『日本人の忘れもの』
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- 2023/06/29(Thu) -
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会田雄次 『日本人の忘れもの』(角川文庫)、通読。
積読の山の中から掘り出してきた本。 「会田雄次って、何した人だっけ?」という状態でしたが、 「あ、『アーロン収容所』の人か・・・・・で、本業なんだっけ?」ということで Wikiを見てみたら、歴史学者というお仕事で良いんですかね? 自分のBlog見てみたら、『アーロン収容所』以外にも一冊読んでましたわ。記憶ないけど(苦笑)。 その本は面白く読めたようですが、本作はイマイチでした。 昭和の大学教授ということで、お堅そうなイメージがありますが、 かなり放言に近い内容も多く、今の感覚で読むと、ポリコレにひっかかりまくりな文章で なんだか読んでて嫌ーなドキドキ感がありますわ(爆)。 昭和49年発行という時代のエッセイなので、そういう時代ということでししょうかね。 女性への評価とか、黒人への評価とか・・・・。 文中にあった「嫁と姑の対話」のエピソード。 外出から戻ってきた姑と、家で赤ん坊の世話をしながら夕飯づくりをしている嫁、 直接的にはお互いに何も言わないけど、ちょっと見た様子や表情、言葉の感じで お互いを思いやり、うまく家の中が回っているという話。 最近、誰かの本で同じような話を読んだ気がするですが、有名な小話なんですかね? 逆に鼻につくように感じるようになっちゃいました(爆)。 終盤の「西洋文化と日本文化」という章は面白かったです。 そういえば、昔はアメリカを「人種のるつぼ」と呼んでいたのに いつのまにか「サラダボウル」って言われるようになったのは、確かにその通り。 一つに解かして米国というものに冷やし固めるのは無理だったんでしょうね。 というか、それは正しくない方向性だったんでしょうね。 ポリコレの入り口みたいなものも感じられて、ここは面白かったです。 ※こちらは「新選」のため私が読んだ本とは内容が異なるかもしれません ![]() |
『パンドラ・アイランド』
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- 2023/06/25(Sun) -
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大沢在昌 『パンドラ・アイランド』(徳間書店)、読了。
最近、友人と小笠原諸島の話になり、 私は今まで5回行ったことがあるので、「また行きたいな~」と懐かしさに浸っていたら、 そういえば南国の離島が舞台の作品が積読だったはず・・・・・と思い出し、 本の山の中から出してきました。 舞台は、小笠原諸島の母島からさらに定期船で1時間半という場所にある 架空の「青國島」が舞台です。 人口が900人ほどのため、駐在員を置くほどでもないとの判断で、最寄りの警察官は 小笠原側にしかおらず、それでは支障があると考えた青國島村役場が 村職員として「保安官」を置いています。 前任の保安官が急病で亡くなったため、その後任の募集に手を挙げた主人公。 警視庁の捜査一課に在籍していたエリート刑事であるにもかかわらず、 捜査中の事故がきっかけで警察官の仕事に疑問を抱くようになり、 警察官を辞めて、都会から逃れるかのように青國島にやってきます。 ストーリーの本筋は、この平和な島で発生した殺人事件の犯人探しなのですが、 それよりも、舞台装置の巧みさが、小笠原に行ったことがある人間なら 「そうそう、そんな雰囲気あるよね!」と納得できる構成で、面白かったです。 米軍占領期以前から島に住んでいた旧島民、返還後に島にやってきた新島民、 さらに観光地化してからやってきた新新島民の、表面的には仲良くやってるけど 腹の中では不満が渦巻き、ちょっとしたことで不信感が表面化する複雑な人間関係。 さらに、島民の中で発言権のある人間が村役場の上のポジションを占めるので ますます権力が偏在していく構造と、その下に仕える事なかれ主義の職員たち。 米軍占領期以降も島に残ったアメリカ人、米軍の影響が歴史的にも文化的にも残る島の気質。 何もかもが、「そうそう、そんな感じ!」と納得できて面白かったです。 父島がそういう事件の起こるような不穏な島だという意味ではなく、 何か大きな事件が起きたら、平和な雰囲気がガラッと変わりそうな土壌がありそうだなという意味で。 大作だったので、読み通すのに5日間ほどかかりましたが、 凄く満足度の高い5日間でした。久々に読書に浸った感覚です。 なのに、この投稿を書くのにAmazonを見に行ったら、評価が低い(悲)。 どうやら固定ファンの方からすると、大沢作品的要素が薄かった模様。 私は、特に大沢ファンというわけではないので、その視点では評価不能です。 あとは、作品のリアリティのところでマイナスにされてるのかな?という感じ。 正直、私も、父島に行ったことがなければ、この世界観は嘘っぽいと感じたかと思います。 でも、行ってみると、島に移住した友人はやっぱりいろんなところに気を遣ってる感じだし、 宿のオーナーさんがアメリカ出身だったり、土産物店の話を聞いても 「あそこは前からある店」「あそこは最近移ってきた人の店」みたいな表現をされるし、 そういう複雑な人間関係はひしひしと感じました。 物語の後半で出てくる濃霧に関しても、父島では体験がないですが、 八丈島では濃霧のため終日飛行機が空港に下りられず、 帰る日を1日後ろにずらさねばならないことがあり、 島の濃霧ってとんでもなく濃霧なんだと実感しました。 だから、この展開も違和感なく受け入れられました。 唯一リアリティがないと感じたのは、さすがに終盤で人が死に過ぎだと思いますが、 まぁ、ハードボイルド作品とはこんなものなんだろうと、そこは割り切って読めました。 これまで6冊大沢作品を読んでいますが、 「ハードボイルドは苦手だなぁ・・・・」と思いつつ、読後の感想は「面白かった!」というものばかりなので 大沢作品だけはしっかり追っていこうかなと思います。 ![]() |
『晩夏に捧ぐ 成風堂書店事件メモ』
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- 2023/06/21(Wed) -
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大崎梢 『晩夏に捧ぐ 成風堂書店事件メモ』(創元推理文庫)、読了。
シリーズ第2弾。 番外編の長編という位置づけだったので、先に第3弾を読んでました。 成風堂書店に以前勤めていた先輩女性社員が 現在勤める長野県の老舗書店で、幽霊が出るとの騒動があり、 夏休みがてらその解決に向かう主人公たち。 幽霊は、現地で27年前に殺害された有名作家ではないかとの噂が立ち・・・・。 老舗書店側の経営者一族はみなさん良い人な感じですが、 殺害された作家の周辺にいた書生やお手伝いさんたちは曲者ぞろいで 幽霊騒動という軽めのノリから、次第に重たい空気が占めていくことに。 主人公たちが作家の周辺人物たちに聞き込みに当たるのですが、 蕎麦屋の女将さんに収まっている元お手伝いさんに話を聞きに行くのに、 営業日の昼前11時過ぎに店に行き、ランチ客が来ているのに話を続け蕎麦屋の主人に嫌な顔をさせ さらにはランチを食べずに店を出てくるって、広い意味で同じサービス業に従事しているのに 配慮なさすぎじゃない!?と、本筋と関係ないところが気になっちゃいました。 コトの真相は、動機の面でも、トリックの面でも、ちょっと強引かなと。 老作家と書生たちというシステムがどんな感じなのかを知るには面白かったですが 結局、歪んだ仕組みだよなー、と思ってしまいました。 本屋側のお仕事小説的な要素は薄かったので、 これはやっぱり、短編の方が楽しめるかな。 ![]() |
『ジオラマ』
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- 2023/06/18(Sun) -
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桐野夏生 『ジオラマ』(新潮文庫)、読了。
久しぶりの桐野短編集。 表表紙の内側に、著者近影が載ってたのですが、 ずいぶんキリッとした宝塚の男役さんのような雰囲気で、 「あれ?こんな感じだったっけ?もっとお姉さまっぽい雰囲気だったような・・・・」と戸惑いました。 ネットで検索してみたら、やっぱりイメージ通りのきりっとしたお姉さまの写真がたくさんでてきたので たまたま本作の写真を撮ったときの雰囲気がそんな感じだったのかな。 さて、桐野短編集ですが、やっぱり読み心地が悪いです。 人間のズルい面や逃げる面を追い込んでいくようなストーリーと描き方で、 「こんな人が近くに住んでいたら嫌だな」という人物ばかりが出てきます(苦笑)。 そして、日常生活で辛いこと、苦しいこと、深く考えることを止めたくなることに直面すると、 性的な快感に逃げ様子とする人が多くて、うんざりしてしまいます。 一方で、結局、人間も動物か・・・・・という思いもあり。 冷静に判断できる状況じゃなくなった人間というのは、見ていて辛いですね。 個々の作品としては、新婚なのに結婚前から電話でだけ繋がっている高校生の少年と 妻の目を盗んで夜な夜な長電話をする男の話「六月の花嫁」が印象に残りました。 まぁ、この妻は、一緒に暮らしてても楽しくなさそうだなぁ・・・・とは思ってしまいましたが 異性が好き、同性が好きという線引きは、意外とこの作品で描かれたように 曖昧なものなのかもしれないなと感じました。 あと、「井戸川さんについて」は、冗談めいた軽い口調で物語が語られていくので、 桐野作品には異色な印象が残りました。 かなりヤバい人の話でしたけどね。 でも、これも、その人がどんな人なのかは、自分が接点を持つ一面しか知らないよなー、 職場にいるときと、家庭にいるときと、一人で趣味に没頭しているときとは、 全然別人になる人も居そうだというか、みんな程度の違いはあれそんな感じあるのかなと。 結論としては、人間を一面で判断してはいけない、人間って怖いよ、という思いが残りました。 ![]() |