『豊臣秀長』
|
- 2020/12/28(Mon) -
|
堺屋太一 『豊臣秀長』(PHP)、読了。
我らが藤堂高虎公の生涯を紐解くと、キーマンとして出てくる豊臣秀長の名前。 しかし、秀吉の弟としてしか描かれないことが多く、 どんな人物なのか良くわからなかったです。 たまたま近所のおっちゃんが本作をくれたので、高虎公の主君はどんな人物だったのか という興味で読んでみました。 兄である秀吉が、農民をしていた秀長を召し抱えにくるシーンから始まっていますが、 嘘も方便で演出過剰な兄と、その嘘を薄々分かりながらも乗ってあげる弟という構図に始まり、 最初から二人の人間関係、信頼関係は明確な状態から始まります。 教科書にしても、歴史文学にしても、行動が華々しく目立ち、 キャラクターも経っている秀吉にばかり目が行くのは当然ですが、 こういう社交で出世していく男の後ろには、銃後を守る妻がいるわけでありまして、 秀長は妻の役割、つまり秀吉が華々しく活躍する後ろで領土経営の安定化や 家臣の統率の安定化に努めています。 この人がすごいなと思うのは、自分はそういう役割だと割り切っているところ。 兄のように目立ちたいとか、自分も武功を上げたいとか、カネを稼ぎたいとか、 そういう不埒な思いは捨てて、ただひたすらに兄のために尽くす姿がすごいなと思います。 腹が括れているというか、覚悟ができているというか。 そして、その安定した精神の上に、大局的な情勢の読みとか、 経済的な側面での国の経営とか、人間関係の細やかな配慮とか、 さまざまなことに意識を向かわせて最善を尽くしています。 武功だけを求めるのではなく、いかに国を治めるかという点で努力をした 藤堂高虎公が仕えた人物として納得できる功績の持ち主でした。 教科書にしても、歴史小説にしても、秀長の扱いが小さいのは残念ですね。 せめて、ビジネス本の世界では、もっと取り上げられてもよい人物だと思います。 いわゆる番頭役としては、ピカイチの実績はないでしょうか。 一方で、高虎公との関係でみると、本作は物足りないです。 秀長を主人公としつつも、あくまで描いているのは秀吉の天下取りまでの道のりであり、 さらには、信長の天下布武の構想がメインだと思います。 物語も、清須会議あたりで終わってしまっており、 秀長の生涯最後のシーンが描かれることなく閉じられてしまいます。 これでは、形式的な主人公であり、真の主人公は秀吉または信長のような印象です。 あくまで秀長の目を通して秀長よりも上の世界にいる人々の動向を描いた物語であり、 秀長とその家臣との関係はほとんど描かれません。 そこは残念。 あの藤堂高虎が、秀長を慕った理由というところをもっと詳しく読みたかったです。 断片的に登場する高虎については、 数術の知識が豊富な武将という描かれ方をしており、だから後に築城の名手となったのかと納得。 秀長が高虎に会計知識を学ばせたというようなくだりもあり、 だからこそ、もっと高虎と秀長の関係を知りたかったなという思いが高まりました。 戦い方を知っているだけではなく、国の治め方、部下の使い方、人脈の作り方を知っていることが 戦国の世から天下統一へと動いていく時代の中で重要な能力だったということが良くわかり、 時代の一つ先を行く能力を身につけ、それを伸ばし、最大限に活用することの意味を しっかりと伝えてくれる面白い作品でした。 ![]() |
『あほらし屋の鐘が鳴る』
|
- 2020/12/25(Fri) -
|
斎藤美奈子 『あほらし屋の鐘が鳴る』(文春文庫)、読了。
著者の本はなんと6年ぶりでした。 なかなか100円で見つけられないんですよねー。 メインは雑誌『pink』での連載エッセイ。 本に限らず世相を斬っていくものですが、やっぱり本とか雑誌とかエンタメとか その手のジャンルのものが多かったので、その毒っぷりに面白く読みました。 ATMの画面に登場する女子キャラクターの銀行別特徴とか、 『失楽園』の勝手にあらすじ紹介&行動パターン分析とか、 まぁくだらないことを何もそんなに一生懸命分析しなくても・・・・って感じで笑えます。 冷静に考えると、それほど深い分析をしていおるわけでもないようにも思えますが、 結構オーソドックスな世の中の批評の枠組みに素直に当てはめて、 ただ具体的な分析を分かりやすく盛り込みズバッと斬っているところが面白いのかなと。 郷ひろみの『ダディ』の話とか・・・・・くだらないけど。 著者の分析力が光るのは、メインコンテンツの世相批評より、 終盤に併録された雑誌批評の方が面白いですね。 以前読んだ『男性誌探訪』の前段に当たる企画のようで、女性誌探訪です。 正直わたくし、ファンションとかに全く興味がないので、いわゆる女性誌ってほとんど買ったことがありません。 極まれにウンナンさんのインタビューがあったりすると買う程度で(苦笑)。 著者はいわゆるフェミニストですから、ちょっと主張がくどく感じる部分もあるのですが、 でも、やっぱり、女性の評価は女性の方が厳しいというもので、 女性誌のカテゴリ分けとか、読者層分析とか、販売戦略の変遷とか 毒まみれの解説で、笑えました。 紹介されている女性誌は、名前は知ってるけど手に取ったことが無いものがほとんどなので、 これでまた、私の中に勝手な各雑誌のイメージが構築されてしまいました。 ところで、タイトルの語感がすごいな~と感心していたのですが、 Amazonレビューを見ていたら、どうやら大阪の方で使われる言い回しのようですね。 こんな表現、初めて知りました。 誰が最初に言い出したのか、すごく気になります(笑)。 ![]() |
『娘と嫁と孫とわたし』
|
- 2020/12/23(Wed) -
|
藤堂志津子 『娘と嫁と孫とわたし』(集英社文庫)、読了。
藤堂作品、実に4年ぶりでした。 息子が交通事故で急死。 悲しみに暮れる日々を送る母親のもとに嫁と孫が通ってくるようになり、いつの間にか同居。 そこにセレブで嫌味な娘がしょっちゅう押しかけてくるようになり、女4人でドタバタ。 この嫁の里子が、一人暮らしの義母の家に押しかけてくるという展開が 本作の設定の特徴だと思うのですが、どうにもこの里子のキャラクターが上手くつかめませんでした。 本作は3つの章に別れているのですが、第1章を読んでいた時は、 「できた嫁だなぁ」という感想で私の中ではまとまっていたのですよ。 ところが、第2章に入り、息子の急死後に家族を捨てて別居していた夫が 4人の前に姿を見せるようになると、この嫁の毒が端々に出てくるようになり、 なんだか陰険なものを感じてしまいました。 義父への辛辣なコメントと言い、合コンに参加して亡き夫に似た雰囲気の男の人につきまとったり ちょっと危うさを感じる一面がありました。 で、第3章、義母の前で娘への辛辣な評価を口にしたり、 結構、ほころびが見えたように思え、第1章の「できた嫁だなぁ」評はどこへやら。 最初の印象が良かったので、この嫁の立場から作品を眺めようと思っていたのに、 後半は共感できずに終わってしまいました。 反対に、奔放な娘が後半に行くほど本音を吐露して素直になったりと、 なかなか人間、複雑ですねぇ。 後半に出てくる秋生のスマートな身のこなしと各方面への配慮の仕方に 安心感を覚えてしまうほどでした。 私は、やっぱり、藤堂作品の独身女に興味があるのであって、 藤堂作品の結婚して家庭を持った女にはあんまり共感できないなぁと感じてしまいました。 ![]() |