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『上野先生、勝手に死なれちゃ困ります』
- 2017/06/20(Tue) -
上野千鶴子、古市憲寿 『上野先生、勝手に死なれちゃ困ります』(光文社新書)、読了。

ギョッとするタイトルですが、
上野女史の『おひとりさまの老後』という本を受けてのものだそうで、
商売っ気のあるタイトルです。

上野女史は、主義主張はともかくとして現状分析や考察力の鋭さ
ピカイチの社会学者だと思いますので、介護について語ってもらうのは
興味深いなと思いました。

一方で、古市さんについては、雑誌のコメントやテレビのコメントを見ていて
あまり良い印象を持っていなかったので、
対談形式という点で、買うか否か迷ってしまいました。

が、いざ蓋を開けてみれば、
古市さんがイマドキの何も知らない何も考えない若い男の子を上手く演じていて、
上野女史の社会分析をどんどん引き出していきます。
対談形式ですが、先生と生徒という役割をお互いが上手く演じているので
読みやすい形になっています。

こうやって、自分に与えられた役割をきちんと演じられるという点で、
メディアにとって使いやすい学者さんなんでしょうね、古市さんは。

で、肝心の内容ですが、
介護に関する制度や文化、そして不安の本質について語られています。
私は今38歳ですが、両親は60代後半と60代前半。
今はまだ元気ですが、ここ3年ほどで、何だか急激に衰えてきたような気がしています。
もしここで何か大きな病気やケガをしたら、どうやって介護すればよいんだろう?
という不安が、だんだんと現実味を帯びて迫ってくるようになりました。

なので、この対談で語られている古市さんの言葉は、
自分の不安の具体化につながり、
上野女史の言葉は、その不安に応えてくれるものでした。

とにかく、現状をきちんと理解して、
使える制度は賢く使い、使いにくい制度は変える努力をし、
変えるときに変な理想論を振りかざさずに現実に即した議論をする。
この冷静な対応が必要なんだなと肝に銘じました。

ただ、制度については理解すれば活用できるので
そこの不安はいくらか解消されましたが、
冒頭の古市さんの質問状にある「親子関係の結び直し」については、
私は正直、自信がないです。たぶん、介護問題の一番の不安は私の場合ここにありそうです。

これまで、両親の庇護のもとに生きてきて、
大学卒業後は自分の稼ぎで生計を立ててきたとはいえ、
陰に陽に両親が私を気にして支えてくれ、守ってくれたからこそ
大過なく生きてこられたのであって、介護によりその立場が逆転する、
私に守るものが生まれて、さらに私を守ってくれる力が弱まるという事態が
心細いのだと思います。
私は、自分の子どもを持たないので、なおさら、誰かを守るという行為が
身についていないために恐怖を感じるのかなと、腹がくくれていないのかなと思います。

ま、いざという時には、頭で考えるよりも、
介護の具体的な行動としてやらなくてはいけないことが押し寄せてきて
悩む前に行動しなければいけない状況に追いやられるような気もします。

いずれにしても、「知っておく」ということは、心構えをするうえで大事なことだろうなと思います。

最後、学者の姿勢として、
無知な人に真実を告げて、社会の歪みを知らしめてしまったがために
それまで知らずにのほほんと生きてきた人を不幸にしてしまうのではないか・・・・・
という心配事が語られていましたが、
これは、私も大学生の頃に感じていたものでした。

真実を知れば世界はどんどん開けていくけど、
知りたい人だけが知れば良いんじゃないかと。
知りたい気持ちがない人は、下手に知らない方が幸せなのではないかと。

本作では、上野女史は、「まず事実を知ることが大事」と喝破しており、
知って選択することが大事だと述べられています。
知らないことには何も始まらない、確かにその通りです。
でも、知れば選択できるようになるのか、そう簡単なことでもないと思います。
知ることと選択することの間に、もっと段階があるように思えるので、
そこをどうしたらよいのか、一緒に教えてあげることが必要なのではないかと思いました。


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