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『シズコさん』
- 2016/10/20(Thu) -
佐野洋子 『シズコさん』(新潮文庫)、読了。

先日読んだ著者のエッセイ
に、お母様のことに触れた文章があり、
「子供の頃に母の手に触ろうとしたら振り払われてトラウマになった」
というような趣旨のことが書かれていて驚きました。

この母娘関係は大丈夫なのかしら?と感じたのですが、
母について、その名も『シズコさん』という本を書いているとのことで
100円で見つけたのを切っ掛けに早速読んでみました。

予想していた以上に、激烈な子供時代の話でした。
男兄弟を溺愛し、その分、長姉である著者にしわ寄せが行き、
家事や育児を何でもさせられた日々。
娘への愛情は注いでもらえなかったものの、任せても大丈夫という信頼は得ていたようで
こき使われるお手伝いさんのような印象。

母への苦手意識は、長姉である著者だけでなく、
妹たちも持っていたようで、後年、息子夫婦と同居していたものの
嫁と上手くいかず追い出される形になった母を
姉妹の誰も引き取りたがらないという事態に。
結局、お鉢が回ってくるのは長姉である著者という、子供時代の再来のような役目。

とにかく中盤まで、この激烈な母の行動があれこれ書かれており、
ヒットした『家族という病』がとても及ばないような、濃い家族の姿が描かれています。
そして、母の特異な行動を書くだけでなく、それに直面した家族たちの動揺や拒否反応も
隠すことなく赤裸々に書いてしまっており、
むしろ、周囲の家族の人たちにとって、厳しい内容の暴露本になっていると
心配してしまうほどでした。

そして、そんな確執ともいうべき家族間のごたごたを経て、
最後に惚けてしまった母は、著者とその妹の世話のもとで最後の人生を過ごします。
怒りや妬み、批判、拒絶といった負の感情の塊だった母は、
惚けることで、それらの感情が払い落とされていったかのようで、
純粋な少女のような姿になっていき、
そして最後は、何も分からない状態、何にお関心が向かない状態に近づいていきました。

そんな状態で迎えた著者と母の和解の瞬間に多くの読者は引き込まれるのでしょうが、
私は本作の後半を通して、「もし母が惚けてしまったらどうしよう」という不安が募るばかりでした。

うちの母は、控え目で我慢するタイプの人間です。
子どもの目から見ても、働き者で我がままを言わず、父に従う昔風の妻に見えます。
まだ60代前半なので、足腰が痛いと言うことはあっても、
大きな病気は抱えていませんし、記憶力とか社会への関心とか全く問題ありません。

そんな安心できる母が、万が一、惚けてしまったら・・・・・。
母方の近い親戚筋には、認知症がひどくなった人はおらず、
みんな生涯通して働き者だったり活動的だったりした人が多いので、
今まで、母が惚けるという事態は想定したことがありませんでした。
父は結構やばいかも・・・・と思っているので(苦笑)、
母は私と一緒に介護する側の人間として想定してました。

でも、本作で読む限り、著者の母は働き者かどうかは別として
家事は何事もテキパキとこなし、社交的でもあったようです。
そんな人も、惚ける人は惚けるんだという事実は、
世間一般の話としては頭ではわかっていても、
目の前にその世界を展開されてしまうと、恐れおののいてしまう自分がいます。

著者は惚けることにより母との和解に至りましたが、
私は、今、母との間に溝を感じていない分、
もし惚けてしまったら距離が広がるのではないかという不安がずしんと募りました。


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佐野 洋子

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