『ホームタウン』
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- 2021/02/21(Sun) -
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小路幸也 『ホームタウン』(幻冬舎文庫)、読了。
この作家さんは2作目です。 前に読んだ人気シリーズは、イマイチ私にははまらなかったので、 本作もそんなに期待しないまま手に取ったのですが、意外と面白かったです。 主人公の青年は、中学生の時に、不仲の両親が喧嘩の延長で殺人事件に発展し、 その現場を目撃した妹の手を引いて現場を逃げ出すという過去を背負っています。 殺人を犯した人間の血が自分にも流れているという恐怖、 家族というものを持つことに対する不安、そんなものを抱え、自分を隠し、抑えながら生きています。 彼の現在の職業は、百貨店の「顧客管理部 特別室」勤務。 肩書は20代にして「部長」。 百貨店内で起きる不祥事を秘密裏に解決する、または握りつぶすのがその役目。 異様な権限を持っているため、百貨店内で恐れられている男であり、 実際に、不祥事を追及した相手の百貨店社員が自殺したことも。 紆余曲折あり、今は、その自殺した男の家族と一つ屋根の下に住んでいる・・・・。 「人が死ぬ」ということについて、子供の頃の苦しい記憶と、現在の仕事での汚れた部分、 あまりに異様な背景を2つも主人公に負わせてしまうのは、 キャラクター設定として特異すぎなのではないかと、読み始めの時は引いてしまいました。 しかし、この主人公の周囲にいる人たちが、ユニークで、しかも優しいんですよね。 日米政治からヤクザの世界まで顔が利く職場の上司であるカクさん。 中学生の時にバイトをした菓子屋の主人。 そのバイトで訪問したヤクザが経営するバーの店長。 彼らは、独自の人生哲学をもって、骨太な日々の暮らしをしており、 その日常の中で、異様な過去を背負った主人公に温かいまなざしを向けてくれます。 主人公に対する彼らの態度・姿勢が、なんだかとても素敵で、それに触れたくて 読み進めたような感じです。 ストーリーの軸は、この主人公の妹が結婚することになったのに、ある日突然失踪。 同居人が最後に見たのは、自分の意志で、何も持たずに部屋から出ていく姿。 バッグも財布も携帯も部屋に置いたまま、どこかに行ってしまった妹。 そして、妹の婚約者も、妹よりも数日前から行方不明に。 婚約者が同じ百貨店勤務という繋がりもあり、業務として主人公は調査を始めます。 この調査の進展ぶりが、先ほど述べた、主人公のユニークな人間関係のおかげで進んでいくので ワクワクしながら読み進めることができました。 失踪の原因については、うーん、百貨店内での事件がきっかけになってますが、 これまた重たい内容で、殺人に、自殺に、違法物とは・・・・・北海道恐ろしすぎ(苦笑)。 ちょっと劇的な要素を盛り過ぎな気がしました。 一方で、妹の方の事情は、腑に落ちました。 最初は、「なんで結婚を目の前にしてそんな判断をするんだろう?」と疑問でしたが、 本作の中で、主人公が「何をきっかけに心変わりをしたのか」ということを じっくり検討していくシーンがあり、そこで至った原因の結論に 「あぁ、それなら確かに、今までを捨ててしまうかも」と納得。 この納得性は、殺人に、自殺に・・・・という展開があってこそだったので、 このために必要な設定だったのか・・・・とは思いましたが、でもやっぱり盛り過ぎ(笑)。 著者の作品に関しては、バンドワゴンシリーズよりも、 本作のような、もうちょっとシリアスな作品の方を読んでみようかな。 ![]() |
『自選 坂村真民詩集』
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- 2021/02/16(Tue) -
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坂村真民 『自選 坂村真民詩集』(大東出版社)、読了。
近所の人からもらった坂村真民の詩集はこれが2冊目。 こちらも、とても素直な作品が多いです。すっと読めます。 私が詩にちょっと苦手意識を持つようになったのは、 教科書に載ってた草野心平さんの「るるるる・・・」という作品が切っ掛けかも。 文字を感覚的に受け止めるということができなかったので、 「るるるる・・・・」ってどういう意味なんだろう?と理屈で考えてしまって 「詩ってわからない」という結論を早々に出してしまったように思います。 正直、あんまり詩について魅力的に語れる国語の先生が居なかったのも理由かも。 で、本作ですが、特に印象に残ったのは、自分の子供に向けての作品です。 「梨恵子よ 佐代子よ 真美子よ」と呼び掛ける姿に、 全然場面が違うのですが、川端康成の『掌の小説』の中の「心中」が思い出されて、 父から子へのメッセージって、迫力があるよなぁと感じ入りました。 そして、紅いバラには子供たちのにおいがし、白いバラには妻のにおいがしたと綴る作品。 子どもへの愛情と同じように、妻への目線が書かれているのって 日本人ではあんまり見ない感覚かも・・・・と思って新鮮でした。 ![]() |
『シン・ゴジラ』
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- 2021/02/15(Mon) -
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『シン・ゴジラ』
公開当時、凄く流行っていて、なおかつ映画ファンが面白いと言っていたので 観に行きたかったのですが、田舎住まいで映画館に行くのも一仕事ということで、 結局観に行けず。 その後、岡田斗司夫ゼミで、岡田先生が公開前は失敗作懸念を打ち出してたのに 公開後は「面白い!」と絶賛の動画になっていて、凄く気になっていました。 で、ようやく今になってAmazonで視聴。 岡田センセの動画を見ていたので、本作は、怪獣映画ではなく 日本政府を描いた政治モノとして期待しました。 そして、その通り、シニカルに描きつつも、日本政府をバカにしているのではなく、 根底の部分では日本政府なり自衛隊なり研究機関なりへの絶大な信頼があってこその 世界観だなと感じました。 東日本大震災にしても、今回のコロナ禍にしても、 日本人は政府の行動に対して、とにかくケチをつけて批判しますが、 批判しながら従いますよね。それって、逆にすごい信頼関係だと思うんです。 政府は国民が批判することを許し、国民は政府が命令することを許す。 無責任な状態を生みやすそうに見えて、最後はちゃんと自分のやるべきことを成すという 日本人らしい不思議な統制力を見せてくれます。 前半、自衛隊の攻撃はちっともゴジラに効きませんが、 でも、あの統制の取れた攻撃や、退去さえも秩序を保って行動できるところが 訓練された組織だと良く分かり、この人たちが私たちを守ってくれるんだと素直に思えましたし、 頼りになりそうだなと感じました。 一方、その狙撃対象のゴジラですが、 上陸した瞬間の形状に、「なんだ、このアニメみたいな芋虫みたいなヤツは!?」と唖然。 第一形態から第四形態へと段階的に変形していく中での第二形態だったようです。 「アニメの芋虫」という先入観で見たせいか、前半のCGがしょぼく感じました。 ゴジラの第二形態とか、ボートが押し流されるシーンとか。 ただ、自衛隊と交戦し始めたあたりからCGの粗さは気にならなくなったので、 担当していたチームが違うのかしら?それとも予算の問題? さて、本題の政府ですが、頼りなさそうな総理大臣をはじめ 各大臣も見栄の張り合いだったり責任の押し付け合いだったりを繰り返しながら 危機が目の前に迫ったら、一気にうまく歯車がかみ合いだして、 「おお、日本の政治家もやるじゃないか」と思いきや、なんとまぁの急展開。 それでもきちんと残った組織で、残ったメンバーで最善の対処をとろうとし、 必死で日本を守ろうとする、その心意気に、素直に応援できました。 陸上自衛隊の面々が、ゴジラに薬品を経口投与するという決死の作戦に出ますが、 3.11の福島第一原発に向かった東京消防庁の隊員さんの姿を思い起こさせました。 現実の世界にも、死を覚悟して国を守ろうとしてくれる人たちがいるんだという。 米軍には支援を頼みましたが、しかし作戦の全体は日本側が主導し、 さらには国連の作戦をも止めて日本が全面的に前に出るという姿勢も これまでの政治モノにはなかった快感だったように思います。 そして、ゴジラを停止させることに成功した瞬間、 ワーッと騒ぐのではなく、各現場でふーっと息を吐きだす静かな安堵が広がるシーンに、 あぁ、これもまた日本人らしいなと感じました。 ハリウッド映画なら腕を振り上げ、書類をまき散らして喜び合ってそうです(笑)。 そうではない、静かな会議室が何シーンか続くことで、あぁ、これが日本人なんだと理解できました。 というわけで、公開当時、多様な客層の人々が観に行き、そして評判になっていたのが よく理解できる作品でした。 |
『青年・渋沢栄一の欧州体験』
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- 2021/02/13(Sat) -
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渋沢栄一 『青年・渋沢栄一の欧州体験』(祥伝社新書)、読了。
まもなく大河ドラマで渋沢栄一翁の物語がスタートしますね。 一橋大学出身者としては、これで一般社会での認識がより高まると嬉しいなと思います。 私は、家にテレビがないから見られないんですが(苦笑)。 さて、渋沢栄一を扱った本は、過去に何冊か読んできましたが、 本作は、若い頃の欧州視察に絞って詳しく解説されており、面白かったです。 やっぱり渋沢栄一を描いた本となると、500もの会社を作ったとか、 多くの教育機関を支援して人材育成に努めたとかl、そういう部分がクローズアップされてくると思うのですが 本作にもあるように、この欧州体験こそが、後々の渋沢の情熱のエネルギー源であり、 また様々なアイデアのネタ元だったと思います。 だから、渋沢の功績を知るには、功績そのものを学ぶことも大事ですが、 功績の素となった欧州体験を、渋沢と同じ目線で追体験することも大事だなと感じました。 随行員として、身の回りのお世話をし、訪問先との調整もし、 また細々とした事務もこなし、さらには頭が固いままの随行員を説教し・・・・など、 実務の天才のような人です。 でも、この実務経験が、後々の起業のノウハウやスピード感に繋がっていったのだろうなと思います。 私は昔勤めていた会社で、もうすぐ30歳になるという頃に先輩から、 「30代は我武者羅に働け。そこで蓄積したもので40代以降はスムーズに仕事をしていけるようになる」 と教えられ、必死で食らい付いていった思い出があります。 たしかに、30代で経験した仕事のおかでげ、独立した今の仕事ができているようなものです。 渋沢とはレベルが全然違いますが、必死で働くというのは必ず自分の中に残るものがあると 身をもって理解できました。 本作では、具体的に、どの国で誰に会い、何を見て、そこから何を気付いたかというエピソードが ふんだんに語られており、「そういう視点で見てたんだ!」「その驚きが後世のこの実績に繋がったんだ!」 という興味深さと納得感がありました。 最後に、本作の著者は、やはり一橋出身の人で、 母校愛に溢れる文章も登場していたので納得。 そして、福沢諭吉に変な対抗心があるのも、一橋卒と知り納得(笑)。 ![]() |