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『毎月新聞』
- 2019/09/30(Mon) -
佐藤雅彦 『毎月新聞』(中公文庫)、読了。

毎日新聞に月1回連載されていたものを文庫化した企画。
短いエッセイと、3コマ漫画で構成されています。

世の中のちょっとしたことに対して著者が感じた疑問や引っ掛かりをきっかけに、
思考を広げていった過程が描かれていることが多く、
「こんなことに着目しながら日々を生きているのか!」と驚かされる視点が多かったです。

創刊準備号として掲載されたのは「じゃないですか禁止令」。
自分の言いたいことを、世間一般や世代一般の常識のようにして語り、
逃げ道を作っておこうとする「~じゃないですか」という言い方。
自分は今まで気にすることなく使っていましたが、
確かに、指摘されれば、そういう逃げの気持ちがあったと思います。
これは自重しなければと反省しました。

こんな感じで、世間、特に佐藤雅彦作品を受け入れてそうな世代に対して
警鐘を鳴らすかのような提言が多く、
顧客に媚びない姿勢が印象に残りました。

そんな、まともで真面目な提言が多いためか、
3コマ漫画で息抜きというか毒消しを行っているのかなと思いました。

分厚い本ですが、余白のページが多いので、
思ったよりも早く読み進めることができました。




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『無縁社会からの脱出』
- 2019/09/29(Sun) -
西村京太郎 『無縁社会からの脱出』(角川文庫)、読了。

「無縁社会」という言葉が目に留まる作品です。

東京の河原にある空き家に侵入して暮らしていたホームレスの遺体が見つかり、
殺人事件として捜査が始まります。

東北の寒村から出てきて、就いた職も途中で失い、
自ら周囲の人との関係を断って、孤独な日々へと沈んでいく。
「無縁社会」ができていく様子が分かり、興味深かったです。

本作では、こういう孤独な老人の存在を、個々の老人の問題としてしまうのではなく、
若い世代の人にも、将来の不安として存在しているのだということを描いていて、
私自身の問題でもあるということを突き付けてくるので、恐怖を感じました。

少子高齢化の、高齢化の方も問題であるだけでなく、
少子化ということは兄弟がなく、結婚も養子も選択しなければ
いずれ一人になる時が来るという社会なんだなと。
なかなか考えさせてくれる作品でした。

ただ、殺人事件を解決するミステリ作品としては非常に物足りないです。
死んだホームレスはなぜ1千万円以上もの預金を持っていたのか、
なぜ女子中学生がホームレスの身の回りの世話をしていたのか
宝くじの当選くじを盗まれたと主張していた男は警察の裁定に納得していたのか
どれも一応文章中で表現がされていますが、表面的なもので終わってしまい
説得力がありません。

犯人についても、そんな理由で殺すか?、そんな方法で目撃者を始末しようとするか?と
こちらも非常に杜撰なストーリー設計に思えました。

これだけ多作な作家さんだと、1つ1つの作品にそこまで求めるのは
酷なのでかねぇ。




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『高台院おね』
- 2019/09/28(Sat) -
阿井景子 『高台院おね』(光文社文庫)、読了。

近所のおばちゃんにもらった本。

「高台院おね?誰それ???」と、ずっと積読状態でしたが、
裏表紙をみたら、どうやら秀吉の正室のねねのことの様子。

読み始めてみたら、関ヶ原の戦い前後の政局を
おねの目から眺めて描かれており、結構面白かったです。
特に、家康がどうやって実質的に権力を掌握し、天下を取ることになったのか、
その政治手腕を女性の目から描くことで、武力ではなく知恵の回り具合が良くわかりました。

そして、話を、おねの一生とかに間延びさせるのではなく、
秀吉の死後の話に限定したことで、すっきり読みやすくなっています。

小説としては、ちょっと説明文になってしまっている感もあり、
ハラハラドキドキの盛り上がりには欠けますが、
あんまり盛りすぎないところが、却って読みやすさになっているのかなという気もします。




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『ワリカンにする日本人 オゴリが普通の韓国人』
- 2019/09/26(Thu) -
高月靖 『ワリカンにする日本人 オゴリが普通の韓国人』(角川ソフィア文庫)、読了。

日韓関係がいろいろ拗れている昨今ですが、
正直、韓国の対応については、私が日本人であるという感情を抜きにしても、
「なんでそんな判断をするのだろうか?」「国際社会の反応とか気にしないのだろうか?」
と疑問を持ってしまうものが多く、韓国人の考え方って理解できないなぁという印象を
最近特に強く感じています。

一方で、かつて仕事で何人かの韓国の方とコミュニケーションを取っていましたが、
皆さん丁寧で人当たりの良い対応をする方ばかりで、
嫌な気持ちになったり、疑問を感じたりしたことは一度もありません。
1人1人の韓国人は良い人なのに、集団になると予想外の判断に至るのか?
それとも韓国人の政治家という一団が特殊なのか?

気軽に読めそうだったので、とりあえずブックオフで見つけた本作を読んでみました。

タイトルからすると、日韓の比較文化論のように思えますが、
比較というよりは、韓国の文化や慣習について幅広に紹介した本という感じです。
最近はやりの、嫌韓とか、反韓とかいうイデオロギー性はなく、
反対に、韓流にのっかったような感じでもなく、意外とフラットなスタンスだったので
読みやすかったです。

分析は浅いので、韓国文化解説というよりは、紹介といった程度ですが、
庶民の生活レベルでの話が多くて、「へ~」という感じで興味をもって読めました。

韓国のお受験戦争とかは知ってましたが、
それ以外の情報は、意外と知らないことが多く、
私って韓国という国に興味がなかったんだなということが分かってしまいました(爆)。

この本を読んだところで、最近の韓国政治について理解するには至りませんが、
日本人に比べて極端な考え方をする人が多そうだなということは分かりました。




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『千年ごはん』
- 2019/09/24(Tue) -
東直子 『千年ごはん』(中公文庫)、読了。

歌人である著者の食にまつわるエッセイ。

食のエッセイというと、あちこち食べ歩くグルメエッセイと
自分でこしらえる料理エッセイとに大きく分かれますが、本作は後者の部。

著者の日常を切り取った風景の中に食べ物や料理が登場し、
そして、そんな食に関する短歌が一首。

エッセイだけだと、分量が短いこともあって、さらさらっと読んで終わりになってしまいそうですが、
最後に短歌がくっついてくることで、その余韻に浸れます。
そして、その余韻の中で広がる景色を楽しみ、「どんな味がしたのかな」と想像が膨らみます。
食にまつわるエッセイでありながら、短歌の世界観の奥深さが味わえる構造になってます。

「歌人」って聞くと、自分の生活の中に短歌がないためか、
ものすごく特殊な人種を想像してしまうのですが、
本作の中で、著者には、夫が居て、子供がいて、彼らの食事を作り、
自分の食事を楽しむ、そんな普通の日常が描かれており、
あぁ、歌人という立場の人も、普通の人間なんだなと、
ありきたりな感想を持ってしまいました。

でも、普通の日常を過ごしながら、短歌としてバチっと情景を切り取って見せる力量を見るにつけ、
どんなに繊細な感覚で日々を生きているのだろうかと、不思議な気持ちにもなりました。

興味深いエッセイでした。




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『やりたいことは二度寝だけ』
- 2019/09/23(Mon) -
津村記久子 『やりたいことは二度寝だけ』(講談社文庫)、読了。

津村さんのエッセイ作品はお初です。
芥川賞受賞の前後、まだ作家稼業と会社勤めを並行している時代のエッセイは、
OLらしい日常に溢れつつも、なんだか着眼点が変!という
その立場を反映したものでした。

30歳過ぎ独身ということで、友人と気ままにウィンドーショッピングなどしつつ、
初詣に行ったり、ゲームをしたり、まー自由に暮らしてます。
この適当な休日の過ごし方は、サラリーマン時代の私も似てたので、共感。

一方で、小説家としての時間もあるわけで、
仕事帰りに帰宅前に喫茶店などで書きものをし、
帰宅後、仮眠をとってから夜中に再度書きものをし、
そしてまた眠るという生活のようで、こりゃしんどいだろ!?と驚きました。

仕事をしながら小説を書くということの大変さが、
このスケジュールを見ただけでもわかります。

わたくし、それなりの資格マニアだったりするので、
仕事が終わって帰宅後に資格の勉強とかしてましたが、
それって、60点なり70点なりを取れば良いだけのこと。
それでも、かなりしんどかった思い出が・・・・。マゾ的にいろんな試験にチャレンジしてました(苦笑)。

そんな、レールに敷かれた勉強をすればよいだけの私と違って、
無から作品を生み出す行為を仕事終わりにし続けるというのは、
相当な覚悟と体力が要ることだろうなと思います。

著者は、芥川賞を受賞してしばらくしてから会社を辞めたようですが、
会社勤めをしながら芥川賞作品を獲れる作品を生み出す根性に脱帽です。




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『もしもし、運命の人ですか。』
- 2019/09/22(Sun) -
穂村弘 『もしもし、運命の人ですか。』(角川文庫)、読了。

薄めのエッセイ本だったので気軽に手に取りました。
テーマは恋愛。
著者の自意識過剰な恋愛観が炸裂しています(笑)。

自意識過剰なのに、素直に外に向けて表現できないので
妄想がどんどん深まっていって、がんじがらめになっています。
で、それが苦しくなって一歩踏み出した時に、とんでもない方向に足を出すから
周囲の人にドン引きされるという著者。
私の印象は、こんな感じ(笑)。

心の内のもやもやだったり、ドキドキだったりを、こんなにも上手く言葉に表現するなんて
凄いな、さすが歌人だな・・・・・なんて思いながら読んでいたのですが、
とあるページに「四十四歳の日本人男性である私」というくだりが出てきて、
「えっ!44歳で恋愛に対してこんなことを考えてるの!?」と愕然としてしまいました。
私の中では、この文章を書いている著者のイメージは30代前半でした。
ちょっと婚期を逃してしまったのも、面倒な自分の性格が災いして・・・・という展開で
想像していたのに、まさかの44歳。そして別のページには「妻」も登場。
おいおい、四十路の既婚者でこの恋愛妄想かよ!と
正直なところ、ちょっと引いてしまいました・・・・アハハ、すまないね。

確かに、前に読んだ著者の作品についての自分の感想の中には、
著者を「42歳独身」と書いているので、四十路であることは読んでいたはずなのに、
本作の文章のあまりのバカバカしさに、もっと若い人を想像していました。

この若さの維持が、やっぱり歌人としての才能の秘訣なのか。
それとも、このバカさの維持が、エッセイストとしての人気の秘訣なのか。




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『本をめぐる物語 栞は夢をみる』
- 2019/09/21(Sat) -
ダ・ヴィンチ編集部 編 『本をめぐる物語 栞は夢をみる』(角川文庫)、読了。

本をテーマにしたアンソロジー。
並んでいる作家さんのお名前をほとんど知らなかったので
買おうかどうか迷いましたが、北村薫氏の名前があったので買ってみました。

最初の2つの作品、大島真寿美さん「一冊の本」と、柴崎友香さん「水曜日になれば(よくある話)」は
それなりに現実世界を反映した作品だったので気にせず読めたのですが、
後半になるにつれてSF度が上がっていき、
かつ、ラノベ風になっていった印象(ラノベ読者じゃないので偏見かもしれませんが・・・・)で、
読むのがしんどくなってきました。

頼みの北村薫氏も、ここは実験ができる場だと踏んだのか、
やっぱりSF作品でした。

うーん。
まぁ、大御所といえども、チャレンジ精神は忘れちゃいけないと思うので
SF作品を目指すのは良いと思うのですが、その味付けが、
本好きに媚びるような著者や作品をたくさん織り込んできていたので、
どうせチャレンジするなら、もっと攻めた著者名や作品名を利用すればよいのにと
思ってしまいました。




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『ヤセたければ走るな!食べろ!』
- 2019/09/20(Fri) -
森拓郎 『ヤセたければ走るな!食べろ!』(ワニブックスPLUS新書)、読了。

いや~、ヤセないですよね(苦笑)。

以前、東京に住んでいた時は、岡田センセのご指導通りにレコーディングダイエットをして
10kgほど痩せることに成功しました。
カロリー計算をするだけで良いので簡単だし、記録魔の自分の性格とも合っていて、
何より当時、仕事が忙しくてコンビニ食やファミレス食が多かったので、
簡単に食べたもののカロリーが確認できて楽でした。

しかし、三重県に戻ってきて、個人経営飲食店での食事や、いただきもののおかずが増えたら
カロリー計算するのが面倒になって、止めてしまいました。
結果、10kgのリバウンド。
意味なし。

痩せないとなぁ・・・・と思い、とりあえず摂取カロリーの記録をするスマホアプリを使うようになって
半年ですが、全然効果なし。
だって、レコーディングダイエットをしてた時は1日1300kcalが目標だったのが
今は2100kcalを標準に設定してるから。
そりゃ痩せないよね。

で、ちょっと気持ちを入れ替えようと思って本作が50円だったので買ってみました。
食べろ!とは言うものの、高たんぱくな食品を食べて体を健康に保て!という意味です。
著者の言う食事をしていけば、結果的に、摂取カロリーは抑えられそうです。
頭を使って高たんぱく食を選ぶか、何も考えずにカロリー計算をするかの違いかな。
・・・・いや、こんなまとめ方すると著者に怒られそうですが、
岡田センセには「そういうことよ」と言ってもらえそう(苦笑)。

私の今の食生活は、もちろん、近所の直売所で売ってる弁当とか
晩酌のお酒を控えるだけで、たぶん効果抜群なはず。
分かっているけど、やめられないんだなぁ。




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『しゃぼん玉』
- 2019/09/18(Wed) -
乃南アサ 『しゃぼん玉』(新潮文庫)、読了。

乃南作品は、意図しているわけじゃないけど、
なんとなく間隔があいてしまいがちになります。
で、久々に読んで、「やっぱり面白いわ」と再確認することが多く、
作品の毛色の違いの幅広さもあって、「また読もう」と積読が増えていくことに。

本作は、タイトルの単調さと表紙絵も女の子が街路を歩く後ろ姿で、
あんまり刺さってくるものがなく、長らく積読になっていた本でした。

物語は、非行少年からかっぱらいの常習犯に転落しつつある若者が主人公で始まります。
とにかく今を生きるだけの金が手に入ればよい、
かっぱらいをして、財布に二万円入ってたら満足、数千円だと「ちぇっ」となる。
それだけの日々を送っています。

そんな中で、ただ脅すためだけに持っていたナイフが
ほんのはずみでかっぱらいターゲットの女性の脇腹に刺さってしまいます。
「殺してしまった!」と思った少年は、バイクを捨て、ヒッチハイクをしながら逃走。
乗せてもらったトラック運転手とけんかをして置き去りにされたのは宮崎県の山の中。

人も車も全く通らない早朝の山道で、偶然出会った老婆の家に行き、
成り行きで一泊することに。
すると、その家に遊びに来た近所の人が、孫が返ってきたと勘違いして
村のコミュニティの日々に巻き込まれていきます。

前半の殺伐とした雰囲気から一転して、中盤以降は山の中でののどかな暮らしが描かれ、
その、のほほんとしつつも、人間同士の信頼関係で維持されている生活の堅固さに
興味をそそられました。

じじばばだけでコミュニティを作っているから、
少年のような若者がやってきたら、そりゃ喜ばれるでしょうし、
ここの家の孫だという出自が分かってれば、初対面でも警戒心はないでしょう。
そんな人々の様子に、毒抜きされていくかのような非行少年。

まぁ、うまくコミュニティに溶け込みすぎだという、リアリティ面への指摘はあるでしょうけれど、
私は、そこはもうファンタジーだと思って読んでました。
ド田舎ファンタジー、悪く言えば都会の人の田舎幻想。

どちらかというと、後半における私の興味は、
この少年が、なんで犯罪で生計を立てるような道に進んでしまったのか、
そして、なぜ、そこから抜け出せなかったのかということでした。
特に後者の部分。

田舎に来て穏やかな暮らしの中に入ってからも、
「前の晩はやる気に満ちていたのに翌朝になると何もかもが面倒くさい」というような描写があり、
私が要約するとつまらぬ表現にまとまってしまいますが、その心理的な変化が
腑に落ちる形で描かれていました。

私自身は、細かく計画を立てて、その通りに実行して、なんなら計画以上に詰め込んで実行して
成果を得ていくというプロセスが好きなので、自分がやりたいとおもったことすら実行できない人を
ちょっと軽蔑気味に見てしまうところがあります。
そして、なぜ実行できないのかが、理解できないのです。
本作では、そういう人の心理描写を知ることができ、あぁ、そういう風に感じているのかと
少しは分かったような気になれました。
共感はできないけど(苦笑)。

理想のように行動できない人を描くのがうまい作家さんなのかなと
この本を通して思いました。




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