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『ひとりの午後に』
- 2021/10/29(Fri) -
上野千鶴子 『ひとりの午後に』(文春文庫)、読了。

上野千鶴子女史の身の回りのことを綴ったエッセイ。
季節の花、お菓子、車、ペット、散歩など、誰もが日常で触れる物事について書かれているので、
いつものような闘争的な面は控えめになっていて、ある種、爽やかに読めます。

女史の主義主張については、私は是々非々で見ているのですが、
日本語の文章という点では、読みやすい文章を書く方ですよね。
この才能があるから、フェミニストとしての発言が、
他の発言者に比べて世の中に入っていきやすいのかなと思います。

さて、ところどころ気になる描写がありました。

お父様の葬儀はキリスト教式、お母様の葬儀は仏式だったそうですが、
仏式の葬儀について「違和感を覚えた」と書かれています。
意味の取れない読経、気のない僧侶、派手な法衣、花輪の群れ、
表面的には違和感の理由を羅列されていますが、本質的に何が気にくわなかったのか
このエッセイからは分かりませんでした。
エッセイの主題が宗教の話とは違ったからかもしれませんが、
だったら、こんな風に、仏教に喧嘩を売らなくても良いのに・・・・と思ってしまいました。

そして、やっぱりフェミニズムの話が、エッセイには前面には書かれていなくても
読む側としては気になります。

例えば、好きな歌の話。
「着てはもらえぬセーターを、寒さこらえて編んでます」の都はるみは嫌いで、
「いつもドアを開けたままで着替えして男たちの気を引く浮気女」の浅川マキは好き。
え!?私のフェミニスト論者観では、後者も性的な目で女を評価していてダメだ!と
批判の対象になるのかと思いきや、自由な女を歌っているから好きだとのこと。

うーん、難しい・・・・。
私がフェニミストさんたちを苦手に感じているのは、多分こういうところなんだろうなと思い至りました。
OKとNGの線引きが難しいんですよね・・・・・というか、私の頭ではロジカルに整理できないです。
すごく感覚的な部分で○×を付けているような気がしてしまうんです。

だからといって、今の女性は何もかも虐げられているから、全てがNOだ!!
と言われてしまったら、それはそれで面倒な人なのですが(苦笑)。

都はるみ的な女性も、浅川マキ的な女性も、どちらも多様な女性の生き方だとして
認めてくれたら楽なのに・・・・と思ってしまいます。

フェミニストによって、いろいろ主張の細かいところに差があるのも、体系だてて理解しにくいところですが、
それ以上に、一人のフェミニストの中の基準というものについて、
今のところ、すっきり理解できるフェミニストを見たことがないです。

というわけで、なんだか上の感想を読むと不満がいっぱいあるように見えてしまいますが(苦笑)、
エッセイ自体は面白く読みました。
日常にもきちんと目を配っている人なんだなと感じました。




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『行動することが生きることである 生き方についての343の知恵』
- 2021/10/28(Thu) -
宇野千代 『行動することが生きることである 生き方についての343の知恵』(集英社文庫)、読了。

宇野千代さんの作品は日記から入って、それを面白いと感じられたので、
エッセイも面白く読めるだろうと思い、買ってみました。

具体的な日常のエピソードから、著者の考えみたいなものが展開されていくのかなと思ったら、
結構、抽象的というか、哲学的な文章でした。

ちょっと概念的で小難しく感じたところもあったのですが、
一番共感できたのは、とにかく前向きに受け入れるという姿勢です。

日々幸せを感じられることを幸せだと素直に思うこと、
小さなことでも幸せだと思えたら、口に出して幸せだと言う、
ことばにすればその通りになる、
嫌なことはすぐに忘れる・・・・・。

上記のような心持ちで受け止める人と、毎日がつまらないなーと思っている人とでは、
同じような日々を過ごしたとしても、全く「Quality of Life」が違うんでしょうねー。

こういう前向きな人って、困難に直面しても強いと思いますし、
肝が据わっているように思います。
その結果、たぶん、上手に困難を乗り越えられたり、周囲の人が助けてくれたり、
うまく回避できる道を見つけられたりして、
実利的にも得るものが多いような気がします。

たぶん、ポイントは、そういう心持ちを常に持ち続けられる持続性にあると思います。
思いついたときだけ「幸せだなぁ」と考えるとか、余裕のある時だけ「幸せだなあ」と感じるのではなく
苦しいことがあったときも、何か小さな幸せを見つけ出して「幸せだなぁ」と思うこと、
その「常に」がちゃんとできるようになると、多少のことでは折れない心が作れるのかなと。
非常に忍耐力のいることだと思いますが、その分、何らかの形で良いことが巡り巡ってくるように思うので
私もがんばろうっと。

ところで、343っていう数字はどこから来たのかな?




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『ブッシュ・ファミリー』
- 2021/10/27(Wed) -
キティ・ケリー 『ブッシュ・ファミリー』(ランダムハウス講談社)、読了。

どこかの書評で面白いと書かれていたので、ブックオフオンラインで購入したものの、
ハードカバーの厚さに怯んで、いままで積読でした。

自民党の総裁選があり、まもなく衆院選もあり、
政局が活発化しているので、なんとなく政治関係の本が読みたくなり、挑戦しました。

日本人にとって「ブッシュ・ファミリー」というと、ブッシュ・シニア大統領とブッシュ・ジュニア大統領の
2人のことだと思います。クリントン・ファミリーとブッシュ・ファミリーで四半世紀以上にわたり
王朝交代を繰り返す懸念があるとして、ヒラリー・クリントンが大統領選挙に出馬したときは
結構、批判されてましたよね。結果的にはオバマさんになりましたが。

というわけで、シニア&ジュニアの半生記なのかと思っていたら、
シニアの父であるプレスコット・ブッシュの話から始まり、
むしろプレスコットのエピソードが半分以上を占めているほどで、
これは日本人の一般読者にとってはハードルが高かったです。

アメリカ人が、安倍元総理と麻生元総理のコンビに興味をもって
「麻生一族」という本を読んだら、麻生セメントの麻生太賀吉さんの話が半分を占めてた!
というハードルの高さじゃないでしょうか?
もし日本人が読んだら、太平洋戦争前後の大変な時期にのし上がっていった人物として
興味深く読めると思うのですが、一般のアメリカ人が読み進めるには大変かなと。

まぁでも、ブッシュ家の押しの強さと、自分の階級の特権に全く疑問を持たない姿勢、
そしてエール大学の人脈や学校の威光を200%活用する要領の良さは、さすがです。
そりゃ、米国政界を制して王朝も作れますわな。

今、眞子様の結婚報道で、米国の大学に特権を活かして不正な入学ができるかどうか議論になってて、
パックンが「制度的に不正入学はできない」とか反論してるみたいですが
ブッシュさん、思いっきり下駄はかしてもらってるやん(爆)。

こんなアホな感想を持ってしまって以降、読書しつつ、頭の中は眞子様の結婚の方にシフト(苦笑)。
一般的な日本人は、ブッシュ・ジュニア氏の大統領選での再集計とかで大揉めしてた時に
下世話な興味も含めて相当な関心で見てましたが、それが解決したら、一気に大統領個人に対しては
関心下がりましたよね。

同じように、眞子様御夫婦の渡米って、渡米した当初は米国のメディアがそれなりに報道すると思いますが
翌日からは関心がほぼなくなるような気がします。
所詮、下に見ているアジアの国の、天皇としての承継の権利がない人達の話ですから。

日本の報道の中には、「メグジット」に準じるという扱いをしているところもありますが、
アメリカ人にとっての英国王室はやっぱり特別な意味がある組織だと思いますし、
さらにメーガン妃はアメリカのエンタメ界で活躍してた人なのですから、
アメリカ人の興味の「格」も「質」も違いますよね。

日本のメディアは引き続き、米国における御夫婦の生活を追いかけるのかもしれませんが、
少なくとも米国内で注目が続くとは思えません。
正直、日本国内で普通に降嫁した他の内親王の方々と同じように、
静かな生活になっていくのではないかと思います。
それが、御夫婦にとっても、怒ってる日本国民にとっても、良い落としどころな気がします。
今更、誰が何をしたって、この溝を埋めることは出来なさそうですから。

というわけで、余計なことばかり考えた読書となってしまいましたが、
著者の作品では、むしろ、英国王室を扱った『ザ・ロイヤルズ』の方が日本人には合いそうです。
そちらも探してみたいと思います。




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『会社の中はジレンマだらけ』
- 2021/10/25(Mon) -
本間浩輔、中原淳 『会社の中はジレンマだらけ』(光文社新書)、読了。

特に著者名には心当たりがなかったのですが、
タイトルが面白そうだったのと対談形式だったので買ってみました。

読む前にもう一度ちゃんと著者紹介を見てみたら、
Yahoo幹部と大学准教授の組み合わせとのこと。
この手の組み合わせは、対談における具体と抽象のバランスをどこで取るかによって
当たり外れがあるように思うのですが、今回は具体的な現場の話に寄せていて
非常に勉強になりました。

編集側が提示した5つのテーマで2人が対談をし、そして例題として編集部が用意した
会社の中で起こりがちなマネジメント上の問題について、
2人が自分はどうするという判断をスパッと書いています。

まず、この対談部分が、自分が経験した具体事例で語る本間氏と
多くの企業の事例を集めて分析した結果で語る中原氏とで、
ちょうど議論がT字のように、広さと深さが両方カバーされていて、
とても身になる議論になっていると思いました。

本間氏が語る具体事例は、Yahooという急成長した成功事例の会社で、
かつ若くて優秀な人材が集まっているであろう会社でさえも、
マネジメントの問題は、個々にいろいろ湧き出ているんだなとわかりました。
そして、そこに対して、上司や同僚という個人でしっかり対応し、
そして、その対応が十分にできるような制度を会社が整えているという姿が分かり、
だから成長できるんだろうなと納得。

私の感想としては、マネジメント上の問題に向き合っているのは
あくまで社員個々人が主で、会社はサブなのだなということが分かり、面白かったです。
結局、マネジメントの問題は、人間関係だったり人間個人の悩みに起因するものが多いと思うので、
それに対応する側も個人でぶつかっていかないと進展しないんだろうなと納得。

会社ができることは、悩んでいる人と周囲の人がきちんとコミュニケーションをとれるような仕組みを
どうやって予め作っておいてあげるかということと、問題が起きた時にアラームが鳴るような
チェックの仕組みを導入しておけるかという、制度側の準備という補佐部分だなと思いました。

もちろん、そういう社員同士が助け合おうと思える雰囲気を社内に醸成できるのかというのは
会社側の課題なんですけどね。

組織と個人の役割分担というか、関わり合いって難しいですよね。
今更ながらに、その本質的な問題に気づいてしまいました。




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『二十歳の原点』
- 2021/10/24(Sun) -
高野悦子 『二十歳の原点』(新潮文庫)、読了。

先日読んだちきりんさんの本で、ちきりんさん自身が日記を書こうと思ったきっかけとして
本作のことを挙げていました。
そういえば、積読だったなぁ~と思い、早速読んでみました。

学生運動吹き荒れる京都の大学に在籍中に、自殺という道を選んでしまった著者の日記です。

読みだす前は、「学生運動にのめりこんでいた大学生+自殺までの日記」という組み合わせに
革命を熱く訴えるようなガチガチ学生闘士な文章が続くのか、
それとも哲学的に自己肯定感の低い暗く重い文章が続くのか、
果たしてどちらだろうかと予想しながら手に取ったのですが、
なんだか明るい学生さんの日常日記で、予想が大きく外れました。

たしかに、バリケードとか、革命とか、そういうイカニモな単語は出てきますが、
でも、自分が今日感じたこと、今思っていること、日記を書いて気持ちをリフレッシュしたこと、
そういうことが素直な文章で書かれていて、「なんでこんな娘が自殺なんて選んじゃうの?」と
驚いてしまいました。

特に、日記の締めくくりの部分。
いろんな思いや悩みを書きながら、最後は、そんな内向きな自分に線を引くように
ちょっとおちゃらけた言葉で自分の気持ちを盛り上げて、明日を迎えようと切り替えています。
この一見明るく見える文章が、とっても心惹かれるんですよね。

他人に見せることを意識していなかったと思われる日記において、
こんな風に自分の思いを飾らずに表現し、自分自身を明るく鼓舞している文章は、
読んでいて気持ちが良かったぐらいです。

いったい何がきっかけで自殺に追い込まれていくのだろう?と
中盤から不思議に思ってしまうぐらいでしたが、結局、最後の最後、
睡眠薬とかの話が日記に登場してきても、「なんで睡眠薬が出てくるの?」と思ってしまうほど
自殺するほど悩んでいるのかが良く理解できませんでした。
私が楽天的すぎるのかなぁ・・・・。

結局、直接の原因は恋愛問題ということなのでしょうか?
そして、睡眠薬の話が出てきたので、自殺の方法はそれかと思いきや
まさかの電車への飛び込みだそうで、唐突に死の思いに囚われちゃったのでしょうか。

読み終わって、いろいろ考えてみても、自殺という結末がしっくりきませんでした。
日記の中でさえ、自分のことを前向きに表現しすぎちゃって
本心とのギャップに耐えられなくなっちゃったのかなぁとモヤモヤ。

いずれにしても、こんな文章を書ける人材が若くして命を捨ててしまったことを残念に思います。
学生運動仲間で、彼女の気持ちの変化に気づいてあげられる仲間はいなかったのかなぁ・・・・。




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『歴史を変えた誤訳』
- 2021/10/23(Sat) -
鳥飼玖美子 『歴史を変えた誤訳』(新潮文庫)、読了。

翻訳家や同時通訳者の本は何冊か読んできましたが、
「歴史を変えた」というからには、政治絡みの話がメインで、
その誤訳の影響の大きさを理解するには、最もよい教材だなと思いました。

誤訳がもとで原爆が投下された・・・・というエピソードは、
あまりにもその影響が大きいため、軽々しい感想を書くのはためらわれますが、
ただ、一方で、このエピソードは果たして「誤訳」なんだろうか?という疑問も。

私の日本語観では、「黙殺」って意識的に回答や反応をしないことであり、
それは「無視」に近いというか、むしろ無視以上の「意思」を感じ取ってしまいます。
それが、日本政府は「静観」の意味で使ったので、英訳で「無視」とされて誤訳だ!という
エピソードなのですが、私には、英訳はまっとうな気がします。

日本語で「黙殺」を「静観」のような穏やかな意味で使う人って一般的ですかね?
軍隊が肩ひじ張った表現をしようとして敢えて「黙殺」と表現したのなら
それはもう、英訳の問題ではなく、軍隊側の見栄っ張りな性質の問題ですよね・・・・。

というわけで、冒頭の誤訳エピソードは、ちょっと疑問符な感じでした。
まぁ、原爆投下の原因を、「誤訳」という外的要因に責任転嫁したいという
日本政府の思惑なのかもしれませんが。

その後、様々な「誤訳」のパターンが紹介されていますが、
翻訳者が良かれと思って意訳したり、表現を足した結果、思わぬ含意が生まれてしまったもの、
翻訳者が意図的に原文を端折って通訳したため、中身のない発言になってしまったもの、
通訳者が政府の人間だったために、発言におかしなお墨付きがついてしまったもの、
等など、具体的な事例にそった解説だったので、とても分かりやすく、
また翻訳者・通訳者が背負っている責任の重さが痛感できる内容でした。

日本人らしい変な気づかいや誤魔化しが、致命的なミスコミュニケーションに繋がるケースもあり、
自分も気を付けないと・・・・と思える本でした。




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『名短編、ここにあり』
- 2021/10/22(Fri) -
北村薫、宮部みゆき編 『名短編、ここにあり』(ちくま文庫)、読了。

先に続編の方を読んでいたアンソロジー。
続編の方は読む前のイメージと異なっていたので感想が落ち着かないものとなっていましたが
今回はどんな感じかわかってたので楽しめました。

冒頭は、半村良の「となりの宇宙人」。
実は、15年以上前にこの作品を収録した短編集を読んでいるのですが、
その時は、あんまり楽しめなかったようです。

でも、今回は、面白く読めました。
作品自体が持っているユーモアも良かったのですが、
この名短編シリーズの最初の最初に当たる作品がこれだ、あえてこれを選んできたんだという
作品外での評価も加わり、興味深く読めたのかなと思います。
宙さん、いいキャラですよね(笑)。

そして、続編よりは、知っている作家さんは多かったのですが、
聞いたことがない作品ばかりで、「この有名作家がこんな作品を書くのかぁ~」という
意外性も楽しめます。

個人的に面白いなと思った作品は、小松左京「かくし芸の男」、吉村昭「少女架刑」でした。




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『時そばの客は理系だった』
- 2021/10/21(Thu) -
柳谷晃 『時そばの客は理系だった』(幻冬舎新書)、読了。

東京に住んでいた時は、時々寄席に行って落語を聞いていたので
普通の人よりは落語に馴染みがあるつもりですが、
落語の中に数学の要素ってあんまり感じたことがありません。
(数をごまかす系の話はありますがそれは「数学」ではないよね)

一体、落語と数学をどうやって繋げるんだろう?という興味で買ってきたのですが、
読んでみた結果、落語と数学のつながりはあんまりなかった(爆)。
結構、強引な話の展開で、その噺から級数にもっていくのは無理だろう・・・・とか。

落語を起点に読んだ人は、強引さが目に付いてあんまり楽しめなかったのではないかなと思います。
数学を起点に読んだ人は、数学の世界を多角的に解説するという点が楽しめたのではないかなと思います。

何に興味をもって読むかで、満足度が大きく変わりそうな一冊でした。




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『琥珀のまたたき』
- 2021/10/20(Wed) -
小川洋子 『琥珀のまたたき』(講談社文庫)、通読。

4人兄弟の末っ子が、犬に頬をなめられた後に亡くなり、
「魔犬の呪いだ」と考えた母は、残りの3人の子供を連れて別荘に引っ越し、
さらに様々な生活のルールを課したうえ、子供の名前も変えてしまいます。
図鑑の中からランダムに選んだ「オパール」「琥珀」「瑪瑙」へと。

著者の筆力で不思議な世界観が広がっているので、なんとなく読み進めていけましたが、
でも、「これって精神的にかなり歪んだ母親と、その母親に支配された歪みに気づけない子供の話だよな」
と気づいてしまうと、私には苦手なジャンルなので、読みこなせませんでした。

登場人物それぞれにとっては、それぞれの正義なり正しさなりで行動しているのだと思いますが
そういう真っすぐすぎる思いとか、視野が狭そうな感じが、
私には恐怖を覚えてしまうので、どうにも苦手です。

もうちょっと現実社会と接点がある話だったらついていけたかと思うのですが、
それだと小川ワールドの魅力が半減しちゃうのかな。

物語のキーになるアイテムが「図鑑」という、ストーリーもへったくれもない
ただただ事実を羅列するという冷たさを持った書物であることも、
この作品のダークな雰囲気を強めているんだろうなと感じました。




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『ツバサの脱税調査日記』
- 2021/10/19(Tue) -
大村大次郎 『ツバサの脱税調査日記』(幻冬舎文庫)、読了。

税務の解説本を書いている売れっ子作家は、小説分野に手を広げるのが王道なんですかね(笑)

ただ、本作は、小説風にはなっていますが、小説と言い切るにはちょっと苦しい構成です。
8つの章に分かれているので8つの脱税事例が出てくるのかと思いきや、
丸々1章を税務署の仕組みの解説に充てていたりして、小説にはなり切れていません。

さて、物語の主人公は、税務調査に抜群の成績を残し、2年目にして特別調査班に抜擢される
中学生の女の子にしか見えない岸本翼。
脱税指南税理士の幸田との対決の中で成長していく姿が描かれます。

小説としてはイマイチでしたが、具体的な事例を通して脱税の手口を解説するという点で
小説風になっているのはわかりやすいです。
現金商売の飲食店がどんなふうに脱税するのかは解説本で知識として知ってましたが、
税務署がどういう風に脱税の指摘をして、ごねる飲食店側とどういう風に交渉するのか、
また税理士がどんな風に抵抗するのか、強弁するのか、
カリカチュアライズされている面もあるとは思いますが、分かりやすかったです。

今回の対決相手だった幸田税理士は、最後、「脱税だと証明してみろ!」というような
強い姿勢で税務署に向かってきましたが、ここまで強弁するケースって、
実際にはあるんですかね?

税務署側もメンツがありますから、余計な対決姿勢はムダな闘争をあおるだけで
税理士にとっても不利な気がします。
適度なところで手を打つ調整力の方が大事なのかなーと。

お互い人間ですからね。
人間らしい落としどころの見つけ方が良いのかなと思いました。




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