『この町の人』
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- 2021/06/27(Sun) -
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平岩弓枝 『この町の人』(集英社文庫)、読了。
質屋の女主人を中心に、彼女の家に出入りする親族や客や近所の人々の日常を 素直に切り取った連作短編集。 まず、この女主人が気持ちいいんです。 質屋を一人で仕切っているぐらいだから、お金に対する姿勢は厳しいものを持っていますが、 その反面、人間としては愛情豊かで、情にもろいようなところもあり、 とても愛すべきキャラクターでした。 そして、その質屋の2階に転がり込んでくるのは、ご近所さんだった同年輩の男。 下町らしく子供のころから知り合いの気の置けない仲です。 男の方は一人娘が嫁いだばかり。 男の金で取手市に新居を構え、そこに同居する予定だったのに いざ一緒に住んでみたら気を遣う毎日に嫌気がさして、住み慣れた街に戻ってきてしまったとの理由。 私は結婚したことがないので、あくまで想像ですが、 結婚して、それまで赤の他人だった人物と同居するのって、気を遣うだろうなと。 もっと本音ベースで言えば、しんどいだろうなと(苦笑)。 しかも、本人はまだ隠居するような年齢でもないということで、ビルの夜警の仕事につきます。 でも、この選択は、娘からしたら、「せめて昼間の仕事にしてよ」と思っちゃうのも分かります。 夜勤は体がしんどそうですし、何もそんな肉体労働をしなくても・・・・という感覚もあります。 このあたりの、それぞれの立場での、自分の都合やら相手への思いやりやら、 いろんな思いが交錯するのですが、それが細やかに、でもすっきりとしたタッチで描かれており とても面白い作品でした。 そんなに大きな出来事が起こるわけではないのですが、 人間の生活って、毎日こんな感じで過ぎていくよね~と、しっくりくる作品でした。 平岩作品はこれで3作目でしたが、前に読んだ作品も面白かったので、 これからはしっかり意識して追いかけていきたいと思います。 ![]() |
『ニホンミツバチが日本の農業を救う』
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- 2021/06/20(Sun) -
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久志富士男 『ニホンミツバチが日本の農業を救う』(高文研)、読了。
続けて養蜂の本。 あまり考えずに適当に借りてきたら、昨日の本と同じ著者でした。 やっぱり養蜂業って、ニッチな産業なんですね。 さて、本作の前半は、著者が養蜂とどのように出会って、 どのように拡大してきたかが書かれており、技術論よりも物語性の方が重視されていたので 読んでいて面白かったです。 そして、セイヨウミツバチが大きく勢力を減衰させているという事象の紹介を読んでいるときに、 「あ、そういえばハチの大量死について扱った本を読んだんだった」と思い出しました。 そのときも、原因がわからずという結論になっていて ミツバチって、人間と関わりが深いようでいて、あんまり分かってないんだなぁと感じました。 後半は、九州でニホンミツバチを見かけなくなってきたという話から、 離島でニホンミツバチの養蜂を復活させようという活動を中心に描写されています。 島民個人の養蜂がしたいという熱い思い、地元自治体の町おこしに活用したいという思惑、 メロン農家などとの受粉作業における協業関係など、 いろんな観点でミツバチとの関わり方があるのだということが象徴的にわかりました。 養蜂業について、ただ個人でハチを買って蜜を取り、ハチミツとして販売するという 小さな商売の形を超えた、もっと大きな社会との関わり方の画を描ける人が出てきたら 日本の養蜂業ももっと産業として確立されていくのかなと思いました。 著者の下で、そのようなことを考える修業を積んだ若い人が出てくれば 面白いことになりそうだなと思いましたが、果たしてどうなっていくのでしょうかね。 ![]() |
『「やりがいのある仕事」という幻想』
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- 2021/06/18(Fri) -
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森博嗣 『「やりがいのある仕事」という幻想』(朝日新書)、読了。
著者の新書作品は、いまいちな感想を抱いていることが多いのに なぜかタイトルに惹かれて買ってしまうんですよね~。 編集者の思うツボ。 読んでみると、「人は生きるために仕事をするのであって、仕事をするために生きているワケではない」という オーソドックスな内容を優しい語り口で話しており、ちょっと間延びしてる印象です。 本題の話よりも、「テレビ番組は面白い情報をただ見せてくれればよいのに、 芸人を並べたり、過剰な演出をしたりして、楽しく見せようとするから、間延びする」的な枝葉末節の指摘に 「あ、なるほどね」と面白く感じる視点があり、本題よりもそっちを追いかけていた感じです。 後半は、読者のお悩み相談的な建付けのQ&Aコーナーなのですが、 そちらは、前半の間延びした言説よりも、 質問に答えるという形式なので多少具体性を持っていて、後半の方が面白く読めました。 ま、でも、全体的にぼんやりした読書でした。 ![]() |
『嵐のピクニック』
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- 2021/06/17(Thu) -
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本谷有希子 『嵐のピクニック』(講談社文庫)、読了。
だいぶ前に読んでいたのですが、バタバタしてて、すっかりBlog投稿を忘れてました。 散らかった部屋を片付けたら、書類の下から出てきました(苦笑)。 で、時間がたってるため、感想をあんまり覚えていない・・・・・(爆)。 本谷作品って、結構、苦手意識が先に立ってしまっているのですが、 本作は短編集であり、しかも全体のページ数も少なさそうなので 印象変わるかな?と思ってチャレンジ。 冒頭の作品「アウトサイド」で、早速ちょっと印象が変わりました。 習い事のピアノの時間が嫌で、ピアノ教師に反抗的な態度をとる主人公。 そんな子供を相手に、優しく丁寧に教えてきた先生が、一瞬見せた恐ろしい行動。 冷っとしますわ、人間の狂気に。 凶行の後の描写をあっさりと終わらせるので、いろいろ想像してしまいました。 余韻を強く感じる作品でした。 そのあとに続く作品たちは、合うもの、合わないものありましたが、 短い文章でサクッと終わるので、合わなくても、苦手な印象を受けるものは少なかったです。 個々の作品の感想については・・・・・あんまり覚えてないのでご容赦。 ![]() |