『タイムスリップ明治維新』
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- 2022/01/30(Sun) -
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鯨統一郎 『タイムスリップ明治維新』(講談社文庫)、読了。
タイムスリップシリーズの第2弾。 第1弾は森鴎外が現代にやってきましたが、本作では女子高生が明治維新の世界に飛ぶという設定。 タイムパラドックスの問題は、真面目に考え始めると収拾がつかなくなるので、 全部スルーして気楽に読みました。 タイムスリップして何か歴史と異なる出来事を起こすと支流ができ、 支流は本流に戻ろうとする自浄作用があるけれど、 一定限度を超えて異なる出来事が起きると支流は確定してしまう・・・・・ かなり都合の良い設定ですが、歴史をごちゃごちゃいじってエンタメにするには 使いやすい設定なんでしょうね。 リンカーンが江戸町奉行に就任するとか、かなりぶっ飛んだ展開ですが、 日米の同時代における歴史状況を知るには、面白い着眼点でした。 小栗上野介がタイムスリップを悪用して暴利を貪ろうとしているのを 女子高生と幕末の志士たちが協力して防ぐというストーリーですが、 明治維新という日本を革命的に変化させたプロジェクトにおいて 誰が本当のキーマンなのかを知るには、面白かったです。 ただ、あまりにぶっ飛んだ設定と、主人公の女子高生のキャラクターも飛んでるので、 真面目に歴史を読みたい人には、受け入れにくい作品だとは思いますが。 笑いながら歴史の裏側をお手軽に知るには、ちょうどよい本かなと思いますが、 基本的な日本史の知識がないと面白さが分かりにくいですし、 真面目に日本史に向き合ってる人には受け入れ難い演出かと思いますし、 なかなか読者を選ぶ作品なのではないかと思われます。 ![]() |
『逆説の日本史7 中世王権編』
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- 2022/01/28(Fri) -
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井沢元彦 『逆説の日本史7 中世王権編』(小学館文庫)、読了。
第7巻を100円で見つけたので、半年ぶりに井沢史観。 南北朝時代と室町幕府の成立あたりの話ですが、 子供の頃、NHKの大河ドラマ『太平記』を見てた世代なので、 足利尊氏は真田広之、楠木正成は武田鉄矢、後醍醐天皇は片岡孝夫が 頭の中で動き回ってました(苦笑)。 相変わらず本篇でも、武士たちには「天皇を討つ」という発想がなく、 「君側の奸を討つ」という名目で、天皇に味方する武力勢力を叩こうとします。 天皇制度という大きな枠組みを、誰一人裏切ることなくその枠の中で権力争いをし、 枠組み自体をぶっ壊そうとする革命児は現れてきません。 日本人って、まじめだよなー、と、変なところで感心。 でも、「天皇に逆らうと怨霊に苦しめられる」という恐れがあると その枠組みに挑戦しようという漢はなかなか出てこないのかなぁ。 で、尊氏も天皇家の権力のもとで幕府を開こうとするわけですが、 今までの武士の棟梁と比べると、なんだか優柔不断な印象が。 戦には強かったようですが、政治センスがなさそうなんですよねー。 戦国時代の大名たちは、戦のセンスと政治センスと両方を持ち合わせていないと すぐに有力な大名に潰されてしまう競争体制だったこともあり、 優秀な人物が同時代にたくさんいたように感じますが、 それに比べると尊氏は粗削りな印象です。時代のせいですかね。 室町幕府と言えば、足利義満が最初に頭に浮かんでくるのですが、 教科書で学んだ義満のイメージは、勘合貿易とか北山文化とか なんだか金満政治のような印象だったんですよね。 義満が天皇になろうとしていたというエピソードは教科書にはなかったような気がするのですが 私が室町時代に興味がなかったから覚えていないだけなのか、 それとも天皇の座を乗っ取ろうとした出来事は、忖度して教科書からは消されているのか、 興味深かったです。 同様に、義教については、くじ引き将軍というエピソードばかりが印象に残ってて あんまりその政治手腕については知らなかったのですが、 恐怖政治の内容を知るにつれ、混乱した時代を収めるには 剛腕が必要なんだなぁ・・・・彼はやり過ぎたみたいだけど・・・・・。 ということで、このあたりのバランスが取れると、家康のようなレベルの政治家として 後世に名が残るんでしょうね。 当時の外的環境とか物事の経緯とか、自分にはどうしようもない要因もあって 時代が混乱していたことは可哀そうだなという一面も。 なんだか、「運も実力のうち」という変な感想を持ってしまいました。 ![]() |
『ダブル・トラップ』
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- 2022/01/25(Tue) -
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大沢在昌 『ダブル・トラップ』(集英社文庫)、読了。
ハードボイルド作品というのは、独特の文体というか文章の雰囲気になじめなくて あんまり触手が動かないのですが、本作はブックオフで50円だったので 試しに買ってきたものかと思われます。 ずーっと積読だったのですが(苦笑)。 主人公は、地方で高級志向のレストランを経営する男。 その町にやってくる前は、「松宮産業」という組織で、何やら怪しい活動をしていた・・・・。 この過去の経歴について、前半で思わせぶりな描写が続くのですが、 裏表紙のあらすじに「元政府機関の腕利き諜報員」とネタバレされてて意味なし(爆)。 ただ、正直、身バレまでにこんなに回りくどい描写をする必要性はあまり感じられず、 あらすじで「政府の諜報員」と明記されているから読みやすいと感じました。 編集者グッドジョブ! ということで、ハードボイルド作品が苦手な理由のひとつ目、 思わせぶりな描写が延々続くというという点は、あらすじのおかげでクリアできました。 松宮産業という日本政府の諜報機関、そして当然、CIAや中東方面の諜報機関も登場してきて これらインテリジェンス界の活動は興味深く読みました。 それこそ、佐藤優氏や手嶋龍氏の作品などで、現実世界のインテリジェンスについての 解説は読むことができますが、それらは日常生活に表面的には出てこない裏の話なので 「もし表の日常生活に諜報員たちが登場してきたら・・・・」という空想をするには ハードボイルド作品というのは一つの手段だなと思いました。 特に本作は、大手商社が絡んでくるという点で、日本らしさもあって面白く思いましたが、 一方で、結局真相を辿ってみると、 内々で潰しあいをしているだけなのではないかという大局観のなさも気になり、 なんだか最後は尻すぼみな感じでした。 やっぱりインテリジェンスの話には、「世界はこうあるべきだ」という大局観が たとえそれが独善的な思想であっても、そういう大きな話がセットになっていてほしいものです。 その点では、佐藤優氏の著作を超える知的興奮は得られませんでした。 ハードボイルド作品については、私立探偵が目の前の殺人事件を解決するような類のものは 多分、今後も興味を持てないような気がしますが、 本作のような政府の諜報機関が出てくるような作品なら、もう少し挑戦してみても 良いかなと思いました。 ![]() |