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『小倉昌男の福祉革命』
- 2023/11/29(Wed) -
建野友保 『小倉昌男の福祉革命』(小学館文庫)、読了。

クロネコヤマト創業者による障害者の働く現場改革の本。

ブックオフでたまたま本作を見つけるまで、クロネコヤマトが財団まで作って
障害者支援事業をしているなんて知りませんでした。

そもそも障害者支援に取り組もうとしたきっかけについては明かされておらず、
小倉氏本人の談として「なんとなく、ハンディキャップを持っている人が気の毒だから、何とかしてあげたい」
という風に、特別なきっかけはなかったとされています。

しかし、お金を出すだけでなく、自ら全国の現場に足を運び、講演もして回り、
必要に応じて事業立ち上げの指導までする、ここまで熱意をもって取り組まれているからには
きっと具体的な、心動かされる出来事があったのではないかなと勘ぐってしまいます。
関係者の方への配慮で公言されていないだけで。

本作で一番印象に残ったのは、やはり、障害者と言えども労働をするのであれば
適切な労働対価を受けるべきだ、という考え方と、
そもそも消費者のニーズに合っていないものを「障害者が頑張って作ったから」という「付加価値」で
売っていこうとするやり方には限界があるだろうという冷静な目線です。

時々、地域のいろんな事業者さんが出店しているマルシェとかに行くと、
福祉団体さんとか、農福連携事業者さんとかが、クッキーを売ったり、野菜を売ったりしています。
そのとき、周囲の来場者への声掛けで、「美味しいクッキーですよ」「安心安全な野菜ですよ」と
謳うのは当たり前の商売活動であり、「どんなものを売ってるのかちょっと覗いてみようかな」と
立ち寄ることもありますが、反対に「障害者が作りました!」だけを連呼する団体さんも居て、
「少しでも自立できるように、もしくは働く喜びを感じるためにやっているはずなのに
障害者であることだけをプッシュするのは、逆に施しを受けたいとせがんでいるようだ」と
感じてしまいます。

本作では、特に、クロネコヤマト関係者が質実ともに支援しているパン屋の事業が紹介されていますが、
その「スワンベーカリー」は、障害者雇用の件を大々的に商品PRに活用しているわけではなく、
一般の消費者が「パンが美味しいから」「宅配してくれて便利だから」という理由で利用しているようです。
「障害者が働く店」としてではなく、「パン屋」として地域で認識されているわけで、
これが本来の商売のあるべき姿だと思います。

経営者側も、これだけ障害者を雇用すれば、これだけの支援が受けられるという思考ではなく、
これだけの従業員を雇うなら日商は少なくともこれだけ必要、というフツーの経営者目線で
物事を考えています。
たまたま雇っている従業員に障害者が多いというだけで、
このパン屋の経営者は、パン屋を経営している自覚のもとで活動しているんだろうなと思います。

そして、読み終わってからWikiで調べてみたら、
創業から25年経った今も、クロネコヤマト関係者が直接手掛けている直営店以外に、
全国に多くの店舗が広がっていて、何より、本作で紹介されている十条店や三原店が
今も存続しているということが素晴らしいと思います。

普通の新規創業のパン屋で、25年も続けられたら大成功だと思いますし、
25年も経てば店舗運営の中心人物たちは代替わりしていてもおかしくないので、
すでに、個人の思いではなく、組織として存続できる経営能力が備わっているのだと思います。

障害者雇用事業に関する小倉昌男氏の講演は、、障害者福祉に関わる仕事をしていない私でも、
自社の経営を見直すために、とても有意義な内容なのではないかと思い、聞いてみたいです。
ネット世界を調べたら、講演録とか動画とか出てくるかしら?




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『がなり説法』
- 2023/11/28(Tue) -
高橋がなり 『がなり説法』(インフォバーン)、読了。

時間つぶしに立ち寄った、昔ながらの古本屋のワゴンで100円で売られていたので
試しに購入してみました。

『マネーの虎』に出ていた社長というイメージしかなく、
しかも番組は1回も見たことがなかったので、勝手な印象で
「成金で、自信に満ち溢れ、足りない志願者が来ると怒鳴る人」と思ってました。

本作を読んでみて、印象が変わったので、読み終わってからYoutubeで
『マネーの虎』をちょっとつまみ食いしてみましたが、
著者は、とても冷静に話す人で、理路整然と迫ってくるので、
怒鳴られるより逆に怖いかも・・・・と思ってしまいました。
いずれにしても、番組内で話している内容や視点は、非常に興味深かったです。

本作では、著者自身の言葉(雑誌のエッセイ連載をまとめたもの)と、
対談とが収められていましたが、圧倒的に前者が面白かったです。

著者自身の経歴がそもそも面白く、佐川急便のセールスドライバーから
テリー伊藤氏の制作会社に転職し、そこで番組制作のノウハウを学んで
独立してAV制作会社を設立、一気に業界トップに躍り出るという唯一無二の実業家だと思います。

そして、自分自身を「負け犬」と位置づけ、負け犬がこの社会で生きていくための
生き方指南の本のようなイメージです。
帯にある「ビジネス指南」とは、ちょっと違うかな。

発想力・企画力と、それを実行してしまう行動力、そして躊躇しないためのスピード力、
さらには、自分たちが成功するために、ある種、周囲の関係者に無理をさせる強引力も
相当なものがあると思います。

シンプルな言葉の中に、この著者の人生観が噓なく織り込まれていると思うので、
その考え方には、賛成できるところ、できないところがありましたが、
読んでいて面白い言葉たちでした。

一方で、対談は、対談相手の話で著者の思考が膨らんでいくわけでもなく、
対立することで二つの考えが際立つわけでもなく、
対談相手の面白さを著者が引き出しているわけでもなく、
なんで対談なんていう企画を行ったんだろう?と疑問に思ってしまう中途半端さでした。

読み終わって、今はどんなことをやっているのかな?と思ってWikiを見てみたら、
なんとAV会社の社長は早々に辞めており、今は農業法人を経営しているんだとか。
また予想外の業界に行っちゃったんですね。

著者なりの考えがあっての異業種参入なんだろうとは思いますが、
他人事として眺めてみると、ちょっと躁鬱の幅が一般の人よりも広いのかなと思っちゃいます。
ガ―ッと入れ込める時期もあれば、何もかもが嫌になっちゃう時期もあるのかなと。
エネルギーを持て余している人は、大変ですね。




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『逆説の日本史13 近世展開編』
- 2023/11/27(Mon) -
井沢元彦 『逆説の日本史13 近世展開編』(小学館文庫)、読了。

第13巻のサブタイトルは「江戸文化と鎖国の謎」。
徳川幕府の政治の話とは少し外れる地味な巻なのかなと思ったら、
対キリスト教の鎖国政策と、武断政治から文治政治への転換のための儒教推進という、
政治と信仰の話が興味深かったです。

特に、儒教については、なんとなく「親孝行の教え」みたいなイメージしか持っていなかったのが、
「易姓革命」の「徳を持つ王が天下を治める」という考え方とリンクすると、
徳川初期には自らの正統性を訴える根拠となり、幕末になるとそれが大政奉還の根拠になるという
「あー、歴史って繋がってるんだな」と思わずにはいられない展開が面白かったです。

しかも、たぶん、儒教の本場の中国では、新興勢力が王朝をひっくり返して天下を奪った場合、
新たな王が全く違う王朝を打ち立てるので、前後の王朝の正統性の連続性なんて
全く意識していない、要は、徳があるから天下を治めるんだ、前の奴は徳がないから滅んだんだ、
という一言で終わらせてしまうんだろうなと推測します。

それが日本では、120代以上も続いている天皇家の正統性を基軸にしているので、
幕府が変わると、前後の正統性とのつじつま合わせも必要になってくるという複雑さが
日本独特の政治機構を生んだんだろうなと思います。

それと、靖国問題を例に挙げて、日本人と中国人の死生観の違いについての解説が
非常に勉強になりました。
そりゃ、殺し合いをした相手でも最後は手厚く葬るべきと考える怨霊を恐れる日本人と、
敵は死んでいてもさらに剣を突き刺してトドメ以上に怨念をぶつける中国人とでは
死者への印象は全く違いますわな。

なんとなく、アジアの国で、儒教の教えの影響を受け、
仏教の影響も受けていた(中国は文化大革命の時に仏教思想は破壊されているかもしれませんが)
国同士ということで、勝手に同じような死生観を持っているのではないかと思い込んでましたが、
これでは全然違いますね。

もうこれは、価値観の違いなので、話し合って折り合いがつくような問題ではないんだなと
信仰心の点からも改めて認識できました。




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『たけしの面白科学者図鑑 ヘンな生き物がいっぱい!』
- 2023/11/23(Thu) -
ビートたけし 『たけしの面白科学者図鑑 ヘンな生き物がいっぱい!』(新潮文庫)、読了。

今は無き月刊誌『新潮45』の連載企画のようです。
生物学者10人とビートたけし氏の対談

前に、自然科学者10人との対談本を読んで面白かったのですが、
それの続編と言うか、生物学版な感じです。

テーマである科学のジャンルが狭まったとは言っても、
生物学そのものは幅広く、研究対象は、ゴリラやカラスなどの誰もが知っている生き物から、
ダイオウイカやユスリカなど珍獣系、さらにはシロアリやダニなどの害虫系と
大きなものから小さなものまで登場してきて、バラエティ豊かでした。

そんな中で、個人的に一番気になったのは、生物の縞模様を研究しているという近藤滋先生。
シマウマの縞は「チューリング波の理論」に従いパターンを表現した方程式により
その出現がシミュレーションできるというもの。
実際に、タテジマキンチャクダイで観察と理論の計算が合致することを証明してみせたとのこと。

ダイビングをやっていて不思議に感じるものの一つが、幼魚と成魚で全く違う模様に変化する魚が
一定数存在していることです。
子どものときはドット柄だったのに、途中から網目模様みたいなものが現れて、
大人になるときれいな縞模様になったり。
なんでそんなに変化するの?という疑問とともに、なんでどの個体もきれいに同じような変化を遂げるのだろう?
という疑問も持っていました。
近藤先生の証明は、この後半の部分を方程式でばっちり解き明かすものとなり、
あー、生物としてのプログラミングに従ってるだけなんだなと納得。
一方、近藤先生の理論では、前半の謎には全く答えられないというのも面白いです。

気象も、空を眺めていると無秩序に雲が変化していくように見えますが、
ちゃんと理論的に詰めたら、方程式で変化が表現できるというのと
同じような世界観なのかなと思いました。

そして、もう一つ印象に残ったのは、研究者の多くが、今の専門分野に子供の頃から特別関心が
あったわけではなく、大学や院での研究時代に、指導教官から指示されたテーマを扱って、
少しずつ興味を持ち始めたり、何かに気づいた瞬間にのめり込んだりという経過を経ていること。

虫の世界は子供の頃からの虫好きがそのまま昆虫学者になっているけど、それ以外の生物は
研究テーマとして降ってきたものにたまたま興味が湧いて、その後大きな成果を得られたという
ケースが多いようです。
なんだかちょっとサラリーマン的で親近感(笑)。

このシリーズ、また見つけたら読んでいきたいです。




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『知性の顚覆』
- 2023/11/22(Wed) -
橋本治 『知性の顚覆』(朝日新書)、読了。

評論家であり、エッセイストであり、小説家である著者のイメージは
全然私の中でまとまった像を結ばず、自分の好みに合うのか合わないのかさえ
まだよく分かっていない状況です。

本作は、堅そうなタイトルでしたが、サブタイトルに「日本人がバカになってしまう構造」とあったので
皮肉の利いた文章なのかなと思い買ってきました。

キーワードは「反知性主義」。

正直、聞いたことはあるけれど、定義がよく分からない言葉の一つです。
今回本作を読み終わって「反知性主義」で改めて検索をかけてみましたが、
サイトによって定義が違っていて、言わんとしていることがどれも違うように見えます。
結局、一時的にブームになってしまい、きちんと定義づけがされないままに
いろんな人が自分に都合の良い言葉として使っちゃった感じなのかな?と推測。

で、本作の中でも、定義づけをあえて簡潔には行わず、
著者が様々な角度から「反知性主義」を分析することで、本質に迫ろうという取り組みのようです。

でも、私としては、仮置きでもよいから冒頭で定義づけしてほしいな・・・・と思ってしまいました。
自分の知性の無さというか、じっくり読み進めるという知的努力を放棄するような言い分で
申し訳ないのですが(苦笑)、最終的に批判したりひっくり返されたりしてもよいので、
とっかかりとなる定義が欲しかったです。
もう、知性的に評論文を読めるだけの集中力が続かない・・・・・。悲しい。

それでも、部分部分で書かれている著者の指摘は、なるほど!と思うことも多く、
読書自体は楽しめました。
この本全体で、どういう「反知性主義」を批判し、どこを肯定しているのかという
全体像のマッピングができるところまで深く読むことが出来ていないので、
また別の機会に再チャレンジかな。

とりあえず、読書ノート作りながら振り返りをしてみよう。




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『論理思考と発想の技術』
- 2023/11/20(Mon) -
後正武 『論理思考と発想の技術』(プレジデント社)、読了。

いつ買ったか覚えていないほどに長らく積読だった本。
手に取ってみたら、読みやすい文章で、早く読んでおけばよかったと反省。

ジャンル的には、ロジカルシンキングのためのテクニックを解説した本なのですが、
そういう1つ1つのテクニック論に入る前に、そもそもロジカルに考えるとはどういうことか
という話を、具体的な文章を使って説明します。

この手前の説明は、他のロジカルシンキングの本でもやっているものは多いですが、
本作は、小学校の国語の教科書に載っている文章を例題として使って、
「修辞の言葉」と「論理の言葉」に分けて解説しているので、新鮮味もあり、面白かったです。

自分自身、小学校の国語のテストで苦労した覚えはあまりなく、
かといって、学習塾でテクニックを学んで身に付けたわけでもなく、
なんとなく解けていた・・・・という感覚でした。

今回、小学校3年生の国語の教科書の文章を分析することで、
「あ、自分もそういう風に考えていたのか・・・・・」と、今更ですが、自分がどうやって文章を
読んで解釈しているかが何となく理解できました。
たぶん、小学生向けの学習塾に通っていたら、そこで学んだテクニックなんだろうと思いますが
大学受験のときまで、いわゆる学習塾的なところには行ったことがなかったので
今になって自分の頭の中にあった国語の解法が何となくつかめました。

寺田寅彦氏の随筆「とんびと油揚げ」も、同じく解説対象として挙がっており、
『寺田寅彦随筆集』を学生時代に一通り読んだ私としては、たぶん読んでいると思うのですが、
全然記憶になく・・・・・・。
久々に『寺田寅彦随筆集』読み返してみようかな。




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『給料戦争』
- 2023/11/19(Sun) -
竹内謙礼、青木寿幸 『給料戦争』(PHP文庫)、読了。

今回のテーマは、「給料」や「社会保険料」など、いわゆる「人件費」。

主人公は食品会社に勤める営業課長。
同期入社の男がコネもあって本部長に昇進してしまい、
人間関係が面倒くさい状態になったり、パワハラ的な言動を向けられることもあったりで
自分の処遇を考えざるを得なくなってしまっています。

そこに現れたのは、第二次世界大戦末期のラオスからタイムスリップしてきた日本兵。
元の世界に戻ることもできず、主人公の家に転がり込んできます。
いつもどおり、無理筋な展開(苦笑)。

主人公の彼女はIT企業で総務課に勤めており、人事制度などには詳しい立場。
そんな彼女と主人公が、処遇や転職について話をしていると、
日本兵も話に参加してきて、軍隊組織の常識を離すことで、
現代の日本企業の組織風土と、いわゆる軍隊組織の組織風土が比較されるようになり
突飛な設定ではありますが、結構、興味深く読めました。
この日本兵が、末端の兵士ではなく、陸軍士官学校を良い成績で卒業したエリートという
設定なので、組織論的な話にも通じていて、分かりやすいです。

そして、この日本兵の立場から、今の日本企業の文化に対して
「なぜ能力が認められて出世した上司と、能力が足りず部下の立場に甘んじている人が
 なぜ社員としては平等な扱いを受けるのか?発言権が同様に認められるのか?」
という指摘を投げかける等、日本企業なり、世界的な社員の権利を護る的な風潮に対して
真正面から異議を唱えているのも面白かったです。

物語中で展開される営業活動や新商品開発、転職活動、人事制度改革は、
どれも上手く成果を出すという流れになっており、「そんな簡単にはいかないよー」とは
思ってしまいますが、しかし、経営が傾いている零細食品会社の社長に対して
雇用の調整などの具体的方法を提案するくだり等は、知らないことも多かったので
勉強になりました。




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『新・堕落論』
- 2023/11/18(Sat) -
石原慎太郎 『新・堕落論』(新潮新書)、通読。

なんとなく買ってきたまま積読になっていた本。
なんとなく手に取ってみたのですが、イマイチ刺さってこなかったです。

石原氏は大学の先輩なので、特に都知事などの目立つ政治活動をされていた際は
普通の人よりも注目していたつもりですし、その行動力の高さやメッセージ性の強さは
有能な政治家だったと思っています。
その政策や発言の全てに賛同できたわけではないですが、やること言うことが明確なので
賛成も反対もしやすいというところが、政治家としては重要な資質だと思います。
世論に迎合して右行ったり左行ったりするフニャフニャな政治家よりも、
多少世論が割れるような対立構造が白日の元に晒されちゃったとしても、
建設的な議論が生まれるなら歓迎すべきかと。

そういう思いは私にはあるのですが、本作は、東日本大震災に際しての著者の「天罰」発言から
始まっており、さすがに大批判を浴びたので、本作でも被災者への配慮が足りなかった旨の
お詫びはしていますが、しかし、本意の部分は撤回していません。

これは、東京都民が、福島県などに原発施設を押しつけて、その生成した電力という果実を
東京都民が貪って、都会の人間だけが経済的に成長していく・・・・というような
都市部と地方部の格差なり負担の質量双方の不平等みたいな部分を考え直す必要がある
というような指摘であれば、十分、共感を得られたと思っています。

しかし、「津波をうまく利用して我欲を1回洗い落とす必要がある」なんて言っちゃうから、
津波を実際にその身に被った人が、何かわが身の誤りを是正しなければいけないんだ、
要は自業自得で被災した、みたいに聞こえちゃうところが下手だったかなとい思います。
しかも、震災からわずか数日の時点で発言しちゃってますからね。

3カ月とか半年とか経過して、現地が一定の落ち着きを見せ、被害状況も把握され、
被害が大きくなった原因に目星がつけられた段階で、
なおかつ、口頭での発言ではなく、どこかの言論誌に寄稿するなどの落ち着いた行動なら
もうちょっと穏やかに伝わったんじゃないかと思うんですけどね。
映像でそこだけ切り取って報道されちゃうと、炎上して当たり前な発言かと。
切り取りをするな!という声もありますが、切り取りされるようなスタイルでの発言は
リスク回避する意識をもとうよ・・・と思うところもあります。

というわけで、冒頭の文章の内容で、「うーん、こういう風に発言で炎上すること多かったよな」と
思ってしまえる政治家だったことを思い出してしまい、本文の方は若干流し読みに
なってしまいました。

基本的には、日本人としてこうあるべき、日本社会としてこうあるべき、という
著者の思いが熱い言葉で書かれていて、そうだなと共感する部分も多いのですが、
やっぱり、冒頭の影響で、こういう言い方するのを嫌う人も居そうだなと
思えてしまうところもあり、距離を置きつつの読書となりました。

政策とかではなく、日本人観みたいな思想の部分は、最後は個人の価値観だから
議論したって対立する思想を持つ相手を論破できることはないし、
議論したから思想が変わって同意できるというケースも少ないように思います。
相手の思想が自分とは違っても、尊重するという姿勢を皆が持つしかないかと思います。
その点で、ちょっと主張が熱すぎるな・・・・と、本作では引いてしまったところがありました。




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『不肖・宮嶋 撮ってくるぞと喧しく!』
- 2023/11/17(Fri) -
宮嶋茂樹 『不肖・宮嶋 撮ってくるぞと喧しく!』(祥伝社黄金文庫)、読了。

カメラマン宮嶋氏の武勇伝シリーズ。
本作は、特に核となる事件はなく、どちらかというと下世話な話が多い印象です。
息抜きにはちょうど良いですね。

良くも悪くも写真週刊誌が元気だったバブル末期。
「角三男投手の不倫現場を撮ってこい」だとか「三田寛子の大学受験現場を撮ってこい」だとかは
分かりやすいテーマです。下世話ですけど、一般の人々が興味を覚えて、
どれどれ、どんな現場だったんだ?と写真を見たくなるのも分かります。

一方で、「フロリダのディズニー・ワールドでグーフィーと記念撮影して来い」などは
そんな写真撮ってきて、誰が喜ぶの?というよく分からない写真のオーダーです。
しかも、発注元が女性誌の『クレア』。編集長が『週刊文春』の元デスクだったということで
スクープカメラマンとの人間関係は分かりやすいのですが、
なぜまた女性誌のディズニーの写真のオーダーを不肖宮嶋にするのよ!?という。
まぁ、本気の仕事というより、半分ご褒美のお出かけだったということなんですかね。

フィリピンで売春婦から淋病をもらってきて、新婚の嫁に伝染すという、まさに修羅場の体験も
赤裸々に書いており、なかなか読めない世界の話なので勉強になりました(苦笑)。

スクーププカメラマンというと、なんだか一匹狼みたいな印象がありますが、
読んでいて分かるのは、記者さんや他のフリーカメラマンとの連携作業なんだなと。
しかも、緻密な作戦会議も、細かな役割分担をしなくても、
これまで一緒に仕事をしてきた経験値で、即座に、自分が何をやるべきか判断し
また相手が何をやってくれそうか信頼するところが、プロだなと思いました。

これぐらい、自分の仕事に熱中できるのは、幸せな人生だろうなと思います。




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『福袋』
- 2023/11/13(Mon) -
角田光代 『福袋』(河出文庫)、読了。

シンプルなタイトルの短編集。
裏表紙には「連作小説集」という言葉が入ってますが、
読み終わってみて、「連作」要素あった?と謎。

8つの短編が収められていますが、基本的には、どこにでもいそうな普通の人の
日常の中に急遽飛び込んできた、小さな不確定要素を、どう扱うかというお話。
大きな不確定要素なら大きな物語になると思うのですが、
無視しようと思えば無視できる小さな不確定要素なので、
ぐずぐずと話が進んでいきます。

変な人が登場するのは、冒頭作の「箱おばさん」ぐらいで、
それ以外のお話は、「こういう変な人いるよね~」という程度の違和感。
そっちの方が、ある日突然、「え!?」というような予想外の行動を起こすので
リスク要素としては大きいんですけどね。

この「箱おばさん」、どういうオチになるのかな?と思ってたら、
フニャフニャした感じで幕が閉じられ、あー、そういう感じの短編集なのね・・・・・
と、ちょっと私の好みとは違う雰囲気を感じ取ったので、
やや距離を取りつつの読書となりました。
子供の頃、星新一とか阿刀田高とか読んでいた私的には、
最後の一文でガツンとしたオチを期待しちゃうので。

「フシギちゃん」とか「母の遺言」とか、
あー、そういう話し方、拗ね方、拗らせ方する人(特に女の人)、いるよねーと、
登場人物のふるまいに対する主人公の冷ややかな感想には共感できました。
特に「母の遺言」は、4人兄弟のキャラクターと人間関係がなかなかにイマドキの面倒な
人が揃ってて、主人公さん、大変だなーと思ってしまいました。
「福袋」の家族も、相当にしんどい家ですけど。

あと、「カリソメ」で、離婚を突き付けられた妻が、離婚届に判を押す前に
夫の大学時代の友人たちとひょんなことから話す機会を持ち、
今まで全く接点のなかった夫の友人から、夫の学生時代のエピソードを聞く
(しかも、やや馬鹿にされている)という展開は、なかなか堪えるものがあるよねー、と
奥さんが可哀想になりましたが、その後の奥さんの行動もぶっ飛んでて
結局は似たもの夫婦なのかも・・・・と思えてきました。

著者は作中で「ひょっとしたら私たちはだれも、福袋を持たされてこの世に出てくるのではないか」
と書いており、「福袋」という意味は、その中に、希望も絶望も喜怒哀楽もすべて入っているという
意味のようですが、私は違った意味の福袋感を覚えました。

「カリソメ」とか「福袋」とか、なぜこの親からこんな子供が生まれてくるんだろう?と考えてしまい、
「ああ、遺伝という形で親から様々なパーソナリティの要素を受け継いでいるけど、
その中から具体的に一人の子どもにどれが表出するのかは福袋的なのかも」と思い至りました。




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