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『魚影の群れ』
- 2018/11/22(Thu) -
吉村昭 『魚影の群れ』(新潮文庫)、読了。

タイトルに惹かれて買ってきました。

収録作品は4つ、どれも人間社会の中に動物が登場してきます。
侵入者であったり、飼育であったり、道具であったり、漁業であったり。
多様な人間と動物の関係性を描いています。

吉村作品らしい、淡々としたドキュメンタリータッチの作品なんだろうなと想像はしていましたが、
冒頭の「海の鼠」の、冷徹で迫力のある描写に圧倒されました。
とある小島に現れたドブネズミの集団。
瞬く間に数を増やし、足の踏み場もないほどに。
畑を荒らし、漁獲をついばみ、家の中に侵入してくるドブネズミたち。
毒餌で殺しても、ネズミ捕り機で捕獲しても、一向にその数は減りません。

小説としてみると、ドブネズミと人間の鼬ごっこを淡々と描いていく形で、
物語としての大きな山場がないので、これは実話をモチーフにしているのかな?と感じましたが、
どうやら宇和島沖の戸島という島で起きたことのようです。

しかし、物語に山場がないからと言って、本作がつまらないということではなく、
島民の苦悩や県の担当者の努力、そして何よりドブネズミの描写が緻密で、
十分に読ませてくれる作品でした。

次の「蝸牛」は、食用カタツムリがもたらす中毒性の味わいがテーマで、
こちらも、「ついつい手を伸ばしたくなる中毒性」というのが
なんだか不気味です。

「鵜」は、動物としての鵜そのものよりも
鵜飼の家族を通した人間物語だったので、本作の流れの中では、
ちょっと興味を失ってしまいました。

最後に表題作の「魚影の群れ」。
こちらは、大間のマグロ一本釣りにかける漁師とその娘、そして恋人の
3人を軸に話が進んでいき、主人公のベテラン漁師の不器用さが
なんとも言えず健気な感じで、中盤までは微笑ましく読んでいました。

しかし、中盤で、事故が起こり、その事故に面したベテラン漁師の行動が
周囲の人間に対して大きな影響を及ぼします。
そして、当の本人も、事故当時から心の奥に感じていた疚しさが
消えてなくなることがなく、居心地の悪い日々を送らねばならないことに。

咄嗟の際に、そういう行動をとってしまうということが、
前半の漁師の性格を描いた日常シーンにより、納得的に受け入れられ、
やっぱり吉村昭はすごいなと素直に感心。

どの話も、淡々とした一行で幕を閉じるのも、これまた印象的でした。




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