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『地方消滅の罠 増田レポートと人口減少社会の正体』
- 2023/08/30(Wed) -
山下祐介 『地方消滅の罠 増田レポートと人口減少社会の正体』(ちくま新書)、読了。

タイトルを見て、「増田レポート」に批判的な立場の論者なのか・・・・・・と
興味を持って買ってきました。

冒頭、なぜ日本で人口減少が進んでいるのか、という著者の分析が展開されますが、
「子育てできる経済力をつけるため雇用の充実」「働きながら育児しやすくなる保育施設の拡充」という
世間でよく言われていることに対して、著者は、本当にそうなのか?との問いを投げかけます。
女性の社会進出が進んで、男女とも仕事に時間を拘束されるようになったので出会いの場が
職場しかなくなってしまった・・・・・等々、別の視点での掘り下げをしていきます。
この第1章は凄く面白かったです。

以前、Twitterの投稿で、「晩婚化や未婚率の上昇が進んだのは、昔は結婚によって
男性は家事労働から解放され、女性は外での仕事から解放されるという分かりやすいメリットがあった、
しかし今は、結婚した後も、男女それぞれが、仕事、家事、育児、ご近所付き合い、全てをこなすことが
求められ、結婚前よりも単純にタスクが増えるから、結婚することに躊躇するんだ」というものを見て、
ほー、なるほどなー、と思いました。

たしかに社会は、昔は各家庭が自給自足でいたものが、分業が広がることで経済発展してきたので、
一番小さな社会単位の夫婦も分業した方が上手く回りそうな気もします。
高度経済成長って、結局、この末端構造があったからなのかもと思ってしまいました。

というわけで、第1章は一般的に言われている少子化の原因と、その解決策に対して、
それは違うんじゃないの?と突っ込む内容が多く、興味深く読みました。

この調子で増田レポートにも突っ込んでくれるのか!と期待したのに、
なんだか第2章からは、当てが外れてしまいました。

増田レポートは、全ての地方自治体を相手に、忖度なしに「消滅可能性都市」を色分けしたので
名指しで「お前のところは潰れるぞ」と言われたようなもので、そりゃ言われた側は衝撃ですよね。
しかし、その衝撃ばかりがメディアで取り上げられて、「だから選択と集中だ」という施策への
展開については、あんまり具体的に報道されていないように思います。

著者は、この「選択と集中」という政策の軸が、地方の切り捨てに当たるとして、
非常に怒っているというのは良く伝わってきました。
しかし、正直、第2章~第5章まで、ほぼ、感情的な怒りをくどくどと書いているだけで、
第1章にあった冷静な考察の姿勢はどうなっちゃったんだよ~、とガッカリ。

第6章は急に立ち直って、細やかな施策についての話が出てきたので、
「どうするか」を考えていないわけではないのは分かったのですが、
ちょっとプレゼンの仕方が感情に訴える左翼式な感じがしちゃいました。
もっと理詰めの政策論を読みたかったです。

消滅可能性都市に住んでいる人々が「それじゃいけない!」と自律的に行動を始めているなら
著者の言うような「選択と集中」への反対論は現実味もあるかなと思いますが、
私自身、消滅可能性都市に住んでいる実感からすると、
一部の中年・青年世代が実際に動いているだけで、ほとんどの住民は、
「なんとかしてほしい」と待ちの姿勢で要望しているだけで、ほとんど動きはありません。
これじゃあ、著者のような思いがある人が頑張っても、うまくいかないように思います。

実際の住民である自分としては、ある程度、コンパクトシティ化は必要じゃないかと思ってます。
それと、大きな流れとしてコンパクトシティ化を進めつつ、
それでも自然の中に住みたい人は、「行政サービス的にこういう制約がありますが良いですか?」と
確認作業を経たうえで、それでも住みたいという人には自由に住んでもらったらよいのではないかと
思います。たぶん、自分がそこに住むことで、行政にどんな負荷が新たに発生するのか
分かったうえで移って来るでしょうから。
問題は、昔からそこに住んでいて、段々と近所の家族が都市部へ移っていったにも関わらず
その場にとどまっている人の対処の方かなと思います。
「昔は町中と同様の行政サービスを受けてたんだから、今後も維持しろ」という意見が
どうしても出てきちゃうかなと。
しかも高齢化するので、医療や公共交通の負荷も重くなり行政コストは嵩みがちかと。
だから出ていけ!とは言えませんが、「今、町中に引っ越すと、こういう補助が受けられますよ」という
それこそ移住者誘致に匹敵するコンパクトシティ化予算を組んだ方が良いのでは?と思ってます。




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『日本はなぜ敗れるのか 敗因21ヵ条』
- 2023/08/29(Tue) -
山本七平 『日本はなぜ敗れるのか 敗因21ヵ条』(角川ONEテーマ21)、読了。

戦争・憲法を考える夏・・・・シリーズで、積読の山から。

冒頭、昭和の半ばにもなって戦地から日本に帰ってきた横井さんや小野田さんの話から始まります。
彼らの言葉は、全て、「戦地の真実」として受け止められますが、
著者は、30年前の「記憶・思い出」は、今現在の自分自身の社会の中で置かれている「現実」に
大きな影響を受けているのではないか、30年前の記憶というものをストレートに話すことは難しく、
今現在の自分の価値観や感じていることがその記憶を修正してしまうのではないかという指摘に、
そうだよなー、と目からウロコ。

かつて、中島京子さんの『小さいおうち』を読んだ時に、戦時中の庶民の暮らしが
思いのほか穏やかで華やかさもあったことを感じて、驚いたことがあります。
戦争の語り部さんとかから話を聞くと、社会は混乱、お先真っ暗みたいな日々を描いてしまうので
そうか、空襲が行われた最後の半年は死と隣合わせの日々でも、
それ以前は過去から続いている日常の延長線だもんなぁ・・・・・と。

でも、そういう戦時中の楽しかった日々とか普通の日常とかの話って、
戦後生き残った人、特に何十年も経って、「もう戦時中のことを語れる人が少なくなってきた」と
言われるようになると、社会からの期待感が変に高まって
「戦争とはどんなに辛いことなのか」「当時の日本政府や軍部はどんなに悪だったのか」というような
側面が強調された話をするように、暗黙の了解で強要されるような感覚に陥るのではないかと思います。
そこから、「庶民は日本政府のひどい仕打ちを受けていた」とか、「実は私は負ける気がしていた」とか、
本当なのかなぁ?と思うような振り返りが生まれてくるんだろうなと思います。

本人の盛り癖とか、悪意とかではなく、過去の記憶に今の状況が影響を与えていくのは
生き物として仕方がないことだよなぁ、と思う反面、
割り引いて話を聞くとか、自分で裏を取るとか、そういうリテラシーを高める努力を
自分自身でしなきゃだめだよな、「それは嘘だ!」と相手を責め立てるだけでは意味ないよな
と思うようになりました。

前置きが長くなりましたが、本作は、昭和19年1月にフィリピンに派遣された技術員の小松真一氏が
現地でつけた日記の内容を、著者が解説している本です。
そのため、後からの記憶修正が比較的少ない記録だと思います。
もちろん、立場とか、経験とかで、歪んでしまったり、矮小化されたりしている面はあるかもしれませんが。

かなりガッツリ丁寧に小松氏の日記の文面を引用して紹介しているので、
正直、著者自身の戦争観とかをストレートに語る形式ではなく、
山本七平氏の癖のある思考・文章が結構好きな私としては、本作はベンダサン度が低くて(苦笑)
やや物足りない面もありましたが、ただ、著者自身、フィリピンの戦地に赴きそこで捕虜になっているので
著者の経験も語られていて、小松氏の見解と著者の見解と双方を読むことで
立体的に戦地の様子が見えてきた感じはしました。

しかし、本作でも、昭和19年のフィリピン戦線は、兵隊ばっかり船で送り込まれてくるけど
武器やその他の必要物資が足りなくて、結局、現地で何もできないという状況だったようで、
しかも後半は、その大量の兵隊を運ぶ船が爆撃されて大勢が兵隊として活動する前に
亡くなってしまうという、まさに『昭和16年夏の敗戦』でのシミュレーション通りになっていて、
なんで、この、若い精鋭たちが首相をはじめ内閣メンバーに対して正式に行った意見を
真正面から受け止めなかったのか・・・・と悔やまれます。




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高野山
- 2023/08/28(Mon) -
阪神×中日戦の夜はそのまま難波に泊まって、
翌日は高野山へ観光に行ってきました。

行く前は、夏休みだから特急こうやの席を予約した方がいいかな?とか考えてましたが不要でした。
平日だからでしょうけれど、同じ車両に数組しか乗ってませんでした(苦笑)。
難波駅で切符買うときに、往復乗車券に現地でのバス乗り放題券とか拝観料割引券とかがセットになった
高野山セットみたいな切符を買ったら便利でした。

特急こうやで難波から1時間ちょっとで着くので、楽に行けますが、
関西圏の方がおでかけするには、やっぱりちょっと遠いと感じちゃうんでしょうかね。

さて、極楽橋駅に到着し、そこからはケーブルカー。
こういう特殊な乗り物があると、観光してるなっていう気分が盛り上がりますよね。

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高野山駅からは、乗り放題のバスを使って、まずは金剛峯寺へ。

高野山_230823103937704 (2)

さすがに立派なお寺です。
しかし、道路も鉄道も通って、様々な建設機材がある現代ならともかく、
人力で移動したり、工事を行ったりしなければならなかった時代に
これだけの規模のものを構築し、さらに多数の信者を獲得して政治にも介入できる勢力を
作り上げたのは凄いなと、実際に現地に行って実感しました。

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町のあちこちに居る「こうやくん」、かわいいですね。

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日本で一番面積が広いという庭園も鑑賞。

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金堂も立派でした。
基本的に仏像は霊宝館に移されて管理されているので、
寺院の中はあちこち観て回れるものの、ちょっと仏教施設としての重みが感じにくいように思いました。
その分、霊宝館の見応えは十分でしたけどね。
でも美術館の特別展で見るのとは違って、現地で見るからには、やっぱりお堂の中に
鎮座していて欲しいなぁと、現実的には難しいんだと分かってはいるものの、そう願ってしまいました。

高野山_230823103937704 (6)

奥の院まで歩いてみましたが、高野山に縁が深い豊臣家の墓以外に、
織田信長の墓、武田信玄の墓、明智光秀の墓まであり、なんでもありな感じが
当時の仏教感の不思議なところですね。昔、本で読んだ通りでした。
半分は政治だったのだろうと思いますけど。

苔むした墓石には、歴史と風情を感じる一方、崩壊しちゃってるものも多く、
あまり管理に手が行き届いている感じはしなかったです。
むしろ、現代企業が立派な墓をガンガン立てていて、そちらはきれいに管理されています。
結局、昔に全国の武将の墓が立てられ霊を鎮めたりお家の再興を願ったりする行動と、
今の企業が自社の発展を願う行動は、同じなのかもしれませんね。
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阪神×中日戦
- 2023/08/27(Sun) -
コロナ禍も、いつの間にか無かったことになってるような日常ですが、
声出し応援もOKになったので、8月22日に京セラドームまで観戦に行ってきました。
帰ってきてからバタバタ忙しかったうえ、米騒動とか晒し投げとか衝撃の事件が多数勃発して
ネットサーフィンに時間取られてたので、アップするのが遅くなりました、すいません(苦笑)。

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阪神がここに来て絶好調なので、お客さんの応援熱量もMAXでした。

先発は西勇輝投手、二軍での調整からの復帰戦でしたが、
三重県出身なので頑張ってほしいです。
ドラゴンズの岡林君も三重県出身なので、敵ながら応援しております。

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ドーム内にはバファローズの優勝トロフィーとチャンピオンフラッグが展示されてました。
誰も見てないけど・・・・・(苦笑)。
今年、タイガースは獲れますかね~?

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とりあえず、阪神ファンの熱い応援に囲まれて観戦するのは気持ちよいですね。
森下選手、新人なのに良いところで打つ勝負強さは素晴らしいですね。

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そして、いつの間にか不動の4番になってた大山選手。
今年は頼りになりますね~。
「あ、打ちそう」と予感させる打席が多いように感じます。
気迫が違いますわ。
あと、大山選手は構えがかっこいいし、フォロースルーが美しいですよね。
見惚れます。

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ノイジー選手は、数字上はそれなりに打ってるけど、良いところでの凡打が目立つので
頑張ってほしいですねー。やっぱり打点が欲しいです。
守備は見てて気持ちいですけどね。

というわけで、この日は、先制するも逆転され、追いつき、延長戦に突入しましたが、
最後は大山選手のサヨナラタイムリーで勝利!

満塁でのきれいなレフトヒットも良かったですが、
その前の中日の攻撃をびしっと0点に抑えた島本投手も良かったです。

梅ちゃんが離脱しているのは残念でしたが、
見たい選手が概ね出場してくれたので満足度も高かったです。

次回の観戦時は、是非とも三重県津市出身の前川選手を見たいですね!

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『無私の日本人』
- 2023/08/26(Sat) -
磯田道史 『無私の日本人』(文春文庫)、読了。

穀田屋十三郎、中根東里、大田垣蓮月の3名の生涯を描いた中編集です。
いずれの人物も全く知らなかったのですが、それぞれ、
地方都市の商人、儒学者、歌人・陶芸家だそうです。

個人的に印象に残ったのは冒頭の穀田屋十三郎の話。
仙台伊達藩の中の宿場町・吉岡宿で商売を行っている穀田屋十三郎。
しかし江戸中期になり、藩の財政が傾き、領民には重税が課され、庶民は疲弊するばかり。
吉岡宿も、このままでは近い将来に生活が成り立たなくなり、病気や飢えで亡くなったり、
少しでも稼げる仕事を求めて町を離れたり、将来を悲観して子供を作らなくなったり、
あれやこれやで町の人口が減っていき消滅してしまうことを懸念した十三郎は、
吉岡宿でより手広く商売をしている菅原屋篤平治に相談します。

篤平治も、かねてから懸念していたようで、十三郎が本気だと感じ取ると、秘策を開陳します。
それはなんと、吉岡宿の豪商たちが資金を集め、伊達藩に貸し付け、
その金利を毎年得ることで、町民に配布して生活の足しにしようというもの。
目標金額は1000両。

十三郎と篤平治は、商人仲間を引き込んで、9人の商家が金を出し、1000両を作り出します。
ここ、十三郎と篤平治の熱意があってこそだとは思いますが、
しかし、熱意があって必死の説得をしても相手にその気がなければ仲間にはなれないと思います。
結局、この吉岡宿全体の教育レベルが高かったのかなと思いました。

著者は、どちらかというと、江戸時代に庶民にも普及していた儒学の考え方や
メンツを重視する国民性に理由を求めており、そういう面もあるかとは思いましたが、
私はそれ以上に、この地域の教育レベルの高さかなと思いました。根拠はないけど。

そもそも庶民が藩に金を貸して金利を取るなどという発想自体が異様なことですし、
それを思いつくだけでもすごいのですが、実現するには当然藩と契約をする必要があり、
経理担当の武士たちを通して、藩のお偉いさんの了承をとりつけなくてはならないという
今の時代の営業系サラリーマンなら皆が苦労している壁が立ちはだかります。
ここも、篤平治の計画により、焦らず時間をかけて、見事なタイミングで、誰かの機嫌を
損ねないような段取りの踏み方で交渉を進めていきます。

時には中間管理職の保身に困らされたり、あまりの困難さに腰が引けてしまった仲間が居たり
あるあるな感じの展開を乗り越えながら、藩の了解を得るところまで至ります。
1000両の金を貸し付けた後、藩が金利の支払いをゴネて遅延したりと、これまたあるあるですが、
藩も財政難だったんだろうなと思います。行政官僚は、どんな手を使っても経費削減を実現する
ということが最も強く要請されることだったりしますしね。

彼ら9人の商人や、それを支えた吉岡宿の町民たちの力で、町の経済は安定し、
その後も人口を減らすことなく栄えたというのは、素晴らしい成果ですよね。
地方で過疎が進んで「補助金で助けてくれー」なんて安易な嘆きをしている市町村長は
見習ってほしいものです。

この穀田屋十三郎の話に比べると、後の2人は、その勉強する姿勢だとか、私利私欲に走らない
清貧を良しとする姿勢とかは、素晴らしいと思いますが、しかし、その才能をどれだけ世の中のために
役立てたのかという点について、どうしても見劣りしてしまうような気がしました。
地域の人には慕われていたようなので、人となりを知っている人には多大な影響を与えたんだろうなと
思いますが、その影響の範囲円が能力に比して小さいんじゃないかなと思ってしまいました。

本作では、荻生徂徠は儒学者としてよりも政治活動に熱心な悪役のように描かれていますが、
江戸時代の思想形成に大きな影響力を与えた人だと思うので、
新井白石とセットで解説されている本を読んでみたいなと思います。




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『コロナ後の世界』
- 2023/08/23(Wed) -
ジャレド・ダイアモンド、ポール・クルーグマン、リンダ・グラットン、
 マックス・テグマーク、スティーブン・ピンカー、スコット・ギャロウェイ 『コロナ後の世界』(文春新書)、読了。

そろそろ日本でもコロナウイルスの扱いが雑になってきたので(苦笑)、
コロナ後の世界に突入したんだろうなと思い、このタイミングで読んでみました。

ただ、本作のインタビューは、もともとは2019年の段階で「世界と日本の行く末」というテーマで
行われたものであり、その後、2020年初頭からコロナ問題が中国から噴出して
一気に世界問題になったという経緯があり、コロナ後の世界について追加インタビューをして、
そちらがメインテーマになった模様。

なので、もともとの企画趣旨的にも、取材のタイミング的にも、
内容はあんまり練れていないところがあります。まぁ、コロナ問題が出て数か月の時点で
その後の先行きをある程度見通せていた人なんて、疫学の専門家はともかく、
他分野の専門家では無理な話でしょう。

それでも、2023年も後半に入った段階で本作を読んでしまうと、やっぱり各知識人の予想と
現実の流れの相違点ばかりが目に付いてしまって読みにくいですね(苦笑)。

目立つのは、トランプ大統領の初動の鈍さへの批判だったり、
ロックダウンという手法についてあまり批判的な論調がなかったり、
中国共産党の独裁社会で実行されるトップダウンの強硬策への興味と嫌悪だったり、
まぁ、ある種、分かりやすい反応です。

個人的には、コロナとは直接関係ないですが、グレタ・トゥーンベリさんへの言及を
何人かの知識人がしてて、まぁ、それは最初のインタビューの時期が例の国連での演説の
直後だったせいかもしれませんし、知識人側が積極的に言及したのか、
インタビュアーが誘導したからかも分かりませんけどね。
知識人でも、世の中の空気に流されることがあるんだな・・・・・と、変な親近感(爆)。

正直、「コロナ後」というテーマで社会を語るには、ちょっと拙速感が否めないタイミングの本だったので
新書ではなく、週刊誌とかYoutubeみたいな媒体で接した方が、緩やかな気持ちで読めたかも。




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『BCG流経営者はこう育てる』
- 2023/08/22(Tue) -
菅野寛 『BCG流経営者はこう育てる』(日経ビジネス人文庫)、読了。

コンサル会社を経て独立したコンサルタントによる経営者論。

タイトルは「こう育てる」となっているので、最初は、後継者をどう作るのかというような
教育・育成について書かれた本かと思っていたのですが、
そうではなく、オーソドックスな「経営者の心構え」について書かれた本でした。
若干、タイトル詐欺です。

しかし、内容は、コンパクトにまとめられており、さらに本作の執筆にあたって
稲盛和夫氏、柳井正氏ら日本のトップ経営者にもインタビューを行っており、
概念論だけでなく、彼ら経営者の生の言葉も盛り込まれているので、
立体的な理解が可能です。

もちろん、稲盛氏も柳井氏も、「ブラック」だとか「独裁」だとかの批判の声もあるので
本作で紹介されている声はキレイゴトだと感じる人もいるかもしれませんが、
でも、経営者の一つの視点としては間違いなく存在するものだと思ってます。
ただ、世の中の趨勢やライバル企業との競争などの中で、その声よりも優先すべき事象が
出てくれば、当然判断は変わって来るでしょうから、それを指して
「言ってることとやってることが違うじゃないか!」と批判するのは、短絡的かなと。

私自身も小さな会社を経営していますが、そりゃ、朝みんなに言ったことが、
昼に事情が変わって、夕方に指示を出し直すなんてことはザラにあります。
変にこだわって方針を変えないことに固執すれば、失敗は目に見えているので、
いかに従業員に変更する必要性をきちんと説明するかが大事なのかなと。
そこで手を抜くと、「言うことがコロコロ変わる奴だ」という評価になっちゃうので。

著者の説明の仕方は、効果的に箇条書きにしたり、キーワードを演出したりと、
オーソドックスなプレゼン手法もしっかりと使われているので、
モノの伝え方の勉強にもなりました。

こういうシンプルな経営の本は、時々読むと、頭の整理や反省に繋がって良いですね。




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『昭和16年夏の敗戦』
- 2023/08/21(Mon) -
猪瀬直樹 『昭和16年夏の敗戦』(中公文庫)、読了。

こちらも、戦争・憲法を考える夏・・・・・ということで挑戦。

太平洋戦争開戦直前の昭和16年春に新設された内閣総理大臣直轄の「総力戦研究所」。
当時、各省庁や軍隊、インフラ系の民間企業から、30代前半エース級が35名抜擢され、
研究生という位置づけで集められます。
当初は、座学や現場視察などを行っていたものの、夏になると、
「机上演習」として、「インドネシアの石油採取施設を奪いに行く」という課題を出され、
35名が内閣総理大臣、外務大臣、海軍大臣、日銀総裁、企画院総裁、朝鮮総督などの
主要ポストに任命され、いわゆるシャドー・キャビネット的な、しかし、閣外のポストもあるので
まさに総力戦として戦局をシミュレートしていく演習を行います。

その結果出た答えは「負ける」というもの。
海上輸送を確保できずに戦局が悪化し、日本の本土事態を危機に陥れるという予想は、
まさに現実世界で起きたことを予言しているかのようです。

シャドーキャビネットの面々は、それぞれの出身組織を反映するように決められており、
海軍大臣には海軍から来た少佐が、日銀総裁には日銀の書記が任命されている他、
各省庁からリアルなデータを取り寄せて演習に活用しているので、まさに現実世界の
知恵とデータを活用したシミュレーションに他なりません。

ここで敗戦の結論が出たものの、いざ、内閣総理大臣への報告の場となると、
素直に「負ける」とは言いづらいとの配慮が働き、
「(当初の戦局は)顕著なる効果を収めたるも未だ決定的ならず世界動乱の終局に関しては
何人も予測を許さざる実情なり」という曖昧な内容になっています。
しかし、細かな戦局予測はそのまま報告されたとのことで、きちんと聞いていれば
「勝てない」という予測であることは、容易に理解できたものと思われます。

報告当時は近衛内閣でしたが、陸軍大臣として東條英機も聞いており、
しかも、報告以前の演習の段階で、東條大臣は何度も研究所に足を運び
その議論の内容を聞きに来ていたとのこと。
それを知ると、なぜ開戦になったのか・・・・・と、疑問を持たざるを得ません。

本作では、この演習の議論の経過だけでなく、実際の内閣において、
日米開戦をどのように議論・判断してきたのかも丁寧に描かれていますが、
昭和天皇は開戦反対、近衛内閣も近衛首相はじめ主要閣僚は反対派の方が多く、
東條陸相も決して開戦推進派だったわけではない様子。
むしろ、近衛首相が匙を投げた後、昭和天皇の意向もあり、
陸相の東條に首相をやらせて、日米開戦を回避するよう軍部を抑え込もうという意図が
あったと述べられています。
そして、何よりも天皇陛下に忠誠を誓っていた東條は、天皇の意向である開戦回避を実現しようと
軍部の開戦突進の意見との折衷案を見出そうとするものの、土台無理な話で・・・・・・。

敗戦後の東京裁判において、東條英機は、「国務と統帥の二元化が日米開戦を回避できなかった原因」と
いう趣旨の主張をしており、本作に描かれた経緯を読むと、まあ、そういうことなのかなぁと
一応は納得できました。井沢史観を読んでいても、天皇制度と幕府制度が両立して以降、
責任回避なり、大義名分なり、都合よくこの二元制度を活用・悪用してきた日本社会の様子が
よくわかります。責任逃れでありつつ、しかし、この都合の良い制度のおかげで、日本社会というものが
曲がりなりにも断絶することなく、数千年続くことができた理由でもあるように感じます。

結局は、この日米開戦に向かうまでの無責任な意思決定プロセスこそが日本人らしさかもしれませんし、
敗戦後に国民全員が頑張って復興に努めたという姿も、日本人らしさなんだろうなと思いました。
国民性というものは、きっとなかなか変わらないと思うので、今の日本の政局のうだうだ感も
戦時中と同じことを繰り返しているんだろうなと思ってしまいます。




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『六十七番と呼ばれて 女性議員秘書の拘置所日記』
- 2023/08/20(Sun) -
太田あき『六十七番と呼ばれて 女性議員秘書の拘置所日記』(幻冬舎アウトロー文庫)、読了。

ブックオフでドカ買いしてきた中の一冊。
あんまり詳細を確認せずに、政治絡みの事件に連座して女性秘書が逮捕されたんだろうなー、
政局の裏側とか、検察とのやり取りとかの暴露本かなー、と思って買ってきました。

しかし、内容は、「私は政治資金規正法違反での逮捕第1号だ(誇らしげ)」
「秘書の仕事はとにかく忙しくて金の管理なんて細かくやってる時間はなかった(誇らしげ)」
「ルールに則って資金管理できてなかったのは事務所全体の問題(私だけが悪いんじゃない)」
という言い訳ばかりの内容で、事件に対しては、「忙しかったから」「全部の金が緩い管理だった」
と個別事案に対する大した解説はなし。
さらに、言い訳の後は、サブタイトル通り、まさに留置所内での「日記」であり、
「部屋が寒い」「食事が楽しみ」「刑務官は良い人と嫌な人がいる」みたいな、感想文を読んでる感じ。
非情に残念な内容でした。

そもそも、著者名は知らないまま買ってきたのですが、どうやら保釈後に結婚したため姓が変わっていて
逮捕時は「塩野谷晶」という名前だったそう・・・・・でも、知らない。
仕えていた議員は、自民党衆議院議員の坂井隆憲という人物も聞いたことがない・・・・。
事件当時は世間は騒いでたのかもしれませんが、全然記憶にない・・・・・。

人材派遣会社からのヤミ献金という犯罪だったようなので、パソナ?と安直に想像しましたが(苦笑)、
どうやら日本マンパワーからのヤミ献金だったようで。
このヤミ献金、1億円超という規模だったようなので、凡人の感覚では「裏で何か利益を求めたんだろ?」と
考えてしまいますが、そのあたりについての説明は何もなし。
まぁ、無罪を主張していたらしいので、立場的に今更そんな説明もできませんわね。

というわけで、ほぼ何も得るものがない読書となってしまいましたが(苦笑)、
救いだったのは、拘置所に対する評価が、批判もありましたが、予想よりも対応が良かった面については
素直に褒めているので、そこはストレスなく読めて良かったです。
リベラル系の著者だったら、何でもかんでも批判しそうなので(爆)。
自民党系の著者なので、そこはまぁ、国の機関に対して無暗矢鱈な批判はしないようです。

ただ、逮捕当時、著者当人が議員秘書を辞めて自民党から国政に出馬する準備をしていたようですが、
この本の内容程度しか書けないような人物だとすると、政治家になるのは向いてないと思うので
取り止めになってよかったのではないかと思いました。




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『経営に終わりはない』
- 2023/08/19(Sat) -
藤沢武夫 『経営に終わりはない』 (文春文庫)、読了。

本田技研工業の名参謀とされる藤沢武夫副社長の著作。
てっきり、本田宗一郎氏に請われて入社したのかと思ってましたが、
どちらかというと藤沢氏の方から自分を売り込んでいった感じなんですね。
しかも、人間に惚れたという要素以外に、自分というリソースの投資先として選んだ感じもあり
本田宗一郎氏と藤沢武夫氏は主と従ではなく、コンビという対等な関係だったんだなと感じました。

そして、本作での描写からすると、本田宗一郎氏は技術者としての天賦の才と
さらに他の技術者たちの憧れとしての存在という点が突出していて、
実質的な社長業は藤沢氏が執っていた感じですね。

かといって、本田宗一郎氏が社長としての経営能力がないかというと、そういうわけではなく、
後先を考えない投資は慎んで勝算のある投資を見極めているところとか、
お客様への誠実な対応とか、自分の引き際を心得ているところとか。

本作を通じて感じたのは、本田宗一郎という人間に自分の人生を投資した藤沢氏は
楽しかっただろうな・・・ということ。
新商品が大ヒットしたり、思うように売れなかったり、売れなかったときは手直ししてヒットに繋げたり
会社も大きくなり、扱う資金量も増えつつ、資金ショートしそうな事態にも遭遇したり。
綱渡りもありながら、しっかりと企業として成長していくのを牽引していくのは楽しそうです。

そして、本田宗一郎という求心力が半端ない人がトップに立っていてくれれば、
自分自身がそういう象徴的な演出行為を行う必要がなくなって、楽ですよね。
私自身、自分を良く見せる演出が下手なので、ほんとは社長業ではなく
参謀ポジションで、人間力で組織を率いるトップを支える仕事の方が
性に合ってるように思ってます。でも、そういう魅力的な人に信頼してもらえるような
立場になるのはなかなか難しいですよね・・・・。

本作は、藤沢氏の目線で書かれているので、マズかった局面もうまくいった風に
見せている可能性もありますが、それを差し引いても、経営者として
憧れる面がありますね。




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