおもったことすら実行できない人を
ちょっと軽蔑気味に見てしまうところがあります。
そして、なぜ実行できないのかが、理解できないのです。
本作では、そういう人の心理描写を知ることができ、あぁ、そういう風に感じているのかと
少しは分かったような気になれました。
共感はできないけど(苦笑)。

理想のように行動できない人を描くのがうまい作家さんなのかなと
この本を通して思いました。




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