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『花婚式』
- 2022/06/27(Mon) -
藤堂志津子 『花婚式』(角川文庫)、読了。

離婚を経験した者同士で再婚した主人公39歳、夫は45歳。
子供を望むものの再婚後6年間恵まれず、あきらめムードも出始める中、
夫の親友の再婚相手を見繕う羽目になり、知り合いの独身女性5人を紹介するが・・・・・。

お話としては、大きな展開があるわけではなく、地味なものです。
夫の親友のお見合いの話、
夫の勤務先の後輩の離婚騒動、
この2つが物語の中で起きる出来事ですが、
そこに、主人公夫婦の子どもができないという悩みや、
夫の親友が過去に駆け落ちをした相手がやっている飲み屋に通い続ける主人公たち
そういう人間関係のベースがじっくりと描かれています。

最初は、ちょっと退屈な展開なのかな・・・・・と控えめに読んでいたのですが、
登場人物たちの心理描写や行動描写が巧みで、
どんどん世界観にはまっていきました。

まず、この主人公の女性、自分では面倒ごとに距離を置こう置こうと努力しているようですが、
私から見たら、とんでもない世話焼きさんですよ。
まず、夫の親友で、自分自身があまり男性として評価していない男に対して
自分の知り合いの女性を5人も紹介するなんてリスク、
私は絶対に負いたくないです(爆)。
どう考えても火の粉が飛んできそうな状況です。

さらに、夫の後輩の離婚騒動では、その妻の不倫相手とされる男に話を聞いてみようと
後輩の妻に連絡先を聞こうと電話する始末。
自分からドツボにはまりに行っているとしか思えません。

普通なら、このタイプのお節介な女性は、私の苦手とする人物なのですが、
なぜかこの主人公には、共感を覚えるところもあり、温かい目で読むことができました。
多分、日記を書くという習慣が描かれることで
主人公自身、自分のお節介を深く反省するシーンが度々出てくるところや、
意外と周囲の人物に対して辛らつな評価を与えているところから、
その観察力は面白いなと感じられたからでしょう。

さらに、自身の再婚した夫に対して、
今度こそ安定した夫婦生活を構築しようと主人公自身がしっかり努力をしており、
さらに自分だけが一方的に努力するのではなく、
夫がどのように自分に対して心遣いをしてくれているのかを自覚するよう
夫の言動にも気を付けており、都度都度、夫の優しさを心にとめるようにしています。
こういう風に、夫婦がお互いを思いやるって、基本的なことだけど
たぶん多くの夫婦はできていないんだろうなぁ・・・・・と独身の私は思ってしまいました(苦笑)。
主人公夫婦は、素敵な夫婦だなと。

主人公夫婦の周りでは、人間の自分勝手な部分や、冷静さを欠いて暴走する行動が
ところどころで描かれて、「あー、人間関係って疲れるよね・・・・」とも思ってしまいますが、
主人公夫婦の落ち着きと、また周囲の人たちも本心の部分では温かな人間性が感じられ、
良い作品だったなと、素直に感じられました。




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『黒医』
- 2022/06/25(Sat) -
久坂部羊 『黒医』(角川文庫)、読了。

お初の作家さん。
本職が医師による医療業界や医療技術をテーマにしたブラックユーモア小説ということで
期待して読み始めたのですが、うーん、かなり苦手な感じでした。

小説として面白くないとか、出来が悪いとか、そういう点ではなく、
医師がこんなことを内面で考えているのか・・・・ということが
露骨に伝わってきて、苦手意識以上に嫌悪感が先に立ってしまいました。

ひたすら過酷な労働に耐えられる若者や健常者を表向きは称えつつ、
裏では高齢者が社会の実益を享受しているというような描写が続きます。
いくつもある作品の中の1つでそういう思想が描かれるのは
興味深く読めると思うのですが、どの作品も、根底にはそういう視点があるように感じ、
若者と高齢者、健常者と障害者、まだ耐えられている人とメンタルやられちゃった人、
そういう社会を分断するような世界観が、あんまり隠されずに堂々と書かれているので、
「こんな考え方を持つ人が医師として診療する側に立っているのは気持ち悪いな」と
思ってしまいました。

描かれている思想が、イコール著者の思想ではないということは頭ではわかるのですが、
あまりに繰り返し堂々と描かれるので、少なくとも著者が主張したいことではあるのかなと
思ってしまうと、あまりに不気味です。

小説の技術的な点においても、ストレートに淡々と描くような感じなので、
余計ダイレクトに著者の主張が頭に届くように感じてしまうのだとも思います。

ブラックユーモア小説だからこそ、極端な見せ方で伝わる部分もあるかとは思うのですが、
でも、やっぱり、その意図以上のものが滲み出てしまっているように思います。
私が、医師という職業を、必要以上に崇高なものとして捉えてしまっているのかもしれませんし、
医師を社会におけるエリート層の象徴として、ノブレス・オブリージュではないですが、
社会に対して果たすべき責務みたいなところで、もし何か主張をするのであれば
若者と高齢者、その対立する双方の言い分を描くとかいったバランス感覚を求めてしまいます。

あんまり著者に対して嫌悪感を抱いてしまうことって
今までの読書では経験がなかったので、
こういう感想を持ってしまうこともあるんだ・・・・・という発見でもありました。




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『ケーキの切れない非行少年たち』
- 2022/06/21(Tue) -
宮口幸治 『ケーキの切れない非行少年たち』(新潮新書)、読了。

ヒット本。

私はてっきり、学力面での問題を抱えた少年少女の話かと思っていたのですが、
そうではなくて、知能の問題を抱えた少年少女の話であり、
教育よりも治療という側面での支援が必要な子供たちの話でした。

私は、幼稚園でお受験をして、そのまま中学校までエスカレーター、
友達の多くは幼稚園から一緒で、途中の小学校や中学校から入ってくる友達も
みんな受験をして入ってくるので、世間一般よりも学力面では当然よくできる子たちでしたし、
面接試験もあるので、人間性の面でもきちんとした子たちばかりでした。
高校は県立高校に行きましたが、いわゆる進学校だったので、こちらも同様。
うちは親戚一同教育熱心なので、いとこも、はとこも、これまた同類。

なので、正直、「非行少年」というカテゴリに入れられてしまう子供との接点が
私の人生において存在しておらず、事件報道や小説・映画・ドラマの中にしかない世界です。

「なんで犯罪なんて犯してしまうんだろう」「そんなことしたら人生で損するだけなのに」
と思っていましたが、本作で、そういう先の長い目で想像することができない子供たちが
安易に犯罪に走ってしまうんだ、沸き上がった衝動を押さえ切れずに手が出てしまうんだ
ということが理解でき、目からうろこでした。

「短慮」とか「短気」とか、そういう性格の次元の話ではなく、
知能指数として、一般的な社会生活を送るのに支障がある程度の少年少女たちが
社会に適合できず、結果として犯罪を犯してしまう。
そして少年院を出たところで、治療を受けたり支援を受けたりしたわけではないので
再犯をしてしまうという悪循環。

この構造を知って衝撃でしたし、何よりも、少年院にいる少年少女たちに占める
この手の知能面で問題を抱える少年少女の割合というものに驚きました。

では、社会全体において、知能面で問題を抱える人がどれだけの割合いて、
その中のさらに、どれぐらいの割合の人が犯罪を犯してしまうのか・・・・・・という
確率論的なものがどうしても気になってしまいますが、そこは数字で表現してしまうと
差別の原因になってしまいそうなので、やっぱり公にはできないのかな。

最近、発育が遅れている子供でも、一般の小学校などで教育を受けさせようという動きが
活発になっている印象がありますが、発育遅延に対する専門家の支援がない環境で
医療的な知識では素人に毛が生えたような一般教員が面倒を見るというのは
本人にとって良いことなのかなぁ・・・・と本作を読んで心配になってしまいました。

もちろん、発育の遅れが、犯罪に直結するわけではないと思うので
これまた差別的なモノの見方なのかもしれませんが、
子供当人にとって、自己肯定感を得られる教育環境なんだろうかと不安になりました。
親の自己満足なのではないかと。

こうあるのが正解!という答えがない世界だと思うので、
親御さん自身が迷いながら判断していくことなのでしょうけれど、
社会の仕組み化・制度化が進んでいけばいくほど、平均値から離れてしまった人には
生きにくい社会になってしまうのかなと感じました。




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『また次の春へ』
- 2022/06/20(Mon) -
重松清 『また次の春へ』(文春文庫)、読了。

3.11の震災で、家族、友人、教え子を亡くしたり行方不明のままだったりする
残された者たちの短編集です。

私自身は、3.11の時に東京に居て、大きな揺れは体験しましたが
怪我も何もなく、仕事も通常通り月曜日から再開され
家も無事、家族親族も友人も東北地方にはおらず、「被災」という状況は
身近なものではありませんでした。
もちろん、会社の東北支店の方たちには家がぐちゃぐちゃになった方がいたようで
人事部を中心に対応に当たってましたが、どこか他人事でした。

そんな自分でさえ、3.11の遺族の話を短編集として続けざまに読むと、
辛くて途中で手を止めずにはいられませんでした。
遺族の苦悩がストレートに描かれていて、またそれぞれの家族に象徴的なエピソードが
これまた涙を誘います。

震災から5年たった段階でこの作品は発表されたようですが、
私でさえ、その時だったら、記憶が生々しすぎて受け止められなかったんじゃないかなと思います。
今でも当事者の方たちには辛いことだろうなと。

本作を読み、読むしんどさを覚えたことで、逆に
小説の持つ力を実感することができました。

そして、私たちは意識せずに「3.11の被災者」「3.11の遺族」と
一つに括って考えてしまいがちですが、
それぞれの家族、個々人によって、震災の受け止め方も将来に向けての考え方も異なり、
1人1人の震災というものがあるんだと改めて認識しました。

昨日も北陸の方で大きな地震が起きていましたが、
日本では、地震は起きてしまうものとして受け止めなければいけないので、
防災や減災に努めて、少しでも被害を小さくするように日々心掛けないといけないなと
東海地震、東南海地震が想定される地域に住んでいる人間として戒めになりました。




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『迷子の王様』
- 2022/06/19(Sun) -
垣根涼介 『迷子の王様』(新潮文庫)、読了。

ついに「君たちに明日はない」シリーズ完結です。

シリーズが進むたびに、主人公のリストラ面接官・村上の立ち位置が後退していき、
リストラされる側の人物にスポットが当たる量が強くなっているように感じました。
その分、リストラされる側の人生の悲哀というか、その人の持つ人生観がじっくり描かれ、
より一層読み応えのある作品になっているなと感じます。

本作では、化粧品会社の美容部員の女、家電メーカーの研究員、書店員の女、そして・・・・
という4人の被リストラ要員が登場してきますが、
みんな自分のこれまでの歩みに自分なりに確信を持っているというか
リストラの危機に遭って多少の揺らぎはあっても、振り返って冷静に考えてみると
「自分はこうあるべきだ」と思えるものがある人たちばかりで、
あぁ、なんだかんだ良い人生を送ってるんだな・・・・・と爽やかな気持ちになりました。
リストラされてるのに本人も読者も前向きになれる力強さを持っている人って、
凄いですよね。尊敬します。

そして、彼らの共通点として本作を通じて感じたのは、
職場の同僚以外に、しっかりと会話ができる家族なり恋人なり友人なりが居るということ。
職場で辛い立場に追いやられても、その外に、それを相談することができる人が居るのは
本人が心強く感じたり、安心感を覚えたりできるという面もあるでしょうけれど、
それ以上に、そういう信頼できる人間関係を築く能力がある人間だという証明なんだろうなと。
そういう人は、逆境にも強いですよね。

自分もそういう人間関係を、毎日地道に作り上げていくようにしないといけないなと
心を引き締める読書となりました。

シリーズ完結編としては、最後、大団円の終わり方でしたが、
まぁこれぐらい強引に締めないと、このシリーズは終われないのかな。
変に続きが復活しそうな雰囲気を醸し出さずに締めたのは、すっきりしてて良いですね。




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『会社人生で必要な知恵はすべてマグロ船で学んだ』
- 2022/06/18(Sat) -
齊藤正明 『会社人生で必要な知恵はすべてマグロ船で学んだ』(マイコミ新書)、読了。

ヒット本を100円で見つけたので買ってきました。

タイトルの印象から、何かお金に困ってマグロ船に乗った人の
人生訓というか反省も含めた振り返りの本なのかと思い込んでいたら、
研究者としてマグロ船に同伴乗船させてもらった体験談でした。
まさに著者が言っている、マグロ船に対する負のイメージそのままの妄想をしてました(苦笑)。

マグロの鮮度保持剤の開発のためにマグロ船に同乗することになった著者ですが、
毎日毎日船酔いしながらも、マグロ船の親方、船長、漁師たちとの会話の中から学んだことを
素直に綴った本でした。

一般の漁師とマグロ船で何十日も一緒に過ごしたのかしら?と思ったら、
乗船したマグロ船は、日本でも屈指の品質を誇る船だそうで、
この業界の超一流エリートというわけですよ。
そりゃ、一流の漁師が乗っているはずだから、会話も一流なはずですわよ。

私は前から、どんな業界、どんな仕事をしている人でも、
一流のプロは自分の哲学や理念を持っており、その人が語る言葉には
とてつもない価値が含まれていると思っています。
本作に登場するマグロ船の親方、船長、漁師たちは、当然ながらマグロ船業界の一流であり
その言葉には大いなる価値を持っているはずあり、また組織内で共有できているはずです。
そうじゃないと、日本屈指の品質を組織として維持できないでしょうから。

そういう目で見ると、本作の中で語られる漁師の言葉は納得できるものばかり。
メンバーが固定された組織の中で、最も円滑に組織運営を行い
成果を最大化するためにはどうすればよいか、それを、組織のトップと中間管理職と末端とで
それぞれの組織内での立場や自分がやるべき役割をきちんと認識して
最大限の努力をしている姿を見て、いい組織だなぁと素直に感じました。

あと、個人的に水産業界の組織体系として興味深く思ったのは、
親方って、経営者だからてっきり陸から指示を出す人なのかと思ったら、
自らマグロ船に乗って現地に行くんですね。
親方と船長とで組織内での指揮命令系統がどうなっているのか
そこはもうちょっと厳密なレポートが欲しかったところです。

マグロ漁船の漁師たちの声から学んだことをベースに
著者がコンサルタントに転職したのは勇気ある決断だと思いますし、、
他のコンサルトの差別化もしやすいので、上手い選択ですよね。
ただ、前職であり、マグロ船に乗った当時の勤務先である会社について
「部下を褒めない」「𠮟責ばかりで教育がない」というような文句ばかりを並べていて、
この点は、ちょっと著者の人間性を表現するのにマイナスになると思うので
あんまりこんな書き方をしない方が良いのでは?と思ってしまいました。
コンサルという職業的にも、前職をけなすのは、あんまり信用されないような気がします。

マグロ船の中での描写は、とても物腰柔らかそうな感じの著者でしたが
前職に対するトゲトゲしい書きぶりを見ていると、
なんだか裏表がありそうな人物のようにも思えてしまい、残念でした。




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『レイクサイド』
- 2022/06/17(Fri) -
東野圭吾 『レイクサイド』(文春文庫)、読了。

中学受験を控えて、勉強合宿に臨んだ4人の小学生とその両親8名。
子供の指導だけでなく、親にも受験生の親としての心構えを説くところに特徴がある合宿で、
子供だけで過ごす時間と、親と一緒に過ごす時間のメリハリもつけられており、
こだわりの教育パパ&ママにウケがよさそうなメニューです。

そんな勉強合宿の場に、参加した父親の一人の不倫相手が乗り込んできて、
親たちの空気をザワつかせるだけでなく、殺されてしまうという急展開。
しかも、殺したと名乗り出たのは、その不倫をしていた男の妻。
男は、今回の合宿に参加した息子が血のつながらない義理の息子ということもあり
親たちから微妙な距離を取られ、孤立してしまいます。
さらに、親同士が結託して何かを隠しているかのような言動も見受けられ、
男は、一人で真相追求に取り組むことに。

作品の特徴として、あんまり登場人物たちの心理描写がされず、
淡々と事態が描かれていくので、作品に入っていくのが難しかったです。
しかも、登場してくる親たちの思考回路が保身なのか連帯なのか特殊過ぎて
違和感を覚えていたものの、同じく違和感を覚えた主人公の男の方の思考回路も
とても自分勝手というか、変な理想主義というか、こちらも歪んでいる感じで、
誰にも共感できないので、ふわふわ浮かんだまま読み進めてました。

殺人事件の真相については、途中で出てきた変な事象についても
伏線として一応きちんと回収しているので、そこは上手いなと思いましたが
では、最後に示された真相に納得ができるかと言われると、
「やっぱり変な親子の集まりだなー」としか思えなかったです。

こういう親に育てられた子供は可哀そうだなと思う反面、
でも、こういう子供たちが大人になっていったら相当歪んでそう・・・・・という恐怖もあり。

小説世界だから、読み終えて「面白かった」「つまらなかった」で終わらせられますが、
現実社会でこういう人たちがいたら怖いな・・・・とも思ってしまいました。
例えば、文京区の幼稚園で母親が子供の友達を殺してしまった事件とかありましたが、
あれも確かお受験殺人ですよね。
加害者は精神的に不安定だったというような報道もありましたが、じゃあ、現実世界の加害者と、
この作品に登場してくるお母さん達と、どれだけ差異があるのかというと、
実は近いところにカテゴライズされるんじゃないの?とも思えてしまい、
現実世界と小説世界の線引きができないぐらい、特殊な人間関係に雁字搦めにされた事件も
あると思うと、怖いですね。

人間だれしも、客観性とバランス感覚を失ってしまうと
とんでもないことをしでかしてしまうんでしょうね。




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『何者でもない』
- 2022/06/15(Wed) -
原田宗典 『何者でもない』(講談社文庫)、読了。

原田さん、最近どうしてるのかしら?と思いながら本作を手に取りました。

劇団の中で奴隷扱いの下っ端を生きる主人公と、
その周辺の人々の生き様を描いた中編3本。

同期入団で突飛な言動をするクスコとの物語、
看板俳優が突如誰にも見えない「ロバート」と会話を始める物語、
後輩で自分よりも華がある男が元カノと付き合い始めありきたりな展開に至る物語。

1本目は、自信過剰なのに実績が出せないクスコ、
自分の失敗を曖昧な優しさをみせる主人公に押し付けるクスコ、
自分の恋愛を嘘で固めて主人公に話すクスコ、
どこから見ても、クスコは自分の周りには居てほしくないタイプなのですが、
それでも小説の世界の中で読むと、なんだか憎めない存在に見えるのは、
著者の筆力か、はたまた主人公の無計画な優しさのせいか。
会社の同僚にはなかなかいなさそうなキャラですが
劇団という枠の中になら存在しそうな感じです。

2本目の先輩・光島は、誰もいない空間に向けて「おい、ロバート」と話しかけ、
自然な感じで、楽しそうに、会話を続けるという様子を見せ、
周囲の人々は驚愕しながらも、「一人芝居の練習かも」と自分を無理やり納得させ、
見て見ぬふりで光島をそのまま許容します。
いやー、この意識的無関心さみたいなものが怖いです。
人間って、ここまで自分本位に考えて保身に走れるんだなと。
そうは言いながら、自分も、こんな状況に直面したら、
自分が動かなくても済むように、一生懸命理屈付けしちゃうかもしれませんが。

3本目は、ちゃらんぽらんな後輩に振り回される先輩の話のように見えつつも、
でも、演劇の世界では、華があることが一番、人気があることが一番なんだよなー、結局。
そう思ってしまう内容でした。
主人公がどんなに無い知恵を絞って元カノのためにできることを考えたり、
後輩を説得しようとしたりしても、奴隷と華のある男では、後者が主導権を握っちゃう世界なんだろなと
本作を読んでつらちら考えてました。
人間性が優しかったり、厳しくなかったりすることは、演劇の能力とは無関係でしょうからね。

著者が、大学生の頃や、若いころに、演劇の世界と親しかったのかはよく分かりませんが、
「あー、演劇やってる人の日常って、こんな感じな気がする・・・・」と思えるような
リアリティを感じられる作品でした。

3本とも、物語の設定はくすっと笑えるものなのですが、
作品のトーン自体は至って真面目で、読む側にも人生を考えさせてくれるような
思いのほか良い作品でした。




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『40歳を過ぎたら、働き方を変えなさい』
- 2022/06/12(Sun) -
佐々木常夫 『40歳を過ぎたら、働き方を変えなさい』(文響社)、読了。

著者の視点は、地に足が着いた実地的な教えの本だという思いがあったので
過去に何冊か読んできましたが、本作は私的にはイマイチでした。

ちょっと情緒的に過ぎるかな。
それとも私が、昔に比べて一層リアリストになっちゃったのかな。

過重労働ではなく無駄を省略して効率的に働け、
組織内での自分の立ち位置をしっかり意識しろ、
上司として部下に接するときはこういうところを意識しろ、
いろいろな教えはその通りだとは思うのですが、
著者の思い描いているレベルがどれだけ読者に伝わってるのかな?という点に
ちょっと疑問符がついてきました。

例えば、2段階上の上司と繋がれという話で、
エレベーターホールで偶然を装い2つ上の上司に話しかけ、
何度もそういう機会を作っていくことで懐に入り込め!という教え。
著者の柔らかな語り口で聞くとすんなり読めてしまいますが、
かなり強かなことをやってのけてますよね。
直上の上司からしたら腹立たしく思いそうなぐらい。

これ、確かに、仕事ができる人は、そんなに緻密に計画せずに
自然体にこういう動きが出来ている人が多いように思うので、
著者の言っている戦術は正しいと思いますが、
果たして、どれだけの人が、この動きを自分でできるのだろうか、継続できるのだろうかと
思ってしまいました。

まぁ、著者の設定している読者層が、エリートコースを目指す課長クラスの人々なら
適切な教えだと思いますが、でも、そういう人たちって、すでに自力で気づいて
こういう行動はとっていそうな気がします。

著者のメイン読者層って、どういう人たちなんだろう?と
後半は、そんな感想を持ちながらの読者となりました。




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『三毛猫ホームズの恐怖館』
- 2022/06/10(Fri) -
赤川次郎 『三毛猫ホームズの恐怖館』(角川文庫)、読了。

仕事が忙しいので、お気楽読書のつもりで手に取ったのですが、
いろんな女子高生がどんどん襲われ、しかも女子高生同士の人間関係がなんだか複雑なので
頭が疲れました・・・・・。

しかも、捻くれた高校生や、背伸びした高校生ばかりが登場し、
爽やかさがないので、そちらの意味でも疲れました。

高校の「怪奇クラブ」が舞台ということで、
古典のホラー映画がたくさん登場してくるので、
その手の話が好きな人にはたまらない作品なんでしょうね。
私はホラー全般がダメなので、思い入れゼロ(苦笑)。

全然気乗りしないまま物語が進んでいってしまったのですが、
終盤の演劇部の上演シーンは面白かったです。
演劇の内容と、さらにそこにオーバーラップする現実の事件の真相、
この見せ方が上手いなと思いました。




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