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『女帝 小池百合子』
- 2022/04/18(Mon) -
石井妙子 『女帝 小池百合子』(文藝春秋)、読了。

発売当時、ものすごい反響を呼んでいた本。
ようやく読んでみましたが、こりゃ確かにすごい本でした。

小池百合子という政治家が、いかにして自分を売り込み、ポジションを得、
さらに上のポジションを狙うために人にすり寄るか、また人を捨てるか、
様々なエピソードを、子供の頃から追った一冊です。

この方の「カイロ大学主席卒業」という経歴に、詐称疑惑が出ているのは知ってましたが、
正直なところ「政治家として今ちゃんと仕事してるなら過去の経歴は大して重要ではないのでは?」
ぐらいの感覚で捉えていたので、声高に詐称疑惑を追及する人々に対して
「小池百合子が憎いんだろうな」という風にネガティブに見ていました。

ところが、本作を読んでみると、この経歴詐称は、「結果的に詐称になってしまいました」というような
消極的な嘘ではなく、学業面で全く何の努力もしていないのに自分の価値を高めるために
積極的に意図して作り上げた嘘であることが分かり、そもそものカイロ大学入学の経緯からしても
他人を欺き、自分を押し上げること、そして自分の中身を高めていく努力をせずに自分を飾ることに
何の躊躇もない人物なんだということが描かれており、正直、病的なものを感じてしまいました。

衆議院議員時代の小池氏については、個人的には何の感慨もなく、
「クールビズ」とか流行らせてましたが、正直「タレント議員の延長線で上手くやった人」という
ような個人的評価でした。そもそも、環境庁長官というポジション自体にも他の大臣に比べ
能力が必要な印象を持っていなかったので、PRの上手いタレント議員がマスコミを使って
うまく流行させた・・・・という評価でした。

防衛庁長官に関しては、期間が短かったこともあり、何の記憶もなく・・・・。
ただ、就任のニュースに触れた時に「この人にそんな能力あるの?」と感じたことは
覚えてますが、田中真紀子氏も外務大臣をやってたぐらいですからねぇ・・・・てな感じ。

都知事選に出馬したときは、私はすでに東京から三重に引っ越しており、
正直他人事であり、「面白くなってきたな」とニュースショーとして見てました。
そして、メディアを使うのが上手いし、女版・小泉純一郎だ、と評価してました。

ところが、その後、豊洲移転問題やオリンピック競技会場問題などが全く解決しない様子を見て
小泉純一郎氏は旗振り役でも、その配下に多くの実行部隊の優秀な人材を抱えてたけど、
小池百合子氏には全くそういう仲間がいないんだな・・・・・と自分の中で評価爆下げでした。

落としどころを全く考えずに思い付きでメディア受けすることを発言して喝采されてることに
非常に満足していそうな姿を見て、「政治家として落としどころの見えない実現可能性の低い
公約を掲げることに恐怖心とかないのかな?」と疑問に思っていたのですが、
本作を読んで大納得。

「落としどころ」とか「どうやって実現するか」とか「過去の発言と整合性が取れているのか」とか
そういう時間軸が全くない人なんだなと分かりました。
「今、どれだけウケるか」その一点にしか興味がない人なんだなと。
だから平気で嘘もつけるし、他人を切り捨てられるし、裏切ることもできるんだなと。
正直、病的なものを感じてしまいました。

そして、それが、父親のことに遡って描かれることで、
どうしてこんな人物になっていったのかが、どうしてこんな思考回路に疑問を持たないのかが
理解できました。50年以上もの時間軸に沿って、その歪みの蓄積が描かれているので
非常に腑に落ちる感覚が得られました。

中盤で、衆議院議員時代の同僚であった公明党の池坊保子氏の小池百合子評が
紹介されていましたが、「小池さんには政治家としてやりたいことがあるわけではなく
ただ政治家がやりたいのだと思う。だから常に権力者と組む。計算ではなく
天性のカンで動ける。周りに何と言われようと上り詰めようとする。そういう生き方が
嫌いじゃない。無理をしていないから息切れしない」、という趣旨の見立てに、
納得するとともに、恐ろしさを感じてしまいました。
特に最後の一文「無理をしていないから息切れしない」というところ。

政治家としての地位を上り詰めることが全てであり、そのために、その時々の権力者に
すり寄ることができ、過去の自分の支持者や発言と乖離が生じてもおかしいと感じない、
今このポイントに乗っかるべきだと思ったら全力で行動できる、そういう瞬間的な判断と
行動を、「無理なくし続けられる」という評価に、これからも、能力をいかんなく発揮して
暴走し続けそうで怖いなと感じてしまいました。

正直なところ、病的な権力欲と虚言癖だと感じてしまいましたが、
そんな人を政治家として持ち上げるメディアが居て、また重要ポストに登用する首相が居るところが
人気取りが必要な民主主義政治の限界なのかなと思ってしまいました。
安倍さんですら、この人を防衛庁長官に登用せざるを得ないという判断をしちゃってるのですからね。
この方の華やかな経歴と空虚な実績は、決して、小池百合子一人の問題ではなく、
メディアと、政治リーダーと、有権者にも大きな責任があることだと思います。

で、肝心の二階俊博研究ですが、二階さんはほとんど本作に登場せず、
進捗ゼロでした・・・・トホホ。




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『総理の影 菅義偉の正体』
- 2022/04/15(Fri) -
森功 『総理の影 菅義偉の正体』(小学館)、読了。

仕事の関係で、二階俊博衆議院議員のことを知りたい事情ができ、
適当な本はないかな~と、図書館やブックオフに行ってみましたが、
直接的に扱っている本は見当たらず・・・・・やっぱり総理にならないと
評伝とかは書かれないんだな・・・・・と、ある種当たり前のことに気づいたわけですが、
菅前総理の本がブックオフにあり、関係者として登場してくるかな?と思って試し読み。

書かれたのは2016年なので、第二次安倍政権で「安定のガースー」「鉄壁のガースー」なんて
一部で呼ばれ始めた頃でしょうか。ある意味、ネット保守界隈で最も愛されていたころかも。

でも、本作の表紙は、素人写真みたいな安倍元総理に象徴されるような
なんだか批判的な雰囲気の装丁と、著者が森功氏。
この方の本は、以前、同和利権と銀行の癒着を扱った作品を読み
凄みのあるルポルタージュを書く人だなと、感嘆した覚えが。
そんな人が書きたいと思う対象になっているという点で、「ガースー」的内容ではなく、
結構、批判的な感じなのかな?と思いながら読み始めました。

第一章は、橋下徹氏を大阪市長選挙に担ぎ出したエピソードから始まるのですが、
この菅義偉という人物の、表舞台にはあまり出てこずに、裏で暗躍する特徴が良く表れており、
私は、自分の描いた目標達成までの計画やプロセスを確実に実行していく力がある凄い人だ・・・・と
プラスに評価するのですが、潔癖症的な人からすると、こういう暗躍タイプは嫌われそうだなと。
政治家としての実績は凄いのに、イマイチ国民的人気が付いてこないのは、その辺がネックなのかなと
残念に感じました。

一方で、秋田の農家出身で、集団就職で上京し、その後、自力で大学を卒業したというエピソードが
美談的に語られがちですが、秋田の先進的農家の長男であり、
その父親は地元で町議会議員を何期も務める地元の名士であるというところが詳しく書かれており、
やっぱり、それなりの家の出で、ちゃんと教育や躾を受けた人だよなぁと再認識。

私が、最初に秋田から集団就職というエピソードを聞いたときに、違和感を覚えたのは、
「義偉」という難しい名前を付ける親なら、それなりに教養のある家柄のような気がするけど・・・・と
思った点でした。父親の満州での仕事ぶりや、そこからの撤収の過程、帰郷後の農業経営など
先見の明と計画性、そして計画を着実に進めていくガッツは、やっぱり、この親からこの子が
生まれ育ってくるんだなと納得しました。

小此木彦三郎議員の元での秘書修行の日々と、そこで学んだ人間巻き込み術を
政治家になって一層パワフルに行使していく姿を見ていると、
コロナで大変だった時に、この人が総理大臣であったことは、正解だったんだろうなと感じました。

政策的な面では、沖縄問題とか、マクロ的な視点で利害を考えている様子を見ると、
やっぱり冷徹な印象を受けてしまいますが、一部に我慢を強いられる人が出たとしても
全体で見たらプラスに寄与する割合が大きいように思いました。
ただ、それを理論的に語るだけでは、なかなか世論の支持は広がらなさそうなので
誰に何をどんなタイミングで言わせるかという読みが大事で、
それに失敗したり、思わぬ出来事が起きたりすると、足踏みしちゃうんでしょうね。

菅義偉という政治家の実行力の秘密が良く理解できる本でした。
肝心の二階さんはほとんど登場してこなくて、当初の目的は全く達成できてませんが(苦笑)。
菅総理誕生の経緯を描いた本だたら、二階さんバリバリ登場してきたんでしょうけれど。




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『つくもがみ貸します』
- 2022/04/14(Thu) -
畠中恵 『つくもがみ貸します』(角川文庫)、読了。

畠中恵さん、どうにも作品がしっくりこなくて、あんまり読んでいません。
「しゃばけ」シリーズとは別のもののけ作品を見つけたので
最後の挑戦のつもりで読んでみました。

・・・・・・・うーん。

損料屋兼古道具屋を営む姉弟が主人公。
この小さな店にある古道具のうちのいくつかは、
作られてから100年以上経った年季物で、そこには付喪神が宿っていて、
付喪神たちが会話をしだすと姉弟の耳にもその声が届いてしまいます。

自分たちの身の回りで起きた不思議な出来事の謎を解くために、
弟は、この付喪神の付いた古道具をあえて貸し出し、
付喪神たちに探偵役をやらせます。
この基本設定は面白いと思いました。

ただ、連作短編を繋ぐ大きなストーリーとして、
この姉にかつて恋焦がれていた男が行方不明になったという事件を絡め、
姉も弟も、この男にやたら執着しているので、そこに付いていけませんでした。
もう、忘れりゃぁいいのに‥‥・的な。

前半は、身の回りの謎や幽霊の話だったので、単発で楽しめたのですが、
中盤から、この行方不明の男の探索が話の中心となっていき、
正直、付喪神たちとの物語の相性があんまり良くないのではないかと感じました。

人間の男にスポットを当てるのではなく、
もっと付喪神に寄ればよいのに・・・・と。

さらに、関係者たちも、なんだか不自然な動きをするというか、
極端な性格の人が多くて、あんまり物語の世界に入っていけませんでした。

畠中作品は、これで終了かな。




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『逆説の日本史8 中世混沌編』
- 2022/04/12(Tue) -
井沢元彦 『逆説の日本史8 中世混沌編』(小学館文庫)、読了。

恐怖政治の足利義教以降の足利将軍たちは、みんな覇気がない印象ですが、
その印象のまま応仁の乱に流れ込んでいく権力闘争の様が解説されています。

明確なリーダーシップがないときに、日本人の「話し合い」という特性が全面に出てきますが
ルールのない行き当たりばったりの話し合いは、当然、ビジョンのない政治展開になっていき、
そこに権力志向の細川氏や畠山氏、私利私欲に走る日野富子、好戦的な武将たち、
サブタイトル通り、まさに混沌です。

私が日本史の授業で応仁の乱に興味が持てなかったのは、
ダラダラとした戦況もそうですが、誰も日本という国をどうしていきたいのか
明確なビジョンがないまま、自分の個人的な目的のために戦争をしているので
肩入れしたいと思う人物が居なかったことが原因なんだなと、
本作を読んで改めて認識しました。

そして、この混沌の原因を作った将軍義政は、政治センスが全くないということになりますが、
反面、芸術方面には素晴らしいセンスを発揮して、
東山文化という形で結実させ、現代の世にも伝わる日本家屋の作りの基礎になったというのは、
それはそれで素晴らしい功績です。
歴史って、難しいですね。

後半、観阿弥・世阿弥の解説のところで、なぜ日本には「演劇文化」が室町時代まで発展しなかったのか
という問いが立てられ、今までそんなことを考えたことがなかったので、
こういう視点もあるのかぁ・・・・・・と感嘆。

確かに、『万葉集』『源氏物語』『枕草子』など、偉大な文芸作品が多数出ているのに、
演劇というのは、室町以降のイメージだし、私の印象としては江戸時代以降の庶民のものという
イメージが強いです。

それを、井沢史観の「怨霊」というキーワードでスッキリ解説がなされて、大納得。
「怨霊」という軸で日本史が語られると、本当に、一つの民族の歴史が綿々と繋がっているんだなと
いうことを実感できます。

室町時代への見方も変わったし、7巻、8巻も面白かったです。




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『平凡』
- 2022/04/11(Mon) -
角田光代 『平凡』(新潮文庫)、読了。

角田作品の割には、それこそ「平凡」と感じてしまいました。

短編集全体を通じたテーマが、「もしあの時、別の行動をとっていたら違う人生があったのではないか」
と、その別の人生を主人公たちが夢想する話ばかりなのですが、
そのテーマ設定自体をありきたりだな・・・・と感じてしまいました。

さらに、私が、「もしあの時・・・・」みたいな思考回路を持っていないので、
テーマに興味を持てなかったんだと思います。

正直、なんでみんな、こんな意味もないことをうだうだと考えるんだろう?と疑問を持ってるクチです(苦笑)。
私はどちらかというと、自分が経験した全ての事象が積み重なって今この瞬間の判断に繋がっていると
考えているので、その瞬間瞬間の判断において、選択肢はたくさんあったとしても
「私自身の判断」は、その1個しかなかったと思っています。すべて必然の選択。
もちろん、「あの時、別の選択肢も存在していたな」という反省はしますが、
「この反省を生かして次はもっと冷静に判断しよ」と、この先について思うだけで、
「もしあの時こうしていれば・・・・・」と過去に戻ってうじうじ考えることは、しません。
だって、別の選択肢を取っていたとして、その後どうなったかなんて全くわからないですから。
しかも、どんなに一生懸命想像したって、それが実現することなんてないですし。

というわけで、主人公たちの発想に全く共感ができずに読み終わってしまいました。
角田作品なので、主人公の感情の描写は上手く描かれているのだろうと思うので、
「もしもあの時・・・・」的なことを考えるのが好きな人には、面白い作品なのだろうなと思います。

そもそも、冒頭の「もうひとつ」という作品の舞台設定が私の理解の枠から大きく外れていて、
入り口から躓いた感じです。
夫と二人暮らしの主人公は、年に1回、二人での海外旅行を楽しんでいますが、
ギリシャ旅行に友人カップルを同行させることに。
夫と妻それぞれの友人が、2人の結婚式の席で知り合って付き合うようになったのですが、なんとW不倫。
妻の友人の方は、夫からDVを受けており、その不幸を忘れるために外に幸せを見つけろと
このW不倫を推奨し、ついには海外旅行にまで連れていくほどに。
この思考回路が理解できません。
DV受けてるなら離婚を勧めろよー!

どうやらDV関係にある夫婦は共依存のようで、別れられないみたいなのですが、
旅行先のW不倫カップルも、公衆の面前で大声で喧嘩をし、「もう日本に帰る!」と怒鳴っていたかと思うと
夕食の席には2人仲良くやってくるという始末。
私はもう、こんなのに巻き込まれている主人公の旦那が可哀想で仕方なかったです。
旅先での盛大な喧嘩や、我が儘し放題のW不倫カップルに向かって、
それでも主人公は「もし彼女が、あのDV男と結婚してなかったら・・・・」と空想し、
2人の我が儘に付き合ってあげます。反対する旦那を放置してまで。

もう、私には、ついていけません。
我が儘カップルの存在が、そもそも「なんだこいつら!?」なのですが、
それ以上に、付き合ってあげる主人公の、「可哀想な彼女のために」という
本質的に間違った優しさに納得がいかず、ダメでした。

2話目以降は、ここまで極端な話は出てこなかったのですが、
最初の躓きで、最後まで心理的距離間のある作品となってしまいました。




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『仕事ができる社員、できない社員』
- 2022/04/10(Sun) -
吉越浩一郎 『仕事ができる社員、できない社員』(三笠書房)、読了。

タイトルだけだと避けるタイプの本ですが、
著者が吉越さんだったので買ってみました。

著者の本を初めて読んだとき、私はサラリーマンでした。
雇われ者の立場で読んでも勉強になると感じていたのですが、
雇う側の立場になって本作を読んだら、「そう!そう!そう!」と納得度が増幅しました。
というか、腑に落ち度がレベル違いです。

できる人とできない人を分けるポイントがいくつも解説されているのですが、
まず、その挙げられているポイントが、本質を突いていて、
「私もそう思ってた!」というものだけでなく、自分の中で何となく感じてたものを言語化してもらったような
「そう!そういうことだ!」という腑に落ち感もあり、納得できます。

さらに、そのポイントがなぜ重要なのか、なぜ、できる/できないを分ける要点なのかということを
非常にシンプルな言葉で説明されていて、無駄がないのに納得できるところに、
さすがのプレゼン力だなぁと感嘆。

あとでしっかりノートにまとめよっ!と、やる気が出る本でした。




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『極悪専用』
- 2022/04/09(Sat) -
大沢在昌 『極悪専用』(文藝春秋)、読了。

ハードボイルド作品は、その独特な世界観というか、独特なルールが苦手で
著者はハードボイルド作家という認識なので、あんまり触手が伸びないのですが、
本作は実家の本棚にあったので読んでみました。
両親の趣味とも思えないので、いただきものかな?

結論から言えば、面白かった!
裏社会の物語なのですが、ウィットにとんだ語り口と、魅力的なキャラクター達で
サクサク読める連作短編集でした。

タイトルは小説の舞台そのものを表しており、
多摩川べりのマンションを裏社会の組織が買収しまるごと管理。
そこに住むには何かから逃げたり、身を隠す必要がある、まぁ簡単に言えば犯罪者が住人。
完璧なセキュリティとプライバシー保護を謳い文句に、高額な家賃で貸し付けています。
死体の回収や武器の保管庫など特殊サービスも充実。

主人公は、裏社会で絶大な力をもつ祖父の威光で、好き放題やってきたイキッたおにいちゃん。
祖父のお仕置きで、このマンションの管理人助手として1年働かされることになり、
下手を打つと即死という過酷な環境で、もちまえの要領の良さで生き延びていきます。

50室以上もあるマンションなので、殺し屋、ハッカー、アラブの富豪、元CIAなど
様々な人間が住んでおり、短編それぞれでいろんな事件が起きます。
話を大きくしようと思えば、1つ1つ膨らますことができそうなネタばかりですが、
あえてサクッと話を終わらせ、マンションのルールである「完璧なセキュリティとプライバシー保護」の
枠内でしっかり収まらせているので、起きている事件は過激なものばかりですが
小説として風呂敷を広げ過ぎて破綻していくようなところが目につかず、
すんなりと小説の世界を楽しむことができました。

ハードボイルド作品を好む人にとっては、このあっさりと短い分量で終わらせてしまうのが
物足りないというか、全然ダメ!という感想になってしまうのではないかと思いますが、
私は、ある種、ブラックユーモア小説として捉えたので、そのサクッとした感じが
裏社会の冷たさとリンクしているようで、良い味になっていると感じました。

続編が出てるなら読んでみたいのですが、出てなさそうですね。




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『水銀灯が消えるまで』
- 2022/04/08(Fri) -
東直子 『水銀灯が消えるまで』(集英社文庫)、読了。

著者の小説デビュー作とのことで、
潰れそうな古い遊園地「コキリコ・ピクニックランド」を舞台に、
そこに、なぜだか引き寄せられてしまった人たちが主人公の連作短編集です。

冒頭の「長崎くんの指」の主人公の女は、銀行勤めの時に金庫から何も考えずに
300万円を盗んでしまい、逃亡している状態で遊園地にやってきます。
一応、過労で精神状態がおかしくなっていたという説明はありますが、
そういう状態で変なことをしてしまう人もいれば、しない人もいて、
しない人の方が大勢だと思います。

私はそういうときの、「しちゃう人」の存在が怖いです。
何をしでかすかわからない怖さというものあるのですが、
自分も追い込まれたら何か「しちゃう」んじゃないかという怖さです。

本作には、夜の間に服から下着まで全部脱いだ状態で行方不明になってしまう人とか、
他人の家の前で行き倒れかつ記憶喪失になりその家に住み着いちゃう人とか、
そういう身元の分からない人をウキウキとして家に居候させちゃう人とか、
そういう変な人がたくさん登場してきます。

遊園地という場所柄から、ファンタジー的に捉えることもできるし、
寂れた遊園地という場所だらから、ホラー的にも捉えることができるのに、
私はなんだかリアルな存在として、「こんな人が近くに居たら怖い」「自分がそうなってしまったら怖い」
という風に捉えてしまいました。

ぞっとする短編集です。

最後、この遊園地が閉園した後のことが描かれていて、
このおかしな空間が消えるのかとほっとしてたら、案の定、
草むらに立つとぴょんぴょん飛び跳ねるのが楽しくなってしまって
そのまま遊園地の敷地内に入って滑り台を楽しんでしまう男になってしまって
あーあ、魔力は消えてないのか・・・・・という恐ろしさ。

さらには、著者あとがきに書かれた、実家の庭の奥の部屋に住んでいた女の話。
どこまでが本当のことで、どこからが脚色なのかわからない怖さ。

そして、解説で穂村弘さんが紹介していた著者の本業である短歌の美しさ。
こんなに美しい情景を読む人が、こんな不気味な話を書くなんて・・・・・というところから
短歌までが不気味な世界のように捉えられてしまう感覚に陥りました。




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『京都清水坂殺人事件』
- 2022/04/07(Thu) -
山村美紗 『京都清水坂殺人事件』(講談社文庫)、読了。

ワクチン休養で大掛かりな御手洗作品をちょうど読み終わったあたりで、
解熱剤が利かなくなってきたのか、37度台から再び38度台に体温が上昇し、
38.8度まで上がってしまったので、さすがに気分ぐったり。
で、頭を使わずに読めそうな山村美紗作品へ(苦笑)。

清水焼を製造販売する店の店主が正月明けに殺され、
同業者仲間の新年会に向かう途中だったということで同業他社を巻き込んでの
犯人探しがスタートします。

京都の工芸品の関係者の世界が覗けて、こういう業界なのかぁ・・・・という
お仕事小説的な面白さは若干ありましたが、
推理展開が、刑事部屋であーでもない、こーでもないと空想をたくましくしているだけで
なかなか真相に近づいていかないので、ちょっとうんざり。

まぁ、こういう作品なんだとは思いますが、
熱っぽい頭で読むには、爽快感が足りませんでした。




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『星籠の海』
- 2022/04/06(Wed) -
島田荘司 『星籠の海』(講談社)、読了。

実家に置いてあった分厚い上下2巻本。
両親の趣味ではないと思うので、お客様からいただいたのかな?
3回目ワクチンの翌日は休養日にしたので、一気読みしてみました。

タイトルのカッコよさや装丁の重厚さから、どんな作品なんだろう?とワクワクしたのですが、
開けてみたら御手洗シリーズでした。
というわけでお気楽読書に気持ちを切り替え(苦笑)。

瀬戸内海の西方に浮かぶ小島に、死体が何体も流れ着くという事件が
御手洗の元に持ち込まれ現地に向かいます。

そして話は急に場面が代わり、瀬戸内海の小さな町から女優を目指して上京した少女と
その少女にくっついて上京した男の話に。
この部分の物語が、ありきたりな甘っちょろい関係に、衝撃的な事故の話を絡めたもので、
正直、読むのがしんどかったです。長い・・・・・。

まぁ、この男が後々の事件のキーマンになり、その特異なモノの考え方を読者に納得させるには
これだけのページを割いて説明する必要があったのだと思いますが、
小説のシーンとしてあまり面白さを感じられませんでした。

そのシーンが終わってからは、ぐいぐい面白くなってきました。
瀬戸内海を根城にした村上水軍の話や、
江戸末期に老中の阿部正弘が決断した開国の話、
そしてカルト教団が地方都市を飲み込んでいく様とか、興味深い話がてんこ盛りでした。

カルト教団については、「教祖が韓国人」「合同結婚式」なんていうパワーワードが登場し、
「こんなに露骨に犯罪集団として描いて大丈夫なのかしら?」と変に心配してしまいました。
まぁ、「うちのことをこんなに悪く描くな!」なんていうクレームは起きないでしょうけれど(苦笑)、
それこそ暗闇で狙われそうな怖さがありますわ。

あと、そんな教団に地域をめちゃめちゃにされているという描かれ方をした福山市の市民は
どんな感情を持ったのかなあと、そちらが心配。
福山市市制施行100周年記念で本作が映画化されたようですが、
この描き方でお祝いになるのかしら?と。
まぁ、村上水軍や忽那水軍、阿部正弘を評価高く描いているから大丈夫なのかな。

物語展開や、事件の真相は、まぁ本格小説なので強引なところがあるのは許容範囲です。
こんなものかなと。
小説の舞台の演出が豊かで面白かったです。

阿部正弘については、また別の機会にちゃんと読んでみたいです。






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