『ぼくの短歌ノート』
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- 2020/04/30(Thu) -
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穂村弘 『ぼくの短歌ノート』(講談社文庫)、読了。
著者の作品には、最初にエッセイから入ったので、 どうでも良いことを深刻に考える人だなぁ・・・・という感想を持ち、 詩集を読んだ時には、「感情が溢れすぎててしんどいな」と思ってしまったので、 私の中で、「ちょっと面倒な人」というカテゴリに入れてしまってました(苦笑)。 で、素直なタイトルの本作は、著者による短歌(主に現代のもの)の解説です。 ライバルの歌人の歌から、新聞紙上で選者を務めているアマチュアの歌まで幅広く扱い、 「素直な歌」「ミクロな世界」などとテーマを定めて、 様々な切り口で、一口解説をしてくれています。 各歌に対して、数行程度の解説なのですが、その短い中で、歌の本質というか 見るべきポイントをズバッと指摘しているので、面白く読めました。 それほど短歌に親しくない私でも、なんだか短歌をじっくり味わえている気分に浸れます。 しかも、テーマ設定が、先ほど書いた一般的なものだけでなく、 「賞味期限の歌」とか「ゼムクリップの歌」とか、そんなテーマで括れるのか?!と驚くような ニッチなものも出てきます。 でも、「ゼムクリップの歌」って、いくつもあるんですねー。 それだけの歌を知っている著者もすごいですが、 なぜ「ゼムクリップ」という些細な小物が短歌に読まれやすいかという考察も興味深かったです。 著者の解説は、短歌世界に対する目の付けどころが面白いなと思います。 そして、そのユニークな視点から、ズバッと本質を短い言葉で押さえるので 「おおお、そういうことか!」と膝を叩いてしまいます。 いろんな短歌を読むことができたのも面白かったですし、 短歌って身近なものなんだなと改めて思わせてくれたことに感謝。 著者の今まで読んだ本の中で、一番面白かったです。 ![]() |
『いまさら入門 太宰治』
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- 2020/04/29(Wed) -
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木村綾子 『いまさら入門 太宰治』(講談社+α文庫)、読了。
先日たまたま父と太宰治の話になり、 「そういえば積読に太宰本があったなぁ・・・・」と取り出してきました。 古風な感じの著者名だったので、文芸評論家が初心者向けに解説します的な本かと思ったら、 なんだかとっても軽いノリで文章が始まったので、「!?」とプロフィール欄を見たら カッコイイ風な若い女の人の写真が載ってて、雑誌の読者モデル出身だとのこと。 あー、若い女の子が同世代向けに太宰を語る本かぁ・・・・と思ったら 私の1こ下で、結構いいお年でした(苦笑)。 ということで、最初は、内容云々よりも、言葉の軽さというか、 自分の思いが前面に出過ぎている文章に、「年の割に青すぎないか・・・・」と ちょっと引いたところからスタートしてしまいました。 ただ、「太宰が好き」の根底にある「本が好き」という感覚には共感できて、 だんだんと文章の軽さは気にならなくなってきました。慣れたのかな。 さて、本題の太宰ですが、著者も指摘する通り、 文章のリズム感が良いんですよねー。 ダラダラと一文が長く続くのに、句読点のおかげで、なぜかスラスラ読めちゃうんですよね。 さすがの才能。 本作で、1~2行が引用されているだけでも、文章にメリハリがって 面白さが伝わってきます。 特に、私が、太宰のユーモアあふれる作品が好きなので、 中盤で紹介されている作品たちには興味を惹かれました。 一方で、終盤で紹介されていた「斜陽」「人間失格」は、代表作ということもあって、 引用される文章のボリュームが大きいのですが、 ちょっと長すぎじゃない?と思ってしまうほどで、解説を読んでいるんだか 太宰の作品を読んでいるんだか分からなくなってしまうほど。 もうちょっと構成のバランスを取ったら、もっと共感しやすい本になっただろうになぁと 思ってしまった読後感でした。 ![]() |
『一日江戸人』
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- 2020/04/26(Sun) -
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杉浦日向子 『一日江戸人』(新潮文庫)、読了。
著者の作品は、アニメ映画で見たことがあるのですが、 著作は初めてです。 本業は漫画家さんで、エッセイも書いているという位置づけでしょうかね。 江戸の庶民の暮らしぶりについて、 食事、衣装、流行りもの、エンタメ、慣習など、様々な切り口で紹介しています。 あくまで庶民の暮らしというところがポイントで、 江戸の暮らしがどんなにお気楽だったのかが良くわかります。 あんまり働かなくても食べていけたというのは、国家としての豊かさの現れですよね。 文章は結構読みやすかったのですが、 漫画というか、挿絵のページが、文庫本では細かすぎて非常に読みにくいです。 小さい字でゴチャゴチャと書き込まれていて、本業の方の魅力が損なわれているのは残念。 漫画の内容についても、双六のような形で表現する等 工夫しているのは分かるのですが、もう少しすっきり描いてくれないと 演出よりも読みにくさの方が勝ってしまってるんじゃないかと思いました。 本作を読んでいて思ったのは、 サイバラ画伯の漫画は、文字がたくさんあっても、読みづらいとはあまり感じないのは なんでだろう?ということでした。 慣れ? それとも、やっぱり文字の大きさとか余白の広さとか、物理的な問題なのでしょうか? ![]() |
『にっぽん海風魚旅3 小魚びゅんびゅん荒波編』
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- 2020/04/24(Fri) -
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椎名誠 『にっぽん海風魚旅3 小魚びゅんびゅん荒波編』(講談社文庫)、読了。
このシリーズを読むのは10年ぶりでした。 最近は、雑魚釣り隊などの大人数のキャンプ話を読むことが多かったので、 シーナさんの1人旅(または控えめな数人の仕事仲間との旅)を読むのは新鮮な感じがありました。 しかも、雑魚釣り隊のスケジュールを見ていると、 キャンプ地に24時間も居ないときさえあり、なんて忙しいキャンプをする人なんだと思ってました。 シーナさんの日常は、日記的エッセイで読んだことがあるので、 その忙しさは理解しているのですが、 逆に、本作の旅で、何日も千葉にいたり、北海道に居たり、小笠原に2週間も居たりするのを読むと、 「こんなにゆったりしてて大丈夫なのか?他の仕事がエライことになってるんじゃないか?」と 不安になってしまうほど、本作の中では時間が緩やかに流れてます。 特に取材目的も定めず、行き当たりばったりのドライブ旅。 宿は事前に決めているようですが、特にこだわりがないのか、結構失敗してます(爆)。 食事の店も、宿の人に教えてもらったり、出会った人に教えてもらったりで、 目茶苦茶美味しそうな店が登場することもあれば、 「まずい!」とバッサリ斬られる店も。 シーナさんが凄いと思うのは、「まずい!」と書いた店の写真を載せちゃうこと(苦笑)。 どこまで毒舌なんだか。 冒頭、千葉の旅が出てきましたが、 ちょうど読んだばっかりの館山周辺の漁師生活エッセイと舞台が被っていて、 「あらま、シーナさんもそこへ行ったのか!」と、自分自身は行ったことないのに なんだかすごく親近感を覚えました(笑)。 そして、私が一番興味をもって読んだのは、小笠原の旅。 私自身、何度か父島にダイビング旅で訪問しているので、 すごく親近感をもって読んだのですが、 シーナさんの「大島や八丈島に比べて都会的」という指摘に大いに納得。 小笠原ってオシャレなんですよね。 日本というよりグアムやサイパンに近いイメージ。 アメリカ統治の影響でしょうかね。 アメリカ文化と島文化が不思議と融合し、そこに移住者の持ち込む若さが重なって 独特な文化を形成していると思います。 また行きたいなぁ。 でも、1週間も時間が作れない(悲)。 サラリーマンの時って、会社の命令で1週間の9連休が取れたので、 今思うと幸せな宮仕え生活だったなと。 脱サラして起業しちゃうと、細かい時間はいくらでも作れるけど、 大きな時間が自由になりにくいという悲しみ。 ダイビング自体、2年近くできてないし。 まずは足元でのダイビングを復活しないとダメですね。 ![]() |
『異議あり日本史』
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- 2020/04/23(Thu) -
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永井路子 『異議あり日本史』(文春文庫)、読了。
一般的に知られている歴史のヒトコマについて、 著者の視点で異論を唱える歴史エッセイ。 そんなに思い入れもなく読み始めたのですが、 著者の力強い文章に、一気に引き込まれていきました。 著者のことはあまり知らないのですが、 男性っぽい迫力を感じる文章だと思いました。 1つ1つのテーマに充てている文章量は短いので、 そんなに深掘りしているわけではないと思うのですが、 ズンズン話が進んでいくので、テンポの良さと文章の強さをもって 「こんな歴史の解釈があっても面白いな」と思えてきます。 歴史の題材って、同じテーマをいろんな作家さんが扱いますが、 同じものを語っていても、ワクワクドキドキするものもあれば、つまんないものもありますよね。 結局、歴史は物語なので、歴史解釈という点での大局観の構成力と、 ストーリーテラーとしての筆力次第ということなのかなと。 新井白石とか光厳天皇とか、目の付け所も面白かったです。 新井白石なんて、印象は教科書の「正徳の治」ぐらいしかなく、 理念重視で頭でっかち政策を実行したというイメージです。 何か新井白石の本って読んだことあったっけ?と本Blogを検索したら 藤沢周平さんが書いた本を読んでました。その本では、白石は有能な政治家として描かれており 永井評とは異なります。 この作家による歴史上の人物への評価の違いというのも、歴史の面白さですね。 人間というのは、本当に多面的なんだなと思います。 著者の小説は1冊しか読んだことがないので、 他の作品も読んでみたいと思います。 ![]() |
『飛びすぎる教室』
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- 2020/04/21(Tue) -
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清水義範、西原理恵子 『飛びすぎる教室』(講談社文庫)、読了。
シミズ博士とサイバラ画伯のコンビで送るお勉強シリーズの最終巻・・・・ということでしたが その後もシリーズは続いているようなので閉店商法ですね(苦笑)。 それまでは、国語、算数、理科、社会の教科に対応した作品でしたが、 本作は、授業中に先生が脱線してしゃべる雑談を意識したと著者が言うように、 特定の教科と結びつくものではありません。 天使の話から、アメリカ人の宗教観の話に広がり、具体的にはハリウッド映画で検証したり、 暦の各国文化における違いから、支配者層が国家統治をどのように行ったかを見て行ったり、 外国に旅行することで気づくこと、気づかないことを比較し、バイアスについて考察したり。 雑談が多面的、多層的に広がっていくので興味深かったです。 小学校の教科というより、社会学の世の中の眺め方に近いのかなと思いました。 サイバラ画伯の方は、相変わらず文章とリンクしない漫画で押し切ってますが、 久々にサイバラ画伯の本職の漫画作品も読んでみたくなりました。 まさに、シミズ博士からサイバラ画伯に流れた1人である私(笑)。 サイバラ画伯からシミズ博士に流れてくる人は、確かに想像しにくい(爆)。 私はキリスト教についての初心者向けの本を何冊読んでも キリスト教についての理解が深まった気が全然湧いてこないのですが(苦笑)、 本作でシミズ博士が端折りながらも解説してくれた聖書の話が 要点を押さえやすいと感じました。 教義についてはよくわかりませんが、誰と誰が身内でつながってて、 誰が誰を殺したとか、いじめたとか・・・・・・・愛のない要約ですみません。 シミズ博士は、宗教をネタにした作品もたくさん書かれているので もう1回読み直してみても良いのかなと思いました。 ![]() |