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『新世界』
- 2018/08/19(Sun) -
柳広司 『新世界』(角川文庫)、読了。

ロスアラモス研究所での原爆開発最終段階~終戦にかけての期間を舞台に
そこで起きた殺人事件の謎を解く・・・・・というミステリが一応表向きのジャンルかと思いますが
原爆の開発者やヒロシマ・ナガサキの上空で原爆を投下したパイロットなどが登場し、
そこで原爆についての議論が展開されていきます。
日本人読者に向けてこの作品を書くということは、
やっぱり、本題は原爆ですよね。

原爆開発の責任者、オッペンハイマーの口からいろいろ原爆についてを語らせ、
さらに議論をふっかけるように、周辺の主要科学者たちが言及を重ねますが、
正直、何が正しかったのか、私には判断がつきませんでした。

戦争を終わらせるためとはいえ、軍人以外の一般市民をあんなに殺す必要はなかったという
意見に対しては、死んだ人にとっては原爆も焼夷弾も変わらず、そこにあるのは死であり、
原爆投下だけが非難されるものではないだろうなと思います。

そもそも8月6日の時点では日本が降伏する方向が見えていたので
原爆を投下する必要がなかったという意見については、
今の時代から客観的に見たらそう見えるかもしれないけど、
戦争当時にそのような楽観的な観測に頼れるのかなという気もします。

ソ連の日本侵攻を恐れたために、無理やり投下して軍事力を誇示したんだという意見には、
アメリカがその誇示行為を必要と判断したなら、
日本人の被害がどうこうと考える前に、アメリカの国益のためにやっちゃうんじゃないの?
と割り切って考えてしまいます。

でも、やっぱり、日本人としては、原爆の開発と投下って必要だったのかな?と
やはり感じざるを得ません。
特に、開発の方。
本作中でも、核分裂のエネルギーを戦闘行為に適したレベルにコントロールできるのかとか
核分裂からの爆発の連鎖反応で地球上のすべてが燃え尽きてしまう可能性とか
そういう想定もしながら、そしてその危険性が排除できないまま
実験を強行してしまうという科学者たち。

自分の仮説が実現できるのか検証したい、
そのためには地球が壊れる可能性が僅かにあったとしても、やってみたい!
ある種、科学者としては当然の熱意なのかもしれませんが、
その対象が原爆ということになると、恐ろしいですよね。

戦争も兵器も、人間の「挑戦してみたい」「思いついたから試してみたい」という
ある種のピュアな欲望が作り出している部分もあるのかなと思いました。

本作の殺人事件自体は、あまりパッとしない結末で、
ふーん・・・・という程度で終わってしまいましたが、
読後感はしっかりとしてました。


新世界 (角川文庫)新世界 (角川文庫)
柳 広司

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