『少数株主』
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- 2020/05/25(Mon) -
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牛島信 『少数株主』(幻冬舎文庫)、読了。
非公開株式を主題にしており、弁護士出身作家の面目躍如という感じの企業法務小説です。 ただ、小説としてのバランスが悪いような気がして、小説というよりは 企業法務について小説仕立てで解説しました・・・という程度な印象です。 同族経営で、それなりの規模に育ててきた会社というのは、 創業家のプライドなり、家族関係問題なりが重みをもってしまい、 本来の企業経営の観点とは異なった価値観で判断しなければならないことが増えてくるというのが 具体的な同族企業を舞台にした株式のやり取りを通じて、興味深く覗き見ることができます。 現実社会でも、キンチョーの大日本除虫菊株式会社における 同族株式の評価額が裁判で争われたという事例は、なるほどなぁと思いながら読みました。 企業法務の業務に携わったことがある人間なら、みんな興味深く読めるのではないでしょうか。 ただ、小説としては、主人公と弁護士の会話だけで状況を説明していこうとする進行が 冗長な会話文を招いて、読みづらいです。 さらに、老いらくの恋みたいな要素も絡んできて、69歳と65歳のラブシーンは、正直しんどいです。 そもそも、大金持ちの主人公が、母親の友達の窮状を救ったことで 義憤に駆られて世間一般の少数株主の味方をする社団法人を立ち上げるというのは あまりにリアリティがないように思いました。 著者の哲学というか、主義主張が、小説の中で爆発しちゃった感じですかね。 過去に読んだ著者の作品に比べると、小説としての魅力に欠けたのが残念です。 ![]() |
『経済学のセンスを磨く』
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- 2020/05/24(Sun) -
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大竹文雄 『経済学のセンスを磨く』(日経プレミアシリーズ)、読了。
大竹先生は、新型コロナウイルス対策の諮問委員会に指名されてましたね。 行動経済学という新しい学問分野の人を登用するとは、 安倍首相の人選でしょうか、西村大臣の人選でしょうか・・・・・・何となくイメージで後者のような。 なんとなく華々しいものとか新しいものが好きそうなので(←根拠なしと一緒ですね)。 ま、コロナの話は置いておいて、 本作も、前に読んだ本と同様に、『ヤバい経済学』の臭いがします。 体罰の有効性を誤認してしまうロジックとかは、なるほどなぁと思いました。 行動経済学の本領発揮な分析だと思います。 一方で、消費税増税問題に関しては、 増税するか否かの議論では当然反対意見が出るから、 不足分をどの税の増税で解消するかを議論するようにしたら話が進むと述べています。 そうかなぁ・・・・・。 著者の言うように、消費税増税と所得税増税で、仮に同じ税金を取られるとして場合に、 所得自体が目減りする所得税増税よりも、所得は減らずに使う度に支払額が微増する消費税増税の方が 心理的に受け入れやすいというのは、腑に落ちませんでした。 月1回増税の影響を意識する所得税増税、しかも給与振り込みなら意識すら弱まるかも、 それに対して、毎日毎日、財布を開くたびに意識する消費税増税、 どちらが感情的な反対が現れやすいかというと、消費税のような気がします。 今回のキャッシュレス決済ポイント還元の導入時に マスコミはこぞって「制度が分かりにくい」「消費者の目をごまかしている」なんて批判してましたが、 そもそも消費税の仕組み自体をちゃんと理解している消費者ってどのぐらいいるんですかね? 同じく、所得税の仕組みも理解している人は少ないような気がします。 消費税の逆進性とか言われてもポカーンとしている国民が多いなら、 結局、官僚も政治家も、国民に説明するのを諦めますわな。 頭良い人間だけで決めるから、あとは皆ちゃんと従えよ・・・・みたいな。 ここ数年、会社を経営するようになり、税金の仕組みをそれなりに勉強した身としては、 どういう哲学で税金を取ろうとしているのかという国家の考え方がわかって、とても面白く感じています。 そして、ちゃんと勉強すれば、優遇措置もきちんと受けられるし、 国が税制面で優遇している以上は、そういう方針に従って会社経営をしていくと 税制以外にも優遇されたり得をしたりして、本当に、勉強しなきゃ損!という世界だと思います。 何でもかんでも反対の声を上げるだけじゃなく、 よりよい制度設計をして、より賢く制度を活用できる国民にならないといけないなと思います。 というわけで、最近の、政府に反対!ありきの世論に残念な気持ちになってしまう読後感でした。 ![]() |
『ツーアート』
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- 2020/05/23(Sat) -
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ビートたけし、村上隆 『ツーアート』(光文社知恵の森文庫)、読了。
芸人として社会に大きな影響を与えただけでなく、映画監督や役者としても実績のあるビートたけし氏と お花、Mr.DOBなど日本の若者ならみんな知っているであろう作品を作る村上隆氏の 往復書簡形式の対談です。 芸術とは?アーティストとは?作品とは?みたいな 抽象的な概念について語り合っており、様々な角度から定義づけをするような試みもしていますが、 興味深い考察だなと思った反面、いわゆる芸術家自身が一生懸命「芸術」の定義づけを しようとしている姿に、正直「寒いな」と思ってしまったのも事実。 「芸術」と「工芸」の違いって、 結局、日用品として使用できる常識的な範囲に価格が収まっていれば「工芸」で 常識を超える値段が付き始めたら「芸術」なんだと思ってます。 で、値が付かないものは「自己満足」(苦笑)。 最近、美術品盗難に関する本を読んだばかりなので、一層強くそう思ってしまうのかもしれませんが、 日常生活をかけ離れた値段をつける人が出てきたら、そこからが芸術なんじゃないかなと。 それが、本当に作品の価値を思って付けられた値なのか、投機対象としての値段なのかという 本質的な部分の差異を見極めようするのは無駄なことなのじゃないかなと思います。 結局、見る側が判断することですから。 そして、村上隆氏の自己紹介の嫌味っぽさ。 「僕自身は、貧乏な家の出身でした。絵しか描けないから、生業を立てるにはこれしかなくって」 生業を立てるのに絵を描くことしか選択肢がないって、ありえないですよね。 今の時代、宅急便の配達員さんとかになったら、きちんと食べていけて しかも世の中からとても感謝される仕事ですよね。 配達員になるには、地道に働く素質は必要であっても、特別なスキルは要らないと思いますし。 そういう世の中が人材を求めている職業がたくさんあるのに、「絵しか描けない」とか言ってしまうのは 自己陶酔だと思いますし、芸術家として売れたから言えるセリフだと思います。 芸術家の嫌な面をさらけ出しているという意味では、痛面白い本かも(苦笑)。 前に読んだ村上隆さんの新書では、 素直に、ビジネスとしての芸術を語っていて、とても面白く読みました。 本作でも、小難しいことや小綺麗なことを言わずに、もっと本音の「稼業としての芸術家」を 2人で語ったら面白かっただろうになと思ってしまいました。 ![]() |
『実と虚のドラマ』
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- 2020/05/22(Fri) -
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佐高信 『実と虚のドラマ』(日本経済新聞社)、読了。
近所のおっちゃんにもらった本。 著者の左翼的な思想は苦手なのですが、 企業を見る目は、読む価値があると思っています。 本作は、タイトルでは中身が見えないのですが、 経済小説のモデルとなった人物と、小説家の双方にスポットを当てて、 実際の実業の現場と、小説として読者に魅せる側のそれぞれの哲学を紹介しています。 経済小説の、こんな紹介の仕方があるんだなぁと、 企画そのものに感嘆しました。 そして、夕刊フジで連載できるほど、モデルと作家の組み合わせを実現させる編集部の 実行力もすごいなと思います。 正直、経済小説の読書記録としてまとまったものは、城山三郎氏ぐらいしかなく、 あとは、高杉良とか、広瀬仁紀とかを、ちょこっと読んだだけで、 かなり読書歴に偏りがあります。 なので、本作においても、城山三郎氏の作品や、そのモデルの話については 非常に前のめりに興味をもって読めるのですが、 それ以外の著作については、そもそも本を読んでいないため、ワクワク感が減殺される感じはありました。 それにしても、モデルのいる企業小説が流行ったのは、昭和までなんですかね? 例えば、最近の流行作家で企業が舞台となると池井戸潤さんとか頭に浮かびますが、 明確なモデルがいるとか、題材となった事件があるとかいう感じではなく、たぶん創作ですよね。 現代は、現実の事件に題材をとった企業小説は流行らないのですかね? 最近の企業小説で、良い本があったら教えてください。 ![]() |