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『ローパフォーマー対応』
- 2023/05/31(Wed) -
秋本暢哉 『ローパフォーマー対応』(日本経済新聞出版社)、読了。

こちらも図書館本。

小室淑恵さんの超前向きなパフォーマンス向上策の本の次は、
ローパフォーマーをどのように再教育するかという守備的な本。
たまたまだけど、正しい順番で読めましたわ(苦笑)。

「ローパフォーマー」を、「業績が低く評価も低い人」と定義しています。
ただし、常識の通じないような問題児や、病気やメンタル面での問題を抱えて一時的に落ちている人は
対象に含まないという整理です。
つまりは、指導や教育、または環境を整えることで復活可能な人材という位置づけです。

前半の、そもそもローパフォーマーとは何か、どういうタイプに分類ができるのかという
整理考察のパートは興味深く読みました。

一方で、後半の「ではどうするか」については、具体性が乏しいというか、
まぁ、そこを担当することでお金を稼ぐ商売をしている人なのだから
「詳細は金払って雇ってね」という、この手の本にありがちな流れです(苦笑)。

まぁ、でも、ローパフォーマーの分類、および、どういう人をその定義内に入れて良いのか、
逆に入れてはいけないのかという前段整理を適切に行うことは、
この手の人事系課題に対処するには最も大事なプロセスだと思うので、勉強になりました。

ただ、結局、こういうローパフォーマーの復活のために金と時間をかけられる企業というのは
結局大企業でなければ難しいところであり、そういう対象者が一旦前線から外れても
業務を回せるだけの体力がある企業に限られちゃうのかなと。

中小企業で、部署にスタッフが5人しかいませんとか、そもそも全社員が5人しかいません、
みたいなサイズの企業だと、仕事を任せながら再教育していくというのは現実味がないかなぁと。
たぶん、ローパフォーマーには重要な仕事は任せず、他のスタッフで分担し合うとか、
その負担が一定ラインを越えちゃうと、周囲の過負荷なスタッフがローパフォーマーをいじめて
組織から追い出すような展開になっちゃうんじゃないかなと想像します。
人材育成っていうのは、ある程度、組織体制の余裕と、スタッフの心の余裕がないと
難しいですよねー。




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『6時に帰るチーム術』
- 2023/05/30(Tue) -
小室淑恵 『6時に帰るチーム術』(日本能率協会マネジメントセンター)、読了。

図書館本。

著者については、一度、社外セミナーの講師としてお話を伺ったことがあります。
そして本も一冊読みました
勤め先の社内セミナーにも人事部が呼んでましたが、そちらは仕事の都合で参加できず。

著者は、「起業の準備最中に妊娠発覚で開業時は出産直後で時短勤務だった」という経歴と
「ワーク・ライフ・バランス」という考え方の提唱、そして起業した社名もそこからつけていることから、
特に男性には、「女性の権利を主張する人」みたいなイメージで捉えられているところが
あるんじゃないかなと懸念しています。

しかし、多くの働く女性が出産と育児をこなして職場復帰する時代ですし、
男性が育児休暇を取るのも普通になってきた時代。
「ワーク・ライフ・バランス」というのは、決して、労働者が権利を一方的に主張するための言葉ではなく、
優秀な社員に継続的に会社に貢献してもらうために必要不可欠な概念だと思います。

そして、私自身が小さいながらも経営者の立場になった今、
「ワーク・ライフ・バランス」というのは、要は、短時間で成果をあげる仕組みづくりであり、
会社にとっても、効率よく成果が上がるわ、残業代は削減できるわで、
メリットたっぷりの概念だと、身をもって実感しています。進めないと損です。

その具体的な導入事例を、まさに著者が自身の起業した会社を舞台に、
どういう方法で取り組んだのか、また社員からどんな反発があり、どんな風に納得させてきたのか、
わかりやすく紹介、解説されています。

ポイントは、著者が社外コンサルタントとして制度導入を推進した事例ではなく、
自身の会社に導入してきた当事者としての姿を見せることで、
なぜ、その施策の導入が必要だと思ったのか、どういう反応が社員から返ってきたのか、
その反発にはどう対応したのか、結果どうなったのか、それらが具体的に書かれていて
社外コンサルのキレイごとではなく、経営者自身の目線で実利的なメリットを解説しているので、
納得性が高いです。

Amazonのレビューは低めですが、この本はやっぱり、課長とか部長とかの管理職目線では
「そうは言っても実現するのは難しいよなぁ・・・・・」という感想で終わってしまいがちで、
経営者の立場になって初めて説得力が増すというか、実感がくっ付いてくる本だと思います。

だって、課長の立場なら、残業代を減らすことより、とりあえず目の前の仕事を処理することの方が
優先されちゃいますからねー。
残業代が増えても、「だって仕事が昨年より増えたし・・・・」という言い訳で通っちゃうところがありますし。
それに対して経営者は、社員の残業代が増えることは、会社の利益減少に直結するわけで、
社員を早く帰らせることのメリットは直接的に自分の業績に大きな影響を与えるわけで。

一方で、既存の企業が途中からこれらの施策を導入しようとしても
現場は混乱するだろうし、実績出すのはしんどいだろうなということも分かります。
やっぱり、起業の段階で、ゼロベースで社内の制度設計に最初から組み込んじゃわないと
社員の抵抗も大きいだろうし、そもそも惰性で動いている社内の風土みたいなところを
変えていくためのエネルギーは途方もない量が必要だと思います。

というわけで、新規事業の立ち上げ時とか、合弁会社を作って社風をリセットできるときとか、
そういう一定条件下でないと、実現は困難かなという気がします。

弊社は幸か不幸か、コロナ禍の際に、高齢従業員さんが感染防止のため外出したくないとして退社したので、
そのタイミングで社内体制の刷新を図りました。
事業特性上9時-5時の仕事ではないので、「6時に帰る」というわけではないですが、
少数精鋭で事業を回すスタイルに変えられたので、売上を伸ばしながら総人件費は減らし、
その分、個人単位での給与をアップできました。

「ワーク・ライフ・バランス」という概念とは違う形にはなってますが
経営効率化は成果を出すことができたかなと思います。




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『お店の数字がわかる本』
- 2023/05/28(Sun) -
河野英俊 『お店の数字がわかる本』(秀和システム)、通読。

仕事の調べ物で図書館に行ったとき、暇つぶしにパラパラ読んでみました。

「いちばんやさしい売場の計数管理入門!」という冠の通り、
かなり初歩というか、経営云々というレベルではなく算数の話から始まります。

冒頭、「計算の4つの決まり事」という項目で、
「A+B=B+A」みたいなことが書かれてて、
「そこから!?小学校1年生か!」と唖然呆然。

商品回転率の計算式とかABC分析の考え方とか出てきますが、
式だけ教えても、結局数字が出てくるだけで、
それをどう判断したらよいのかが分からないと、ただの無機質な数字なんですよねー。

まぁ、「どう判断したらよいか」は、経営コンサルタントがお金をもらって指導する段階ですよー
ということなのでしょうけれど。

この本を読んで一体何が分かるようになるんだろう?ということが分からない本でした。




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『物理学者のすごい思考法』
- 2023/05/26(Fri) -
橋本幸士 『物理学者のすごい思考法』(インターナショナル新書)、読了。

全然知らない著者でしたが、物理学者の生態を紹介したエッセイで面白かったです。

各編新書で4ページの短いエッセイですが、簡潔かつ洒脱な文章で綴られていて
物理学者って日々の生活でこんなことを考えているのか、
物理学者って世の中がこんな風に見えているのか、という新鮮さがありました。

頭の中は完全に物理学者なのですが、その物理学者の生態を読者に伝えるという
文学的な素養も同時に持ち合わせていて、才能豊かだなー、と感じました。

そして、優秀な人は、その専門分野だけでなく、他の分野ともシームレスに繋がっていく
柔軟さがありますね、それが同じ自然科学の分野だけでなく、
人文科学や社会科学の分野とも繋がって行けてしまうという才能。

さらに、ご家族がこれまた素敵。
お子さんと遊ぶ日常において、パズルをしたり、ブロックをしたりというパパの姿は
今なら多くの家庭に見られる様子かと思いますが、
そこにママも参加して、両親+子供みんなでパズルをやっている姿が、
良い家庭教育されてるな~、愛情注いでるな~、と素直に感じられました。

ある程度、得意不得意は遺伝すると思いますし、
両親は血の繋がりがないのに「この人と結婚するんだ!」と選んだからには趣味嗜好が近いという
点がやっぱりあると思いますから、子供の教育には、パパとママが共通して興味を持てることを
子どもに教えていくと、子供は素直にその能力を伸ばせる可能性が高いのかなと思います。

物理学者としてのものの見え方や考え方で染まったパパと、
そんなパパのユニークな着眼点について日常会話で絶妙な返しをするママ、
この会話を聞いてるお子さんは、やっぱり物理学者的な思考を身に付け、
なおかつママの洒落の利いたコミュニケーション技術も身に付けるんだろうなと。
著者の夫婦論とか子育て論についても、本にしてもらいたいなと感じるほどでした。

ところで、タイトルがお堅すぎるのは、ちょっとマイナスに作用してるんじゃないの?と思っちゃいました。
私自身、ビジネス書的な思考術の本かと思って買ってきてたので。
もうちょっと、エッセイであることがイメージできるタイトルの方が良かったんじゃないかなと思いました。




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『「反権力」は正義ですか』
- 2023/05/23(Tue) -
飯田浩司 『「反権力」は正義ですか』(新潮新書)、読了。

第二次安倍政権の中盤、選挙演説の際に聴衆からの「安倍やめろ」コールで演説が妨害される状況が続き、
「あんな人たちに負けるわけにはいかない!」と言ってしまったことで、さらなる批判を受けた出来事。
当時、テレビや新聞の報道では、安倍首相の発言の方を切り取って問題視する意見が大勢でしたが、
「そもそも演説ができないほどにコールをする聴衆って、いったいどんな人たちなのよ?」と
疑問をもち、ネットで検索したら生田よしかつ氏による現地レポート動画をYoutubeで見つけ、
そこから文化人放送局、虎ノ門ニュースなどの動画を見る習慣が付き(文化人放送局からは離れました)、
そうすると、出演者が被っていた『The Voice そこまで言うか!』もレコメンドされてくるので
見るようになりました。

そこで初めて、「へぇ~、オールドメディア側でも保守寄りの意見を持つ番組もあるのか・・・・」とビックリし、
「ラジオは自由度高いのかな」とも思うようになりました。
『The Voice』から、その後、朝の情報番組『OK!Cozy up!』に移ってからもYoutubeで視聴してたのですが、
その後、高橋洋一チャンネルとか長谷川幸広チャンネルとかを見るようになり、
さらに、一時期の「百田・有本 vs 上念」バトルなどの阿呆なものを見せられて、
両陣営とも関わっている番組を遠ざけた期間があったので、
次第と視聴の優先順位が下がってしまい、最近はレコメンドに出てこなくなってました。

ブックオフで本作を見つけ、「あ、飯田さんだ、懐かし~、本なんて出してたのか」と買ってきました。

現在の主要マスメディアの、とにかく政権の打ち出す政策はなんでも叩くという姿勢と、
安保政策などについて空想じみた理想論を振りかざす等について、
著者自身が、現場で行った取材で得た知見をもとに、
要は、今のメディアの報道姿勢はおかしい!騙されずに自分自身の考えを持ってください!と
訴えるという異色の内容でした。

『OK!Cozy up!』の内容からすると、本作で書かれていることは違和感ないのですが、
それでも、毎日の放送で消費されてる音声情報と、物理的に記録が残る著作では、
やっぱり重さが違うように感じてしまいます。
よくここまで踏み込んで書いたなぁと感心しました。

公式発表の情報や、映像に取れた情報に対して
思い込みで判断を下したり、勝手にストーリーを組み立てたりするマスメディア。
それに対して、著者は、当時者や、関係者、現地住人に直接取材を行い、
様々な人が様々な立場で様々な評価をしていて、それは一面的なものではなく
とても複雑な感情が絡み合うものなのだという、ある意味当たり前のことを
改めて文章にしている感じです。

では、現地住民1人、2人の声を拾って記事内に入れるので十分なのかと言われると、
もうそれは、その記者がどれだけ現地の声を拾ってきて、
そこから代表的な声、もしくは象徴的な声をピックアップするかという、
その記者の編集権というか編集能力の部分の問題なので、
結局は、自分はどの記者を信用するのか、という、普段の記者活動の実績の積み重ねで
判断するしかないように思うんですよね。

そういう点で、この飯田浩司アナは、冷静な目で、実際の声を拾っているように感じることが多いので
今後も信頼できるかなと評価しています。
この本でもそれは確認できましたし、さらに、局アナにしては踏み込んだ主張も多々見られたことから、
その熱い思いとか、マスメディア内の住人として少しでも良い報道に業界全体が変わるべきだという
批判の思いも強く持っているんだろうなということが読み取れました。

また番組をYoutubeで聞くようにしようかな。
そしたら、今度は、どの番組のレコメンド順位が下がっちゃうのかしら(苦笑)。




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『もし僕がいま25歳なら、こんな50のやりたいことがある。』
- 2023/05/22(Mon) -
松浦弥太郎 『もし僕がいま25歳なら、こんな50のやりたいことがある。』(講談社+α文庫)、読了。

著者の本はこれで3つ目。
弥太郎さんというお名前、『暮しの手帖』編集長という雑誌のジャンルとポジション、
著作のタイトルの柔らかな感じ、そして文章のお上品さ、
それらから、70代ぐらいの男性を想像してました。

ところが、今回読むにあたって著者プロフィールを改めて見てみたら、
クックパッド㈱「くらしのきほん」編集長となっていて、えー、IT系に移ったの?とビックリ。
で、生年が1965年であることに気づき、50代じゃん!
いやー、全然イメージと違ってました。

で、本作を読んでみたら、経営者が若手社員に向けて送る言葉として
オーソドックスなものが並んでおり、納得感はあったものの
やっぱり50代の人の文章って感じじゃないんだよなー、と違和感はありました(苦笑)。

基本的な内容は、若手の間は、目の前の与えられた仕事をきちんと成し遂げて信頼を得よう、
自分の思い込みだけで不満を溜めてはいけないよ、という感じでしょうか。
これは、私自身、新入社員の時に考えてたことだったので、
とても素直に受け入れられました。

入社1年目なんて、会社のこと、業界のことなんて、何もわかってない立場。
「これは変じゃないの?」と感じても、よくよく仕組みを調べてみたら
自分のアイデアは部分最適でしかなく、全体のことを考えると状況を悪化させるものだったりして。

とにかく2年目ぐらいまでは、指示されたことをきちんと達成する、
慣れてきたら、頼まれた期限よりも早く仕上げられるように工夫する、
気になるところは「こう変えることはできないんですか?」という意見ではなく
「なんでこんな風にやってるんですか?」という質問の形で教えてもらうようにする。
こんなところを気にしながら仕事してました。

それで何か大きな成果を上げられるわけではないので、
自分の名前が社内で広まることはないですが、
とりあえず向き合って仕事をしている相手の人からは信頼してもらえることで、
いずれ、その人が出世したり、何か大きな仕事をやることになったときに
「そうだ、あいつに依頼しよう」と思い出してもらえたら嬉しいなと想像しながら
地道に仕事してました。

私自身は、願っていた通りに、出世した役員に引っ張ってもらったり、
会社再編のプロジェクトの末端に入れてもらったりと、
社内の優秀な人たちに引き上げてもらえたので、いろんな経験をさせてもらえました。

その後、独立して起業しましたが、結局、自分が小さいながらに社長という立場になっても
最初の数年は、近隣の先輩社長やパートで雇ったおばちゃんを人生の先輩として
いろいろ指導していただき、言われたことに応えられるように努力しました。
その後数年たって、それらの実績の一つ一つの積み重ねで、
ようやく自分も強く意見を言えるようになり、それを聞いてくれる人も出てきました。
やっぱり、まず信頼関係を自分側の努力で構築していくことが大事かなと思います。

そんな風に、自分のお勤めの歴史を振り返りながら、読み終わってから、
改めて著者の経歴を検索してみましたが、クックパッドはすぐに退任したようで、
どうらやクックパッドのお家騒動で正論ぶつけて退任という流れになったようですね。
やっぱり、『暮しの手帖』とクックパッドでは、社風というか社内に流れる空気感が違ってたんですかね。




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『中上健次 選集3 木の国・根の国物語』
- 2023/05/21(Sun) -
中上健次 『中上健次 選集3 木の国・根の国物語』(小学館文庫)、読了。

中上作品で三重県が関わりそうなものを読んでみたいなーと前から思ってましたが、
ブックオフでこちらを見つけたので読んでみました。

出身地の和歌山県新宮市を出発点に、昔の紀州藩にあたる和歌山と三重の町々を巡り、
市井に生きる人々から言葉を引き出し、紀州という地域の歴史の上に成り立つ文化・風習・人間性を
描き出していきます。

冒頭、紀州を「隠国(こもりく)」と表現することで、
紀州という土地の歴史の重みというか、表舞台の京都に対置した裏の世界として紀州を捉えた
本なのかなと思いながら読み始めました。

個人的には、伊勢の神々の陽の世界に対して、熊野の神々は陰の世界として捉えてます。
伊勢平野の中にあり、京の都からも大阪の都市部からも名古屋の熱田神宮からも訪れやすく
その沿道には宿場町が発展した伊勢神宮と、鬱蒼と茂った山を抜けてようやくたどり着ける熊野三山。
そりゃ、そこに住む人々の思考や暮らしぶりに影響が出るわなー、と思ってます。

そういう、紀行文と文化論のミックスされたような本かなと思っていたら、
本作の大きなテーマが「被差別部落」ということが分かってきて、
かなり重苦しい読書となりました。

自分の思い込みでは、被差別部落というのは、ある種、町の治安維持というか、
見下せる相手を社会の中で作りだすことで人々の不満を低く収めるための社会統治施策の面が
大きかったから、人口が一定数あるような都市部の問題だと勘違いしてました。
三重県で言うと、北勢地区、中勢地区のようなところに多い問題なのかと。

しかし、本作では、訪ねる先の町々で、部落問題に取り組む人や、水平社から紹介された人など
多くの被差別部落関係者が登場してきて、関西地域ではどこに行ってもついて回る問題なんだなと
改めて認識しました。

一方で、「○〇町には被差別部落があった」という言及が具体的な地名で挙げられており、
これは大丈夫なのか?と疑問に思いました。
もしかすると〇〇町というのはかなり広い町なのかもしれませんが・・・・。
部落差別問題を正面から扱う姿勢は社会にも有益だと思いますが、
町名まで出す必要性はあるのかな、新たな差別を生まないのかなと気になりました。

また、著者は紀州を飛び出して松阪を訪れ、食肉加工センターに飛び込み訪問しています。
屠畜業は以前は被差別者が職にしていた(もしくはさせられていた)という理解のため、
部落差別問題の延長線でこのセンターに来たのでしょうけれど、
「作業の見学はできるが、午前中で作業は終わったので今日はもう仕事はない」と言われ、
日を改めて訪問するのかと思いきや、そこで切り上げてしまいます。
「え?終わり?」と思ってしまいました。
解説者もこの場面を切り取って、「単なるルポ、単なる紀行文ではないのである」と
評価してますが、うーん、私は納得できませんでした。
まぁ、ジャーナリストではなく、小説家が地元への思いを書いた本だと言ってしまえば
どんな風に行動し何を考えても自由なのですが、和歌山の町々での人々との交流を思うと
なんだか淡々としてるなと思ってしまいました。

松阪は紀州ではなく伊勢の国なので、何か違っていたのかな。




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『店長がバカすぎて』
- 2023/05/20(Sat) -
早見和真 『店長がバカすぎて』(ハルキ文庫)、読了。

昔からブックオフに行ったときに気にはなっていたのですが、
タイトルが今風過ぎて、ライトノベル系かな?とか思ってしまい敬遠してました。
先日、ストレス解消にドカ買いしてきた中で一緒に買ってきました。

これまで書店を舞台にした作品は何冊か読んだことがあるのですが、
いずれもしっくりこない感じで、相性が悪いように思ってました。
お仕事小説系は人間関係に悪意あり過ぎだし、日常の推理ものでは展開に無理があり過ぎだし。

それが、本作では、店長がバカなだけで、却って書店スタッフたちは団結しており、
人間関係の濃い薄いはあっても悪意があんまり介在していないので
気持ちよく読めるお仕事小説でした。

そして、書店内の出来事だけでなく、作家との関係、版元の会社のデカさや歴史に基づいた書店への圧力、
版元の営業マンとの関係、取次会社との関係、などなど、日本の出版業界をめぐる
問題点も分かりやすく描いており、興味深かったです。

書店員は、基本、本好きが選ぶ職業でしょうから、インテリも多く、
仕事に給料だけでなく、「やりがい」「出版界への貢献」なども求めがちで、
たぶん、不満が複雑な形で溜まりがちなのかなと思いました。

しかも、出版社側は高給取りの人気職業ですから
業界内での権力的ヒエラルキーと、所得的ヒエラルキーのダブルパンチで書店員は下に置かれており
まぁ、確かに、「やりがい」とかの精神的満足を得られないと、やってられないんでしょうね。

というわけで、主人公は、書店スタッフという職業に誇りを持ちながらも
薄給および契約社員という不安定な立場のせいで、その誇りが揺らいでしまうという
気持ちの上がり下がりが、深刻さは控えめなポップな文章でつづられていて面白く読めました。

そして、主人公は、武蔵野書店本店を改革しよう!とかいうような野望は抱かず、
あくまで、自分が共感できるスタッフと日々の業務をきちんと回そうというレベルで
仕事に向き合っており、繋がりの薄いスタッフには変に関りを持たず
薄い人間関係を持続するという、イマドキの若者の行動をしており、
そこもリアリティがあって、読みやすかったです。

一方で、タイトルにも出てくる店長。
本を読まない、自己陶酔な朝礼をする、結果、スタッフの人望がない、という
バカ店長として描かれていますが、ごくまれに変な行動力を発揮し、
「もしや、普段のバカぶりは演技で、本当は逸材なのか!?」と
勘違いしてしまいそうな一面を見せ、主人公も勘違いをしてしまうのですが、
最後、やっぱり勘違いだったという(苦笑)。

このバカさ加減と、逸材かもという誤解加減が、正直あんまりバランス良くないような気がして
店長のキャラクターに筋がしっかり通っていないような印象を受けました。
そこだけ、読みづらさというか、リアリティのなさを感じてしまいました。
ま、そのリアリティのなさが本作の面白さなのかもしれませんね。

ところで、本作内で書店員が独自のセンスでPOPによる販促活動を行うことや、
それが発端で本の帯や雑誌の書評で書店員の推薦コメントが付くとか、
その先には本屋大賞があるような業界の構造も丁寧に描かれていますが、
じゃぁ、本作は、本屋大賞でどうだったのよ?と調べてみたら、
2020年度にエントリーされたものの9位だった模様。
・・・・・うーん、中途半端。
書店員の待遇改善とか、版元と書店の力関係の改善とかを提言していますが、
必ずしも作品として素直に書店員が推すわけではないんだなと、
インテリの天邪鬼な一面を垣間見ました(笑)。




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『たったひとつの「真実」なんてない』
- 2023/05/18(Thu) -
森達也 『たったひとつの「真実」なんてない』(ちくまプリマ―新書)、読了。

これまで読んだ森達也本の中で一番面白かったです。

冒頭、北朝鮮に旅行者として訪問したときの話から始まりますが、
北朝鮮政府が指定したガイドが付きっきりで案内する中で、
ガイドさんは意外とフランクな対応なのに、街中に居る軍人や警官はビタビタの監視体制で
さらには一般の北朝鮮国民も警戒を怠らない怖い顔で遠巻きに見てくる様子。

そこで普通の日本人なら「やっぱり北朝鮮という独裁国家は・・・・・・」という感想になりがちですが、
著者の場合は、最初にそう感じながらも、日本の近代史を振り返り、
「戦前戦中の日本も天皇を頂点に同じような社会だった。北朝鮮はかつての日本」と見ます。

私自身は、あの戦争体制の責任は、すべてが天皇にあるわけではないと思いつつも、
しかし天皇の権威のもとであの体制が存続していたということは事実だと思うので、
受け入れなければいけない指摘だと思います。
現在の天皇制は、この反省を経て生まれた別物の新体制だと私は思っているので、
きちんと過去は受け止めて今に活かすことが大事ですね。

そういう日本人には痛い指摘から始まり、戦前戦中の日本中が戦争熱に浮かれていた社会を
作り上げた大きなエネルギーは、一つはマスディアが供給していたという話に入っていき、
マスメディア論、公正中立な報道とは、報道を読み見る側の市民はどのような姿勢であるべきか、
そういう多角的な指摘を積み重ねていきます。

私自身は、「公正中立」なんて状況は、マスメディアだけでなく、
この世のどこにも存在しないと思っています。
本作の中で著者も述べてますが、ニュース番組の尺に収めるためには取材テープのどの場面を使い
どの場面を捨てるのか、どういう順番でつなぐのか、どんなナレーションやテロップを重ねるのか、
そういう一つ一つの編集作業が「演出」であり、「意図」が入ってくると思います。
悪意が無くても、偏向していなくても、公正中立を目指していても、
必ず何らかの「意図」が入り込むのは仕方がないことであり、
公正中立を目指すよりも、意図は必ず入るものだという自戒を持って編集する方が
冷静な報道に繋がるのではないかと思います。

実はこれ、大学1年生の時に、学部の9割の学生が履修するという名物先生の授業で
繰り返し説明をされたものでした。新聞やテレビの言うことを鵜吞みにするな、
様々な情報を手に入れて自分の頭で客観的に判断できる視点を持て、というものでした。

課題本には本多勝一とかが含まれていたのはアレと言えばアレですが、
宿題のレポート提出で、あえて産経新聞の「戦争で日本軍は良いことをした」みたいな記事を取りあげ
「高校までの日本史の教科書では知りえなかった情報を得られたので多様な情報源は必要」という
今思うと本多勝一に対してかなり反抗的なレポートで喧嘩売ってましたわ(爆)。

当時は、大学1年生で初めて産経新聞を読む機会を得て、「こんな新聞あったのか!」と感嘆し、
逆に視野が狭まりそうな状況でした(苦笑)。
その後、産経は産経で思想の偏りが酷いなと感じることも多く、
今の自分は中道路線のつもりですが、他人から見たらどうなんでしょうね?
たぶん日本国民の95%は自分のこと中道だって思ってそうですしね(爆)。

このメディアの編集における印象の際を、著者自身が暴力事件を起こしたという作り話をネタに
取材で集めた映像カットのネタがA、B、C、D、Eとあった場合に、
AとDを採用してニュース映像を作った場合、BとEを採用してさらにE⇒Bという順で構成した場合
というような、具体的な事例を比較することで、その印象の違いが際立って具象化されました。
編集者の「どうやったら面白く見せられるか=チャンネルを変えられないか」という
ニュースそのものの本質とは無関係の意図でカットが選択され、構成順が決められ、
視聴後の印象が決定づけられるという説明に、なるほどなーと大納得できました。

大学を卒業してメディア界に就職する新人や、他業種からメディア界に転職する人は
本作を必読の書として入社前に心構えを学ぶべきだと思いますが、
でも、著者は、メディア界に居るとはいえマスコミの外の人なので、
多くのメディア人=マスコミ内の人は、軽視してそうだなぁ、と思ってしまいます。

メディアのもつ権力性を、「正義の鉄槌」だと勘違いしている間は、
マスメディアという組織も、北朝鮮と大差ないのかもしれませんね。




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『最高のオバハン 中島ハルコはまだ懲りてない!』
- 2023/05/17(Wed) -
林真理子 『最高のオバハン 中島ハルコはまだ懲りてない!』(文春文庫)、読了。

中島ハルコシリーズ第2弾。

べったりではないけれど、中島ハルコは食事や観劇などの連れに利用し、
主人公は相談事をする相手として利用する。
お互いにうまく相手の得意分野を見ているサッパリした関係なので
女性の会話が続く作品ですが、読んでいて重たくないので読みやすいです。
そして、一つ一つの話が短めなので、サクサク読めます。

ハルコの特異なキャラクターを活かしていかないといけないので、
持ち込まれた相談事への回答は、いわゆる一般的な穏やか路線ではなく、
相談者がハッとしたり愕然としたりするようなものを用意せねばならず、
かといって、あまりにトンデモな回答では読んでいて面白くないので、
このバランスを取りながら短い文章の中で説得力もたせて面白がらせてって、
やっぱり力量のある作家さんだなと、この軽めの作品でも実感。

主人公の結婚問題では、なんでそんなにイジイジして前に進まないんだろうと
主人公とそのお相手の慎重さに若干イライラしてしまいましたが、
金持ちの息子、しかも妾の子となると、なかなか家の事情というものが難しいでしょうね。
なんのしがらみもない貧乏人の家に生まれてラッキーだわと思ってしまいました(爆)。




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