『芸術起業論』
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- 2022/04/28(Thu) -
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村上隆 『芸術企業論』(幻冬舎文庫)、読了。
著者の作品については、エロチックなフィギュアはあんまり好きではありませんが、 アニメ的イラスト的なも作品は結構好きです。 というか、仕事で六本木ヒルズの企業さんを訪問していた時期に ヒルズやテレ朝周辺に著者の作品がデーンと展開されていて、 私の中では、東京生活の思い出のシーンとして頭に残っています。 その後、何冊か著者の本を読みましたが、 職業としての芸術家の仕事を全うするということに全力を注いでいて、 興味を持つようになりました。 とにかく自分の作りたいものを好きなように作ることに熱を上げて 特に誰からも支持されていないような、いわゆる芸術家「志向」の方々に対して、 私はちょっと苦手意識があるのですが、 「稼げないヤツはだめだ!」と言い切る著者は気持ち良いです。 そう、「芸術家」と名乗る以上は、芸術活動で生計を立てられないとね。 草野球が趣味の人が、「野球選手です」と名乗れないように。 そして、この方の面白いところは、自分の芸術作品がいかに評価されるかという 自分だけを考えているのではなく、アートディレクターだとか、キュレーターだとか そういう芸術関連社会の中で働く人々の仕事のありようも考慮に入れていて、 広く「芸術業界」というものの生末を考えているところです。 自分一人が勝ち逃げすることを考えずに、 自分の作品がより一層社会で評価されるようになるには、 日本の「芸術業界」がもっと大人にならないといけないと考えて、 そのための発信というか啓蒙を、著作などを通じて行っているんだなと思います。 私自身、仕事でいろんあ組織の人たちとかかわりを持たせてもらっていますが、 きちんと商売をやっている会社さんは、新しく作ったものを「試作品」と表現します。 売上規模も小さく利益も出ていないようなところや、趣味のグループの延長線のような 人たちほど、すぐに「新商品作りました!」と口にします。 「どれぐらい売れてるんですか?」と質問すると「これから売るんです」というような返答。 「商品は、商いが立ってから初めて『商品』になるんだよ・・・・」と心の中で思ってしまいます。 「この品物をこの値段でなら買ってもいいよ」と、誰かが思ってくれて初めて商売が成り立つんだし 芸術作品も、きっと、そこで初めて「作品」として一人前になるのじゃないかなと思います。 著者の主張は、私たち一般人に対しても「仕事をなめちゃだめだよ」と諭してくれていると感じ もっと真摯に自分の仕事に向き合わないと!と再認識させられます。 ![]() |
『皇室へのソボクなギモン』
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- 2022/04/25(Mon) -
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竹田恒泰、辛酸なめ子 『皇室へのソボクなギモン』(扶桑社文庫)、読了。
明治天皇の玄孫と、皇室ウォッチャーのエッセイストの組み合わせなので 軽い本だろうなとは予想していましたが、想定以上に内容が薄くてガッカリ。 辛酸なめ子さんが紀宮様のファンで、そこから皇室ウォッチャーになったというのは 以前に読んだエッセイで知っていたのですが、皇室への敬意は持っているのでしょうが、 彼女の場合、基本的に芸能人を見るようなまなざしで皇族を見ているので、 本作における質問も、下世話なものが多いというか、そんなこと知ってどうするの?という あんまり目的が理解できない質問が多かったです。 「普段は何を着ているの?」とか、「どんなご飯を食べているの?」とか まぁ、皇室に関する対談の入り口部分で、会話の場を温めるために質問するというなら それは理解できるのですが、延々こんなレベルの質問が繰り返され、竹田氏からは 「それは分かりませんが・・・・・」という回答が頻出するのは残念です。 竹田氏は、旧皇族の家に生まれているので、先日のブルデューの分析で言うと 「身体化された文化資本」として皇族らしいふるまいを子供の頃から躾けられていると思います。 生まれた時には実家は皇族ではなくなっていたとはいえ、 やはり代々受け継がれてきた家の文化というものがあるでしょうし、 皇族らしいふるまいを身に付けることが自分のブランド化にも役立つのですから。 しかし、では、現在の皇室と日常的に密接な関係にあるかというと、 そりゃ一般人よりは皇族の方と近しい関係に居るでしょうし、お会いになる機会もあると思いますが かといって、ふらっと皇居に入れるわけではなく、やっぱり一民間人という扱いだと思います。 だから、今の天皇家の方々がどんな日常生活を送られているのかということを 見聞する機会はほぼないと思われ、そんな人に向けて辛酸嬢がミーハーな質問を ぶつけるというのは、企画倒れな気がします。これは出版社が悪い。 竹田氏は当然、天皇家や皇室についての深い知識をお持ちですが、 それは自ら勉強して得られた「制度化された文化資本」に近いのではないかと推察します。 そういう点で、旧皇族の家系としての知識というよりは、天皇制度研究者、 天皇制度の広報者としての立場で獲得した情報・技術体系だと思います。 だから、竹田氏は、こんなミーハーな書物に関わっていないで、 もっと深い考察を世に送り出す仕事をしてほしいと思います。 その際に、世論を沸騰させたり議論を巻き起こしたりするために 意図的に過激な物言いをするのは、戦術としては、まぁ理解できるので、 地上波や保守系チャンネルでの竹田氏のブラックジョークは一定水準までは ありだと思いますが、こういう軽いだけの本は、他の皇室ウォッチャーというポジションの 芸能ネタとして皇室ネタを扱っている人々に任せてしまえばよいのに・・・・と思いました。 ![]() |
『街場の現代思想』
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- 2022/04/24(Sun) -
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内田樹 『街場の現代思想』(文春文庫)、読了。
第一章「文化資本主義の時代」が抜群に面白かったです。 「文化資本」「階級と階層の違い」という視点を、主にブルデューの構築した概念で ガンガン整理していくのですが、切れ味が良い言説で興味深かったです。 以前、ブルデューの著作にはチャレンジしましたが、 難解すぎて付いていけず、誰か解説してくれる人を求めていたのですが、 内田センセは、やっぱりフランス現代思想の専門家なので適任ですね。 しかも、ちょっと毒を盛りながら解説できるので、読んでいて楽しい(笑)。 一方、第3章というか、分量的にはメイン企画的な「街場の常識」のパートは、 講義風の体裁をとって、誰かからの質問に著者が回答するという構成になっているため なんだか表面的な話で終わってしまってように思えて、イマイチでした。 質問から、あんまり深まりがないまま終わってしまうと言いますか・・・・。 文量制限のせいかもしれませんが、質問に対して、ちょっと目先の違う別の切り口を立てて 別視点から解説をして話を締めてしまうスタイルが多く、 その目的は「もっと高次の視点から世の中を眺めよ」という意味だと思うのですが、 ちょっと論点ずらしで終えてしまっているような印象を受けました。 こちらは、もうちょっと丁寧に述べてほしかったなというところです。 ![]() |