『宵山万華鏡』
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- 2020/09/30(Wed) -
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森見登美彦 『宵山万華鏡』(集英社文庫)、読了。
京都・祇園祭が舞台という情報と、表紙絵の感じから またまた京大の学生諸君が無駄に大暴れする話かと思いきや、 最初の物語の主人公は小学生の姉妹でした。 バレエ教室からの帰り道、宵山の雑踏を覗いてみたくなった姉が まじめで脱線することができない妹を無理やり祭りの空間に連れ込みます。 2人で手をつなぎながら祭り見学をしますが、最後の最後に手を放してしまい、 2人は離れ離れに・・・・・そして姉はいつまでも戻ってこなかった・・・・・。 幻想的で恐怖感が底流に流れているような展開に、 『きつねのはなし』系の作品か!と思って、気持ちを切り替えて第2話を読んだら、 今度は大学卒業後に久々に祇園祭の夜に京都を訪れた男が 同窓の友人にはめられ、バカげた恐怖体験をするという 一転して『四畳半神話大系』の世界か!という振り幅でビックリ。 で、この振り幅からどうやって物語を進めていくんだ???と思ってたら、 少しずつまたバカ学生世界から幻想世界に近づいていき、 全ての物語がつながったような、微妙にずれているような 絶妙なところでお話が閉じられました。 森見作品の多様性の中の、良い部分を横串でしっかり貫いたような面白い出来上がりでした。 私と著者の作風の相性はイマイチしっくりきてないのですが(苦笑)、 こういう作品が出てくるから、つい読んじゃうんですよねー。 ![]() |
『ひとり暮らし』
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- 2020/09/24(Thu) -
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谷川俊太郎 『ひとり暮らし』(新潮文庫)、読了。
著者の詩集はいくつか体験していますが、 エッセイはお初です。 詩の世界を通してしか知らない著者だったので、どんな視点で世の中を眺めているのかな?と 興味津々だったのですが、意外と冷めた目で見ているところがあって、面白かったです。 未来のことを想像しなければいけない結婚式よりも、過去だけを考えていればよい葬式の方が好きとか(笑)。 そして、ご自身の家族のことも書かれていますが、 学者だったけど何だかちょっと人間性に欠損している部分を感じさせるお父様と、 そのお父様に暴言を吐かれていたと酔ってこぼすお母様。 なかなかにヘビーな家族です。 それを冷淡に感じるぐらいに淡々と書き残す著者。 全編を通してユーモアは感じるのですが、 ところどころにドス黒いブラックユーモアがあったりして油断できないです。 オーソドックスなエッセイ以外にも、日記風のものがあったり、 日記に至らないメモ書きのようなものがあったり、 バラエティに富んでいて面白かったです。 読後感としては、この人物を知ろうとするには、 本人が書いたエッセイよりも、第三者が書いた伝記的なものの方が 本質に迫りやすいような気がしました。 誰か書いてくれないかなぁ。 ![]() |
『「リベラル」がうさんくさいのには理由がある』
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- 2020/09/18(Fri) -
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橘玲 『「リベラル」がうさんくさいのには理由がある』(集英社文庫)、読了。
「週刊プレイボーイ」の連載シリーズです。 いわゆる日本の「リベラル」を自称する方々の筋が通っていない感じは常々気になっているので、 著者らしい毒で分析されているかと思い買ってみました。 そもそも、「リベラル」っていうカタカナ表現が、曖昧さを助長しているように思います。 なんとなく、リベラル=左派=左翼=野党みたいな構図を思い浮かべてしまいますが、 全部、概念の軸が違ってますよね。 たまたま日本ではイコールになるのか、それともグループが重なっているだけでずれているのか、 はたまた重なっていると思うのは誤解なのか、正直よくわかりません。 国会の論戦(というか難癖?)を聞いていると、リベラルを名乗るご本人たちも 本当は良く分かってないのではないかという気もしてしまいます。 で、本作で何かヒントがつかめるかな?と思ったのですが、 冒頭、エピソード0として、太平洋戦争末期の沖縄戦での集団自決に関して、 戦後の訴訟やそれを巡る新聞報道等をもとに検証していきます。 かなり事細かに詳述されているので、「え、橘玲ってこんなに細部にこだわる人だっけ?」と驚きましたが 異様な歴史の捏造のされ方自体に驚き、とても勉強になりました。 一方で、私の中では、結構、言い放ち系と思っていた著者がこんなに詳述していることに、 「リベラル」の人たちに対峙するのって、こんなにエネルギー要ることなんだ・・・・・と 改めて思想対立の大変さを実感することになりました。 しかし・・・・・次章のエピソード1以降は、いつもの橘言いっ放し節に戻ってしまった感があり、 エピソード0の深堀ぶりが凄かっただけに、反動で、「え、これだけ?」と思ってしまうところもあり、 リベラルの怪しさは分かりましたが、この本の分析内容をもって私自身がリベラルを批判できるだけの 知識や理論構成を持ちえたかというと、そこはあやふやです。 まぁ、そこから先は自分の頭で考えて構築していくしかないのかもしれません。 ![]() |