『サウスバウンド』
- 2013/12/30(Mon) -
奥田英朗 『サウスバウンド』(角川文庫)、読了。

元過激派の父は、職も持たずに舞いにちプラプラ。
時に年金担当者とやりあったり、学校に乗り込んで行ったりと、
子供たちには迷惑な行動しか起こさず、姉は呆れて疎遠気味。
でも、母は、そんな父に笑顔で従う不思議な家族。
しかし、やがて中野区には居続けられない出来事が起こり・・・・。

主人公の二郎の目線で読むと、
素晴らしい経験を積む機会に恵まれた少年のビルディングス・ロマンです。
厄介な父と優しい母に育てられた少年は、
地頭が良く、周りに配慮もできる少年に育っています。
そんな少年が、過酷というか、壮絶というか、抱腹絶倒というか、
とりあえず父親に振り回されることで、機転が利き、妹を守れる強い兄になっていきます。
この視点で読むと、非常に気持ちの良い作品です。

一方で、父親のキャラクターに関しては、
上巻では、とにかく公の組織の人間とやり合っては論戦に持ち込み相手を辟易させるという
とんでもなく面倒なオヤジとして描かれています。
その理屈としては、内容の正当性よりも、反対のための反対のような
かつてのどこぞの野党のような印象を抱いてしまう難癖のつけ方です。
そのため、あまり、共感が持てません。

ところが、下巻でいったん西表島に移住すると、
コロッと人が変わるんです。
「八重山の人の輪の中で本来の姿に戻ったんだ」という見方もできるのかもしれませんが、
では、上巻で演説ぶってたアレは何だったのかと疑問を持ってしまいます。
というか、市民運動の人々に「俺はもう運動なんてやらんのだ」と言い放ってますが、
それでは、なぜ今まで東京に居続けたのかが不明。
何もやることがない状態で、反国家の活動を「誰かが何か言ってきたら反応する」という範囲で
受身の姿勢で行っていくことに、何か積極的な意味があったのでしょうか?
どうも、思想的に、上巻と下巻の父親では連続性がないように感じてしまいます。
上巻の途中で、「天皇制」とか出てきたときには、
どんな方向に話が進むのかとドキドキしたのですが、その後音沙汰なし(苦笑)。
クッション程度に使うテーマじゃないんだけどなぁ・・・・。

終盤の開発業者との闘争に関しても、
正直、都市から遠い西表島だからこそ、「今の生活で十分」という単純な結論に
島の人たちの総意をもっていっても違和感無かったですが、
これが石垣島クラスの話になってくると、民意もいろいろ複雑になると思うんですよ。
ま、そこは、舞台設定の上手さなのかもしれませんが、
開発と自然保護という社会問題を扱うには、ちょっと逃げた印象も持ってしまいました。

どうしても、父親のバックグラウンドの設定と、扱うテーマの設定から、
疑問に感じるところや不満に感じるところは数多あるのですが、
それでも、少年の成長、少女の成長には目を瞠るものがあります。

個人的には、向井君と七恵ちゃんに、
今の日本社会についての対談を行って欲しいぐらいです(笑)。


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