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『一橋ビジネスレビュー2021冬』
- 2022/12/31(Sat) -
『一橋ビジネスレビュー2021冬』、通読。

何度か読もうと手に取り、数ページ読んだところで放置・・・・・ということが続いてしまい
大晦日に「今読まないともう読めないかも!」とざっと流し読み。

特集の「スタートアップ」は、特に、日本であまりスタートアップが盛り上がらないという状況に、
現状分析、日米欧比較、日本での成功事例の解説、政府の政策評価など。

ものすごく感覚的な感想になっちゃいますけど、日本って、ハングリー精神が
持ちにくい社会なのかなと思いました。
そもそも生活水準が一定レベルまで上がってしまって、「他人と違うことをしないと食べていけない!」
みたいな危機感を持たずに済みますし、外国人もコンビニバイトや工場労働には増えているとは言え
では、自分の仕事を奪われるというような恐怖をリアルに描いている人はまだ少ないのではないかと
思います。

本誌の中で、「ソニーもパナソニックも元はベンチャーだった」というような文章が出てきましたが、
戦後、日本社会の生活が戦争でボロボロに疲弊し、外国に政治的または経済的に
支配されてしまうかも・・・・・というようなリアルな不安の中にあって
優秀で野心のある人は起業してどんどん組織を成長させていくモチベーションがあったと思います。
今の日本で、そこまで切実な感覚でビジネスをしている人なんて、
ほんの一握りなんじゃないかと思います。私自身を含めて。

ちょっと日本の行く末と、そこで私自身が果たせる責務に対して、
あんまり明るい気持ちになれない特集でした。
大晦日にふさわしくない(苦笑)。
明日からは、気分一新、チャレンジ精神でいかないといけないですね。

インタビュー記事で登場した、Beyond Next Venturesの伊藤毅氏や
Mistletoeの孫泰蔵氏の言葉は、とても彼らには志の高さは及びませんが、
でも、発破をかけてもらえる内容でした。
そして、今、自分自身が何に力を注ぎ、将来をどういう風にしていきたいのかという志は、
子どもの頃の体験や家族からの教育内容など、そういう自分の過去が土台になっているんだなと
改めて確認できる内容でした。

連載では、スーパーホテルの話が興味深かったです。
いろんなところで目にするのですが、実は、一度も宿泊したことがありません。
「ちょっと田舎っぽい土地に屹立している格安ビジネスホテル」という認識だったのですが、
クレド的な言葉を持っていて、それを徹底する組織運営をしている等、
知らないことが多かったので、認識を改めました。
そして、自分たちの取った過去の戦略に間違いがあり業績が傾いたときに、
それを過ちと認めて、きちんと改善を行い、しかも、こういう取材で赤裸々に語れるというのは
良い組織だと思います。常に改善最優先の組織なんだろうなと。
全国旅行支援が年明けから再開されるようですし、一度、泊まってみよ。




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『アメリカは今日もステロイドを打つ』
- 2022/12/30(Fri) -
町山智弘 『アメリカは今日もステロイドを打つ』(集英社文庫)、読了。

ブックオフで、「何このC級感あふれる表紙イラストは!?」と目に留まり、
著者名が町山氏だったので買ってきました。
前に読んだアメリカ政治の解説本が面白かったので。

米国に長年住み、映画批評の仕事を、あくまでアメリカに住む日本人という
第三者的な目線で行っている面白さが、本作でも十分に堪能できました。

タイトルから、アメリカのスポーツ界にぽける薬物汚染というか
人工的に肉体改造していくことへの行き過ぎに警鐘を鳴らす内容かと思いましたが、
4ページほどのコラムの集約版で、
もちろん薬物汚染の話はありましたが、もっと広い意味で各種の「肉体改造」「精神改造」に
突き進んでしまうアメリカの病理のようなものを、軽いタッチで紹介していきます。
あくまで淡々と事例紹介のような感じで書いているのですが、
その裏側に広がる闇を想像すると、背筋が凍る世界です。

アメリカ人であろうとすると、なんでも「頂点」を目指したり、「最高」「最大」「最速」を目指したり、
「極限」を目指したり、「非現実的」を目指したりしないといけないのでしょうかね。
日本人でも、たまにこういう極端なものを目指す人が出てくることはありますが、
世の中を騒がしても、あんまり世間から共感されているような印象を持つことは少ないです。
むしろ、異端な存在として線を引きつつ、見世物として楽しんでいるような。

それがアメリカとなると、結構、広く共感されているというか、応援されているような印象を
町山氏のコラムの雰囲気からは受け取りました。
極端であろうとする人を、頂点を極めるチャレンジ精神というか、多様性の象徴というか、
そういう要素を高く評価しているように感じます。

きっと、国の成り立ちだったり、国が大きく成長した経緯だったりの違いで
日米の文化の相違が生まれたんだろうと思いますが、
こういうサブカル世界で、そういう国民性の違いって象徴的に表出してくるので
興味深いコラム集でした。

あと、著者が紹介しているB級(C級?)映画を、意外と私が観ていてビックリ(苦笑)。
ウィル・フェレル、最高!
でも、バスケ映画の方の私の評価が低かったのは、米国のバスケ文化を私が
十分に理解してなかったからだと、今回分かりました。




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『ちょっと今から仕事やめてくる』
- 2022/12/28(Wed) -
北川恵海 『ちょっと今から仕事やめてくる』(メディアワークス文庫)、読了。

タイトルから推察できるように、今時の若者がブラック企業を辞める話。

私も一応、数年前まではサラリーマンをやっていて、ずっと企画部門だったので、
仕事の状況によっては夜中2時3時まで仕事をしてタクシーで帰ったり、ときには会社で夜を明かしたり、
土日も出勤して20連勤とか平気でありましたが、正直、あんまりブラック感がなかったんですよねー。
上司の指示とかじゃなく、自分の意向で「もうちょっと、ここ頑張ったら、より成果が上がるんじゃない?」
みたいな感じで、最低限の求められているライン以上のことを自ら望んでやろうとしていたので。

そういう、ある種、ワーカホリック的な症状のある自分からすると、
「ブラック企業で心身ともに疲弊する」という状況が、あんまりリアリティをもって考えられないんですよね。
世間の常識からすると、私の働き方は頭おかしいと糾弾されるのだろうと自覚はしてます(爆)。
でも、成果が上がるから楽しいんですよねー。

仕事相手が米国のベンチャー企業だったりしたので、相手方も異様な働き方をしていて、
お互いに感覚が麻痺しているのだとは思いますが、
土日だろうが夜中だろうがメールのレスがすぐに返ってくるので、リズムとスピード感が心地良くて、
仕事が楽しかったです。
やればやるだけ業績が上がって評価されるので、達成感もありました。

でも、一応、一般企業なので、人事部とかが、「労働基準法を守ってください」
「産業医面談を受けてください」「とにかく帰りなさい!」みたいにうるさく、
こちらも出退勤記録をいかにごまかすかみたいなところに知恵を使いだして、
仕事そのものよりも、労務管理対策がストレスだったんですよねー。
で、会社を辞めて独立起業し、経営側なので今や仕事したい放題です(爆)。

本作で描かれるような、「毎日毎日、会社にこき使われて、働けど働けど状況が好転しない」
こういう仕事環境に置かれたことがないので、読んでいてピンとこないんですよね。
成果を出したら評価されてよりやりがいのある仕事が振られるし、
失敗したら反省の意味を込めて別な仕事に変えられて、
その別な仕事でちゃんと成果を出したら、また一つ上のレベルの仕事が与えられる。
そういう、成果評価がきちんとした会社だったので、納得度が高く、ブラック感がなかったのかなと。

あとは、一定程度業績を上げていれば、役員クラスの方たちと飲み会の席とかで
フランクに話をする機会もあったので、「今の会社のこういうところ変えられないですかねー」みたいな
提案というかアイデア出しというか、半分は笑い話に紛らせつつも直言できたこともあり
それが役員に刺されば手を打ってもらえたので、「自分が辞めるか否か」みたいな個々の話よりも
「会社をどう変えたらよいのか」みたいな根本解決のような話の方に関心が向かってしまうので、
本作のような個人の話に興味が持てない理由なのかなと思います。

また、課長や部長に対して降格人事が普通に行われる会社だったので
(不祥事だけでなく、計画未達だとか、部下からの評価が極端に悪いとかの理由で降格になってました)
本作に出てくるような、意味もなく怒鳴り散らす上司とかが居なくて、風通しは良かったように思います。
課長から係長に降格になった人でも、また成果を出したら課長になってましたし。

結局、会社がブラックかどうかって、何時間働いているとか、休みが取りにくいとかの
形式的な部分ではなく、その会社が成長軌道に乗っていて社員全体が前向きなマインドにあるか
というような気持ちの部分が大きいような気がします。
私が居た会社で、右肩下がりの経営状況で長年汲々としている・・・・というような時期はなく、
ちょっと将来展望が見えなくなっていた時には、経営陣の英断でM&Aやっちゃいましたから
私たち社員はM&Aを成功させるのに必死でした。不満や不安を持つ余裕なし。
もし、経営陣がM&Aのような大改革を決断できずに、ただ右肩下がりの未来があるだけだったら、
業績の下げ幅を小さくするためだけの仕事にこき使われてブラックだと感じたかもしれません。

というわけで、本作での主人公やヤマモトの奮闘は、正直あんまり心に刺さりませんでした。
それよりも、主人公が自分の新卒時代の就職活動を振り返って、
「簡単に、安易に、就職先を決めてはいけなかったんだ」と反省したシーンに最も共感を覚えました。
結局、どんな会社、どんな組織、どんなコミュニティに就職するかが
自分の人生に大きな影響を与えるのではないかと、本作を読んで再認識しました。
そして、最後は、人間です。どんな人と一緒に仕事をするのか。
その点で、私はとても恵まれていたと感謝しています。

世間では、本作の主人公のように、悩み苦しんでいる人がたくさんいるんだろうなということは
もちろん頭では分かっているのですが、私には、その悩んでいる個々の人たちに向き合う能力や才能が
ないんだろうなということを、本作を通して実感しました。
私が取り組むべきは、制度面の見直しへの提言とか、そういうところなんだろうなと。
向き不向きを再認識する読書となりました。




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『いろんな気持ちが本当の気持ち』
- 2022/12/27(Tue) -
長嶋有 『いろんな気持ちが本当の気持ち』(ちくま文庫)、読了。

「おー、長嶋有じゃないか!」と、なかなかブックオフではお目にかからないので即買い。
ブログの履歴を見たら、前に読んだのは9年も前のことで、
ブックオフでのレアキャラぶりを再認識。

ところが、早速読んでみたらエッセイでした(苦笑)。

小説作品は、人間関係の中での微妙な感情をうまく表現しているところが好きなのですが、
エッセイでは、結構、おちゃらけた感じが前面に出ているので、
印象が違ってびっくりしました。
どこか原田宗典チック。

でも、著者が好きなマンガ作品とか小説作品とか音楽作品を語っている文章を読むと、
それぞれの作品を楽しんだ人が、感覚的に感じている「楽しいと思った要素」を
明瞭な文章で形にしているように感じられて、さすが、微妙な感覚を文字化する達人!
と感嘆しました。

長嶋有氏による文学作品紹介みたいな一冊があったら、
すごく共感しながら、もしくは「これは読みたい!」と悶絶しながら読めそうな気がします。

そういう誰かが作った作品を長嶋有氏目線で真正面から解説してくれるエッセイ、
出ないかなー。




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『図解 次世代農業ビジネス』
- 2022/12/25(Sun) -
井熊均、三輪泰史 『図解 次世代農業ビジネス』(日刊工業新聞社)、通読。

図書館でイチゴ農家のことを調べるついでに、農業全般のことを押さえようと借りてきた本。

返却期限が迫ってきて、かなり駆け足で読んだので流し読みになってしまいましたが、
小説とか読んでるから時間が無くなっちゃうという、自分のせいですが(苦笑))
ただ作物を作るだけの視点ではなく、流通、小売(toB & toC)、輸出、環境など
多角的な視点と、多様な立ち位置を俯瞰的に捉えた内容で、
とりあえず現在の日本の農業をめぐる状況を押さえるには、
とても良くまとまっている本でした。

例えば、やみくもに他分野企業の農業参入を推奨するでも、逆に批判するでもなく、
大手の取り組みを紹介しつつ、上手くいっている事例、早々に撤退した事例を挙げて、
上手くいっている中でも足踏みしている部分や、撤退したけど損切りの英断を認めたり、
冷静に分析しているので、安心して読めました。

農家を継ぐぞ!とか、新規就農するぞ!という個人にとっては
ちょっと大き過ぎる視点に思えるかもしれませんが、
農業という事業分野にどう関わっていって、どうやって儲けようか・・・・と考える立場なら
非常に参考になる本だと思います。

流通コストの構造も、「例」としつつも、
市場を介する従来のルートと、直接お客様とつながる新たなルートと
具体的なコスト構造の比率を出して説明しているので、理解しやすかったですし
数値により、その違いが圧倒的に明確に伝わってきました。

出典に「農林水産省統計より日本総合研究所作成」となっているので、
政府統計を読み込んだら、自分でも作れるのかなぁ?
今度探してみよ。




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『銀行壊滅』
- 2022/12/24(Sat) -
広瀬仁紀 『銀行壊滅』(講談社文庫)、読了。

近所のおばちゃんにもらった本。
昭和50年代の作品で、都市銀行が13行もあった乱立時代のお話。
正直、私の世代だとピンときません。
新卒で会社に入ったときが、ちょうどメガバンク誕生の時期で、
入社試験で金融機関を受けていた頃に、毎日ちゃんと新聞を見て
合併情報とかを踏まえて面接に臨んでいた思い出があります。

なので、私の実感としては、金融ビッグバン後の日本経済が理解の土台になっているので、
本作で描かれている時代感覚が分からないんですよねー。

本作のモデルとなる事件があったのなら、もう少しイメージできたかもしれませんが、「
ネットで検索してみる限りモデルとなる事件があった訳ではなさそうなので、
著者による創作物語のようで。

中堅地銀や相互銀行らをくっつけて競争力のある都市銀行に成長させようという
大蔵省銀行局の思惑や当該銀行の頭取の野心、総会屋によるパワー獲得競争など
いろんな要素が絡んできて、素材は面白そうだったのですが、
主人公となる人が設定されておらず、いろんなシーンがバラバラに描かれるので
あんまり気持ちが入っていきませんでした。

銀行局長を主人公に、彼の暗躍物語にした方が
小説として面白かったんじゃないの?と思ってしまいましたが、
でも、それだと頭取たちの野心が描きにくかったのかなぁ・・・・。

もし、昔、本作を読んでいたら、「大蔵省の一官僚が地銀をつぶそうとするとか
そんな大胆な行政介入はリアリティがないよ~」と思ってしまったと思いますが、
先日読んだ金融庁のドキュメントで理解が変わりました。

日本の金融行政って、監督官庁による「より良い金融業界に改革してやる、指導してやる」という
ある種上から目線の介入、言い換えれば本気の改革マインドを持った優秀な人材により
支えられているだなと思うようになりました。
その改革が、必ずしも成功するわけではなく、時には大きな悪影響を及ぼすこともありますが、
でも「今のままじゃダメだ、俺たちの手で改革しなければ!」という思いがあるのは
私は良いことかなと思ってます。
無策で沈み続ける停滞よりも、リスクを負ってでも変わっていこうとする社会の方が
活力があるし、優秀な人材が登用されやすい(発見されやすい)ように思います。

それには、政治側の強力な旗振りが不可欠ですが、
キッシーじゃぁ、無理かなぁ・・・・・。




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『自治体農政の新展開』
- 2022/12/23(Fri) -
中嶋信 編著 『自治体農政の新展開』(自治体研究社)、読了。

イチゴの件を調べに図書館に行った際に、ついでに借りてきた本。
行政の支援という点も考慮しなきゃいけないなー、ということで。

しかし、本作は、個別具体的な自治体での取り組みを、
その当事者なり関係者なりが自己紹介するような内容になっており、
それほど誌面を与えられているわけでもないので、
なんだか表層的な紹介にとどまってしまっているように感じました。

個人的には、第三者による客観的な視点からの
事例紹介と実績評価、そして横展開するための抽象化というか汎用化の作業がないと
あまり有効な情報にはならないのではないかと感じてしまいました。

そして、ところどころに垣間見える政府自民党なり都知事などの首長なりへの批判の言葉。
そりゃ当事者として行政に改善してほしい点は多々あると思いますが、
しかし、批判の表現が尖がっているというか、対立的な印象で、
こんな姿勢では、なかなか協力的な関係に持ち込むのは難しいんじゃないかと思いました。

事例紹介を経て、演繹的なまとめが多少最後についていますが、
こちらも文章量が少なく、あんまり突っ込めていない印象です。

うーん、最初に、中央官庁の農業政策と、個別の地方自治体との農業政策との関係性の説明や
予算措置、実行権限などの大きな枠組みの話が一つあれば、
もっと理解が進んだんじゃないかなと。残念。




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『イチゴの基礎知識』
- 2022/12/22(Thu) -
森下昌三 『イチゴの基礎知識』(誠文堂新光社)、通読。

引き続きイチゴの勉強。
サブタイトルに「生態と栽培技術」とあるように、農業技術に特化した内容でした。

素人が読んで、「なるほどね~」と面白みを感じられる話は
先日読んだ本で概ね満足してしまったので、
本作は、これから就農してイチゴ農家をやっていこうと思っている人向けって感じですかね。
プロになろうとしている人向け。

収穫時期ごとの国産と輸入ものの割合とか、
どの品種がどのぐらいの収穫期で何目的に作られているのかという、
イチゴを「売る」「使う」という側面に関わるトピックスが興味深かったです。

どんなに美味しいイチゴをたくさん作っても、食べる人や使う人のところに
適切なタイミングで適切な量を届けないと廃棄になっちゃいますからねー。
そういうマーケティング目線というか、消費者のことを意識した目線の本も
読んでみたいなと思いました。




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『上野介の忠臣蔵』
- 2022/12/21(Wed) -
清水義範 『上野介の忠臣蔵』(文春文庫)、読了。

一般的な日本人は、『忠臣蔵』において、判官贔屓で浅野内匠頭に肩入れするかと思いますが、
私は判官贔屓で吉良の方に肩入れしてしまいます。
だって、いくらお涙頂戴で盛り上げるためとはいえ、
あまりに悪者として極端に描かれてて、可哀想ですよね。

吉良の行政官としての忠実さを再評価するような池宮作品を読んだからかもしれませんが、
もともと、お涙頂戴モノというジャンルが苦手なこともあります(苦笑)。

もし、自分が仕えるとしたら、多少厭味ったらしい能吏の老人よりも、
感情が不安定な若輩者の男の方が、嫌だなぁと思います。
ちょっとしたことで顔が真っ赤になったり、真っ青になったり、あまりに情緒不安定。
平和ボケの徳川の治世のために、こういう不安定な人物でも大名として成り立ってしまうことが
不幸の始まりかなと思います。

著者は、愛知県贔屓で有名ですから、三河の国が地元の吉良義央が
世の中で不当に悪人の汚名を着せられているのが許せなかったんだろうなと。
最初、私の頭の中で井伊直弼とごっちゃになってて、
「あれ?地元って滋賀じゃなかったっけ?なんで清水センセが?」と大いなる勘違いをしており、
江戸時代の悪人として一緒くたにしちゃってる私も清水センセからお𠮟りを受けそうです(苦笑)。

そうか、三河かぁ、赤穂とは塩の産地どうしという関係でもあるのかぁ、と
いろんなバックグラウンド情報も手に入り、
さらには、上杉家のお家騒動を受けて吉良家が手助けに入ったばっかりに
その余波で上野介は高齢になるまで跡継ぎに家督を譲れず引退できなかったり、
徳川綱吉の母親の官位問題を背負わされたり、
自身の健康問題が重なったりで、松の廊下の事件が起きたときに
誰がどんな精神状態、肉体状態であったかを、簡潔なストーリーテリングで
分かりやすく納得的に描いており、「あ、これが真相かも」と腑に落ちる感覚になりました。

どこまで、この清水説が裏付けできるのかは分かりませんが、
状況証拠にはおかしなところがないように感じました。

政府高官って、いつの時代も汚名を着せられるというか、
庶民の不平不満の吐き出し口として歪んだ評価を受けがちですが、
まさに吉良上野介義央が、そういう無責任な世論の犠牲になっちゃったのかなと思いました。




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『トヨタの口ぐせ』
- 2022/12/20(Tue) -
㈱OJTソリューションズ 『トヨタの口ぐせ』 (中経文庫)、読了。

会社員時代はよくトヨタ関連の本で、組織づくりとか業務フローの作り方を学んだものですが、
会社組織を離れてしまうと、縁遠くなってしまってました。

ブックオフで手軽に読めそうな本を見つけたので買ってきました。
著者になる法人は、トヨタとリクルートの合弁会社です。
要は、トヨタが培ってきたノウハウを他の企業に伝導していこうというコンサル会社。
実際に、トヨタの現場で指導してきた社員がトレーナーとして同社に在籍しており、
自らの経験をもとにコンサル&指導してくれるというもの。
コンサル会社としての能力は折り紙付きという感じですね。

本作は、そんなトレーナーたちが、実際に自分がトヨタの現場にいる際に、
上司からどういう指導を受けてきたのか、それを「口ぐせ」というキーワードで説明しています。
「口ぐせ」というからには、繰り返し口にされることであり、「トヨタの」というからには
特定の上司個人ではなく多数の上席が同じようなことを口にしていることであり、
つまりはシンプルな一文で表現されたトヨタの企業風土の本質だと思います。

いろんな言葉が紹介されていますが、それは、「三現主義」であったり、
「ジャストインタイム」であったり、そういうトヨタの企業風土として解説されるワードが、
現場レベルで一体どんな言葉で一人一人の従業員に投げかけられていたのかということが
リアルに分かって面白かったです。

Amazonのレビューでは、「底が浅い」「当たり前」「普通」なんていう評価が散見されますが、
この「当たり前」を組織内のすべてのスタッフに徹底させるのがいかに大変なことか、
会社では経営企画部、退職後は起業してみて、ほんと身に染みて感じることです。

会社勤めのとき、新設の合弁会社の経営企画部に転籍になって、
合弁相手の全く企業風土の異なる人たちと一緒に仕事をすることになったのですが、
その人たちが、オペレーション部門の中で合言葉のように何度も口にする言葉があり、
「あ、一つの言葉で組織の仕事ぶりってまとめあげることができるんだ」と感動しました。
口にしているのは統括部門の人や幹部陣たちばかりだったのかもしれませんが、
でも、毎日のように言われ続け、回覧物の中にも書かれていたら、
そりゃ嫌でも覚えるし、気にするようになるわなぁと実感しました。

その後、合弁相手の会社の方にさらに転籍したのですが、
そこも言葉を大事にする組織で、社長自身、外に出る文章も中に出る文章も
自分で細かくチェックして直させていたのが印象的でした。
口ぐせは組織の風土文化を表すというのはまさにその通りだし、
口ぐせになるほど上司が口にする言葉は、本物のその組織の本質だと思います。

本作は、勉強にもなったし、自分が働かせてもらった組織でいろいろ勉強させてもらったことへの
感謝の気持ちを改めて抱かせてれる良い本でした。




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