『嘘つきアーニャの真っ赤な真実』
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- 2010/09/20(Mon) -
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米原万里 『嘘つきアーニャの真っ赤な真実』(角川文庫)、読了。
これまで、米原万里という人の背景を、恥ずかしながら何も知りませんでした。 子供時代をプラハで過ごしたというのは何かで読んだ記憶があるのですが、 お父様が共産党幹部でプラハに転勤になられたからなんですね。 そのプラハのソヴィエト学校での同級生との思い出を振り返り、 また、30年後の同級生に会いに行くという趣向の本作。 単なる父親の海外赴任についていった帰国子女というのではなく、 社会主義陣営の国に、しかも共産党幹部の娘としてついていき、 ソヴィエト学校で青春時代を過ごしたというのは、 個人のアイデンティティに、物凄く影響を与える経験だと思います。 特に、アーニャとの関係を綴った章は、興味深かったです。 ルーマニアの高官の娘としてプラハにやってきたアーニャは、 共産主義思想にドップリと使っているような発言を連発し、 同級生の子供たちにからかわれる始末ですが、 家に遊びに行くと、なんとも言えない貴族階級のような暮らしぶり。 なのに、当のアーニャは、ルーマニアの一般人民の暮らしが想像できず、 自分の生活に何の疑問も持っていないという有り様。 子どもたちの交流を通して、社会主義国家の矛盾や異様さが垣間見えます。 アーニャは、その矛盾から目を背けるように、 虚勢を張ったり、嘘をついたりしていたようですが、 一方、リッツァやヤスミンカには、その矛盾がある程度見えており、 子どもながらに、大人の矛盾に上手く付き合うだけの頭の良さを 持っていたようです。 いずれにしても、たくましく生きる子供たちを描いていて、圧巻の作品。 30年の時を経て、再会の旅に向かう著者の姿にも心打たれます。 この30年で社会主義国家が辿った顛末を思うと、 必ずしも幸福な人生を送っていないかもしれないと想像される同級生に 会いに行くのは、相当な決心が必要なことだと思います。 そして、実際に再会してみて、無事を喜び合う一方で、 相手の言動に戸惑うところもあったりして、複雑な胸中だったようです。 その分、過酷な人生を経た人々の強さというものを、 この作品では実感することができました。 大宅壮一ノンフィクション賞受賞もうなずける一冊でした。
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