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『世にも奇妙なマラソン大会』
- 2019/01/27(Sun) -
高野秀行 『世にも奇妙なマラソン大会』(集英社文庫)、読了。

高野さんの冒険譚。
今回は、西サハラの砂漠で行われるマラソン大会に参加するというもの。

そもそも、西サハラってどんな地域なのかちっとも見当がつかなかったのですが、
本作を読んでいくと、遊牧民とモロッコが支配権を争っている紛争地域ということです。
全く縁のない世界なので、基本情報から勉強になります。

このマラソン大会自体が、西サハラの実情を全世界の人に知ってもらいたいという
ある種の政治的意図をもって企画されているので、
こうやって日本国内で本になって多くの人の目に留まり
私のような無知な人間に西サハラ問題を認識させたというだけでも、
その開催効果ありというものでしょう。

で、著者がなんでこんなマラソン大会に参加することになったかというと、
企画のネタを探してて、「アフリカ・中東 マラソン」でWEB検索したら
このマラソン大会が出てきて、ものの弾みで参加を申し込んでしまったというもの。

ものの弾みで申し込むという大暴走の前に、
「アフリカ・中東 マラソン」で検索しようと思うか普通!?てな感じです。
15kmのジョギングしかやったことがないのに、砂漠のフルマラソンって・・・・。

当然ながらドタバタ劇で終始するのですが、
この作家さんの面白さって、ドタバタしながらも
社会情勢とか、社会制度に関する情報を的確に伝えてくれるところかなと思います。
本人のドタバタ感と、社会を冷静に見ている安定した目線とのギャップが面白いです。

西サハラ問題に関して言うと、このマラソン大会にはスペインのバスク地方からの参加者が多く、
バスク独立運動と心情的に繋がっているという政治臭ぷんぷんの様子を伝えていたり、
そもそも難民キャンプなのにソーラーパネルがあったり貯水タンクがあったりで
マラソン大会の出場者を家に受け入れる余裕があったりと、
なかなかに資本主義の香りが感じられます。
このマラソン大会で、どれだけ現地にお金が落ちているのでしょうかね。

砂漠でマラソン走っちゃったよ~というようなバカ話をまぶしながらも
今の世界の情勢をそのまま切り取って伝えているところが
興味をそそられる理由かなと思います。

本作では、このマラソンの話以外に
短めのエッセイが何篇か併録されていますが、
個人的に面白かったのは「名前変更物語」。

インドから強制送還をくらった過去があるため、
同じパスポートではインド再入国が不可能という現実があり、
それを乗り越えるために「名前を変えてパスポートを取り直す」という荒業に出る話。

最初のチャレンジは、妻に離婚&再婚をお願いし、妻の旧姓になるというもの。
ホント、奥さん、よくこの人の奥さんをやっていられるなと思ってしまうほどの暴走っぷりです。
まぁ、こういう人だと分かって結婚してるんでしょうけど、
それに巻き込まれるのは大変ですよね。

で、あえなく妻の反対で頓挫するわけですが、
そこから著者は、違う名義のパスポートを手に入れるために奔走。
相手は、区役所、銀行、都庁と、お堅いルール重視の組織ばかり。
ところが、どこもルールはあるのに何だか抜け穴がたくさん空いてる感じで
変なルーズさが垣間見れます。
まぁ、こんな改名事案を持ち込んでくる人は少ないでしょうから
マニュアル化されていないということなのでしょうけれど。

最後の難関、都庁の旅券課ですが、ここで登場する窓口の職員さんのキャラが秀逸。
そしてオチもあって、あはは~な感じ。

でも、日本を代表する公と民間の組織の異質事例への対応能力の限界と柔軟さというか
日本社会の複雑さみたいなものが垣間見えて面白かったです。




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