『カエルの楽園2020』
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- 2021/04/08(Thu) -
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百田尚樹 『カエルの楽園2020』(新潮文庫)、読了。
『カエルの楽園』が面白かったので、続けざまに続編をば。 コロナ禍での最初の自粛要請が出た2020年5月に、 家に閉じ込められている人々の慰みに・・・・ということでネットに掲載されたという本作。 ネットでは無料で読めたのに、「形に残すために出版を!」との声が多かったようで 本になったようです。 私自身、著者が本作をネットで公開していると言っていた当時から本作のことは知っていたのですが 『カエルの楽園』の方をまだ読んでいないしな・・・・・ということでネットでは読みませんでした。 あえて本の形で順番に読書。 というわけで本作ですが、前作と同様に日本における政治構造の歪さを寓話で嗤っていますが、 前作とはパラレルワールドという設定で、今回は「ウシガエル病」が蔓延する世界をテーマに 物語が展開していきます。 その中で、あえて、同じ人物を登場させながら、発言や見解が前作とは異なっているというところで 政治の一貫性のなさを嗤える構造になっているのは、パラレルワールドという設定を 上手く活かしているなと思いました。 こういう、物語の構造や設定のうまさは、流石ですね。 で、「ウシガエル病」に右往左往するツチガエルの国において、 著者を投影したハンドレッドは、最初に「ウシガエルを国に入れるな!」と主張し、 入国禁止措置を取らなかったために国内に病気が広がってからは一転「経済を止めるな!」と主張します。 昨年5月の時点で、ここまで割り切った主張を繰り広げるのは、 それが正しかったかどうかは別として、凄い勇気だなと思います。 ネットで公開するだけでなく、本として出版し、物理的な作品の形として残すというのも、 後から情勢が変われば大きく叩かれるリスクがあるのに、そうとうな自信と勇気でもって作品を 世に問うているんだなという姿勢には感心しました。 一方で、年明けごろに、百田 vs 上念 がネット上で話題になっていた時に、 「エコノミンは上念氏を揶揄している」という書き込みを見て、 「いくらなんでも書籍でそんな露骨に個人が特定される形で書くのかな?」と疑問に思ってましたが、 実際に読んでみたら、こりゃ、上念氏のことだわ(爆)。 結局、1年近くたったけど、百田氏の言うことが正しかったのか、 上念氏の言うことが正しかったのか、決着はつきませんわね。 どちらの提言とも違う道を日本政府は選択したのだから。 再び、大阪周辺で変異株による感染拡大がニュースになっていますが、 私の住む県でもまた感染者が増えてきており、その増えるスピードが これまでの波の高まり具合よりも大きい気がして、怖いですね。 まぁ、でも、怖い怖い言ってても仕方ないので、仕事の用事を中心に 必要あるところには出歩いていますが・・・・。 私は、個人的には、無観客でも選手の出場辞退が一定数出ても、 東京オリンピックはやった方が良いのではないかと思っている口ですが、 うーん、かなり逆風になってきてますね。 池江選手の涙のカムバックでちょっと良い風が吹いたのに、残念。 ![]() |
『龍神の雨』
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- 2021/04/06(Tue) -
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道尾秀介 『龍神の雨』(新潮文庫)、読了。
大藪春彦賞受賞作品ということですが、 あんまり意識したことがなかったので、受賞作が自分の好みに合うのかどうか イメージがわかなかったのですが、検索してみたら受賞作も候補作もそれなりに読んでました(笑)。 ハードボイルド小説・冒険小説に与えられるということなのですが、 本作を読んでみて、うーん、その定義に合っているのかしら?とやや疑問。 というか、他の受賞作を見ても、ピンとこないです。 硬派な感じの作品というぐらいの緩やかな括りのような気がします。 親の再婚により血の繋がらない他人が「家族」として家庭の中に入ってきた後で、 血の繋がった親が亡くなり、継母・継父と兄弟だけが残されてしまった特異な家族が2つ。 その2つの家族が、万引き事件をきっかけに接点を持ち、 そして、殺人事件に巻き込まれていく・・・・・・。 この子供たちの目から見た、継母・継父への嫌悪感とちょっと配慮をする感覚が 見事に描かれていて、「あぁ、知らない人が突然家族として家の中に入り込んでくるのって こんな感覚なんだなぁ・・・・」と、4人の視点から見える景色に納得しました。 一方で、ミステリとしては、物足りない感じでした。 殺人事件が起き、それをいかに隠ぺいするかという視点で物語が進んでいきますが、 淡々と進んでいくような印象を受けてしまい、あまり興味が持てませんでした。 隠ぺいしようと兄妹は必死に頭を回転させますが、ちょっと理屈っぽいかなと。 人間、窮地に陥ったときに、こんなにいろいろ考えられるだろうかと。 事件の展開にドキドキしたのは、むしろ万引きシーンの方。 店員側の視点も含めて、どういう展開になるのか、発覚後の駆け引きにおける心理戦も含め 面白かったです。 個人的には、圭太の視点が、一番、人間として安心できる心情の持ち主だったので 圭太目線で本作を読んでました。 最後のシーン、小学生ながらこんな場面に居合わせてしまった彼の不幸を思い、 その後の人生において、少しでもトラウマにならなければと祈りたくなりました。 ![]() |
『たった一人の熱狂』
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- 2021/04/04(Sun) -
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見城徹 『たった一人の熱狂』(幻冬舎文庫)、読了。
幻冬舎社長の著者が、自分の仕事哲学、人生哲学を語った本。 どちらかというと本作の編集にあたった箕輪厚介さんの方に先に興味を持ち、 そこから本作を知りました。 ホリエモン等のビジネス系Youtube動画を見ていると箕輪さんが登場してきて、 その仕事に対するエネルギーの大きさ、判断する際の視野の広さ、処理スピードの速さ、 あらゆることが、凄い能力の高さだなぁと感嘆しました。 で、そんな編集者が著者に直談判して作ったという本作、 そして、その後、幻冬舎に転職したという経緯からも、興味津々です。 もともと著者の本は、藤田晋氏との共著を面白く読んだ口なので、 期待しましたが、期待以上に濃厚なメッセージの集合体でした。 どの本も、単行本は幻冬舎からの出版ではないというところも興味深いです。 正直、「ワークライフバランス」とか「長時間勤務の禁止」とか そういうことが議論されている時代においては、著者の働き方は時代錯誤というか 時代の流れに逆行しているように捉えられかねないと思いますが、 私は、世の中の多様性を生み出すためには、こういう哲学の人が存在していることは 大事なことなのではないかと思っています。 この働き方を部下などに強要さえしなければ。 ここまで自分の時間と情熱を注ぎこんでこそ見えてくる世界観や 得られる信頼、人間関係というものはあると思います。 ホリエモンとか、ひろゆきさんとか、口の悪さや非道な物言いで目立っている人がいますが そういう表現面での特殊性を取り除いた中身の人間としては、 勉強家で努力家で、努力することそのものを成長の過程として楽しんでいるような人だと思います。 見城さんも、Twitterでの某作家さんとの喧嘩において、暴露行為で炎上してましたが、 そういう外に対する表現面の問題点に目をつぶれば、著者の努力のプロセスというのは とても勉強になります。 私には、同じようにはできませんが、自分で限界線を引かずに できるところまでやり尽くす気概というのは、仕事にも生活にも大事なことだなと改めて思いました。 ![]() |
『横道世之介』
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- 2021/04/03(Sat) -
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吉田修一 『横道世之介』(文春文庫)、読了。
吉田作品は、ドロドロしたものからカラッとしたものまで振り幅が大きいので いつも新しい作品を読むときに楽しみなのですが、 本作は、あんまり私には合わなかったです。 男子大学生が主人公ということで、爽やかでちょっとおバカな青春小説かと思っていたのですが 爽やかというよりも、少し無関心さが気になってしまい、作品に入っていけませんでした。 入学式の日に最初に友だちになった男友達と、教室で最初に会話を交わした女友達と 3人で一緒に過ごすようになり、サークルも3人で同じところに入り、サークル新入生はその3人のみ。 私の中では、これって相当親しい間柄になっていく設定だと思うんですよね。 なのに、主人公は、この2人との関係がいつの間にか距離ができるようになり、 たまたま食堂で言葉を交わした男の家に入り浸るようになり、毎日のように寝泊まりするように。 そして、さらに、季節が変わりクーラーが要らなくなったら、この男の家にも寄り付かなくなり 自分の部屋で過ごすようになります。 あらー、ずいぶん、あっさりした人間関係なんだなぁ・・・・・と思ってしまいました。 関係が希薄というか。 まぁ、私自身が、サークルよりももっと体育会系に近い文化の組織に居たので、 同期や先輩・後輩と活動時間も遊びの時間も一緒に居たことが多く、 普通の大学生よりも閉鎖的な人間関係の中に浸かっていたという可能性もありますが・・・。 主人公のような、どんどん人間関係の軸が変わっていく方が普通なのかも。 でも、私は、濃厚な人間関係の中でやりとりされる青春のバカバカしさみたいなものが好きなので 単に好みが合わなかったというところかなとも思います。 というわけで、大学生時代の描写には、あんまり共感を覚えられませんでした。 しかし、そんな大学生時代の描写の合間、合間に、 彼らが年を重ねて30代、40代になったときの様子も描かれています。 ここに、吉田作品の厚みというか、人生というものに対する厳しく重たい視線が置かれていて、 あぁ、青春はキラキラしてても、現実世界はこんな感じで曲がっていくんだろうなぁ・・・・・と納得。 キラキラの物語でまとめるのではなく、その後も冷たく描いてしまうのが吉田作品の厚みかなと。 で、主人公やその周囲の人のその後が描かれるんですが、 主人公のその後は思わぬ展開に繋がっていき、「え、そういう作品だったの?」と、 そこに私はついていけなかったので、読後感がイマイチだったのかなと思います。 Amazonでは非常に評価が高い作品ですが、このその後の展開が全てではないでしょうけれど、 この展開を受け入れられると、大学生時代のバカさ加減も別の意味を持って見えてきて 多面的で面白い作品だったという感想になるのかな。 私は、この、その後の展開が、現実社会のとある事件と繋がっている点で、 小説世界の中で世界観を完結させるのではなく、現実社会で多くの日本人が感じ入ることがあった事件に 投下させる手法が、ちょっと小説作品としては、逃げのように感じてしまい、受け入れにくかったです。 唐突感も覚えましたし。 最後、読み終わってから裏表紙を見たら、「本屋大賞第3位」とのことで、 あぁ、やっぱり私は本屋大賞と相性が悪い・・・・・という結論になりました(苦笑)。 ![]() |
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