『行動することが生きることである 生き方についての343の知恵』
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- 2021/10/28(Thu) -
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宇野千代 『行動することが生きることである 生き方についての343の知恵』(集英社文庫)、読了。
宇野千代さんの作品は日記から入って、それを面白いと感じられたので、 エッセイも面白く読めるだろうと思い、買ってみました。 具体的な日常のエピソードから、著者の考えみたいなものが展開されていくのかなと思ったら、 結構、抽象的というか、哲学的な文章でした。 ちょっと概念的で小難しく感じたところもあったのですが、 一番共感できたのは、とにかく前向きに受け入れるという姿勢です。 日々幸せを感じられることを幸せだと素直に思うこと、 小さなことでも幸せだと思えたら、口に出して幸せだと言う、 ことばにすればその通りになる、 嫌なことはすぐに忘れる・・・・・。 上記のような心持ちで受け止める人と、毎日がつまらないなーと思っている人とでは、 同じような日々を過ごしたとしても、全く「Quality of Life」が違うんでしょうねー。 こういう前向きな人って、困難に直面しても強いと思いますし、 肝が据わっているように思います。 その結果、たぶん、上手に困難を乗り越えられたり、周囲の人が助けてくれたり、 うまく回避できる道を見つけられたりして、 実利的にも得るものが多いような気がします。 たぶん、ポイントは、そういう心持ちを常に持ち続けられる持続性にあると思います。 思いついたときだけ「幸せだなぁ」と考えるとか、余裕のある時だけ「幸せだなあ」と感じるのではなく 苦しいことがあったときも、何か小さな幸せを見つけ出して「幸せだなぁ」と思うこと、 その「常に」がちゃんとできるようになると、多少のことでは折れない心が作れるのかなと。 非常に忍耐力のいることだと思いますが、その分、何らかの形で良いことが巡り巡ってくるように思うので 私もがんばろうっと。 ところで、343っていう数字はどこから来たのかな? ![]() |
『二十歳の原点』
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- 2021/10/24(Sun) -
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高野悦子 『二十歳の原点』(新潮文庫)、読了。
先日読んだちきりんさんの本で、ちきりんさん自身が日記を書こうと思ったきっかけとして 本作のことを挙げていました。 そういえば、積読だったなぁ~と思い、早速読んでみました。 学生運動吹き荒れる京都の大学に在籍中に、自殺という道を選んでしまった著者の日記です。 読みだす前は、「学生運動にのめりこんでいた大学生+自殺までの日記」という組み合わせに 革命を熱く訴えるようなガチガチ学生闘士な文章が続くのか、 それとも哲学的に自己肯定感の低い暗く重い文章が続くのか、 果たしてどちらだろうかと予想しながら手に取ったのですが、 なんだか明るい学生さんの日常日記で、予想が大きく外れました。 たしかに、バリケードとか、革命とか、そういうイカニモな単語は出てきますが、 でも、自分が今日感じたこと、今思っていること、日記を書いて気持ちをリフレッシュしたこと、 そういうことが素直な文章で書かれていて、「なんでこんな娘が自殺なんて選んじゃうの?」と 驚いてしまいました。 特に、日記の締めくくりの部分。 いろんな思いや悩みを書きながら、最後は、そんな内向きな自分に線を引くように ちょっとおちゃらけた言葉で自分の気持ちを盛り上げて、明日を迎えようと切り替えています。 この一見明るく見える文章が、とっても心惹かれるんですよね。 他人に見せることを意識していなかったと思われる日記において、 こんな風に自分の思いを飾らずに表現し、自分自身を明るく鼓舞している文章は、 読んでいて気持ちが良かったぐらいです。 いったい何がきっかけで自殺に追い込まれていくのだろう?と 中盤から不思議に思ってしまうぐらいでしたが、結局、最後の最後、 睡眠薬とかの話が日記に登場してきても、「なんで睡眠薬が出てくるの?」と思ってしまうほど 自殺するほど悩んでいるのかが良く理解できませんでした。 私が楽天的すぎるのかなぁ・・・・。 結局、直接の原因は恋愛問題ということなのでしょうか? そして、睡眠薬の話が出てきたので、自殺の方法はそれかと思いきや まさかの電車への飛び込みだそうで、唐突に死の思いに囚われちゃったのでしょうか。 読み終わって、いろいろ考えてみても、自殺という結末がしっくりきませんでした。 日記の中でさえ、自分のことを前向きに表現しすぎちゃって 本心とのギャップに耐えられなくなっちゃったのかなぁとモヤモヤ。 いずれにしても、こんな文章を書ける人材が若くして命を捨ててしまったことを残念に思います。 学生運動仲間で、彼女の気持ちの変化に気づいてあげられる仲間はいなかったのかなぁ・・・・。 ![]() |
『歴史を変えた誤訳』
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- 2021/10/23(Sat) -
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鳥飼玖美子 『歴史を変えた誤訳』(新潮文庫)、読了。
翻訳家や同時通訳者の本は何冊か読んできましたが、 「歴史を変えた」というからには、政治絡みの話がメインで、 その誤訳の影響の大きさを理解するには、最もよい教材だなと思いました。 誤訳がもとで原爆が投下された・・・・というエピソードは、 あまりにもその影響が大きいため、軽々しい感想を書くのはためらわれますが、 ただ、一方で、このエピソードは果たして「誤訳」なんだろうか?という疑問も。 私の日本語観では、「黙殺」って意識的に回答や反応をしないことであり、 それは「無視」に近いというか、むしろ無視以上の「意思」を感じ取ってしまいます。 それが、日本政府は「静観」の意味で使ったので、英訳で「無視」とされて誤訳だ!という エピソードなのですが、私には、英訳はまっとうな気がします。 日本語で「黙殺」を「静観」のような穏やかな意味で使う人って一般的ですかね? 軍隊が肩ひじ張った表現をしようとして敢えて「黙殺」と表現したのなら それはもう、英訳の問題ではなく、軍隊側の見栄っ張りな性質の問題ですよね・・・・。 というわけで、冒頭の誤訳エピソードは、ちょっと疑問符な感じでした。 まぁ、原爆投下の原因を、「誤訳」という外的要因に責任転嫁したいという 日本政府の思惑なのかもしれませんが。 その後、様々な「誤訳」のパターンが紹介されていますが、 翻訳者が良かれと思って意訳したり、表現を足した結果、思わぬ含意が生まれてしまったもの、 翻訳者が意図的に原文を端折って通訳したため、中身のない発言になってしまったもの、 通訳者が政府の人間だったために、発言におかしなお墨付きがついてしまったもの、 等など、具体的な事例にそった解説だったので、とても分かりやすく、 また翻訳者・通訳者が背負っている責任の重さが痛感できる内容でした。 日本人らしい変な気づかいや誤魔化しが、致命的なミスコミュニケーションに繋がるケースもあり、 自分も気を付けないと・・・・と思える本でした。 ![]() |
『名短編、ここにあり』
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- 2021/10/22(Fri) -
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北村薫、宮部みゆき編 『名短編、ここにあり』(ちくま文庫)、読了。
先に続編の方を読んでいたアンソロジー。 続編の方は読む前のイメージと異なっていたので感想が落ち着かないものとなっていましたが 今回はどんな感じかわかってたので楽しめました。 冒頭は、半村良の「となりの宇宙人」。 実は、15年以上前にこの作品を収録した短編集を読んでいるのですが、 その時は、あんまり楽しめなかったようです。 でも、今回は、面白く読めました。 作品自体が持っているユーモアも良かったのですが、 この名短編シリーズの最初の最初に当たる作品がこれだ、あえてこれを選んできたんだという 作品外での評価も加わり、興味深く読めたのかなと思います。 宙さん、いいキャラですよね(笑)。 そして、続編よりは、知っている作家さんは多かったのですが、 聞いたことがない作品ばかりで、「この有名作家がこんな作品を書くのかぁ~」という 意外性も楽しめます。 個人的に面白いなと思った作品は、小松左京「かくし芸の男」、吉村昭「少女架刑」でした。 ![]() |
『時そばの客は理系だった』
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- 2021/10/21(Thu) -
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柳谷晃 『時そばの客は理系だった』(幻冬舎新書)、読了。
東京に住んでいた時は、時々寄席に行って落語を聞いていたので 普通の人よりは落語に馴染みがあるつもりですが、 落語の中に数学の要素ってあんまり感じたことがありません。 (数をごまかす系の話はありますがそれは「数学」ではないよね) 一体、落語と数学をどうやって繋げるんだろう?という興味で買ってきたのですが、 読んでみた結果、落語と数学のつながりはあんまりなかった(爆)。 結構、強引な話の展開で、その噺から級数にもっていくのは無理だろう・・・・とか。 落語を起点に読んだ人は、強引さが目に付いてあんまり楽しめなかったのではないかなと思います。 数学を起点に読んだ人は、数学の世界を多角的に解説するという点が楽しめたのではないかなと思います。 何に興味をもって読むかで、満足度が大きく変わりそうな一冊でした。 ![]() |
『ツバサの脱税調査日記』
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- 2021/10/19(Tue) -
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大村大次郎 『ツバサの脱税調査日記』(幻冬舎文庫)、読了。
税務の解説本を書いている売れっ子作家は、小説分野に手を広げるのが王道なんですかね(笑) ただ、本作は、小説風にはなっていますが、小説と言い切るにはちょっと苦しい構成です。 8つの章に分かれているので8つの脱税事例が出てくるのかと思いきや、 丸々1章を税務署の仕組みの解説に充てていたりして、小説にはなり切れていません。 さて、物語の主人公は、税務調査に抜群の成績を残し、2年目にして特別調査班に抜擢される 中学生の女の子にしか見えない岸本翼。 脱税指南税理士の幸田との対決の中で成長していく姿が描かれます。 小説としてはイマイチでしたが、具体的な事例を通して脱税の手口を解説するという点で 小説風になっているのはわかりやすいです。 現金商売の飲食店がどんなふうに脱税するのかは解説本で知識として知ってましたが、 税務署がどういう風に脱税の指摘をして、ごねる飲食店側とどういう風に交渉するのか、 また税理士がどんな風に抵抗するのか、強弁するのか、 カリカチュアライズされている面もあるとは思いますが、分かりやすかったです。 今回の対決相手だった幸田税理士は、最後、「脱税だと証明してみろ!」というような 強い姿勢で税務署に向かってきましたが、ここまで強弁するケースって、 実際にはあるんですかね? 税務署側もメンツがありますから、余計な対決姿勢はムダな闘争をあおるだけで 税理士にとっても不利な気がします。 適度なところで手を打つ調整力の方が大事なのかなーと。 お互い人間ですからね。 人間らしい落としどころの見つけ方が良いのかなと思いました。 ![]() |