『残酷な世界で生き延びるたったひとつの方法』
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- 2021/01/31(Sun) -
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橘玲 『残酷な世界で生き延びるたったひとつの方法』(幻冬舎文庫)、読了。
タイトルからして、いつもの冷酷な橘節を期待できそうだと思い買ってきました。 冒頭、勝間和代女史と香山リカ女史の論争から話が始まりますが、 そうそう、私も、この2人の本を読んで、あまりの話の噛み合わなさに呆気にとられたクチです。 結構なページを割いて、この2人の話がなぜかみ合わないのかを著者が分析・解説しているのですが、 かなり納得できました。 読書当時に私がなんとなく頭の中に描いていたことがクリアに文章化されたところに、 さらに、著者お得意の遺伝とかそういう要素も絡めながらのシニカルな解説なので、 面白く読みました。 そして、この2人のバトルに象徴されるように、 世の中には多くの思想的対立軸がありますが、著者のように割り切って、 「どれが一番自分にとってお得か」という観点でうまく立ち回るのが、 一番精神衛生的に安全なように思います。 香山さんのように社会からドロップアウトしていくような人たちを事例に上げて そういう人たちを対象にしていないような自己啓発思想の揚げ足取りをしたり、 勝間さんのように、「それでも努力が必要なんだ!」と、断絶している人たちにも 無理やり適用しようと頑張るのは、なんだか気持ちがしんどそうです。 無理してるから。 それよりも、著者のように、「世の中には努力できる人と努力できない人がいて、 別のグループなんだよ、そして自分は努力できる側にいるから、そのコミュニティの中から 世の中を眺めて、無理のない範囲でコミットしていくよ」と割り切った方が楽ですよね。 上記の要約は、私がかなり意訳しちゃってますが。 こんなことを表立って言うと、「そんな露骨なことを言って、アメリカのように社会を分断させる気か!」と 怒られそうなので、あくまでこそっと読むんですけどね。 でも、自分はこういう視点ももってるぞっていう安心感というか、 いざというときの逃走経路を用意できてるお気楽感と言いますか。 嫌な人間ですね(苦笑)。 ![]() |
『マグロはおもしろい』
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- 2021/01/28(Thu) -
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北川貴士 『マグロはおもしろい』(講談社文庫)、読了。
マグロの生態の研究者さんが解説するマグロの面白さ。 生物としての解説だけでなく、人間社会との関わりの変遷も述べられていて 多様な視点から描かれていて興味深かったです。 最初、『走れメロス』のパロディ文章から始まり、 結構、軽いタッチの自己紹介に進んでいったので、 「あれ?研究者だよな?何が専門??」と混乱してしまうほど。 ユニークな先生のようです。 マグロが登場する文学作品からの引用があったりと ご専門の理系の話だけではない構成になっていて、 ご本人は「文学作品の引用は編集者からの指示であり苦労した」と述べてますが、 これはご謙遜ですよね。 何かをとことん好きになる、興味を持つって、こういうことなんだなと 気づかせてくれる本でした。 ![]() |
『夏から夏へ』
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- 2021/01/25(Mon) -
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佐藤多佳子 『夏から夏へ』(集英社文庫)、読了。
佐藤多佳子さんの著作は、それほどたくさん読んでいないので、 まだイメージが固まっていません。 ただ、『一瞬の風になれ』のドラマ化で内村さんが出演し、しかもその後原作者とフジテレビが 揉め揉めしたという事件もあり、「陸上ものを書く人」という印象はあります。 で、そんな中で本作ですが、小説だと思って買ってきたら、日本代表の100mリレーチームを取材した スポーツ・ノンフィクションものでした。 スポーツ・ノンフィクションだと、いわゆるジャーナリスト達が書くルポルタージュと、 小説家達が書くエッセイとを今まで何作品か読んできましたが、 前者は比較的第三者的視点で客観的に書かれていて、 後者は著者の思い入れたっぷりに情緒的に書かれている傾向にあると思っています。 そんな中で、本作は、著者自身の立ち位置から自分の感情を軸に描くパートと リレー走者4人を取材し客観的に書いたパートと交互に構成されているため 最初は、少し読みづらさを感じてしまいました。 しかし、著者自身が、陸上競技に昔から関心をもって競技場にファンとして足を運んでおり、 また、陸上ものの小説を書くにあたっての取材も精力的に行っており、 さらには、自分はミーハーさも持ち合わせたただの陸上ファンであり、陸上関係者とは違う立ち位置にいるという 一線をきちんと引いているその謙虚な姿勢が伝わってきて、 読み進めるにつれて、ぐいぐい引き込まれていきました。 取材した結果、陸上のトップアスリートの感覚を一般人には分かることができないということが分かった というようなことも述べられており、その知ったかぶりしない素直な姿勢にも共感を覚えました。 2007年に大阪で開催された世界陸上での100mリレーを中心にして、 そのレースに向けてコンディションを整えていく様子が緻密に取材されており、 またレース後にレースを振り返っての4者4様の受け止め方も分かって興味深かったです。 世界陸上の予選レースで日本新記録を出した4人が、宿舎へ戻るのが遅くなってご飯を食べられず みんなで牛丼屋に食べに行ったシーンを読んで、 仲が良いなとか、和やかだなという感想よりも先に、 「トップアスリートの食事の管理ってこんなレベルなの!?」と驚きました。 だって翌日決勝戦ですよ? もっと繊細な世界だと思ってました。 2007年当時、自分が勤める会社がM&Aの真っただ中にいるという状況で、 さらに休みの日はダイビング三昧と、慌ただしい日々を送っていたので、 世界陸上で世の中が盛り上がっていたという記憶が一切ありませんでした(苦笑)。 本作を読んで、生放送で見ることができなくても スポーツニュースとかで、世間が盛り上がっている空気の中でレースの映像を見たかったなと思いました。 読了後、YouTubeで検索して視聴しましたが、やっぱり当時にみたかったなと思うような 臨場感が欠けたような感じでした。 ![]() |
『わたしは椿姫』
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- 2021/01/24(Sun) -
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平岩弓枝 『わたしは椿姫』(講談社文庫)、読了。
地元の図書館で廃棄処分されるという本の山をもらってきた中の一冊。 積読解消のため読んでみました。 著者のイメージがどうにも時代モノなので、 読んでみたら海外を舞台にした現代ものということで、ギャップに驚きました ・・・・・って、前回も同じような感想書いてるわ(苦笑)。 短編集ですが、最初の1話は、東南アジアの小国に赴任になった夫を追いかけ 新婚の妻が現地に赴いたものの、日本人奥様社会に絡めとられ・・・・・という 海外という広い舞台の中の小さなコミュニティの縛りのきつさを描いています。 いやぁ、この息苦しさ、世界に飛び出しながら奥様社会に閉じ込められるという矛盾、 興味深い話でした。 主人公の新妻が、日本でも外国人の家でメイドとして働いていたため、 英語力も英語圏での常識も身に着け、さらには考え方も大人な聡明さがあり 終盤のベテラン奥様をやっつける感は爽快でした。 昭和50年代に発刊された本ですが、 高度経済成長期ですから、こうやって海外に出ていく日本人が大勢誕生した時代なんでしょうね。 今よりも、登場人物たちに「海外駐在だ!」という熱意というか、肩ひじ張った感じを覚え 時代を感じます。 それ以外には、フランスの上流階級に食い込んだ元芸者の暮らしぶりを描いた 表題作の「わたしは椿姫」や、ドイツで日本料理店を繁盛させている女将が店の乗っ取りに遭う 「東は東 西は西」などが面白かったです。 女性が、自らの腕で事業を成し遂げ、暮らしを手に入れているというガッツが見事だなと。 私は子供のころから、あんまり海外というものに特別な興味を抱かなかったので、 留学を検討することもせず、仕事もドメスティックな会社を選んだのですが、 いつの間にか海外担当みたいになってしまっており、役員の海外出張にお供したり、 海外の企業さんとの折衝に当たらせてもらったり、それはそれで興味深い経験をさせてもらいました。 もっと大学の時に英語を勉強しておけばよかったな・・・・と、当然の後悔をしましたが、 でも、それ以上に、英語だろうと日本語だろうと、やっぱりビジネスマンとしての覚悟が 一番大事だなと途中から思うようになりました。 徹底的に情報を集められるか、タイムリーに判断できるか、みんなを説得できるか、 そういう部分で腹が括れていることが一番重要だなと。 本作に登場する女性経営者は、みんな、そこができていて、素敵だなと感じました。 ![]() |