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『闇を引き継ぐ者』
- 2020/08/31(Mon) -
西村京太郎 『闇を引き継ぐ者』(祥伝社文庫)、読了。

忙しいので、お気楽な十津川警部でも・・・・・と思って手に取ったのに、
事件の推理というよりは猟奇サスペンスものといった作品で、
気持ち悪いけど展開が気になって読み止められない・・・・という感じでした。
結果、睡眠不足が加速(苦笑)。

死刑が執行された連続殺人犯のもとに、執行前の1年間にわたり通い続けた男がおり、
その男が正統な後継者を名乗って、新たな連続殺人を繰り広げるというもの。

殺人犯の逮捕に向けて捜査を進めていくという感じではなく
十津川警部は、ただただ翻弄される警察組織の顔としての存在にすぎず、
いいようにやられっぱなしです。

単に女性を殺すだけでなく、死の恐怖に苦しむ姿をどう楽しむか、
周囲の邪魔な人間はどう効率的に抹殺するか、そして弟子になりそうな人間をどう洗脳するか
とにかく犯人の歪んだ不気味な人間性がえぐり取られるかのように描かれていきます。

気持ち悪い。
でも、どう展開していくのか気になって読み止められない。
そんな感じです。

こんな作品を描いてしまって、作者自身は、自分のことが怖くならないのでしょうか。
それほど、人間の恐ろしい側面を文章に落とし込んでいる作品のように思いました。

早苗刑事は、なんだか職場復帰する方向で描かれていますが、
そこだけは腑に落ちず。
事件にこんな巻き込まれ方をした刑事が、すんなり職場復帰できてしまうという心理は
ちょっと理解できないです。
そこだけシリーズもののご都合主義を感じてしまいました。




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『激論 歴史の嘘と真実』
- 2020/08/28(Fri) -
井沢元彦 『激論 歴史の嘘と真実』(祥伝社黄金文庫)、読了。

井沢氏が歴史学者や歴史小説家と対談、鼎談したもの。
信長と信玄、足利義満、源義経など、歴史の転換点を彩った人物や事件の
真相というか、定説とは異なる解釈を提示しています。

なので、「嘘と真実」というのは、言い過ぎな気がしますが、
「私はこう解釈する!」と明確に描いてくれるので読んでいて面白かったです。

源義経などは、北行伝説を信じる高橋克彦氏と、信じていない著者との対談で、
賛否がハッキリしていつつも、お互いの解釈についてはきちんと聞こうという姿勢が見られ
興味深く読みました。

天皇陵とか、私は仁徳天皇陵として学んだと記憶していますが、
今や大仙陵古墳と呼ばれ、仁徳天皇が埋葬されているのか議論があるというのは初めて知りました。
こういう風に、後から新説や異論が出てきて、議論が振り出しに戻ったりするのも
歴史の面白さの一つかなと思います。

様々な可能性を孕んでいて、新たな情報が出てくるたびに
世界観が更新されていくところが、歴史というのは過去ではなく現在なんだなと思います。




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『秘湯、珍湯、怪湯を行く! 』
- 2020/08/27(Thu) -
郡司勇 『秘湯、珍湯、怪湯を行く! 』(角川文庫)、通読。

温泉には特に興味がないのですが(爆)、
表紙絵がテルマエ・ロマエだったので、面白エッセイなのかなと期待して買ってみました。

が・・・・・温泉好きのおじさんが、自分の回った温泉の話を書いているだけで
特にユーモアがあるわけでも、比較文化論的なものがあるわけでもなく、
ただただ、テルマエ・ロマエのワンカットを使いました・・・・というだけでした。

これは読者の期待を裏切るダメな演出で、
天下の角川さんがやっちゃいけないと思います。

著者は、『TVチャンピオン』の「全国温泉通選手権」で3連覇をするような人のようなので、
温泉好きの人の間では有名な方なんでしょうね。
ただ、温泉の評価方法が、いわゆる泉質にとどまらず、
飲んでみた味などにもコメントを割いていて、あまりのマニアックさに付いていけませんでした。

読んでいて思ったのは、1日に10軒も20軒も温泉を回って
本当に温泉自体を楽しめているのかしら?ということ。
温泉の数を回り記録することが目的化してるんじゃないのかしらと思ってしまいました。
まぁ、本人が楽しければ、周りがとやかく言う話ではないのですが。




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『女子と鉄道』
- 2020/08/24(Mon) -
酒井順子 『女子と鉄道』(光文社文庫)、読了。

またまたド繁忙に突入して、全然本が読めていません。
寝る前のほんの10分、15分とか、食事の時間の10分とか、細切れ読書です。

なので、細切れ対応しやすいエッセイを選んでますが、
図らずも鉄道女子の本が続きました

能町さんのエッセイは、「鉄道大好き!」というご本人のワクワク感が凄く伝わってきて
面白い読書だったのですが、本作の方は、どうにもワクワク感がイマイチ・・・・というかゼロな感じ。
以前にも著者による地下鉄のエッセイを読んだのですが、
「ほんとに鉄道が好きなのかしら?」という感想を抱きました。
なんだか、仕事として電車に乗ってる感じがするんですよねー。

能町さんと何が違うんだろう?と思いながら読んでいたのですが、
まずは、エッセイの内容が、鉄道に乗りに行った話から、鉄道土産の話、痴漢の話と多種多様なので、
エッセイ本としてはバラエティに富んでいて良いのかもしれませんが、
鉄道を軸に見ると、「この人は鉄道の何が好きなんだろう?」というのが掴めない感じです。

あと、基本的に一人旅なので、著者が自分の目で見た外の世界の話が主になってしまい、
担当者編集者さんと2人で行動していた能町さんの方が、特に鉄道好きでもない編集者さんとの
対比を描くことで鉄道女子の生態を分かりやすく提示してくれたのに比べて、
なんだか主観的な世界観が広がっているように思ってしまったのかもしれません。

本作でも、男性の鉄道ファンと一緒に旅をする様子も描かれているのですが、
どうにも、同行男性は補助的存在にすぎないところが、勿体ないのかなぁ。

著者の文章の特徴かもしれませんが、冷たい感じを受けてしまうのが、
鉄道とは相性が悪いような気がしました。
もうちょっと人間味のある文章を書く人の方が、鉄道という存在には合ってるように思います。




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『うっかり鉄道』
- 2020/08/20(Thu) -
能町みね子 『うっかり鉄道』(幻冬舎文庫)、読了。

著者のことは、深夜番組やってる人(見たことないです)という認識ぐらいで、
サブカル系の人だと思ってたのですが、そんな人が鉄ちゃん的な本を出していて
ギャップが意外だったので買ってみました。

息抜き読書のつもりで、そんなに期待していなかったのですが、
読んでみたら、鉄道愛というか、鉄道をめぐる旅への愛情に溢れてて面白い本でした。

そもそもご本人は、鉄ヲタの中で自分の位置づけを端っこの方に置いているような
慎み深いところがあるのですが、高校生の時から、平成8年8月8日の8時8分に
八丁堀駅で切符を買い、その後、7か所の「八」のつく名前の駅で切符を買って
コレクションするという手の込んだことをやっています。
そして、そのコレクションを今も大切にしてて、本作でも写真で登場。

鉄ヲタ歴といい、手間暇の掛け方といい、本物だな・・・・・・と感じました。
ま、わたくし鉄ヲタじゃないから、あくまで個人の感想ですが。

本作では、全国各地の鉄道を乗りに行ってますが、
ただ鉄道に乗ったり、駅舎を見たり、景色を見たりというためだけに
ルートを考え、各目的地での行動を計画し、計画通りに予定をこなしていく、
その行動力は、普通の人にはできないレベルだと思いました。

一方で、本題の駅以外の部分ではタクシー移動をしたり、
いつの間にか飛行機や沢マンの話がメインになっていたり、
深刻な感じのオタクっぷりとは違うので、
鉄ヲタじゃない私としては、逆に読みやすかったです。

江ノ電は、私も5年前に乗っているのですが、
電車の中では家族でぺちゃくちゃしゃべってて、あんまり真剣に景色を見てなかったかも。
線路に向けて民家の玄関があるという事実は、本作で初めて知りました。
5年前に知ってたら、もっとしっかり車窓から観察したのに!残念。

北海道に行ったり、高知に行ったり、熊本に行ったり、
全国遠征も華々しくて、いいなー、行きたいなーと素直に思えました。
そうか、人吉は素敵な町なのかぁ。いつか行ってみたいな。
松の泉酒造も行ってみたいなぁ。
ウッチャン巡りツアーですね(笑)。




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『4 Unique Girls』
- 2020/08/19(Wed) -
山田詠美 『4 Unique Girls』(幻冬舎文庫)、読了。

はぁ・・・・・仕事が詰まりまくりで全然読書ができません。
まぁ、普段の10倍忙しいのは普段の10倍売上が立ったからで、当然と言えば当然だし
コロナ禍の折にありがたいことこの上ないのですが、体力的にはしんどい・・・・。
でも、寝る前の読書をしないと気が済まないし・・・・・。
というわけで、ギリギリの読書(苦笑)。

なるべくお気楽に読める本をと思いながらも、
積読の本は、重たいものばかりが溜まっていて、どれもしんどい。
結局、薄めのエイミーを。

タイトルから短編集かと思ったのですが、エッセイでした。
昔は、女流作家さんのエッセイも普通に読んでいたのですが、
あまりにアチコチの雑誌に連載をされるので、
こりゃキリがないなと思い、女流作家さんは本業の小説のみに絞るようになりました。
てなわけで、15年ぶりぐらいのエイミーエッセイ。

小説作品では、どうやったら、こんなに女の子をチャーミングに描けるんだろうと
若い女性の描写力に感嘆するばかりですが、
本作では、著者の素の言葉が溢れていて、おばさん的行動もそのまま描いているので
あ、素ではこんな人なんだ・・・・と好感が持てました。

でも、やっぱり、「言葉」とか「表現」「演出」に関しては、日常生活でも感覚が研ぎ澄まされているようで、
日常の変な言葉遣いとか、新語・造語の気持ち悪さとか、文章の過剰演出とか、
そういうものへの厳しい視線というか、良い頃合いの茶化し具合というか、
著者の姿勢を見て、「そうそう、世の中の動きには批判的な目が必要だけど
あんまり理想論振りかざして期待ばっか込めてもむなしいよね・・・・」と
その絶妙なバランス感覚に共感を覚えました。

著者のエッセイを読んでいないので、交友関係は全然わからないのですが、
漫画家さんとか、同じような価値観を持っているらしき人々が登場してきたので
ちょっと気になりました。
(でもマンガだから、そこまで手が回らないとは思うけど・・・・・)




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『イギリス人は「建前」がお得意』
- 2020/08/15(Sat) -
緑ゆうこ 『イギリス人は「建前」がお得意』(紀伊国屋書店)、読了。

イギリス在住の日本人女性が、自分の目で見たイギリス人の生態を描いたお気楽エッセイ本かと思いきや
著者個人の視点よりも、もっとイギリス社会全体に対する考察がされていて
社会科学的に興味深い本でした。

子供を持つ夫婦が極端に優遇されている状態に対する、子なし夫婦のやっかみや、
ティーンエイジャーが溺れるドラッグ地獄やシングルマザー化、
裁判員制度のひずみや、安楽死をどこまで認めるかという線引き等々、
国民全員が有する価値観が試されるような課題について考察されています。

この考察が、自分の周りにいるイギリス人の話だけでなく、
新聞などのメディアでの報道や、調査機関による調査の結果など
公的な資料にも当たって述べているので、分かりやすいです。

そして、日本人はどうしても、英国がこれらの社会課題に対して日本よりも優良な解を見出していると
思いがちですが、そうではないよという視点を与えてくれるので、面白かったです。
表面的にイギリスの制度を採り入れたら、日本も同じような混迷の事態に陥りそうです。

本作を通して一番興味を持ったのが、タイトルにもある、イギリス人の「建前」意識。
日本人も「本音と建前」と言いますが、その意味は「裏と表がありますよ」というぐらいで、
建前が、決して理屈が通っているわけではないと思います。

しかし、イギリス人は、建前は完ぺきな理屈の上に成り立っているべきだと考えているようで、
誰もが理想の建前を追及しているような姿勢が面白いです。
その理屈っぽさは日本人にはない一面かと思いますが、
でも、「建前」という概念がしっかり存在している国というのは、
日本にとっては親密さを覚えざるをえません。

日英比較文化論は、やっぱり比較文化論の基本ですね。




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『本日7時居酒屋集合!』
- 2020/08/14(Fri) -
椎名誠 『本日7時居酒屋集合!』(集英社文庫)、読了。

暑い日々が続きますねぇ。
炎天下で働く気力がなくなります。
日中はサワー飲みながら昼寝して、夕方から深夜まで働いてます(苦笑)。

で、気持ちよくシーナさんがビールをぐびぐび飲む様子が楽しめそうなタイトルだなと思い、
どんなに美味しそうなおつまみが出てくるかなと期待して本作を手に取ったのですが、
なんと『ナマコのからえばり』というエッセイ(週刊誌の連載)の第2弾だそうで、
居酒屋話はほとんど登場してきませんでした・・・・・・・ガックリ。

基本的に、仕事が忙しいぞ話が多くて、
体大丈夫なのかなと心配になります。

関東圏の取材時は自分で車を運転していき、
時間の許す限り下道で行き、道の駅や直売所で買い物を楽しんでいるという描写が
のんびりしてて楽しかったです。
結構、はずれを掴まされているようですが(苦笑)。

あと、田舎道で赤信号を無視して交差点に進入してくるおばあちゃんを轢きそうになった件、
田舎あるある、私も怖い目に遭ってます。




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『アイネクライネナハトムジーク』
- 2020/08/13(Thu) -
伊坂幸太郎 『アイネクライネナハトムジーク』(幻冬舎文庫)、読了。

伊坂作品らしい連作短編集だと思います。
各お話の登場人物たちがどこかで繋がっていて、
でも時間軸は10年先に行ったり20年前に戻ったり、
なかなか複雑な関係性を有しています。

その中で、「この女性のお父さんのことを知ってて、あなたはこんなことを言うのか」
というような脅し文句が時間を超えて引き継がれていくところが
いかにも伊坂ワールドですねぇ(笑)。

今回、面白いなと思ったのは、そんなに変な人が出てこないところ。
確かに、変わった性格の人は居るのですが、
特殊能力を持った人は出てこない(ボクシング世界チャンプぐらい!?)ので、
とても親近感を持てる世界観でした。

そこらへんに広がってそうな普通の世界なのに、
1人1人が魅力的で、面白い言葉を残していきます。
普通の人より、ちょっとウイットに富んでて、
普通の人より、結構、忍耐力があって、
普通の人より、かなり機転が利く。
そんな人たちのお話です。

私はあんまり格闘技の世界に興味がないので、
ボクシングヘビー級の世界チャンピオンというのがどれほど凄いことなのか
正直わからないのですが、男の子だけでなく、女の子まで夢中にさせちゃうというのは
それだけ偉大な成果ということなんでしょうね。
日本中を熱狂させる何かがあるのかな。

ボクシングというスポーツが、これだけ様々な人の人生を変える力があるんだなというのが
意外な発見でした。




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『本物の思考力』
- 2020/08/09(Sun) -
出口治明 『本物の思考力』(小学館新書)、読了。

「数字」「ファクト」「ロジック」で考える。
この単純なことが如何にできていないかを実感できる一冊です。

変な思い込みを当たり前のこととして受け入れてしまっていることで
真実が見えなくなってしまう、真実を見ようとしなくなってしまう、その怖さがわかります。

最近、「ファクトチェック」なる言葉が流行ってますが、
そもそも事実を確認することは昔から当然踏むべき行為だったわけで、
改めて「ファクトチェック」なる言葉が登場してきたことを思うと、
事実が掴みにくくなっていること、歪曲しようという意思が働いていることが
以前よりも度合いを増しているのかなと。

でも、1つ1つの情報を「これは正しいのかな?」と確認しながら取り込んでいくのは
本当に労力がかかります。「常識」としてありのままを受けいれるのは
思考停止なのかもしれませんが、時間短縮にはなるんですよね。

で、手っ取り早くファクトチェックする方法として、昔は新聞やテレビの報道を基準にしてたのでしょうが、
今やマスコミの言論の偏りはいわずもがなですから、結果的にネットの言論に
軸足を移している人が増えてきているのかなと思います。

私も、最近は、保守系のネット放送で情報を得ることが増えましたが、
でもネット番組は過激な物言いに走ることが目に付くので
そこは割り引いたり、それこそファクトチェックしないといけないなと思います。

結局、自分の中に、自分で調べて、自分で思考して、自分で築き上げた知の体系が
どれぐらい確固として存在しているか次第なのかなと。
これまでの不勉強が身に沁みます・・・・・。

そして、最後の最後は、著者の言う「人間はみんなアホであり、チョボチョボである」という
割り切りというか諦観というか悟りの境地というか、
この視座は大事だなと思いました。




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