『凛とした日本人』
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- 2021/05/27(Thu) -
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金美齢 『凛とした日本人』(PHP文庫)、読了。
著者の印象は、たまにテレビの情報番組にコメンテーターとして出ている人・・・・・ぐらいで あとは保守系の発言をする人という程度。 どんな本を書くのかなと買ってみたのですが、 思っていた以上に精神論の本でした。 安倍晋三氏が自民党総裁に返り咲いた総裁選の話からスタートし、 その後の衆院選で自民党が勝利したことについて「八百万の神々が起こした奇跡」と表現したので 「え!そういう方向の人なの!?」と、かなりな警戒感から読書スタート(苦笑)。 前半は東日本大震災における様々なエピソードから日本人論を展開していますが、 震災後に日本人の冷静な行動を評した海外メディアの論評を 日本在住の著者なりの視点でまとめ直したような内容に思え、 言ってしまえば、どこかで読んだような話の総まとめのような印象でした。 エピソードが日本社会の中の人らしく具体的だというところが特徴でしたが。 日本人の良いところをとらまえて、 デレデレと褒めそやしたのが直前に読んだ黄文雄氏の著作であり、 「あんたたちの本質はこういう良いものなんだからしっかりしなさい!」と叱咤激励するのが本作なのかなと。 なので、読んでいてこそばゆさを感じにくいという点では、 本作の方が読みやすかったですが、 あくまで、「日本人としてしっかりしなきゃ」という、反省の視点に立って本作を読まないと それこそ「凛とする」という目的が達成できないように思えました。 気持ち良くなるために読む本ではなく、自分自身を律するために読む本かなと思います。 ![]() |
『消えたエース』
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- 2021/05/26(Wed) -
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西村京太郎 『消えたエース』(角川書店)、読了。
プロ野球界におけるリリーフエースの誘拐事件を描いた作品。 以前に、長嶋巨人軍がまるごと行方不明になるという作品を読みましたが、 本作は阪神タイガースと思われる京阪ハンターズのリリーエース江島が行方不明になり ホステスの殺人事件の容疑をかけられたと思いきや誘拐事件に発展するというもの。 主人公は、京阪ハンターズのマネージャーの男ですが、 彼の目を通して、プロ野球という業界の内情や、球団への愛情、ファンへの思いが語られ、 著者は野球が好きなんだぁな・・・・と感じられて好印象です。 舞台は、優勝争いを演じる1位の巨人と2位の京阪の甲子園4連戦なのですが、 巨人の選手はみんな実名で、京阪側はモデルが類推できる名前を当てられているのですが この扱いの違いはなぜ? 事件に巻き込まれる側なので、クレームが出ないようにということでしょうかね。 問題児のリリーフエース江島は、ぱっと見では江夏豊さんがモデルのように思えますが、 作品中では、江夏選手は日ハムのピッチャーとして出てくるので、 この辺もやっぱりクレーム防止策なのですかね。 さてさて、本題のほうですが、正直、ホステス殺し、ピッチャー誘拐に加えて、 それ以外にも殺人や誘拐が絡んできて、正直、単なる怨恨に対して犯罪を詰め込みすぎという 費用対効果の不経済さが気になってしまいました。 特に、甲子園の試合中に起こる事件は、あんなに観客が大勢いる中で、 しかもファールボールが飛んできて周囲の人が注目している環境下で その展開は無理だろう・・・・・と思ってしまいました。 ただ、甲子園での試合の描写が生き生きとしていて面白かったので、 途中からは、事件の展開よりも、巨人阪神4連戦の展開のほうが気になってくる始末(爆)。 というわけで、本題とは違う部分で楽しめてしまう作品でした。 ![]() |
『日本社会の歴史』
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- 2021/05/25(Tue) -
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網野善彦 『日本社会の歴史』(岩波新書)、通読。
この3巻が、著者の代表的な著作なのかなと思って、期待して読んだのですが、 期待していたよりも教科書的な雰囲気の本だなと感じてしまいました。 前に読んだ網野作品が、庶民の生活のロジックみたいなものをしっかりと描いており、 納得感が得られたし、歴史の本であまり注目したことがない場面への考察だったので とても面白く読めました。 本作にもそういう雰囲気を期待していたのですが、 原始社会の日本の描写から始まり、「あら、普通の教科書と一緒なのね」と思ってしまいました。 結構、淡々と時代を順番に追いかけているように思え、 高校の日本史の教科書のように、政治の話があったと思えば、宗教の話に飛び、美術の話に飛び・・・・ というようなあっちこっちに話が飛ぶことはなかったのですが、 政治や生活の話に特化して、時間の流れはしっかり意識されているものの、 淡々と描写が進むというところは教科書的なトーンのように思えました。 もっと、手に汗握る生き生きとした描写を期待しちゃってました。(ハードル上げすぎ?) で、本作の主題とは話がずれるのですが、 なんで日本史の話って、原始の時代から始めるんですかね? 本作でも、200万年前の話からスタートするのですが、 日本列島は当時、中国大陸と陸続きでしたよ・・・・・ってもう、 日本史ではなく地学の世界ですよね。 こういう話から始めるから、「日本の歴史を学べるんだ!」と思っていた子供たちが 「思ってた話と違う・・・・」というので、興味を失ってしまうのではないかと思ってしまいます。 日本史の授業が卑弥呼の話から始まったら、その神秘的なキャラクターと相まって もっと子供たちは日本史に興味を持つように思うのですが。 金印の話とか、めちゃくちゃ物語性もありますし。 どうせ授業で教えるなら、子供たちが興味を持つような「掴み」を 教科書会社も、学校の先生も、もっと工夫した方が日本社会のためになるのにな・・・・。 ![]() |
『熔ける』
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- 2021/05/20(Thu) -
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井川意高 『熔ける』(幻冬舎文庫)、読了。
大王製紙の会長だった著者が、マカオのカジノで会社の金を100億円以上スッたという報道に触れたとき、 私自身、勤め先の取締役会や株主総会の運営主担当をしていたので、 「いったいどういう手続きで100億円もの金を引き出したんだ!?」とほんとに疑問でした。 日産自動車のゴーン氏の解任劇の報道を聞いた時も、 「追い出した側の社長らは正義みたいな扱いだが、あんたら取締役会で承認したんじゃないの?」と やはり手続き論のところで疑問符でした。 まぁ、大王製紙は同族経営だし、ゴーン政権下の日産は外国人が仕切ってたようだし、 日本企業とは言え特殊な環境だから、やりたい放題ができたのかなぁ・・・・と思いつつ、 でも大企業なんだから、社外役員とか監査役とか会計監査人とか、 それなりに内部統制が働くはずなんだけどなぁ・・・・・と腑に落ちず。 というわけで、本作を読んだら実態が分かるかなと思い、読んでみました。 で、まず感じたのは、強烈な既読感。 「あれ?前にこの本読んでたかな?」というぐらいの感覚です。 Blogで検索したら、吉田修一さんの小説のせいでした。 本作よりも、吉田作品の方が臨場感にあふれる描写で、よりリアルさを感じられます。 さすが小説家! 小説の方は、ラストが創作でしたけどね。 で、肝心の手口の部分は、グループ会社で用立てできそうなところに電話して お金を振り込んでもらうという、なんとも単純なものでした。 あー、創業者一族って、こんな権限を持ってるんだなぁ、そして誰もその指示を疑問に思わないんだなぁと。 著者は、その金額の大きさ及び使用目的がスキャンダラスだったので 大きく報道されたし、逮捕も収監もされましたが、 もっとミミッチイ案件だったら、世の中の中小企業と社長の間で日常茶飯事に行われてそうだなと なんだか虚しくなりました。 著者個人のことをちゃんと意識したのは、Youtubeのホリエモンチャンネルにゲスト出演した回を見た時で、 「あれ、カジノ狂いのバカ息子かと思ってたら、意外と興味深い人なのかも」と印象が好転したのですが、 本作を読んで、「あれ、結構、自己弁護みたいな感じになってるな」と、また評価反転(苦笑)。 創業者一族に生まれて、必死に勉強した学校時代があり、遊びまくった大学時代があり、 そして入社後に難しいポジションを若くして任され・・・・という、事件を起こす前までの部分は 興味深く読みました。 でも結局、吉田修一作品の方が面白かったな・・・という感想で終わってしまいました。 ![]() |
『ダーティ・ママ!』
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- 2021/05/19(Wed) -
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秦建日子 『ダーティ・ママ!』(河出文庫)、読了。
シングルマザーの先輩刑事は赤ちゃん連れで捜査活動を行う変わり者。 検挙率が高いという理由で、子連れ勤務が黙認されているという設定。 そこに、ベビーシッター代わりに異動させられた若手刑事が主人公。 ま、ドタバタコメディなので、時間つぶしに軽ーく読んで終わり、という本かな。 それほど期待していなかったので、まぁお手頃な感じでした。 設定に無理がありすぎるとか、 ストーリー展開がご都合主義的だとか、 同僚たちもキャラが立ちすぎだとか、 いろいろ目につくことはありますが、 あんまり深く考えてはいけないかな。 雪平夏見シリーズとは、だいぶ重さが違う作品でした。 脚本家出身の作家さんなので まぁ、テレビドラマ色というか、視覚的情報優先のプロットになっちゃうのは 仕方がないのかなぁ・・・・。 ![]() |