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『イッツ・オンリー・トーク』
- 2018/12/18(Tue) -
絲山秋子 『イッツ・オンリー・トーク』(文春文庫)、読了。

絲山秋子という作家さんのイメージは、まだ私の中で固まっていません。
重い本を書くのか、軽い本を書くのか、日常を描くのか、抽象を描くのか。

薄かったので手に取ってみましたが、デビュー作とのこと。
それほど期待せずに読み始めたのですが、これが案外面白かった!

男に振られ、精神病を患った過去を持ち、今は画家という「名刺」を出す女。
新聞社勤務でバリバリ働いていた過去から、生活するだけの蓄えはあり、
人間関係はきっと閉じているだろうに、
なぜか不思議な接点で出会った人たちとの不思議な交流が続いている人。
こういう、人を惹きつける人って、いるんですね~。

さっぱりとした文章と、短い章立てでどんどん話が展開していき、すいすい読めます。
解説にて、文章に無駄がないと書かれていましたが、まさにその通り。
どうでも良い日常を、無駄のない文章でつづっていくという
なんともアンバランスな感じが面白いです。

「画家」の周りにいるのは、「市議会議員候補」「自殺願望者」「ヤクザ」「痴漢」・・・・・
どうやったら1人の人物を介してつながるのか分からない人々ですが、
でも、本作の世界観の中では確かに存在し、関係しあってます。
不思議。

並録された「第七障害」は、馬術クラブの仲間だった人との交流や
自分が乗っていた馬の操縦を誤り、落馬事故の結果、安楽死させてしまったという
深い傷となっている思い出を、遠く引っ越した先で思い返していく物語。

馬の死、しかも自分に責任があると思える事故は、
乗馬仲間はその痛みを想像できるでしょうが、
赤の他人は、馬は馬、人は人と割り切ってしまいそうです。

このあたりの温度差が、本人にとっては一番つらいところなのではないかなと想像しました。
結局、多くの人に自分の悲しみを分かってもらえないという。

そんな状況で、乗馬仲間に再会できたのは幸せなことですね。
しかも、彼は好意を持ってくれている。

2人でゆっくりと悲しみを乗り越えていく、良いお話でした。




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