『すごいトシヨリBOOK』
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- 2022/09/29(Thu) -
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池内紀 『すごいトシヨリBOOK』(毎日新聞出版)、読了。
実家にあった本。 父や母が買ってくる類の本ではないので、たぶん、いただきものでしょう。 そもそも、読んでたら著者が77歳だというくだりが出てきて、 「えー、そんなにご年配だったの!?」とびっくり。 自然科学系の池谷裕二さんと頭の中でごっちゃになっちゃってたかも(苦笑)。 後期高齢者の著者が、同年配に向けて送るメッセージエッセイなのですが、 その内容は、結構、「身の丈に合わせろ」「無理をするな」「背伸びをするな」みたいな 高齢者に対して過信を戒めるようなものだったので、40代の私も、納得しながら読めました。 正直、高齢者に向けて「自由に生きろ!」「福祉を活用しろ!」的なメッセージを送られると、 「わたしら、その原資を払わされてるんですけど・・・・・」と捻くれた気持ちになってしまうのですが、 「50歳を過ぎたら下り坂に入るのだから、下りのペースに合わせた人生の楽しみ方を」 という著者のようなメッセージを出してもらえると、一つのコミュニティの中で一緒に 暮らしていけるように感じますし、むしろ、自分も10年後、20年後に入っていく世界なので、 年の取り方について自分が憧れるようなモデルケースになってくれる高齢者が たくさん増えてくれると嬉しいなと感じました。 言っている本質はシビアなのですが、 著者なりの優しい言葉で書かれているので、手触りは温かです。 できるだけ多くの高齢者の方に読んでいただきたいです。 うちの両親は、ちゃんと読んだのかしら? ![]() |
『山女日記』
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- 2022/09/27(Tue) -
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湊かなえ 『山女日記』(幻冬舎文庫)、読了。
あのドロドロの湊かなえが山登りの本なんて!と驚き、 買ったもののしばらく積読でした。 8つのお話が入っており、8つの山が登場します。 冒頭の「妙高山」で、デパート勤務の女性が、デパートで行われたアウトドアフェアの余韻で 同期を誘って人生初の山登りをする話が出てきますが、 山登りなんて小学校の遠足以来したことがない私にとっては、 「え、山小屋に泊まって縦走するような山登りを、初心者がいきなり行っちゃうの!?」と 物語の内容そのものよりも、まず、その物語の入り口の展開に驚いてしまいました。 私は、スキューバダイビングが趣味で(ここ数年行けてないですが・・・・)、 はまってた時は年間50日ほど海に居たので、 きっと山が好きという人も同じ感じなんだろうなぁと漠然と思ってました。 遊ぶフィールドが海と山で違うだけでアウトドアとして同じだろうと。 でも、スキューバダイビングはライセンスが必要なスポーツなので、 プールと海でインストラクターの指導を数日ずつ受けて、さらにルールの理解度を図るために 筆記テストもあったうえで、インストラクターがOKを出さないとライセンスがおりません。 そしてライセンス取得後も、基本的にはインストラクターなりガイドなり、 プロのダイバーに海の中を案内してもらうので、常にそばに頼れるプロがいる状態です。 山はライセンスがないので素人でもチャレンジしやすいというのは理解してましたが、 それでも初心者が山に登る際には、ベテランの先輩にくっついていったり、 初心者向けツアーに参加したり、ガイドを頼んだりするものかと思い込んでました。 そうか、いきなり一人で行こうと思えば行けてしまうのか・・・・・と驚き、 そして、リスク管理がそれできちんとできるのかしら?と不安に感じました。 まぁ、自己責任の世界なのかもしれませんが。 「槍ヶ岳」の中に、初めて登山をした中年女性が、自分の体力や技術を過信して 途中で動けなくなってしまう様子が描かれてますが、 動けなくなっても「休憩したら大丈夫です!」と強気に反論する姿を見て、 「うわー、ダイバーでこういう人はなかなかお目にかからないなぁ・・・・」と感じてしまいました。 インストラクターさんは、無理だと思ったら「ダメです」ってはっきり言いますからね。 何度かダメと言われたら我が儘は言わなくなるか、ダイビングを辞めるかしちゃいます。 そういう海と山の違いを思いながら読んでいると、この本のテーマである 「山に登って自分の人生を考える」という行動が、あ、海にはないわ・・・・と思っちゃいました。 山は何日もかけて歩くので、考える時間もたっぷりあるのでしょうが、 海に潜るのはせいぜい1回60分、しかも気を抜いて何かトラブルに見舞われたら 結構な確率で死んじゃうので、集中した60分となり、考え事をしてる暇がありません。 その分、陸に上がってからの休憩時間は体力回復のためゴロゴロしてることが多いです。 ダイビング旅行に行って、夜、浜辺に寝転んで星空を眺めながら人生を考えるという人は いるかもしれませんが、本当にダイビングにはまっちゃうと夜も潜りますからねぇ(爆)。 同じアウトドアでも、海と山では、全然違うものを求めて大自然の中に浸ってるんだなと 本作を通して理解できました。 個々の物語の感想は、みんな悩んで生きているけど、山に登ってきちんと向き合ったら どんな答えであれ、自分が納得できる答えが見つかるんだなと思いました。 登場人物たちみんな、どこか軽そうなところもあるけど、でも、真剣に人生を生きてるんだなと そういう思いに浸れる爽快な作品でした。 まさか、こんな爽やかタイプの湊かなえ作品があったとは! ![]() |
『「おじさん」的思考』
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- 2022/09/23(Fri) -
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内田樹 『「おじさん」的思考』(角川文庫)、読了。
著者の社会考察にはとっても納得できるのに なぜか社会問題の解決策としての政策議論になると全然賛同できないという傾向が 顕著なのですが、まあ、でも仕方ないのかな。 経済学者とかになると、政府に直接経済政策を助言する学者という存在はあり得ても、 社会学者や哲学者は政府と近づくきかっけがないですよね・・・・。 で目だつ論陣を張ろうとすると、政府には批判的な言説となってしまい、 なんだか反対ばかりしているように見えてしまう・・・・・あ、どこかの野党みたいだ! いや、決して、内田樹氏が野党的だと言っているわけではないのですが、 でも立憲民主党パートナーですからね(爆)。 閑話休題。 本作でも、自衛隊と憲法9条みたいな議論は、やっぱり、そっち側の結論になるのかー的な ところはありましたが、でも、概ね、日本社会をバッサリ斬ってるところは 読んでいて興味深かったです。 本作を通じて感じたのは、著者は、日本社会の今の姿をありのままに受け止めて、 決して理想論を振りかざそうとせず、「今すでにこういう事態なのだから 今後に向けて最善の策はこういうことだと思うよ」という、結構冷たい提案なんですよね。 でも、著者の提案は、「できない人はできないし、分からない人は分からないんだから 分ってる僕らがこういう風に気を回してあげないとダメだよね」的な、 最後の最後は優しい結論になるんですよね。 私は、そこを、「分からない奴には分け前はない」と最後までばっさり切り捨ててしまうので 著者の提案には「そんな最後に優しくしちゃったら、分かろうという努力をしなくなっちゃいますよ~」 と批判的な気持ちなっちゃうんだなと、なんとなく理解できました。 最後の最後、弱者の側に立つのが著者で、最後まで勝ち組思想に乗っかってるのが私。 自分もいつ脱落するかわからないから、著者のような優しい世界の方が 本当は良いのかもしれないと思いつつ、でも、甘やかすから世の中が堕落するんだ!と 思っている自分もいて、結論が出ないです。 40代でまだ体力があるから、勝ち組理論に乗っかりたがるのかもしれません。 50代になり、60代になったら、転向してるかも。 ![]() |