『聖域』
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- 2011/09/25(Sun) -
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篠田節子 『聖域』(講談社文庫)、読了。
未完の小説原稿を手に入れた編集者が、 その続きを書かせようと、失踪した著者を探しに東北へと向かう・・・。 この未完の小説は、いわゆる幻想小説で、 修行僧が東北の僻地で出会った魔のものたちと対峙するというもの。 序盤は、この小説が作中作という形で展開されていくのですが、 幻想小説というジャンルが、自分の好みでないため、 ここを読み通すのに苦労しました。 しかし、主人公が著者を探し始めた途端に止められなくなり、一気読みです。 原始宗教や地域の信仰、新興宗教などの要素が絡み合い、 社会科学的な側面でも興味深かったこととが大きいです。 そして、「信仰」にまつわる超常現象的なものについて、 それを体験したものの視点から活き活きと描きながらも、 どこかに冷静な視点が残っており、どことなく自然科学的な日常世界の思考とも 違和感無く同居できるような世界観になっています。 これは、かつて著者の『カノン』を読んだときにも感じたことであり、 読んでいて、とても納得感があるのです。 最初は、いろんな要素を詰め込みすぎなのでは?と感じた 一つ一つの出来事も、最後には、意味のある結びつき方をしてきて、 全ての要素が、無駄なく、きちんと作品中で料理されたというスッキリ感も味わえます。 一つだけ気にかかったことと言えば、 主人公が、失踪作家に対し、とにかくすぐに続きを書けと迫るところ。 失踪作家の頭の中に、続きが既に完成しているという前提があってのことなのでしょうが、 小説を書くということが、なんだか軽視されているような印象を受けました。 小説を書く行為を、「ストーリーを作る」作業と、「文字に落とす」作業とに分解して、 前者は作家の腕の見せ所だが、後者は単なる機械的作業と割り切っているようで、 腑に落ちないものが残りました。 文字に落とす作業自体にも、その作家独特の文体や、リズム感を生むための 歴とした創造的な作業だと思ったので・・・。 まぁ、それは、物語の完成に執念を燃やす編集者の熱い心が 言わせた台詞なのかもしれませんね。 それぐらい、いろんな人のいろんな「想い」を、ずっしりと重く感じさせる作品でした。
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